初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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明日昼一時になろうにも更新

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二十二話くらいから気まぐれで追記要素有り コピペした際に書いてます








私が力を望む理由

「……寒い。もう、どうして窓が開いてるの?」

 

 レーカさんからの詳しい話の聞き取りや今後の方針の話し合いを賢者様達に任せ、私は早めにベッドに入っていた。私は子供だから夜更かしは駄目だし、昼間に話し合う時には参加させて貰えるらしいけど……。

 

「アンノウン、未だ起きてるの? ……わっ!」

 

 砂漠の夜は冷えるから、この部屋には賢者様が掛けてくれた魔法で室温が保たれているけど開いた窓から風が入り込んで来ている。窓を閉めようと近付いたら猫サイズになったアンノウンが屋根の上に座って空を眺めていた。私も釣られて空を見れば満天の星空。息が白くなる程に寒い中、身を震わせながらも星を眺め続ける。羊飼いとして働いていた頃はこうして夜空をゆっくりと眺める事はなかった。でも、こうしてゆっくりと眺めた時が有ったと思うけど何時だったかな?

 

「あっ、そうか。お父さんとお母さんと一緒に眺めたんだ」

 

 あの頃はゲルドバの親が牧羊犬をやっていて、あの子は生まれたばっかりだった。私に懐いてたからゲルドバを抱っこしながら毛布で身を包んで、お母さんが温めた羊のホットミルクを飲んで家族で星空を眺めていたわ。確かに数十年に一度の流星群が見られる日だったけど、私は途中で寝てしまったのよね。

 

「もったいなかったなぁ。……ちょっと散歩に行こうかしら?」

 

 少し眠いけど夜空を見上げながら散歩がしたくなった私は上着を着て宿を抜け出す。アンノウンはベッドに戻ろうとしたけれど、何時もからかわれているし、その仕返しも兼ねてカイロ代わりに抱いて出た。賢者様や女神様に見つかったら寝なさいって怒られそうだから窓からこっそりとね。

 

 

「ガゥゥ……」

 

 如何にも迷惑ですって鳴き声だけど気にしない気にしない。空を見上げながら宛もなく町の中を歩く。もう夜中だから家の明かりも消えているし、酒場も閉じている。まるで広い世界に私とアンノウンだけが居るみたいな錯覚をする中、曲がり角の先にある広場の方から声が聞こえて来た。

 

 

「賢者様と女神様だ……」

 

 二人も夜の散歩かなと思い覗き見る。何時もは直ぐ側でイチャイチャされてウンザリしているけど、今だけは野次馬根性が出て来たの。今日は満月で夜なのに明るく照らされる広場で二人は手を取り合ってダンスをしていた。

 

 二人の周囲を楽器が舞って演奏をしているけど私の所には聞こえて来ない。きっと二人にだけ聞こえる様にしているのね。ダンスに詳しくない私だけど、女神様が時々賢者様の足を踏んじゃっているからきっと下手くそなのね。

 

「でも、楽しそう……」

 

 月と星の明かりに照らされて踊り続ける二人の顔は幸せそう。何か話しているけれど距離があって内容は分からない。でも、少し気になる。これ以上近付いたら気が付くだろうし。

 

「……ガウ」

 

 アンノウンが袖を咥えて引っ張るから顔を向けたら頭の上のパンダのヌイグルミが持つスケッチブックに自動的に文字が書かれて行く。これって二人の会話?

 

「凄いわ、アンノウン」

 

 得意そうに鼻息を出すアンノウンの頭を撫でながらスケッチブックに視線を向ける。丁度今日遭遇した魔族の話になっていた。

 

 

 

「今日は本当に嬉しかったです。貴方が私に嫉妬してくれて。でも、同時に申し訳なく感じるのです。心配をさせてしまったのだと」

 

「馬鹿を言うな。お前が私以外の女に興味を持つなど有り得んと分かっているさ。……只、姉様だろうが私の男が自分に靡くと言うのは腹立たしいだけだ。女神の独占欲を侮るなよ?」

 

 踊りを一端止めて申し訳無さそうにする賢者様だけど、その唇をキスで塞いだ女神様は踊りを再開しながら不適に笑っていた。

 

「分かっていますよ。私はシルヴィアだけの物で、シルヴィアは私だけの物。ああ、怒りとはいえ愛しい者の意識が他に向かうのは寂しいですね」

 

