初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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勇者は思う、会いたいと

「……来たか。やれやれ、人間社会ってのは本当に不便だ。食事は中々だけど」

 

 ヤクゼン最高の値段と味を誇る(らしい)ラワウシャに予約を入れて入店した私達だけど、居ない筈の三人目が既に待っていたわ。見覚えが有るけど会った事の無いお姉さん。緑のドレスで着飾った緑の髪のお姉さん。髪型は羊みたいにモコモコで、羊の角の髪飾り。……もしかして!

 

「ダヴィル様っ!? ええっ!? だってダヴィル様って私みたいな子供………」

 

 この匂いも声も見た目の特徴も絶対に間違い無いわ。目の前のお姉さんは牧羊神のダヴィル様。でも、前会った時は子供だったわよね? 私のそんな疑問に対してダヴィル様は呆れた様な視線を向けて来たわ。私じゃなくって賢者様にだから何かやらかしたみたいね。

 

「……君、ちゃんと神について教えてないのか? まったく、何をやっているんだか。どうせシルヴィア様とイチャイチャしてばっかりなんだろう? その疑問の答えだけどね、ゲルダ。神は好きな年齢に体を変質出来るんだ。好みや過ごしやすい年齢はバラバラだけどね」

 

 

 ダヴィル様は大袈裟に溜め息を吐いたと思うと私には優しい笑顔を向けて来た。それにしても初めて聞いたわ。何度か神様を見たけど、確かに不老不死なのに見た目の年齢がバラバラだもの。でも、普段は子供の姿のダヴィル様がどうして大人の姿なのかしら?

 

「この姿? ……子供の姿で先に行ったら大人と一緒に来いって言われてね。不便だよ、六色世界ってさ。ちょっとソリュロ様から伝言を預かっていて来たついでに役得で食事でもと思った訳だ。神の力で少しズルして予約に滑り込ませて貰ったけど別に良いかい?」

 

「え? だったら子供の姿でも入れる様にしたら良かったのでは?」

 

「……席に着こうか」

 

 賢者様の呟きに目を逸らすダヴィル様。……所で預けている羊達とゲルドバは元気かしら? 魔法で呼び出してはいるけれど、ダヴィル様が世話をしてくれているとは言っても大切な子達だから心配よ。だけど聞くのは失礼よね。だって羊飼いの私にとってダヴィル様はどの神様よりも信仰している相手だもの。

 

 

「ああ、重要な事を言うのを忘れていた。君の羊も牧羊犬も元気だよ。君がちゃんと世話をしていたからね。良い魔法も得たらしい。絆が深くないと上手く発動しないタイプの魔法だ」

 

 相変わらず頭を撫でられるわね、私って。まあ、悪い気はしないのだけれど。賢者様もだけど、神様に撫でられるのって心地良いわ。……うん。もっと頑張ろうって気になったわね。

 

 

 

 皿とナイフが当たってカチャリと音が鳴る。ナンチャラのエルフ風ムニエルの何とかソースだって紹介された魚料理だけど、匂いも見た目も初めての物だしテーブルマナーなんて習っていないから困惑しちゃう。ドレスを着て着飾った時はお姫様みたいって思ったけれど、田舎の羊飼いで良かったわ。食事の度にこれじゃあ息が詰まるもの。

 

「ゲルダさん、今後はかしこまった場での食事の勉強もしましょうか。鬱陶しい話ですが、上流階級との食事会の可能性も有りますので」

 

「ああ、君が何度も逃げ出そうとした練習か。所でゲルダ、次は羊肉の料理だそうだが嫌なら貰っても構わないぞ」

 

「いえ、大丈夫です。……あの、所で伝言って?」

 

 別に羊のお肉は嫌いじゃないわ。私の所の子達は数が少ないし羊毛が欲しいから飼っているけれど、食肉用に育てている人から分けて貰っているもの。でも、ダヴィル様って食い意地が張っているのね。そんな風に言って二人分食べようとするだなんて。この旅で何度も神様に会って、その度に驚かされる。私より信仰心が強い人が知ったら卒倒しそうな事実を再確認する中、ムニエルの最後の一切れを口に運んだダヴィル様はナプキンで口元を拭ってから真剣な顔で話を始めた。

 

 

「そろそろ勇者としての儀式を進める事が出来る頃合いだ。明日にでも前回の聖都だったチキポクに向かえとソリュロ様が言っていた」

 

