初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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武人の矜持 三度目の決戦

 それは突然の事だったわ。遠く離れたこの場所からでも見える位に巨大な炎の虎と水の竜の激突。互いに食らい合う姿は絵本で読んだ大魔術師同士の対決を思わせ、思わず見惚れそうになったの。でも、そんな場合じゃないわ。だって二匹が出現したのはビャックォの集落の方向、そんな戦いが始まったって事は緊急事態って事だもの。

 

「ティアさんは大丈夫かしら……」 

 

 心配する私が呟く中、勝負は一瞬で着いたわ。虎と竜は喰らい付き合い、虎が一瞬で凍り付いて砕け散る。竜は少し小さくなったけれども突き進み、虎が出た方向から吹き荒れた暴風で吹き飛んだ。一体何が起きたのか理解が追い付かないで混乱した私が教えて貰おうと賢者様達の方を見れば既に賢者様が居なくなっていたわ。

 

「行ったの?」

 

「ああ、血相を変えてな。まったく、親馬鹿め。気持ちは分かるがな。私だって今直ぐ行きたいさ」

 

 使命に支障が出るからって使用を控えている超長距離転移だけれど、自分の子供が危ないのだもの、使わなくちゃ駄目よ。確かに世界を救う事は大切だけれど、賢者様も私も世界を救う為だけに存在する道具じゃないもの。まあ、これで大丈夫ね。後は呼ばれるのを待つだけだけれど、そんなに掛からないでしょう。

 

「では、私達はやるべき事を終わらせるぞ。……お前は向こうを見ていろ」

 

 私達がすべき事、それはグリン達の死体の入手。出来るだけ綺麗な状態で手に入れて、魔法による読み取りで魔族との関わりが証明出来れば戦争に介入出来る。……あれ?

 

「ティアさんを助けに行くのは構わないのかしら? まあ、使命の為に子供のピンチに駆け付けないのなら幻滅だけれど」

 

「その辺はまあ、何か屁理屈捏ねて誤魔化すのだろう。じゃあ、捌くから向こうを……」

 

 賢者様が倒した後で放置されているネフィリムハンドに向かって斧を振り上げながら女神様は私に指示をする。腹を捌いて取り出した死体はきっと悲惨な物になっているからでしょうね。でも、私は顔を横に振ったわ。きっと今後の旅で悲惨な光景に遭遇するし、知らない所で今も繰り広げられているのに目を逸らしてばかりはいられないもの。

 

「……そうか。なら、吐くのは覚悟しておけ!」

 

 振り下ろされた斧は分厚い川を切り裂き、切り口から手を伸ばして引きずり出した胃の内容物が流れ出る。異臭と一緒にグチャグチャになって溶け始めている数人の肉体を見た私は胃の奥から中身が逆流するのを感じたの。

 

「う、おうぇええええええ……」

 

 ビチャビチャと胃液と胃の内容物が地面にぶちまけられ口の中に酸っぱい味が広がって涙が出て来る。吐いても吐いても次々に流れ出し、漸く吐き気が収まった頃には涙が滲んでいたわ。思った以上にグロテスクな光景ね。正直言って甘く見ていたわ。

 

「大丈夫……ではないか。その辺で座って休んでいろ。私は死体を並べておく」

 

「……はい」

 

「まあ、あれだ。覚悟一つ決めても無理な物は無理だし、それで良い。勇者なら平気になれ等と言う愚か者は私が殺し……はやり過ぎなので半殺しにしてやろう」

 

「半殺しも十分やり過ぎだと思うわ。……あっ、そう言えばディロル様が神の力を解放する儀式ってどんなのかしら?」

 

 急ぐからって指定された物だけ渡したのだけれども、牛の尻尾とキノコとお酒……酒盛りしか思い浮かばないわ。炙った尻尾とキノコを肴にお酒を飲んで酔い潰れる姿しか想像出来ない。いや、流石にそれはないと思いたいけれど、そうやって期待したのを裏切るのが神様だもの。

 

 ちょっと前までの私なら壮大で神聖な儀式を想像したのでしょうね。供物を供えた祭壇の前でディロル様が幻想的に踊るとか。今じゃ絶対そんな発想は出来ないわ。

 

「供物を祭壇に飾った後、キノコ入りのテールスープで酒を飲むぞ」

 

「あっ、矢っ張りなのね」

 

