初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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女神の試練

 ちょっと前、と言っても人の子にとってはかなりの昔はモンスターに対抗する術を持ってる人は少なかった。魔法を使える奴も素手で対抗出来る奴も珍しく、鍛冶だって稚拙な上に鍛冶職人の数も少ないから武器が行き渡らない。

 

 自分が何とかしなきゃ、そんな風に思ったけれど周りはそれを受け入れてはくれなかった。

 

「人の子は私達が守れば良い。発展は本人達に任せてあまり手を出すな」

 

 五月蝿い、助けが足りていないんだ。そんな事を言うなら四六時中助け続けろ。

 

「急に鍛冶の技術が広まれば安全圏を手に入れても今度は人同士で戦うのではないか? 人の営みの範疇故に手は出せんぞ?」

 

 黙れ、今はモンスターと戦う力が必要なんだ。それを与えられるのなら与えて何が悪い。

 

 

「……そうか、覚悟は決まっているんだね。じゃあ、許可しよう。でも、神の力は一切使ったら駄目だ。鍛冶仕事の女神としてでなく、鍛冶職人として広めるんだ」

 

「分かってるっすよ、ミリアス様。じゃあ、暫く失礼させて貰うっすね」

 

 こうして地上に降りて苦労を重ね、今もクリアスには戻っていない。快く送り出してくれた同じ鍛冶神には悪いけれど、神としてではなく鍛冶職人として過ごす日々は本当に幸せだった。心の底から生きていると実感出来る位に……。

 

 

 

 

 

「うっひゃ~、これを壊したんっすか? これ、それなりの出来映えっすよ。まあ、私が打った武器には遥かに劣るっすけれど」

 

「それは当然ですよ。鍛冶神が人に劣ってどうするんですか。……まあ、私が既に人間かどうかは置いておきましょう

それより着替えて良いですか? 良いですね? 着替えますからね」

 

「却下っすよ。これを新しく作り直すまで私の前ではその服で萌えさせて貰うっす。……それと君は人間だから。少なくてもシルヴィアと私はそう思うっすよ?」

 

(流石は鍛冶神だわ。よく分からないけれど、賢者様の服装で熱意を持って仕事に励んでくれるのね!)

 

 会話は少し分からない内容だったけれど不真面目そうに笑いながらも、手にしたデュアルセイバーに向けるディロル様の眼差しは真剣で、女神様が私に戦いを教えてくれる時の瞳と似ていたわ。それにしても燃えさせて貰うって、凄いやる気なのね。

 

(……この子、どうして私をキラキラした目で見てるんっすかね? 陰キャラには純粋な子供の瞳とかキッツイ……子供なんすよねぇ)

 

「ディロル様?」

 

「ん? ああ、悪かったっすね」

 

 感心しながら見詰めていた私の頭にディロル様の手が優しく乗せられる。急な事だったので驚いた私だけれど、ディロル様も無意識にやっていたのか驚いた様子で手を離したわ。頭に乗せられたのは私以上にゴツゴツした分厚い手の皮の感触、職人の手だった。

 

「さて、三代目の時から武器の手直しと強化を引き受けている私っすけれど、無条件って訳には行かないんっすよ。功績の大小には勇者がどれだけ自分の力で乗り越えたかったってのが重要っすからね」

 

「え? 三代目の時からって、賢者様や二代目の時は何もしなかったのですか?」

 

「まあ、勇者用の剣が経年劣化でボロボロになったのは二代目の時だし、その時は慌ててキリュウっちが魔法で応急処置……あっ、これって秘密事項だったっす。……私も馬鹿っすねぇ。これじゃあイシュリアっすよ」

 

 今までの勇者って渡されたアイテムから専用武器を創造するって賢者様から聞いていたけれど、どうやら何か秘密が有ったらしい。

 

「えっと、賢者様? どういう事かしら?」

 

「……私が勇者時代に魔法で無理矢理強化していた無茶が祟ってですね、二代目が最後の世界に辿り着いた頃に壊れてしまいまして。……ギリギリ魔王討伐には間に合いました」

 

「あっはっはっはっはっはっ! 流石に強化されまくりの武器を与えちゃ功績稼ぎに響くからって専用武器を創造するって事にしたんっすよ。同時に成長して強くなる武器なら与えてもセーフっす。……ずっと六色世界に居て百年に一度だけ神の力を振るう私が作り直すってのもね」

 