「それを言ってくれるな。その分二人だけの時に埋め合わせをしてやる。……しかし姉様がお前に誘惑を続けるのも妹の私への独占欲からかもな」

 

「妹を手にした男を手に入れる事で妹を手にする、そんな感じですか。何と言うか神らしい事で……」

 

 踊りながら呆れ顔の二人。話を聞いて神様の愛情表現って人間とは矢っ張り全然違うって思った。

 

「では、踊り続けましょうか」

 

「ああ、そうだな」

 

 賢者様は女神様の腰に手を当て、時に激しく時に優雅に踊り続ける。つい見とれていた私だけど、少し体が冷えて来たし、そろそろ帰ろう。

 

「ほら、帰るよ、アンノウン。……あれ?」

 

 スケッチブックから二人の会話が消えて、今度は別の物が現れる。パンダを中心に動物の絵が駆け回って可愛いけど、中心に文字が出ていた。

 

 

「盗聴料金として朝食のデザート? や…やられた……」

 

 明日の朝食のデザートは果物を沢山乗せたプリンだって聞いている。プリンは私の大好物だったのに……。まさか、最初からこれが狙いで私を誘いだしたんじゃと思うけど、心の平穏の為に否定したい。

 

「うん、きっと違うよね。幾らアンノウンでもそこ迄じゃないから……」

 

 大成功、スケッチブックにそう書かれているのは気のせい気のせい。自分に言い聞かせて宿屋に戻る。窓から部屋に戻るとテーブルの上に出た時は無かったホットミルクのマグカップとメモ書きが置かれていた。

 

「夜更かしは程々に……気付かれてたのね」

 

 温かいミルクは甘くて体が温まる。飲み干すと心が落ち着いて眠くなって来たからベッドに入ると直ぐに瞼が重くなって来た。

 

「お休みなさい……」

 

「ガウ」

 

 アンノウンもペット用のベッドに潜り込んで丸くなる。私もそのまま眠り、この夜は家族の夢を見た。未だ二人が生きていた頃、守られているだけの子供でも許されたあの頃の夢を……。

 

 

 

 

 

「さて、私が得た情報とレーカさんの情報によると……推定中級以上の魔族が此処に居ます」

 

 大好物のプリンをアンノウンに奪われた朝食後、賢者様がプリンをくれたから満足だった私の目の前にイエロアの地図が広げられる。リーカさんが居たサフラと目指していたオニオを挟んで存在する王都メリッタ、このムマサラからは甲虫車でも町を経由しながら1ヶ月以上は必要……らしい。だって田舎の羊飼いには大陸の地図の見方なんて知らなくても困らなかったし……。

 

 

「えっと、最短ルートですね? それが一番速く解決出来ますし……」

 

「ああ、それですが……少し寄り道をしようと思っています」

 

 アンノウンに引かせた車なら甲虫車よりも速く走れるし、賢者様の魔法が有れば町に立ち寄る必要も無いから一日でも早く魔族を倒せる、そう思ったけど、賢者様は静かに顔を横に振り、弧を描く様に地図に線を引く。チャイの村っていう小さい村が途中に一つ有るだけで他は険しい山道。どうして賢者様はこの道を選ぶのか理解出来なかった。

 

「キリュウ、どうしてこのルートを選ぶのだ?」

 

「どうも付近で見慣れぬモンスターが目撃されたと行商人の間で噂になっているらしく、只でさえ小さな村で出入りが少ない商人が更に来なくなっているのです。功績を稼ぐ為にも立ち寄る必要が有りまして。……何故魔族を倒すより功績を優先するかは分かりますね?」

 

「えっと、勝率を上げる為ですよね? 世界を少しでも速く救う為にも……」

 

 勇者の功績は封印の為以外にも勇者の力の増強に繋がるって教わっている。賢者様は経験値稼いでレベル上げって言ってたけどよく理解出来なかった。何となくは分かった気がするけれど。

 

 そして私が強くなる事は更に功績を挙げる事に繋がり、それが世界を一刻も早く救うのに繋がる。目の前の百人を救うのに焦って目の前に居ない百万人を救えないなんて嫌。でも、だからって直ぐ側で困っている人を救えないのも嫌。

 