「おや、随分と早い。今までは三個目の世界に行ってからでしたよね?」

 

「今回の魔族は先代の馬鹿のやらかしで余計な知識を持っている。それを警戒したのと……ゲルダが優秀だからだ」

 

 二人が話を進めている勇者としての儀式だけど、勇者なら必ず最初の世界で受ける物だったわ。でも、実は秘密になっている事が一つ。儀式によって与えられた試練を最後まで突破したのは初代勇者の賢者様と四代目の私だけ。二代目と三代目は途中で失敗したから私には期待していると誉めて貰えたのは嬉しかった。

 

 だって勇者の冒険を描いた物語が好きで、勇者に恋をするお姫様よりも勇者に憧れを抱いたのだもの。だからこそ今回の話には驚きを隠せない。確かに歴代の勇者は何度も儀式を受けて力を増したけど、何個か世界を挟んでの事だったわ。なのに私が優秀だって言われて嬉しいけど関連性が分からないのだけど。……何か聞かない方が良い気もするわね。勇者としてでなく、勇者の伝説に心躍らせた身として。

 

「えっと、私に早急な強化が必要なのかしら、賢者様?」

 

「まあ、今までの相手が下級魔族だったり世界と相性が悪かったりしましたが、流石に次からは本腰を入れて来るでしょう。何時までも弱い順に襲って来る方が変ですしね」

 

 ……それもそうなのだわ。子供の私にだって相手に強さに合った強さの人を順番に送り込むのは下策だって分かるもの。……逆に今までが変だったのよ。あの裏切り者を抹殺しに来たって言っていたチューヌ・ザンドマンは砂使いだったけど、砂漠の世界に氷の力を使う魔族を派遣するなんて……。

 

 戦った相手でも、いえ、戦った相手だからこそ使い捨てにするみたいなやり方に腹が立つわ。そして最初に戦ったルルが言っていたけど魔族は人間を襲う事を当然だと考えているし、同族でさえそうなら人間に対してどんな事をするのか考えたくもない。魔王は絶対に倒して封印しなくちゃ駄目ね。だって私は勇者だもの。それが私の使命なのよ。

 

 

「まあ、実際は落第点を取ったから補習をするみたいな物だったのですけどね。その上、多分失敗するだろうから力を付けるのを待っていたのが世界を挟んだ理由です。外聞が悪いから捏造しただけで、私は受けていないんですよ。まあ、勇者の力が上乗せされますし、損にはなりませんし受けたらどうですか?」

 

「賢者様、だから夢見る少女の憧れを汚すのは止めて欲しいのだわ」

 

「この子、随分と逞しくなったな。……ああ、伝言が残り二つ。イシュリアの馬鹿様、じゃなくてイシュリア様が神の持ち物を人間の所に忘れてくるなんて馬鹿をやらかしたからね。シルヴィア様が三日三晩正座させて説教させる事になったから」

 

「……え? 三日もシルヴィアが戻って来ないのですか? じゃあ、私達も一旦休んで……駄目?」

 

「駄目に決まっているわよ、賢者様! ダヴィル様、ちゃんと明日には向かうから安心して下さい」

 

 賢者様、本当に女神様が関わるとポンコツになるんだから。私は少し不機嫌になって賢者様を叱る。十歳の子供に叱られる三百歳って情けないわ。普段は頼れるのに……。

 

「ゲルダ、君がちゃんとしてくれて助かるよ。彼はシルヴィア様が関わったら途端にポンコツになるんだ。勇者時代はもう少しマシだったんだけどさ……。すっかり神に染まったせいでオークションで馬鹿騒ぎする連中と同類だ」

 

「シルヴィアと関われるなら私は幾らでも情けなくなりますよ。それが愛という物では?」

 

 ダヴィル様に結構な事を言われているのに賢者様に気にした様子が無い。そのオークションで馬鹿騒ぎしたって神様について私は一切知らないし見た事も聞いた事も絶対に無いのだけれど、酷い事だとは何故か分かるわ。本当にどうしてかしら? うん、考える気が起きないわね。

 

「まあ、こんな人だけど役には立つから。それともう一つだけど……遺跡をどうにかしろと頼んだ筈だ、だって。まあ、頑張れば?」

 

