初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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大熊猫と黒子の事件簿 ~六美童 密室っぽい殺人事件~ ④

 不審者として追われた事への気疲れからか、アンノウン様と過ごした事への心身の疲れからか僕は何時の間にかソファーに座った状態で眠っていたらしい。目を開ければ西日が窓から差し込み、カラスが数羽森の方角へと帰って行く。

 

「……」

 

 ソファーが柔らかくても座った状態で眠ったからか、どうも体の調子が良くない。半壊したベッドに目を向ければ何時もはちょこまかと動き回るパンダが微動だにせず、どうやら消耗が激しいというのは本当らしかった。グッと伸びをして窓を開けて空気を入れ換える。窓の下では使用人の子供なのか小さな女の子が何やら歌っていた。……うん、可愛い子を眺めていたら疲れが一気に抜けて来たぞ。

 

「六人居たよ、六人だったよ。虫に刺されて五人になったよ。

 

 六人居たよ、五人になったよ。お風呂で眠って四人になったよ。

 

 六人居たよ、四人に……」

 

「こら! こんな時にそれを歌うのは駄目よ!」

 

 どうやらアンノウン様が口にした数え歌は今の歌の事らしい。数百年前から伝わるとされているらしいけれど、どんな人がどんな気持ちで作詞したんだろうか? そして犯人が歌の通りに二人を殺した理由は一体……。

 

「!」

 

 分からない、だったら思い当たる事がある人に話しを聞きに行こう。……でも、その前に。

 

「……」

 

 アンノウン様が飛び跳ねた事で破壊されたベッドと天井に目を向け、胃がキリキリ痛み出す。あっ、上の部屋の人が困った顔でのぞき込んでいる。名前もどんな関係かも不明だけれど重要で大切な客人って意味不明な立ち位置の僕の扱いに困ってか、急に穴が開いた床に戸惑ってか彼は何も言わない。

 

 ……取り敢えず頭を下げておこうか。僕、こっちの世界の文字は書けないから筆談は無理だし、パンダのヌイグルミが壊したって言われた方が普通は困るよね。……ん? 確か出回っていた肖像画をチラッと見たけれど、困り顔の彼って確かグンカー家の六男じゃないのかな? ……そして、街では一番疑われている人だ。

 

 末っ子。だけれど本妻の子で父と一緒に本宅に住んでいる。末っ子と言っても他の兄弟と大きく歳が離れている訳でもないから後継者候補筆頭。ただ、だからこそ他の兄弟が目障りで、彼の関与の有無は別にして派閥の者の仕業だとまことしやかに噂されている。

 

 特に彼が目障りな他の派閥の人達によって……。

 

「えっと、お客様だね? 挨拶が未だだった。私はタラマ・グンカー。グンカー家のち……六男だよ」

 

 噂で伝わって来る他の兄弟に比べて特徴が少なく地味な印象だ。僕が彼に抱いた印象はそんな感じだった……。

 

 

 

「おや、君は喋れない……いや、喋らないのか。まあ、何か事情があるのだろうし、大切な客人に要らぬ詮索はしないさ」

 

 アンノウン様が破壊したベッドと天井だけれど、僕が平謝りに謝る前に目の前のタラマさんが屋敷の人達に何やら言って終わらせていた。ネームプレートの洗脳の力なのか、それとも彼の人望故なのか、僕はそれを気にしながら中庭でお茶を啜る。次期当主候補筆頭が直々に煎れてくれたお茶をだ。

 

「私なんかのお茶ですまないね。何せこの騒ぎだ。私まで狙われる可能性が高い以上は口にする物にも気を配らないといけないのさ」

 

 そんな事を言いながらも彼がカップに口を付けたのは僕よりも前。毒味役にされたのかとも思ったけれど、その様子からして違うらしい。……正直、彼については好ましくない噂も幾つか盗み聞きしている。逃亡中、犯人が誰かって話題になった時に兄弟の中で真っ先に名が上がる事が多かったのは末っ子ながら本妻の子で兄が邪魔だから、なんて分かり易い理由だけじゃない。

 

 連中を兄弟だとは思っていない、少し前の時期にそんな発言を口にする事が多かったらしい。詳しいエピソードこそ話題には上らなかったが、小さい頃から母親達の対立など気にせずに共に過ごしていた仲良し兄弟だったのに急に変わった、他の人に対する態度が変わらない分不気味だ、そんな風に話し、権力欲が出たのではと結論付ける。……人の噂ってアテにならないよね。

 