 ディロル様は不適に笑うと地図を取り出す。指で示す場所は水源となる川の水が集まる大瀑布、私がティアさんに連れて行って貰った場所ね。

 

「但しっ! 神の力を使った武器を試練も無しに与えるのは勇者相手でも……いや、勇者だからこそ許されないっ! キリュウっちとシルヴィアの力を借りずに大瀑布の滝壺に住む水竜の鱗を手に入れて来るっすっ!」

 

 私に向かってビシッと指を突きつけ宣言するディロル様。神様が人に力を貸すさいに何か条件を与えるのは物語でも珍しくない事なので不満は無い。でも、滝壺の水竜の鱗なら……。

 

「あっ、それならティアさんとの散歩の時に貰えたわ」

 

「言っておくけれど水竜は気紛れな存在、気分が乗らなければ戦って奪い取るしかない、って持ってるんっすかぁっ!? いやいや、新しい勇者の誕生を聞いてから考えていた試練が台無しっすよっ! おのれ、あの水竜。私が頼んでも知らない振りだった癖に。力尽くとかはイメージに関わるから出来なかったし……」

 

腕を組んで不敵に笑った次の瞬間に驚愕の表情に変わり、最後は恨みがましい表情で悔しそうに拳を振るわせる。

 

「賢者様、ディロル様って忙しい人ね」

 

「ドワーフの鍛冶屋の親方ですからね。各世界から注文が殺到していますし、大変ですよ」

 

「いや、そうじゃなくって……」

 

「……まあ、良いっす。運も実力の内って事で引き受けるっすよ。三重丸あげちゃうっす」

 

 賢者様は花丸でディロル様は三重丸、個人によって違いがあるし神様の中でお決まりの誉め方じゃなかったらしい。それでも誉めて貰えるのには変わりがないから誇らしいわ。一番誇らしかったのは牧羊神ダヴィル様に羊を誉めて貰った時だけれど。

 

「私って勇者よりも羊飼いの方に比重を置いているのね」

 

「別に構わんだろう。誰がお前をどれほど勇者として賞賛しても、お前が子供で羊飼いである事は不変だ。気にする事など無い」

 

 今度は女神様の手が私の頭に乗せられる。力強くて少し失礼だけれどお父さんに撫でられているみたいな感覚だった。

 

「それでディロル様、デュアルセイバーの打ち直しにはどの位必要なのですか?」

 

「別に大して掛からないから安心して欲しい……って言いたい所なんっすけどねぇ。いや、本当に作業自体はさっさと済むんっすけれど、封印している力の解放に供物が必要なんっすよ。それを集めるのも試練の内って事で頼むっす」

 

 偶に息抜きや休憩をするのは良いけれど、武器も無しに何日間も暇を持て余すのは困る。だけれど話は簡単には行かないらしい。ディロル様も途中から少し言いにくそうにしながら地図に文字を書き込んで渡して来た。

 

「えっと、バーサーカウ・リーダーの金尾(きんお)、ネコガオダケ、城竜酒(じょうりゅうしゅ)……この三つを集めれば良いんですね?」

 

「モチのロンっす。注意事項はメモに書いて渡すから頑張るっすよ~。……あっ、そうそう。流石に武器無しはキツいっすから私の打った武器を貸してあげるっす。黒近(クロチカ》と|白遠(ハクエン)、特殊な力は無いけれど切れ味と頑丈さは保証するっす」

 

 ディロル様はそう言いながら壁に飾ってある二振りの剣を手渡して来た。それぞれ黒と白のシミターで長さも重さもデュアルセイバーと同じ位で扱いやすそう。

 

「これなら少し練習すれば実戦でも使えそうだわ。凄いですね、ディロル様。こんなにピッタリの武器を見定められるだなんて」

 

 壁に飾られている武器はこの二つだけでない。剣だけで十を越える数の中、迷わず私にピッタリの武器を選べるだなんて尊敬してしまったわ。でも、そんな尊敬の眼差しを向けられたディロル様は居心地が悪そうだったけど何故かしら?