 ダヴィル様は平然としているけれど、賢者様は明らかに顔色が変わる。でも、会った事が無い私でも賢者様の魔法の師匠のソリュロ様はちょっと怖いの。魔法を司る事もあって一部の魔法使いには信仰されるけど、殆どの人は畏れ遠ざける。死を司るスディハ様や疫病神のスズバ様よりも人々に恐れられる存在、決して逃れる事も防ぐ事も不可能な厄災である神罰を司る神こそがソリュロ様なのだから。

 

 楓さんから教えて貰ったイエロアに伝わる伝説について思い出すだけで少し震えが来る。この恐怖は人の本能だって賢者様から教えて貰ったわ。決して神様は人にとって都合の良いお助け係じゃないって心の奥底で認識しているらしい。

 

「……大丈夫だよ。あの方は人間が好きな神なんだ。だからこそ人が怖がらない為に滅多に人に関わらないんだ。キリュウの世話を何かと焼くのもそんな理由からだろうね。君の事も心配していたよ」

 

「えっと、じゃあ一度会ってみたいわ。ちょっと怖いけど、気にして貰っているならお礼が言いたいわ」

 

 多分、それが礼儀だと思う。怖いからって会いたくないって言うのは失礼だし、勇者の私なら会う口実は幾らでも作れるわ。人が好きなのに、人が好きだからこそ会えないだなんて寂しいわ。ダヴィル様も同じ事を考えていたのか私の言葉を聞いて嬉しそうだった。

 

「君は優しい子だね。じゃあ、魔法の指導を受けるって口実を作っておくよ。あの方は位が高いのに他の神の面倒も見る位に優しいんだ」

 

 魔法を使って呼び出している間は羊達と今まで以上に意志の疎通が出来たのだけど、あの子達を通してダヴィル様がどんな方か分かる。そんなダヴィル様が慕っているのだからソリュロ様もきっと凄く優しい方だと思えて、聞いた話だけで抱いていた恐怖が薄らぐのを私は感じていた。未だ少し怖いけど、何度も会ってお話しすれば、一緒にお茶を飲んでお菓子を食べる仲になれる気がするわね。

 

「まあ、キリュウの師匠だ。彼の師事を受けているなら君は孫弟子、きっと上手く行くさ」

 

「ええ! 会う日が楽しみだわ。ねぇ、賢者様!」

 

 ……あれ? 賢者様がさっきから黙っているわね。一体どうしたのかしら? ちょっと気になって見てみれば机に突っ伏して寝ている。グラスが倒れているけど、酔い潰れているの? でも、お酒に強かったと思うけど。

 

 

「……あー、うん。彼って本当は一口飲んだだけでこうなる位に弱いんだ。偶に忘れるけど、どうせ普段は魔法で全然酔わなくしているんだろうさ、この馬鹿は」

 

「そうですね。賢者様って偶に馬鹿になるわ。でも、それで良いと思うの」

 

 また呆れ顔のダヴィル様だけど、だからと言って賢者様を嫌った様子は無いみたい。好きな人の事となると見境が無くなって、先生が怖くって、お酒に酔って寝てしまう。うん、そんな人だからこそ私も気を張らないで一緒に旅が出来るわ。だって憧れる存在と会ってみたいのと一緒に過ごしたいのは別だもの。

 

「私、賢者様のそんな所が好きですよ。男の人としてではないですけど」

 

「うん、それで良いさ。君は君の恋を見付ければ良い。売名に利用する気で近付く奴は懲らしめてやるから本当の愛を見付けるんだ」

 

「……はい」

 

 ちょっとだけ恥ずかしいと思ったけれど、ダヴィル様の言葉は心に染みる。私の恋かぁ。素敵な人と巡り会えたら嬉しいわ。だから神様に祈りましょう。

 

 

 

 

「……あっ、愛を司る神様ってイシュリア様だったわ」

 

 賢者様に無駄なアプローチをして妹と喧嘩して、会ったばかりの男の人の所に下着を忘れる普段から下着みたいな姿で過ごしているらしい方。ちょっと祈らない方が良いかも知れないわね。悪影響が有りそうだわ。

 

「……大丈夫。恋を司る神は別だから」

 

 そうやってフォローするって事はダヴィル様もイシュリア様への印象は同じなのね。……さて、気持ちを切り替えましょう。チキポクだったかしら? 勇者に課せられる試練は時代によって違うけど、私にはどんな試練が課せられるのかしらね。それに、折角旅をしているのだから色々な町に行って大勢の人と出会いたいわ。

