初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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ビリワックの名前、間違ってました、前回 反省!

なろうの方は二十二話位からコピペ投稿時に書き足し有るので良ければそっちにも あらすじにリンク有ります


雪の城内

「何なの……これは……」

 

 将来敵になりそうな謎の少女との出会いなどの予想しなかった出来事はあったけど、私達は無事に王都メリッタへと足を踏み入れた。でも、自分が今行る場所が本当にメリッタなのか分からない。だって、大勢が暮らしていた筈の街は無残に破壊し尽くされていたのだから……。

 

 此処に来る時、街全てが氷に覆われている位は想像していたし、破壊されて崩れている建物だって有ると思っていた。でも、現実はそれ以上。凍らされた上で徹底的に砕かれていたわ。まるで其処に形有る物が存在するのが腹立たしいとばかりに粉砕され瓦礫とかした建物、地面の至る所に存在する蜘蛛の巣状のひび割れや巨大な獣の爪痕を思わせる破壊の痕跡。そして、瓦礫の隙間から時折覗いている粉砕された人の体の一部。吐き気がこみ上げるけど、怒りがそれを上回る。強く拳を握りしめた時、強烈な獣臭と魔族の匂いが混ざった物が漂って来た。

 

「彼処ですよね。明らかに罠だと思いますが……」

 

二つの臭いが混ざり合って途轍もない悪臭になって鼻が曲がりそう。思わず手で鼻を押さえた時には既に嗅覚が麻痺し始めていた。臭いが何処から漂って来たのか、何処に向かうべきなのかは考えるまでもない。街が瓦礫の山となる中、唯一破壊の痕跡が無い建物。街の面積の三割以上を占める美しい雪の城が堂々とそびえ立っていた。

 

 出入り口は正面の巨大な門。バルコニーから侵入出来そうだけど、多分此処に来た時点で見張られているから意味が無いと思う。正面から乗り込む……しかないよね? これから罠に飛び込むと思うと少し緊張する中、女神様が崩れた建物へと近寄って行った。

 

「よし! 瓦礫を投げて破壊するか。わざわざ敵地に乗り込む必要も無いだろう」

 

 確かにそうなのだけど、女神様が正しいとは思うけど……。私が少し反応に困っている間に、女神様は早速とばかりに片手で巨大な瓦礫を持ち上げて投擲、城門を容易に粉砕した。

 

「さて、五十回も投げれば良いだろう」

 

「いや、駄目ですからね、シルヴィア? 魔族を倒す事も必要ですが、どの様に倒すかも肝心ですと説明したでしょう?」

 

「……そうだったか?」

 

 賢者様の言葉に首を傾げる女神様。えっと、私が勇者だって告げられた時に同じ様な事を言われて、その時に女神様も居たよね? 魔王を倒すだけなら数秒で終わるって。流石に私も賢者様も呆れた視線を送り、女神様はプイッと顔を背けた。

 

「ああ、何と可愛らしいのでしょう。拗ねて誤魔化す姿のシルヴィアにも心を奪われる。ですが貴女には横ではなく私を見ていて欲しい。失敗が有れば私がフォローします」

 

 賢者様は陶酔した様子で女神様へと近寄って手を取り、跪いて手の甲にキスをしました。たちまち顔を耳まで真っ赤にする女神様は普段のイチャイチャする姿が嘘みたいで私でも可愛らしいと思ってしまったわ。私でさえそうだったのだから賢者様は尚更で、女神様が自分の手を握った賢者様の手を頬に当てて目を綴じて触れる手に意識を集中すると立ち上がり、そのまま抱き締めた。

 

「そうだな。お前の顔を見るのに夢中で大切な話をちゃんと聞いていなかったのは反省しよう。同時にお前から目を逸らした事もな。だって、お前は私から目を逸らさずに見ていてくれるのだろう?」

 

「何を今更。例え美の女神である貴女の母でも、世界の誰もが目を奪われる景色でも、シルヴィアの美しさには敵わない。頭を垂れ、どうか見ている事をお許し下さいと頼むべき事です」

 

 互いの目が合い、唇が重なる。極寒の寒さの中、この辺りだけ温度が違っていた。

 

「ねぇ、アンノウン。私、横を向いて聞こえない振りをして良いかしら?」

 

「……」

 