 

「……あー、うん。私ってほら、鍛冶神っすし、使う相手を見れば最適な武器のサイズとか分かるっす。お願いだからキラキラした純粋な瞳を向けるのは勘弁して。眩しいから」

 

 この方もよく分からない事を言うのね。賢者様もだけれど神様達の考える事は理解に苦しむわね。

 

「まあ、理解したら終わりな来もするけれど……。じゃあ、行ってくるわねっ!」

 

 地図とメモをお腹のポケットに入れた私は部屋を飛び出す。一刻も早くディロル様のお力でデュアルセイバーを打ち直して貰わないと困るわ。

 

「うふふふ、どんな風に生まれ変わるのかしら? とっても楽しみだわ」

 

 試練を乗り越えられないという不安は無かった。だって私は賢者様や女神様に強さを保証されているもの。それに、この程度の試練を乗り越えられない様では世界は救えない。私は過信ではなく確信から一切の不安を感じなかった。

 

 

 

「……良い子っすね。コミュ障の私にはちょっと苦手なタイプっすよ」

 

 私が出て行った後の事、私が消えた方向を見ながらディロル様は呟いていた。少し話しただけで随分と疲れた様子で眼帯を外すと手拭いで滲んだ汗を拭う。

 

「あれ? 鍛冶仕事の際に指示を飛ばしたりしていますよね?」

 

「あれは如何にも神様って演技した上だし、飲み会の時も隅でチビチビやってるだけっす。私なんて精々がお洒落で眼帯着けるのが精一杯」

 

「ああ、その透けて見える眼帯ですね」

 

「うっさいっすねぇ。そんな事より斧の代金、今月のローンの支払いが未だっすよ。折角来たんだから払うっす」

 

「……あの斧は世界を救う為の旅で使っています。ならば旅の資金から払っても構いませんよね? この旅に出てから小遣い稼ぎにする神からの依頼がこなせてなくって」

 

「キリュウっちもワルっすね~。……色付けるなら黙っておくっす」

 

「ふふふ、ディロル様の悪党っぷりには敵わないですよ」

 

 こうして私の知らない所で汚い大人の取引が済んで二人は握手を交わす。多分私が居る時はしないのだろうけれど、この場に居なくて良かったわ。この会話を聞いていたら絶対大人になるのが嫌になっていたもの……。

 

 

 

 

 

「……えっと、あれがネコガオダケで間違い無いわよね?」

 

 一番先に向かったのはコモクマウンテンの麓、私達が昇ったルートとは反対側に存在するキノコだらけの森の中だった。私より巨大なキノコがそこら辺に生えていて、彼方此方にモンスターの死骸に寄生した不気味な色のキノコが見える。そんな中、木の陰に隠れながら視線を送る先には巨大な猫の顔があったわ。

 

「ニャー」

 

 非常に可愛らしい……とはとても思えない重低音で鳴きながらゴロゴロと喉を鳴らす様な音を立てる猫の顔。因みに首から下は存在しない。その代わり、首の付け根がある辺りに虫特有の長細い脚が生えていた。

 

『『オオネコガオ』猫の顔の姿をした巨大な虫。猫の鳴き声に似た声で鳴き、髭で空気の流れを察知して獲物を探す肉食虫。視力は低く、額に生えたネコガオダケは絶品』

 

「髭で空気の流れを……?」

 

 賢者様が急遽用意してくれた首飾りでモンスターの情報が入って来る。その内容を理解した時、既にオオネコガオが私に向かって走り出していた。脚をワシャワシャ動かして足下のキノコを踏みつけ大口を開ける。口の中は猫と違って舌は無く、ビッシリとヤスリの様な細かい歯が生えている。

 

「多分アレで擦り潰すのね。……見た目は少し可愛かったのに残念だわ」

 

「ニャー」

 

 全く動かない私に対して興奮した様子のオオネコガオは目を血走らせて向かい、手を伸ばせば口の中に入る程の至近距離で丸呑みにしようと覆い被さって倒れ込む。口をモゴモゴと動かして獲物を食べようとするも肉片一つ存在しない事に違和感があったのか起き上がり、両側の髭が風に舞って散る。

 

「ふぅ。先ずは一個目ゲットね」

 

「ニャー?」

 

 真上から響いた声にオオネコガオは上を向き、振り下ろした二つの刃が三枚に下ろす。食いつかれる寸前にオオネコガオのすれすれを飛び上がって避けた私は同時に髭を切り落としていたの。そして落下と共に黒近と白遠で切り裂いたオオネコガオの額からネコガオダケをもぎ取る。緑色の少し不気味なキノコだけれど、とても良い香りがした。

 

「……美味しそうね。スープにするか、火で炙るか……」

 

 キノコから目を離せば私に気が付いたのかそこら中から顔を覗かせるオオネコガオの姿。当然額にはネコガオダケが生えている。少しお腹が減った気がした。

 