 

 それに、顔も名前も知ってるから背負う事が出来るのだもの。賢者様だって人間らしいし、知らない人を守る為に危険を冒す事に悩んでも良い筈だわ。でも、迷いたくはない。だから大勢と知り合いたいの。嫌な出会い、辛い別れも沢山有ると思うけど、私の成長に繋がるだろうから。

 

「明日が楽しみね」

 

「じゃあ、彼はこっちで宿まで運ぶとして……メインとデザートは分け合おうか」

 

 少し悪戯をする時みたいに笑う私とダヴィル様。明日への期待で胸が膨らむ様だった。……だけど予想もしなかったわ。まさかチキポクで意外な再会が有るだなんて。うん、予想しろって方が無茶だわ……。

 

 

 

 

 

 

「あわわわっ!? お、落ちるー!」

 

「おっと、注意しろって言ったろ、先生!」

 

 諦めていたナスの涙を入手して、方法を検討中だったタンドゥール最深部へと向かう道中、順風満帆に思えた旅路は困難に見舞われていた。ロックバードは大型の鳥モンスターだけあって荒れ狂う砂嵐の中も平気で突っ切る……のですが、時折旋回して風に乗る上に、背中の私達は真正面から砂嵐を浴びる事になる。正直言って目も開けられない状況な上に口を開ければ中が砂だらけになってしまった。

 

「おい、そろそろ抜けるぜ!」

 

 ナスの涙の提供者でありロックバードの飼い主であるジェフリーさん

の声が砂嵐の音に混じって耳に届き、途端に砂が顔に当たらなくなる。帽子は既に飛ばされて髪や耳に砂が入って気持ちが悪いな。ジェフリーさんはよく平気だよ。……本当に何者だろうか。

 

 だが、複雑で罠だらけの地下洞窟を通らなくても遺跡に近付けたのは助かった。キングビートルや飛行魔法ではあの砂嵐は突破不可能だからな。かと言って洞窟には危険なモンスターが多い。本当に此処まで来れたのは神の祝福が有ったとさえ思えるよ。

 

 だが、一難去ってまた一難。誰も突破出来ない砂嵐だったからこそ外からでは分からなかったが、砂嵐を抜けたかと思うと遠くに更に激しい砂嵐が見える上に間の空間も普通じゃない。何かが高速で飛行している。一体何だと思ったが、その正体は兎も角、どんな物かは直ぐに分かる。凄く危険な物だ。

 

「ちぃ! 遺跡の防衛システムって奴か。空からなら楽だと思ったのが間違いだったぜ!」

 

 ジェフリーさんは毒づきながら目を見開き鞭を振るう。私達に向かって一斉に襲い掛かる何かは鞭に弾かれ軌道を変えたかと思ったが、直ぐに反転して戻って来る。わっ!? 今、掠めたぞっ!? 鋭さを持っていた何かが掠った事で服が切れ、懐から懐中時計が落ちていく。あれは尊敬していた祖父から貰った大切な物だ。思わず手を伸ばすも指先を掠めて懐中時計は落ちて行った。

 

 

「……大切な物だったか? それよりも漸く正体が分かったぜ」

 

 ジェフリーさんが右手に掴んだのはフォーク位の長さと太さの石の槍。掴む手から逃れる為に暴れるが掴む力が強いのか抜け出せない。しかし、こんな物が沢山飛んでいるだなんて……うん?

 

「なあ、先生。これをどうにかする方法って知らないかい?」

 

「……昔、古文書で似た物に関する記述が。確か、”その者達、空を支配しその身を突き立てるまで止まらぬ”、だったかと」

 

「……要するに何かに刺されば止まるって事だ。だったらっ!」

 

 ジェフリーさんは鞭に着替えの服を結んで幾つもの団子状にすると立ち上がって伏せている様に叫ぶ。そして私が伏せた瞬間、鞭をロックバードの周囲を囲む様に激しく振り回した。次々に服に突き刺さり動きを止める石の槍。

 

「突っ込むぞー! 絶対に手を離すなー!」

 

 伏せたままの私の耳にその叫びが聞こえ、次の瞬間には全身に激しく砂が叩き付けられる。もう砂嵐の音しか聞こえず目も開けられない私に出来るのは落ちない様に耐えるだけ。だから気が付かなかった。砂嵐の中に潜む巨大な怪物の存在に……。

 

 




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