 無言で頷くアンノウンに近寄って一緒に二人から目を逸らして他の事を考える。満足したらしい二人に声を掛けるまで今晩のメニューについて考えていた。……肉まんが食べたいわね。

 

 

 

 

 

 女神様が投げ入れた瓦礫は門を突き破り、そのままの勢いで幾つもの壁を貫通して止まっていた。内部は狭い通路がグネグネ曲がって遠回りする造りになっていたけれど壁の穴を通って奥へと進む。でも、少しだけ問題があった。

 

「わっ!?」

 

 雪見蟷螂の頭を叩き潰した瞬間、踏み込んだ足が床に深く沈む。見た目では分からないけれど堅い雪の床の一部が凄く柔らかい雪になっていて、少し力を入れて踏み込んだら足が沈んでバランスを崩す。その隙を狙って巨大な蜻蛉型モンスターのスノーネウラが襲い掛かって来た。

 

 幼虫の雪大水蠆(ゆきおおやご)は雪大水蠆で雪に潜んで待ち構えるけど、飛んで襲いかかるこっちの方が厄介。咄嗟にレッドキャリバーを投げて片方の羽を破壊して、バランスを崩した隙に足を引き抜いて蹴り上げる。ブーツの先は頭に吸い込まれる様に叩き込まれて粉砕した。

 

 目の前で飛び散る頭部と、頭を失っても数秒間動いた体を見て気分が悪くなりながらも前を見据える。場内に突入してから絶え間なく向かって来るモンスターの大群は尽きる気配すら見せず、逆に増えている様にさえ思えた。でも、それだけ。砂漠の世界に雪を降らせる様な相手と戦おうとしているのに、この程度の相手が群れを成した程度で疲れてさえいられない。

 

「……まあ、準備運動には良いかしら?」

 

 決して虚勢でも過信でもなく、私自身の力を理解した上での確信。言葉が通じたのか激しくなる攻撃を軽く対処し進む。階段を上り、曲がりくねった廊下をモンスターを倒しながら駆け抜けていると少しずつ数より質に比重が置かれ出した。特にスノーマンは雪の体を崩しても再生するし、熱で攻撃する手段を持たない私は頭を潰して動きが止まった隙を狙って通り過ぎるしかない。体が大きいから何匹現れても同時に攻撃してくる数に限りがあるのが救いだけどちょっぴり悔しかったわ。火の魔法も使える様にしておかないと。対応出来ないから戦いませんって言っていられない状況になってからでは遅いものね。

 

「順調だな、キリュウ。……いや、順調過ぎるか」

 

「最終的に私達が手を出せば良いだけですが、今後の旅に掛かる時間を考えれば避けたい所ですね」

 

 二人の心配は尤もだけど、私には突き進むしか出来ない。未熟な私はやれる事を精一杯やるだけ。そして、やれる事を増やしていけば良いのよ。遂に現れたスノーゴーレムを真正面から迎え撃ち、胸部の奥に存在する核を叩き壊して倒す。突き出される槍は擦れ違う様に踏み込んで躱わし、振るわれる大槌は刃の表面で受け流す。構えた楯は真正面から粉砕。気が付けば床に仕掛けられた罠も僅かな違いを見破って雪質を判断して回避して、新たに用意されていた吊り天井は女神様が蹴りで粉砕、天井に空いた穴を通って上の階層の廊下に飛び移る。

 

 やがて体も良い具合に温まって来た頃には最上階、この雪の城の主が待ち構えていると思う王座の間に続く巨大で豪華な門の前まで辿り着いた。門の前に待ち構えるのは通常の個体の二周り上の巨体を持つスノーゴーレム。多分その強い奴。

 

『『スノーゴーレム・ジェネラル』大量の水分を吸収したスノーゴーレムがより強固で巨大になった個体。核の位置は通常個体と同じ胸部だが、装甲も核も遙かに堅い。通常個体百体の軍団に匹敵する戦闘力を持つ』

 

 解析の結果、今までの相手とはレベルが違う相手だと分かる。苦戦は間違い無いけど、魔族相手の前哨戦には丁度良い。早速挑もうとしたのだけれど、私を手で制して女神様が前に出た。一定距離まで近寄れば反応するのか動き出したスノーゴーレム・ジェネラルが振り下ろすハルバートは城を支える柱と同じ位に大きい。

 