「賢者様、早く行きましょう! 少しでも早く強くなって、目の前に居る人も居ない人も助けたいです!」

 

 そう、簡単な話。力が足りないせいで人を救うのが遅れるのが嫌なら、もっと早く強くなれば良い。換えが効かないから慎重になるのも勇者の務めだけど、理解と納得は別だから。

 

「その意気です、ゲルダさん。実は見せたい物が有るのですよ。既に車内に用意しています。早速向かいましょう」

 

 椅子から立ち上がっ意思を示せば賢者様は誉めながら私の頭、ではなく肩に手を置く。何時もの子供扱いじゃないって事が嬉しいけど少しだけ寂しかった。

 

 

 

 

「どうです、凄いでしょう!」

 

 アンノウンが引く車の中は元々見た目よりも広かったけど、今は更に広くなっている。昨日までが豪華な宿屋の一室なら、今は平屋建ての屋敷。得意気に自慢する賢者様の案内で見て回ればお風呂もトイレもキッチンも各自の部屋まで有るから私の家なんて比べものにならない豪華さだった。

 

「流石に街でお金を落とさないのは情報収集に関わりますから宿を利用しますけど、ゆっくり休めるのなら休んだ方が良い。……私の時もこれを作って貰えれば良かったのですが」

 

「作って貰えれば? これ、賢者様が作ったんじゃないんですか?」

 

「私には未だ無理ですよ、空間拡張に加えて此処までの生活空間の作成は。全部師匠に頼んで作って貰いました。この旅が終わったら十年間はみっちり修行をさせられそうで怖いですが……」

 

 冗談めかして身震いする真似をする賢者様だけど私には驚きだった。何でも出来る凄い人だって思ってたけど、その賢者様より上の魔法使いが居たなんて。多分その方も神様ね。マトモな方だったらお会いしたいわ。

 

「では、重要な部屋に行きましょうか」

 

 そして、賢者様に案内されて向かったのはリビングの奥に存在する木製の引き戸を通った先。途中にある廊下も床や壁が木製に見えてお父さんが少しだけ話してくれた故郷の建物に似ていた。廊下を進み、その途中に何故かシャワー室に繋がっている扉を通り過ぎ、着替え室を通って辿り着いたのは中庭だった。空を見上げれば太陽が輝いているし地面も土。

 

「あれ? 何か変な気が……」

 

 土や風の匂いに少し違和感を覚えて首を傾げる。ほんの僅かな違いで獣人の嗅覚が勇者になって更に研ぎ澄まされたから感じた微妙な違い。賢者様の方を見たら今度は頭を撫でられた。……また子供扱い。

 

「気付くとは偉い偉い。此処は修練所、当然全て偽物でして、この通り……」

 

 賢者様が念じると穏やかな昼下がりの中庭から一変して潮風香る夜の船上に一変する。波が穏やかだから大して揺れないけど船に乗るのは初めてな私は立っているのも少し大変だった。

 

「この通りにキリュウや私の意思によって自在に変化する。さて、説明終了、いざ特訓開始だ!」

 

 私の足元にデュアルセイバーが投げられ、女神様が拳を構える。私も室内だからと外していた麦わら帽子を被るとレッドキャリバーとブルースレイヴを手にして構えを取った。

 

「お願いします!」

 

「その意気や良し! 先ずは実戦、技術指導はその後だ!」

 

「はい!」

 

 基本的な扱いや動き方は武器を握っていると自然と頭に入ってくるだから今の私に必要なのは兎に角経験。そして相手は武の女神様。だから、これを乗り越えて私は絶対に強くなる。絶対に世界を救う為にも頑張らなくちゃいけないわ。

 

 

 

 

「さてと、私は休憩時間のお茶の準備をしておきましょう。お茶菓子は何が良いですか?」

 

「最中、栗入りと餅入りを用意しろ。茶は濃い緑茶だ」

 

「スコーンにクリームたっぷりで。アイスミルクティーをお願いします」

 

 賢者様が用意してくれるお菓子は美味しい。本人は自分が作れる味しか魔法で出せないって言うけど、それで十分よね? 長生きしてると食べ飽きるなら不老不死も考え物だわ。

 

 

 

 

 

 

「……ふーん。裏切り者がこの世界に来たのね。それで、討伐部隊を送り込んでから私に知らせた理由は?」

 