「良いわ、武器の慣らしを手伝ってちょうだい。……それにしても切れる刃って良いわね。デュアルセイバーは何故か鈍器だもの」

 

 そもそも鋏の形な時点でおかしいと思いつつ剣を構える。運動後はキノコ祭りになりそうね。

 

 

 

「……ちょっと取り過ぎたわね」

 

「ワフゥ……」

 

「ま、まあ、余った分はお裾分けしたら良いだけだし、今は次の目的に集中しましょう」

 

 キノコの森から少し離れた草原地帯、パチパチと火の粉が弾ける焚き火の側で私はネコガオダケを炙りながら反省する。試しに一つ軽く焼いてみれば美味しくて、気が付けば夕方までオオネコガオを探した結果がキノコの山。呆れかえった犬の鳴き声が聞こえる中、姿勢を低くして急勾配になった坂の下をのぞき込めば牛の群が草をムシャムシャと食べていた。

 

「……飼い慣らされて肥えた乳牛にしか見えない牛だけれど」

 

『『バーサーカウ』普段は大人しい夜行性の牛。普段は鈍くて大人しいが簡単に怒りだし、その怒りは群れ全体に伝播する。怒った場合、凶暴かつ強力になるので要注意。怒った状態の群れの長の尻尾は金色に光り、生きたまま切り落とせば光を保ち極上の味わい』

 

「私、酒の肴を集めさせられているんじゃ……」

 

 ディロル様の神の力を一時的に復活させる供物と聞かされたけれど少し疑いを持ってしまう。でも、デュアルセイバーを手にした時の真剣な顔を思い出せば疑念は小さくなる。

 

「まあ、集めてから考えれば良い事ね。……皆、作戦は分かっているわね?」

 

「……メ? メ、メー!」

 

 既に羊の宴(シープバンケット)で召喚している私の可愛い羊達は草を食べるのに夢中だったのか慌てて返事をする。牧羊犬のゲルドバは眠そうにしながらもキノコを食べているし。

 

「じゃあ、バーサーカウ・リーダーを何とか見抜きたいけれど……どれかしら?」

 

 怒り出せば見た目で分かるらしいけれど今は統率も無くバラバラに散らばっている状態。だから作戦を考えた。

 

「皆、囮をお願いね。周囲から挑発してターゲットを分散させて、分断したリーダーの相手は私がするから。」

 

「メー」

 

「ワン!」

 

 今度はちゃんと私の言葉を聞いてくれて返事をしてくれるゲルドバと羊達。ゲルドバなんてネコガオダケを口に咥えたまま鳴いたから口から落ちて転がって、追い掛けるゲルドバは坂道から転がる寸前でキャッチ。少し大きくて丸い石が前足にぶつかって坂を転がっていった。

 

「……あっ」

 

 坂の途中にある石に転がった石がぶつかり更に転がる。連鎖は続いて転がる石は増え続け、坂道の寸前で草を食べていた一匹の頭にぶつかった。

 

「……モー?」

 

 呑気な鳴き声で此方を見るバーサーカウと私達の視線が交わる。小首を傾げ、何が起きたのか理解していない姿は愛嬌さ感じて可愛い位。

 

「なんだ、別に短気じゃないわね。ビックリ……」

 

「モォオオオオオオオオッ!」

 

 安心してホッと胸を撫で下ろす。その矢先に激怒した鳴き声が響き渡った。

 

「矢っ張り短気だわっ!?」

 

 瞬く間にバーサーカウに起きる変化。白黒の体は黒一色に染まり、弛んだ肉体は逞しく膨れ上がり、全身に血管を思わせる赤い模様が浮き上がったわ。角も前に向かって伸びて体長の半分程の長さになり、私達の方を向いて鼻息荒く前脚で地面を掻いている。それも目の前の群れ全体がだった。

 

「作戦変更……後ろに向かって全力前進からの散開っ!」

 

「メー」

 

「メー」

 

「……メー!」

 

 最後の一匹が鼻先で軽くゲルドバを小突いて走り出す。私も賺さず走り出す中、土煙を上げながらバーサーカウが突進して来た。

 

「モォオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「モー! ゲルドバの馬鹿ぁあああっ!」

 

 初めての逃亡戦、私は少し自棄になって叫びながらもその輝きを目にする。怒りのままに互いを押し退けてでも疾走する群の中、金色に輝く尻尾を持つバーサーカウが居た。

 

「あれがバーサーカウ・リーダーね。……どうやって尻尾を切り落とそうかしら?」

 

 

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