初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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強く誓う

「じゃあ、正直に答えてくれる? 名前と住所、それと出身世界は? 学園をずっと見ていた理由は?」

 

 勇者時代、悪徳領主に日本人的な倫理観で立ち向かって面倒な事になりましたが、今回も少し厄介です。だって今の私の家は神が住まう無色の世界クリアスで、職業は無職。賢者って称号であって職業では有りません。その上実年齢は三百過ぎ、正直言って正直に答えるとふざけているとしか思われない内容。うん、こうなったら他力本願で行きましょう。

 

 だって遅くなって今回の事がゲルダさんやアンノウンに知られたらバニーガールを広めた事と合わさって私への評価が暴落間違い無しですから。いや、私の矜持の問題では無くて、頼れて安心出来る賢者様じゃないとゲルダさんも不安でしょうし。

 

 ……本当に酒の勢いって怖い。ヤクゼンが完成した事を祝しての宴の席でバニーガールについて熱く語り、カバディが故郷の伝統的なスポーツだとうろ覚えのルールを喋った結果がこれだ。色々と後悔しながら念話を送る。三百年の修行によって預けていて魔本が手元に無くても魔法は使えます。ですが、急に頭の中に声が響いた為に相手が驚いてお茶をこぼしてしまった。アポを取っているので今この時間に動ける事は分かっていましたが急でしたね。予め念話を使う可能性を言っておくべきでした。会う予定だった子に連絡を取りましょう

 

「ちょっと聞いてる?」

 

「ええ、聞いていますよ。私の住所ですが根無し草の研究者なので不定としか」

 

「研究者? 何処かに所属しているの?」

 

「いえ、所属する組織は有りません」

 

「じゃあ駄目だ。住所不定無職、と」

 

 ……こうして口に出されると堪える物があります。世界を救った勇者であり、女神と結婚して神の世界で暮らし、歴代勇者の手助けをした賢者でも、証明する物がなければ住所不定無職扱いとは随分世知辛い世の中だ。しかし、本格的に危ないぞ、これは。変に噂が流れてシルヴィア達の耳に入る前に……よし、洗脳しましょう。

 

 人道に背くので使用は差し控えろと師匠が口を酸っぱくして言っていますが世界を救う為です、仕方が無い! いや、良心は咎めていますよ? 特に目の前の警備隊の女性は職務態度が真面目で理想に燃えていそうな方ですし、後々書類上の不備や不審が見付かって評価に響けば悪いですよね。それと、シルヴィアと空気が何処となく似ています。

 

「まあ、愛しい彼女の方が美人ですが。真面目だけど偶に空回りする所も可愛くて、美しさと可愛さを兼ね揃えた理想の体現、完全でありながら輝きを増し続ける至高の存在であり……」

 

「いや、急に惚気話を始められても……うん? 誰か来たみたいだ。ちょっと待ってな」

 

 またしても抑えても抑え切れないシルヴィアへの愛が溢れ出して言葉となってしまった。これも全部シルヴィアが愛しいからですし私は悪くないでしょう。寧ろ何処か悪い所が有るでしょうか? なのに彼女(確かサラ・マムラガと名乗っていた)からは馬鹿を見る目を向けられる。心外だと訴えたいですが、今の立場は私が下。なので早急に終わらせて嫌な思い出は酒で忘れる気でいた時、取調室の入り口から彼女を呼ぶ上司らしい声がする。

 

「おや、お迎えが来たらしい」

 

「何を言っているの? 未だ名前すら調書に書いて……」

 

「いや、其処までだ。町長が彼の身分を証明するから解放するようにと言って来た。今回の事でお前に不利益が発生しない様にともな。彼を釈放しろ」

 

「町長が!? ……分かりました」

 

 納得はしていないが従うしかなく、不承不承と言った様子ながら私は釈放される。自分で言いたくないですが不審者ですからね、私。……落ち込む。

 

 しかし、それでも従うしかないのは町長が強い権力を持っているだけでなく人徳も有るのでしょう。まあ、温厚な政治家と言うよりは仁義を大切にする親分タイプですがね。

 

 

 

「申し訳有りません、賢者様」

 