 玉座に座り、氷よりも冷たいお酒を飲みながら目の前の同族を睨む。我ら魔族の王として誕生した魔王様に任された私に事後承諾を願い出た愚か者に軽く吹雪を送るけど文字通り涼しげな顔、応えた様子も無い。

 

 ビリワック・ゴートマン、私が嫌いな奴の一人だ。山羊の頭を恭しく下げるけど、此奴が私に敬意なんて払っていないのは分かっている。

 

「これは申し訳有りません。ですが主の(メェ)ですので。あの方は至急と言っておりましてね」

 

「魔王様なら兎も角、私に筋を通さない理由になるとでも?」

 

「恐縮ですが、私にとってあの方は絶対。どうかご理解下さい」

 

 もう一度頭を下げてビリワックは去っていく。本当ならばこの場で凍らせて砕いてやりたいけど、そうすれば奴の主と争う事になる。屈辱だが奴の主には……いや、ビリワックにさえ私は勝てないだろう。彼我の差を認める、それも力の内だ。耐えるしかない……今はだけど。

 

 

「見ていなさい、絶対にお前達を超えてやる」

 

 私達魔族は人の負の感情が集まった淀みから誕生した。その力の源も当然人の負の感情。だから、私や私の眷属がが人に恐怖や憎しみの感情を与える程に力が増して行く。

 

「……ルル、貴女が居ないのは寂しいわ」

 

 だけど、力を増して地位を上げた先で隣に居て欲しい友達はもう居ない。私同様に別の世界に派遣され、勇者に倒され消え去った。せっかく私が眷属まで貸してあげたのに、一体何をしてたのかしら。馬鹿だノロマだ愚図だと仲間から馬鹿にされて泣いているのが鬱陶しいから世話を焼いたら懐かれて、何時の間にか友達になっていたあの子。

 

 あの子を派遣する様に魔王様に進言したのもビリワックの主。奴はルルの能力は街を襲うのに向いていると言って、あの子は誉められて喜んでいだけど実は違う。魔王様の命令だから口出し出来なかったけど、勇者が既に誕生していると知って試金石として投入したわ。

 

「……許せない。絶対に殺してやる」

 

 今でも思い出す。ディーナちゃん、ディーナちゃんと鬱陶しい位に纏まり付いて来たルルの声も顔も忘れない、忘れたくない。他の同族は自我を持って生まれたのだからと繁栄を望み、更に別の同族は単純に破壊と殺戮を楽しむ。魔族が人を苦しめて力を蓄えるのは大体そんな理由だし、私もそうだった。

 

「……何時だったかしらね。あの子に夢を語ったのは」

 

 魔族だから破壊と殺戮を行う、そんな頭の悪いルルを笑ったら私の理由を訊かれた事が有る。私は少し恥ずかしかったけど、親友が憧れる優雅な態度を崩さずに答えたわ。全ての同族の繁栄の為にってね。……嘘だけど。だって、たった一人の親友が笑って過ごせる世界の為だなんて言えないわ。

 

「でも、もう意味は無い……。だってルルは居ないのだもの」

 

 頬を伝った涙が凍り、床に落ちて砕け散る。勇者を倒し人間を絶滅させずに残せば次の誕生周期まで神は世界に干渉しない、魔族の相手はあくまで人間である勇者の務めと最高神が定めている。だから勇者の殺害は魔族の繁栄に必須だけど、私にとって既に同族なんて興味が無い。あの子を苛めて、あの子を煽ててその気にさせた上で捨て駒にした奴らなんてどうでも良い。

 

「勇者、お前は私の親友を殺した。お前を殺す理由はそれで十分よ。……来なさい」

 

 身を焦がし、魂の芯まで溶かす様な憎悪を燃やした私は静かな声と共に数度手を叩く。何処からともなく雪風が吹き、露出の多い白い着物を着た白皙の女が現れる。

 

「ディーナ様、ご命令は何でしょうか?」

 

「勇者が此処に向かってくるでしょうから途中の街の近くで好きに動きなさい。後は分かっているわね? 勇者は生かして連れて来なさい」

 

 さて、どうなるでしょうね? 此奴はルルを馬鹿にして、私のペットだと言っていた。勝てば良し、負けて死んでも……どうでも良いわ。

 

 

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