 ケーキにフォークを刺して口に運ぶ。貴族の家で出される物だけあって随分と上質な物だ。何時もだったらアンノウン様のパンダが乱入してかすめ取って行く所なのだけれど相変わらず動かない。まるで普通のヌイグルミみたいなのが逆に不気味で、ちょっと心配だった。こんな風になった理由は身内からのお仕置きだって話だし、そこまで深く心配しなくても良いとは思うけれど、無駄に元気な普段の姿を知っているから気になるんだ。

 

「……しかし推理小説じゃあるまいし、密室見立て殺人だなんて何が目的なのやら。普通に暗殺で良いとは思うけど、君もそう思わないか? あの歌だって僕には何もピンって来ないよ。……僕に何を伝えたいんだ、あの連中は」

 

 困惑と呆れが入り混じった顔で溜め息を吐く姿からは一連の事件や自分に対する悪評への煩わしさが伝わって来たのだけれど、僕は彼の言葉に引っ掛かった。……今、タラマさんは今回の事件の犯人に目星が付いてるって口振りじゃなかったか? 実の兄弟がころ僕が思わず喋って問い掛けそうになった時、誰かがタラマさんの名を呼びながら駆け寄って来た。

 

「タ、タラマ様! お兄上がっ! 次男のカミソ様が殺害されました! またしても密室らしく、その上……」

 

「甘い物でも口の中に詰め込まれていたかい? 正解らしいね。……六人居たよ、四人になったよ。お菓子を食べ過ぎて三人になったよ……だったかな? 最近聞いたばかりだからうろ覚えだがね。それで護衛の者達は……いや、言わなくても良い。遺族には十分な保証をしないとね」

 

 息を切らし汗だくで報告をする男性に水を差し出しながらタラマさんは呟く。その姿はとても実の兄が殺された人とは思えず、僕の中で疑念が生まれた。きっと一緒に亡くなったであろう護衛の遺族を気遣う言葉が尚更不気味だ。もしかして欲ではなく使命感から犯行に及んだのではと思ってしまった。例えば他の兄弟が魔族と通じているとか、さっき口にした『連中』がそれを指しているんじゃないかって。

 

「……」

 

 でも、彼はずっと屋敷に居たはずだ。長男マヨッツに四男ナットゥと立て続けに殺害された以上は他の兄弟にも何かあると警戒して当然。だから護衛だって一緒だったんだ。

 

「……僕の態度が疑問かい? 理由はあるんだが、きっと話しても信じて貰えそうにないから黙っておくよ。君は何となく他の人と違う気がするけどね」

 

 まさか僕が別の世界出身だって見抜かれた? アンノウン様の用意したネームプレートが無効化されでもしない限りはそうなってそうだ。まさか本当に……?

 

「じゃあ、一応兄弟が殺されたとなっている手前、向こうに顔を出して来るから護衛の者達に伝えてくれ。出来れば巻き込まない為にも護衛を離れさしたいんだが、流石にそれは無理か」

 

 この人は心配しているんだ。自分が狙われる事よりも、狙われた事で周囲に被害が出る事を。僕は何を疑っていた? 僕は何を見ていた? 自分に他人の裏表全てを見抜く目が有るとは思っていないけれど、この人は疑っては駄目な人だ。

 

「!」

 

「おや、君も一緒に来るのかい? ふぅん、何となく頼もしい気がするね。じゃあ、一緒に行こうか」

 

 これは罪滅ぼしだ。巻き込まれ悪評に晒されても利他を優先するタラマさんを人殺しだと疑った事への贖罪。喋れない僕だけれど、何かあった時に戦う力は持っている。だから守ろう。彼も、彼が守ろうとしている人達も全て……。

 

 

 

 こうして僕はタラマさんと共に次男のカミソが殺された現場である紫屋根の屋敷まで向かう事になった。アンノウン様は助力どころかアドバイスすら出来ない状態だけれど、僕は止まれない。こんな所で黙って止まってなんかいられないんだ

 

 

 

 

「ああ、そうそう。君にアドバイスだ。僕の兄弟だって連中と、その母親達には注意して欲しいな。……凄い人気者だからさ」

 

 そんなアドバイスをされても僕は首を捻るしか出来ない。そう、この時は。でも、直ぐに僕は知ったんだ。彼がどんな想いで過ごしているのかを。そして今回の六美童密室っぽい殺人事件は急展開を迎える事になる。待っていたのは普通の推理小説じゃ起きない禁じ手だらけの結末だ。

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