「いや、私に落ち度が有りました。彼女は職務を全うしただけですよ」

 

 詰め所から出れば町長の家は直ぐ側だと言うのに豪奢な馬車が用意され、町長の側近で私の知り合いであるミクンが待っていた。詰め所に連れて行かれた事を謝りますがフォローしておきましょう。……うん、改めて勉強になりました。賢者だと派手に力を使って証明するなりしなければ自分が住所不定の無職扱いだと分かりましたからね、ははっ……。

 

「賢者様?」

 

「いえ、気にしないで下さい。行きましょうか……」

 

 馬車に乗って椅子に座れば体が沈む程に柔らかくて座り心地が良い。スプリングも優秀で走っても殆ど揺れが有りません。

 

「どうです? 野良犬同然から随分と成り上がったでしょう? 靴さえ満足に買えなかった私達がこんな馬車に乗るなんて」

 

「頑張りましたね。そして重要なのはこれからですよ?」

 

「分かってますよ。誰かを踏みにじる真似は二度とする気は無いですが、上は目指し続けます。……より多くの昔の俺達みたいな餓鬼を助ける為にもな」

 

 おや、口調が元に戻っていますね。まあ、それで構わないでしょう。問題は表面に出ない口調ではなく、表向きを着飾って裏で悪事を行わないかどうかです。サラさんを見る限りでは彼らは大丈夫だ。

 

 少し昔を懐かしみながら馬車に揺られていると間もなく大きな屋敷へと到着する。街の代表者としての面目を保つ程度の調度品で飾られた内部を通り、応接間へと通される。ミクンが扉を開けば白髪が混じり始めた壮年の男が立って出迎えてくれました。

 

「よっ! 久し振りだな、賢者様。俺達の仲だ、この口調で通させて貰うぜ」

 

「じゃあ、私はこのままで。昔からなので染み付いていましてね。別に良いでしょう、ラサ」

 

 角刈りにサングラス、体に多く残る傷跡と堅気の人間には見えない彼こそ会う約束をしていた知人のラサ、ラサ・マムラガ。馬車の中で聞いた話で驚きましたが、サラさんは彼の孫娘なのです。

 

 

 

「……ぷっ! はははははっ! そりゃ大変だったな。だが、アンタが賢者だと証明する為に力を使ったらパニックが起きたかも知れねぇんだ。権力争いで貴族共がゴタゴタしてるし、妙な奴らが入り込んでる。取って置きの酒で勘弁してくれ」

 

 私が連行された話を詳しく話せばラサは腹を抱えて大笑い。随分と息が苦しそうな様子ですが、恩着せがましい事は言いたくないですけど私って恩人ですよね? 親しき仲にも礼儀有りって教えた筈ですが……。

 

「……まあ、良いですよ。ツマミはチーズとサラミを希望します」

 

「最高級のを出してやるぜ、待ってな」

 

 もう良いです。今は酒で全て忘れますから。間もなく運ばれて来る随分と高級そうな酒を飲みながら言葉を交わす。ウイスキーにビールにワイン、テーブルに次々と運ばれる酒が次々と空になって行く。私も強いですがラサも強い。まあ、酒の席に仕事として座る機会も有りますし弱ければ此処までのし上がっていないでしょう。

 

 ……それにしても彼も年を取った。出会った時は少年でしたのに、今では白髪混じりの壮年男性。其処まで時が経った気はしなかったのですけどね。ああ、こんな事が有る度に私が人から外れてしまったと思わされますよ。神とも違い、人とも違う。私は一体何なのでしょうね。

 

 

「……でだ、俺の顔を見に来るだけなら今みたいに来ないよな。何の目的だ?」

 

「実は考古学者と知り合った所、良くない噂を耳にしまして。……オークションにタンドールの秘宝であるナスの涙が出品されると耳にしましてね。今からでも参加したいのですが」

 

「あの遺跡の出土品は偶に出るが……アンタがこうして来るって事は相当な物か。本当なら参加権を抽選してから買って貰うから席は空いて無いが……手違いで空席が出来ても不思議じゃないか。まあ、派閥に入れってウザい貴族が居るからな。詫び金は出してくれよ?」