 ちょっと違ったけれど、私の冒険は神様がお酒を楽しむ為の物だったわ。うん、分かっていたけれど力が抜けるわね。世界を救う為の武器を手に入れる為に酒と肴を集めただなんて。……よし、忘れましょう。……大人だったら大酒かっくらってみっともなく爆睡するのにね。

 

「大丈夫だ。神の力を取り戻せば酒が入っていても仕事の腕は鈍らん」

 

「それは心配していないけれど……」

 

 確かにお酒が好きで変に格好を付けたがる上に賢者様に変わった服装をさせて喜ぶ変な方だけれど、職人としての誇りは疑わない。それはそうとして今の武器じゃ強い敵相手じゃ少し心配になって来た。ディロル様からお借りした無銘の双剣。でも、私の本来の武器とは少し扱いが違うし、何よりも切れる剣って所が大違いね。凄く矛盾する事だけれど。だって剣って普通は切れるもの。

 

「済みません、戻りました。戦争が始まりましたが、スカシカシパンやカバ達が止めてくれたらしく安心ですね」

 

「賢者様、会話はキャッチボールよ?」

 

「おっと、失礼。スカシカシパンやカバ等ののキグルミを着た人達の活躍で戦争は止まったらしいです。……まあ、何故か先代勇者一行の一人が敵側に居ましたけれど」

 

「詳しく聞いたら余計に混乱しそうだけれど、多分アンノウン案件ね。……あのぉ、賢者様? 今、先代の仲間が敵にいるって言わなかったかしら?」

 

「言いましたよ?」

 

 あっ、この人本当にポンコツだわ。でも、何か様子が妙ね。まるで私に何かを隠しているみたい。どうも賢者様の様子に違和感を覚える私だけれど、多分質問しても誤魔化されるだけね。……気になるわ。

 

「それで、その人は一体……」

 

「ティアに少し怪我を負わせたのでボコボコに……って、こんな事を話している場合じゃ有りませんでした! 詳しい事は後で説明しますので急いでビャックォの集落まで行きましょう!」

 

 賢者様によって私の視界に広がる景色は一瞬で変わる。少し離れた場所には百人を越えるキグルミさん達が立っていて、その背後に集落関係無しに集められている人々が居たのだけれど気絶していたわ。そして空中に目を向ければアンノウンとティアさんも居る。怪我したって聞いたけれど、本当に軽い怪我で……あれ?

 

「ティアさん、何かあった?」

 

「……ちょっとだけ」

 

 少しだけティアさんの顔が寂しそうに見えた。本人は隠しているみたいだけれど、賢者様に感じた違和感と関係有るのかと思った私だけれど問いただしはしない。何か理由があって私に黙っているのでしょうし、今は優先すべき事が目の前にあるもの。地下深くへと続いているらしい階段、そして階段側には巨大な石版。クレタから私に当てたメッセージが刻まれていた。

 

「行方不明の子供の居場所を知りたかったら奥まで進んで私と戦え? ……そう、分かったわ」

 

「本当は大穴が広範囲に開いたのですが、私がボコボコにした相手を飲み込んだら急に穴が閉じましてね。代わりにこれが出現したのですが……その武器で大丈夫ですか?」

 

 そっと柄を握り締める。デュアルセイバーみたいに持つだけで動き方が頭に入って来る事も無く、少し頼りない。万全を期するならデュアルセイバーの修繕を待つのが得策なのでしょうね。

 

「ゲルちゃん……」

 

 突然頭に響く子供みたいな声。それが誰の仕業かは何となく分かったわ。きっとアンノウンよ。今までは筆談だったり鳴き声を聞けば何となく言いたい事が分かったけれど、こうやって話す事も出来たのね。いえ、それとも成長して可能になったのかしら? 私が成長するみたいにね。

 

「何も言わないで、アンノウン。確かに不安だけれど、頼りになる仲間が居るから私は大丈夫よ」

 

「でも……」

 

「大丈夫私は強くなったわ。それに貴方も頼りにしているのよ?」

 

 迷いなく階段に足を踏み出す。何故か落ちていた上に見えなくされていたバナナの皮を踏んでころんでしまった。

 

 

「だから止めたのに。……もー! ちゃんと人の話を聞かないからだからね! ちゃんと反省しなよ」

 

 地面にお尻を打ち付けた私の頭に必死に笑いを堪えている声が響く。あっ、凄く腹が立って来たわ。これ、アンノウンが使うと凄く鬱陶しい。

 

「いや、どうせアンノウンの悪戯でしょう? ……貴方もちゃんと反省するのよ?」

 

