初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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最初は姉弟の和解を目指していたんだ


途中で悪魔が囁いたのさ 会わせるな もっともっと! と


疑念

「……あの。賢者様の力で俺が勇者を替わってやる事って……」

 

 それは俺がゲルダ達の仲間になるにあたり、俺と彼奴が兄妹だって本人を除いて教えた時にした提案だった。

 

 無理だとは思っていたし、実際に賢者様は悲しそうに顔を横に振る。

 そうだよな。

 実際、それが可能だったらとっくの昔にしていた筈だし、今まで時たま助力していただけの賢者様がシルヴィア様と一緒に仲間になってる時点で分かっていた事じゃねぇか。

 

「私もシルヴィアも世界を救うだけでなく、ゲルダさんを守れるように力を尽くします。ですから君も……」

 

「うっす。妹だけは何としてでも守り抜く。それが俺が生涯懸けて守り続けるべき約束ですから。例え彼奴が俺の事を赤の他人だって思い続けても」

 

 それでも俺はたった一人の肉親を、傍で守ってやる筈だった妹を危険から遠ざけたかったんだ。

 

 妹が生きていると知った時から俺の人生の意味は決定した。

 クルースニクの一員として魔族に組みする奴を抹殺したのも、連座で其奴の身内が罰せられるのを防ぐ為に公にしなかったのも、それで国が荒れてしまったら何か影響が出るんじゃないかって思ったからだ。

 

 兄貴だって名乗らないのも糞みてえな白神家について少しでも関わりを避けさせ、俺が復讐に動いても巻き込まない為だ。

 

 全ては妹の為に、それだけで十分だ。

 だから彼奴の幸せを邪魔する奴は許さない。

 

「どうしてもっと早く来てくれなかったんだ!」

 

「貴女みたいな子供が勇者じゃなかったら私の子供は助かったかも知れないのに……」

 

 今居る城みたいに大勢が攫われて働かされているのを助けた時、こんな事を言って来る糞が居やがった。

 

 家族を理不尽に失い、復讐の相手は他人に倒されたんだから気持ちは察してやるが、それがどうした?

 

 どうしてゲルダを責める?

 勇者なら完璧で有るべきだって言うが、お前はその百分の一でも凄い奴なのか?

 

 幾ら頭で全ての奴を助けられないって分かっていても、どれだけ前向きに強くなろうと思っても、彼奴の心が曇るんだよ。

 

 だから今回はどうにかしたかった。

 

 先に攫われて来た連中も、カイも、そしてネルガルも、片っ端から救っての大団円を目指してたんだ。

 全部上手く行くと思っていたし、上手く行かなくちゃ駄目だったんだ。

 

 ……なのに。

 

 

「その汚い手で其奴に触れるな。其奴を抱き締めてやらなくちゃいけねぇ奴がもう直ぐ来るんだよ。姉弟の再会を邪増すんな」

 

 あと少しの所で余計な邪魔が、レリル・リリスが全てをかっ浚おうとしている。

 洗脳が解け、これから罪悪感やらテメェの罪と向き合って行く事になるネルガルを抱き締めて支えてやるべきなのは姉であるイーチャの役目なのに、全く関係無い奴のせいで台無しだ。

 

「あら、そうなのね。でも私が姉として愛してあげれば良いんじゃないかしら?」

 

「この糞がっ!」

 

 しれっと放たれる発言に俺の我慢は限界で、叫ぶと同時にグレイプニルをレリルの顔に向かって放つが当たらない。

 

「ふふふふ。無理しなくて良いのよ? 私は貴方も愛してあげる。どんな愛の形でも、好きな物を与えてあげるわ」

 

 いや、違う。

 当たらないんじゃなくて当てられない。

 初めて会った時と同じく、俺はレリルに魅了され、今直ぐにでも全てを捧げたいとさえ感じてしまっているんだ。

 

「……畜生」

 

「無理しちゃ駄目よ? ああ、どうせだったら勇者の子も一緒にどうかしら? 貴方、あの子を愛しているでしょう? 私には分かるの」

 

「……あ?」

 

レリルが何を言ったのか、今の恋の熱に浮かされた俺の頭では理解出来る筈もなく、只甘美な声に酔いしれる。

 だが、体は違う。

 気が付けば自分の全てを捧げても良いと思った相手に殴り掛かっていた。

 

「あら? あらあら?」

 

 無意識に放った懇親の一撃は指先一つで難なく止められ、効果は意表を突かれた時の声を吐き出させただけで、俺にとって目の前の女が何よりも美しく、その全てを手に入れたい相手である事に変わりはない。

 

 

 だが、それが何だ?

 

「……テメェだけは絶対にぶっ殺す。グッチャグチャの醜い肉塊にしてやるよ!」

 

「無理だと思うわよ? 私、肉塊になっても多分美しいから。それに貴方じゃ弱過ぎだもの。そんな事よりも楽しい事をしないかしら?」

 

 鎖を鞭の如く振るい、拳打を連発し、フェイントを加えた蹴りを織り交ぜ猛攻を続けるが、レリルには一切届かない。

 軽々と避けられ、指先で止められる。

 クスクスと笑う余裕さえ見せるレリルが胸に巻いている布をずらして誘惑をしてくれば犯したいという欲望が頭の中を支配した。

 

 だから、それがどうした?

 

「殺す殺す殺す殺す! うぉおおおおおおおおっ!」

 

 此奴は確かに口にした。

 ゲルダに、俺の家族に手を出すと。

 だから殺す。

 

 惚れた相手でも、どんだけ愛した相手でも、俺の妹に手を出す奴は生かしておいたら駄目だから……殺す!

 

「熱い子って好きよ。強引に組み伏せられたい気分ね。でも、この子を連れて帰りたいし……また次の機会にね」

 

 跳躍からの大振りの一撃に対し、レリルは片手で抱き締めたネルガルに視線を向けるなり転移用の魔法陣を発動させる。

 

「……あら?」

 

「馬鹿がっ!」

 

 そんな物、何度も逃げられたら鬱陶しいって感じた賢者様がとっくに対策してるのを知らなかったのか?

 

 最上級魔族が知らない事に違和感を覚え、疑問符の理由が他に有るという考えが頭を過ぎるも俺は止まらない。

 呆けた顔のど真ん中に拳を叩き込んだ。

 

「……意地悪ね。でも、仕方が無いのかしら? 神って人間が好きだもの。きっと貴方の味方をしたのね」

 

 拳に伝わったのは満足にダメージすら与えられていない情け無い結果。

 だが、それよりも驚いたのはレリルが転移で消えた事だ。

 

 魔王すら秒殺出来る賢者様が転移を封じている筈で、見逃す理由なんて無いはずなのに逃げられたという事実が、最後の台詞から神の関与の疑念を俺に抱かせる。

 

「……馬鹿が」

 

 そんな筈が無いと否定して呟いた時、聞こえて来たのは息を切らしながら必死に走って来るイーチャの足音だった。

 

 俺が満足に足止めが出来なかったから間に合わなかったのだと無力感に唇を噛みしめる。

 

「ネルガル! ……あれ? さっきまで確かにあの子の気配が……」

 

 俺の様子に何かを察したのかイーチャがヘナヘナと崩れ落ちた時だった。

 

 分厚い氷壁にヒビが入り、向こうからゲルダと巨大な化け物が壁を砕いて飛び込んで来たのは……。

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