「まあ、少しは私にも譲れ。ふふん! 偶には指導だけでなく手本を見せねばな」

 

 私に顔を向けたままスノーゴーレム・ジェネラルの大質量の攻撃を片腕で受け止めた女神様は不適に笑う。力を込めて押し込もうとしているのか巨体の腕が振るえているけれど女神様は微動だにしない。もう一度振り上げ、更に力を込めて幾度となく角度を変えながら振り回すのだけれど、女神様は僅かに手首を動かすだけで容易に受け止め無造作に振るっただけでハルバートを弾き飛ばす。持ち主の手から放れたハルバートはクルクルと回転しながら宙を舞って床に突き刺ささった。

 

「……さて、お前の力を見せてくれよ、紅蓮暴斧(ぐれんぼうふ)?」

 

 斧を無造作に振り上げた姿勢のまま呟かれた言葉。気が付けば顔には汗が滲んでいる。動き回ったからじゃなくて、間違い無く周囲の温度が上昇している。その理由を間違い無く言い当てる自信があった。女神様の呼び掛けに応えるかの様に赤く輝く斧。あの斧は一体……。

 

「そうですか。漸く使う気になったのですね……」

 

「……賢者様?」

 

 普段のこの人なら空気を読まずに女神様が素敵だの何だの言うはずなのに、今この時は真剣な眼差しで女神様が手にした斧を見ていた。少し離れた場所でも業火の側にいる様な熱気を感じ、触れば火傷では済まなさそうな斧。この様子だと凄い由来を持つ伝説級の武器なのね。それも女神様が温存する程の……。

 

 

 

「あの斧、凄く高価だったのに買っただけで一度も使わずに飾られていただけだったのですよ。……同じコレクター体質の私達夫婦ですが、鑑賞に徹する彼女とコレクションは使ってこそと思っている私。残念ながら其処だけは合わないのですよ」

 

「残念なのは今の私の心境です」

 

 いや、多分鍛冶神の作品なのでしょうけど、色々と想像した私がとっても恥ずかしいわ。

 

「コレクションは保存してこそが私の信条だが、キリュウに合わせるのも悪くあるまい! 何せ私達は夫婦なのだからな!」

 

「ああ! 何と貴女は優しい方なのでしょうか! 今までの想いが恋とは呼べない程に愛しくなりました。やれやれ、酷い方だ」

 

「酷いのは賢者様……あれ?」

 

 私の頭の上にパンダのヌイグルミが飛び乗る。それに気が付かない女神様が好戦的な笑みを浮かべて振り上げれば大した自我を持たない筈のゴーレムが後退りをした。力を封印されようとも武の女神、その力はスノーゴーレム・ジェネラルでは格が違うという言葉すら不足している。放たれる威圧感は本来は感じない恐怖を与えていた。

 

「はっはっはっ! 行くぞ!」

 

 女神様が紅蓮暴斧を振り下ろす……よりも前にパンダの目から光線が発射。スノーゴーレム・ジェネラルの胸を貫通して内部で爆発。音を立てて崩れたスノーゴーレム・ジェネラルの残骸は斧から放たれる熱で溶け出していた。

 

 

「……おい、アンノウン。何をする?」

 

「ガーウ」

 

「いや、パンダビーム、じゃなくて、私が言いたいのは……」

 

「えっと、女神様。門番も倒した事ですし入りましょう」

 

 女神様は不満顔でこっちを向くけれどアンノウンはそっぽを向く。仕方が無いので私が話を逸らせば一旦落ち着いたけど、ご機嫌取りは賢者様に任せよう。勿論イチャイチャするのは目に見えているから私が居ない場所で。夫婦だし、二人っきりの時にまで口は出さないわ。

 

 

「では、此処からはお前の出番だ、ゲルダ。派手に登場して見せろ」

 

 静かに頷いた私は門の前でレッドキャリバーとブルースレイヴを構える。折角だし、少し派手に飛び込みましょう。足に力を入れて跳躍、勢いを乗せて交差する懇親の攻撃を叩き込めば門が内側に向かって吹き飛んだ。予想では少しくらいは面食らった魔族の顔が見られると思ったのだけど、王座の間には魔族らしい姿は存在しない。代わりに居たのは巨大な獅子のモンスターだった。

 

『『カースキマイラ』強い憎悪を持った者を核にして完成するキメラ型モンスター。その力は……』

 