 

 やれやれ、十年以上前に会ったきりですから心配していましたが話が早くて助かる。ですが、詫び金は私が出しましょう。こっちの世界で遊ぶ金欲しさに魔法のアイテムを偶に売買していますし、エイシャル王国で渡されたゴールドカードから資金は文字通りに出てきますからね。

 

「ん? 出してくれるのか。だったら遠慮しないで貰っとくぜ。いやー、最近幾ら金があっても足りなくてな」

 

「……いえ、構いません」

 

 随分とアッサリしていますし、最初から私が出すのを分かっていました? ……いや、邪推は止めましょう。逞しいのは良い事ですし……。

 

 

 

「……にしてもだ、今回の勇者は子供だって噂だがマジか?」

 

 オークションの席を手に入れる交渉後、酒を酌み交わしている最中の事でした。既に噂を耳にしているのかラサがそんな事を呟いたのは。まあ、子供時代に苦労して、今や孫娘まで居る身ですからね。少し渋い顔なのも仕方が無いでしょう。善性の証です。

 

「本当ですよ。嘆かわしい話だと思いますけどね」

 

「子供が魔族と戦うんだ。修行だって辛いだろ? ったく、子供に世界の命運を背負わせるなんざ情けねぇ話だぜ。どうせ歴代の勇者みたいな働きを期待されるんだろ?」

 

 確かに間違っていませんよ。貴方の嘆きは正しいですよ、ラサ。ですが、彼の意見には穴が有る。彼同様に嘆く善人でさえ見落としているであろう穴がね。

 

 

「前提が間違っていますよ。世界の命運をたった数人に背負わせ、不出来ならば責めて達成すれば英雄伝として素晴らしい事の様に扱う。そんな風潮自体が妙だとは思いませんか?」

 

 憧れや英雄視で美化されているが、勇者とは生け贄だ。その重圧は凄まじく、世界を救ってくれと嘆き期待する人の声が逃げたいという当然の想いに自己嫌悪を感じさせる。憧れる気持ちは理解します。ですが、実際は素晴らしい物ではないのですよね。私もシルヴィアが居てくれたからこそ立ち上がれた。居なければ私は膝を折り、人は神が出張って来ない様に数を調整されながら魔族に支配されていたでしょう。

 

 

「つまり、私と彼女の愛が世界を救ったのですね。仲間の助けも大きいですが、それは譲れません」

 

「飲み過ぎ……いや、素面でもこんな感じだっけな」

 

 ……うーん、今日は何故か呆れた様な目を向けられる日ですね。ラサまで私を馬鹿を見る目で見ていますよ。

 

 

 

 

 

 

「賢者様、お帰りなさい! 待っていたわ」

 

「おや、その言葉遣いは……実に良い。仲間ですし、堅苦しい言葉は要りませんからね。まあ、私はキャラ付けが癖になったので直せませんけど」

 

 ラサが酔い潰れた後、ほろ酔い気分を楽しみながら馬車に送られた私は降りる際に魔法で酔いを醒まして酒臭さも消しておく。いや、流石に昼間から酒を飲んで帰って来るとか色々と台無しですからね。大人ですし格好付けたいのですよ。

 

 それはそうと言葉遣いを本来の物に戻したゲルダさんは成長によって忘れかけていた子供らしさを取り戻せた気がします。気が楽になったのか元から明るかった顔も更に明るくなりまして実に可愛らしい。思わず頭を撫でてしまう程です。従姉妹の……確か璃癒(りゆ)も私やお祖父さん達に撫でられると嬉しそうだった。ゲルダさんも嬉しそうですし、両親が恋しい年頃なのでしょうね。

 

 たかが十歳に世界の命運がのし掛かる……有ってはならない事ですよ、実際。

 

「えっと、賢者様? どうかしたのかしら?」

 

「いえ、将来的に子供は男と女の両方欲しいですが、ゲルダさんみたいな子供に育って欲しいと思いましてね」

 

 私が暫し考え事で止まっていたのを不審に思ったゲルダさんが首を傾げているので誤魔化しますが、実際嘘ではない。素直で頑張り者、そんな子に育って欲しいですよ、未だ生まれるどころか妊娠すらしていませんが。

 

 ……する筈なのは間違い無いですし、魔法に頼るのは嫌ですが頑張っているのですけどね。世界を救うまではシルヴィアの戦力が必要ですから避妊していますし、復興の手伝いを考えれば更に次の時期まで神の感覚では少しの期間。その間に欲しいのですが……。

 

「あら、嬉しいわね。じゃあ、賢者様と女神様の赤ちゃんが産まれたら抱っこさせて欲しいのだわ」

 

「構いませんよ。世界を救い、ゲルダさんが平穏を取り戻して落ち着いた頃に連れて行きます。何が何でも約束を守れる様に頑張りますよ」

 

「ええ、楽しみにしているわね!」

 

 本当に期待した顔で微笑むゲルダさんを見ると世界を救った後のいざこざの処理を頑張らなくてはと思いますね。だって世界を救った勇者なんて絶好の看板、御輿にするなりして利用を考えない方が有り得ない。私はシルヴィアと結婚しましたし、首輪が必要だった三代目も即座に結婚させましたけど、二代目は苦労しましたからね。最終的にエルフの恋人と結ばれましたが、その子供を狙った動きも有った。

 

 だからこそ、目の前の少女の平穏な暮らしを守ってあげたい。それこそ師匠の力を借りてでも。まあ、全ては終わった後の事。彼女の成長を見ながら考えましょう。急いては事を仕損じると言いますからね。

 

 

 

 

 

「……町長、いや、お祖父様。あんなやり方は良くないよ。無条件で釈放とか普段ならしないのに」

 

「彼は重要人物だ。お前が想像しているよりずっとな」

 

 俺が町長になり、このヤクゼンを束ねてどれ程の年月が流れただろうか? 今は豪勢な暮らしを送り、可愛い孫娘も生まれているが昔はそうではなかった。今日のやり方が気に入らないと抗議するこの子は街の役に立ちたいと自ら警備隊に志願して、俺も贔屓目で見ずに普通の隊員として扱えと命じている。まあ、警備隊の隊長は俺の昔からの知り合いだから大丈夫だろう。

 

「言っておくが彼に変な真似はするな」

 

 賢者であるとは言わない。オークションを管理するのは俺だが出品は出品者が出して仲介料を払う形式だ。何時もは審査を行って本当に不味い奴は帰らせるが今の厄介な状況のせいでそうも言ってられん。その結果、賢者様が危険視するブツが出品されるんだ。出品者はマトモな奴じゃないな。担当者も連絡が取れない状況だ。変に関われば邪魔になるし危ない。だからコッソリ会ったんだ。

 

「……ねぇ、今の街は嫌いだよ」

 

「同感だ」

 

 サラの呟きに同意しながら窓の外を眺める。時刻は既に夜だが魔法の道具で明るく照らされていた。その明かりが届かない掃き溜めが昔の俺の、俺と仲間達の住処だ。

 

 

 

 得体の知れない余所者、汚い野良犬、そんな風に罵倒され、当時の町長の方針で本当なら入れた筈の孤児院からも拒まれ泥水を啜って生きていた頃、世界に拒絶された気がしていた俺達を救ってくれたのが賢者様だった。

 

 

「自尊心の為の施しとでも金持ちの気まぐれとでも好きに思って構いませんよ。ですが、大切なのは飢えと寒さを凌ぐ事。ああ、ついでに清潔にしましょうか」

 

 そんな俺達の前に現れて、こっちが拒絶しても世話を焼き、最後には町長の不正を暴いて孤児院に入れる様にしてくれた。いや、それだけじゃない。その後も気に掛けてくれて世話になった。だから恩を返したい。野良犬でなく、人として生きて大勢を助ける、俺達に出来る事なんて片手間で可能なあの人への恩返しはそれが一番だ。

 

 

「恩に報いる為の自己犠牲は自己満足でしかねぇ。見ていてくれ、賢者様。この街で生き続けて、ずっと街を守り続けるからよ」

 

 街の灯りを眺めながら一人呟いた……。

 

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