 解析で分かるのは途中まで。今の私では詳しい情報を得る事が出来ない位に強いらしい。未だ麻痺している鼻だけど多分悪臭はカースキマイラから漂って来ているのね。今まで戦いの時に頼りにしていた嗅覚が存分に使えない事に不安を感じつつも様子を窺っていた時、女神様がカースキマイラを指差して呑気そうな声を出した。

 

「なあ、アレはモンスターだな?」

 

「ええ、そうですね」

 

「じゃあ、ゲルダが頑張って倒しても功績は大して稼げないのか?」

 

「修行にはなるでしょうが、残念ながら。封印の術式の判定は厳しいですから。あのモンスターの正体が何であれ、モンスターならば人が今襲われているのを助けるでもないと……」

 

 

「其処まで聞けば十分だ。さっさと終わらせて二人っきりになろう」

 

 賢者様の説明の途中で女神様が飛び出す。カースキマイラの鬣が反応してザワザワと蠢くのだけど、女神様はその時には既にカースキマイラの正面で斧を振り下ろしていた。蠢く鬣が静止して、続いて体が左右に別れて倒れる。まるで絵を切り裂いたかの様に後ろの床から玉座の背後の壁まで斬撃は伸びて断面から炎が噴き上がった。

 

「えっと、終わった……?」

 

 待ち構えていると思っていた魔族のディーナの姿は見えないけれど、如何にもな様子で鎮座していたカースキマイラを倒したし別の場所に移動すべきかしら? それとも近くに隠れて様子を窺っている? でも、それなら賢者様が直ぐに発見するし……。

 

「え?」

 

 両断されて左右に倒れて燃え上がるカースキマイラ。炎の熱で部屋の雪が溶け始めた時、死骸がゆっくりと起き上がって結合する。そのまま軽く身震いすれば傷一つ無い姿のカースキマイラが立っていた。

 

「成る程。再生能力が高いタイプか。……おっと」

 

 身軽に飛び退いた女神様がさっきまで居た場所目掛けて鬣が針みたいに飛んで床に突き刺さる。突き刺さった場所を中心に凍結する中、その顔面に女神様の膝蹴りが叩き込まれた。衝撃が顔面の中央から胴体を突き抜ける。真っ二つにされた上で燃え上がっていた王座が吹き飛び、壁に大きな穴が開いた。カースキマイラは内側から弾け飛んで周囲に飛び散ったけど、再び寄り集まって元の姿に戻った。

 

「此奴は原型が殆ど残っていなくても再生可能なタイプか。三百年前も何度か戦ったが面倒だな。時間が掛かればキリュウと過ごす時間が減るではないか」

 

 振り抜かれた前足には長く鋭利な爪。サイドステップで躱せば三っつ並んだ斬撃が飛んで床に深い爪痕を残す。軽々と避け続け、何度も頭を蹴り砕く女神様だけどカースキマイラの再生が収まる様子も無く、女神様の機嫌が明らかに悪くなった時、その体が浮き上がった。

 

 

「言ったでしょう、愛しのシルヴィア。不機嫌な貴女も素敵ですが、何より心を奪われるのは笑っている姿だと。大して得にもならないモンスターの相手など私が引き受けますよ」

 

 ジタバタ暴れるカースキマイラだけど半透明の球体に閉じ込められて降りられない。賢者様は指を開いた右腕を前に突き出していて、それを握れば球体が一瞬で収縮、見えない程に小さくなってやがて消えた。

 

「ふふふ、流石だな。では、褒美に背中でも流してやろう。当然お前も私の背を……いや、未だ早いか」

 

「成る程。そっちのタイプでしたか」

 

 球体が消え去った空間に紫色の煙が出現して、それが膨れ上がってカースキマイラへと変わる。不死身かと思った私だけど二人とアンノウンは随分と落ち着いていて、賢者様がカースキマイラの額を指差した。其処に有ったのは人の顔。紫の髪をした、普通にしていれば綺麗だったと思うお姉さん。でも、今は目が血走り獣みたいに歯を剥き出しにして理性が感じられない。

 

 

 

「コロス、コロス、勇者、コロスゥウウウウウウ!!」

 

 額に出現した顔の口が涎を飛ばしながら開き、途轍もない憎悪感じさせる声が響き渡った……。

 

 


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