「ふっふっふ、甘いね、甘いよ、甘納豆! 僕は反省なんてした事が無いし、する予定も皆無さ!」

 

 得意そうに鼻を鳴らすアンノウン。今直ぐ殴りたいけれど、私はそっと顔を背けた。

 

「アンノウン、この様な時に何を遊んでいる? それに行き先も告げずに何日も行方を眩ませるとは随分な身分だな」

 

 アンノウンの頭を掴む音が聞こえる、女神様の低い声も聞こえる。でも、私は何も見ない。助けを求める声が頭に響く気がするけれど何も知らないわ。

 

「まあまあ、落ち着いて下さい、シルヴィア。アンノウンだって戦争を止める為に人手を集めてくれたのですし……」

 

「それは後で誉めるが、それとこれとは話が別だ。お前は黙っていろ」

 

「マ、マスター……」

 

「アンノウン、後で思いっきり誉めてあげますからね!」

 

 アンノウンの悲鳴が聞こえた気がするけれど気のせいだから私は先に進む。岩を操る敵と戦うのに敵が用意した地中への道を進むのは危険で馬鹿げていると思うわ。でも、浚われた子供の事や心配する家族の気持ちを考えたら黙っていられない。洞窟を崩して相手を埋めて倒すだなんて手は選べないわ。

 

「……いい加減貴方の相手は沢山よ、クレタ。一勝一敗、この戦いで決着ね」

 

 一度目は私の惨敗、戦いにすらなっていない。二度目は私の勝ち、但し相手は右腕が使えず私も本来の武器じゃない。三度目、こうやって勝負を申し込んで来るのだから相手はきっと万全で、私は貸し出された武器のまま。でも、それがどうかしたのって話よ。私は二度と負けない、だって負けないって決めたから。

 

「皆、行きましょう。さっさとグリエーンを救って次の世界に向かうわよ」

 

 そう、これからも旅は続く。一度勝った相手に時間なんて使っていられないわ。

 

 

 

 

「ええ!? 天仙ウェイロンが敵なのっ!? 一体どうして……」

 

「それが私に恨みを持っているらしくって。私からすれば一切心当たりが無いのですよ」

 

 城竜が住んでいた洞窟と違ってクレタが用意した道は暗くて空気が淀んでいたわ。だから賢者様が明かりを灯して空気を循環させて進むけれど、それが無かったら咳をしそうだし転んでいたわね。そんな風に進みながら話すのは西側の人達が攻めて来た後に起きた事。異世界とか未来のアンノウンとか胡散臭いし適当な事で誤魔化しているんじゃと思いつつ、唯一何とか理解可能なウェイロンの話題を進める。

 

「あの人って本でも経歴が不明なのよね。伝承には活躍したとかしか書かれていなくて、詳しい活躍の内容は不明な場合が多いのだけれど、ネクロマンサーだったのね」

 

「正確には似た系統の魔法なのですが、私も詳しくないのでその辺は無視しましょう。」

 

 ネクロマンサーは物語において悪役として描かれているわ。死体を操って死者の尊厳と遺族の心を踏みにじる外道下法の術士達ってね。勇者の仲間がそれだったのなら伝わっていなくても納得だわ。旅の途中なら兎も角、世界が救えた後では色々大変だったでしょうね。

 

「世界を救った後の保障に問題があったとか?」

 

「それが探さないで欲しいと手紙を残して失踪しましてね。生活の援助や保障もあったものじゃないのでしたよ」

 

「一応此奴は表社会は探したが見つからなくてな。本人の意思を尊重して捜索を打ち切ったのだ」

 

「大丈夫よ、女神様。私、賢者様を責めていないわ」

 

 例えどんな理由があったとしても私はウェイロンがした事を許さない。勇者の仲間だったとかは関係無しに叩きのめそうと考えていると階段の一番下まで到着したわ。目の前には短い通路があって、その奥にはドーム状の大部屋が存在している。壁や天井、床の至る所に大きな穴が口を開いていて何か引き摺る様な音が聞こえて来たわ。

 

「モンスター……門番かしら?」

 

 人質を取ったり戦いを申し込んでおきながら手下を配置するだなんて、誇り高い武人みたいなのだと思ってたのに。でも、相手も背負う物や守り抜きたい物があるなら話は変わるわ。矜持よりも大切な物は有るから。

 

「来たわね……」

 

 無数の穴から響く巨大が蠢く音、音の正体は直ぐに判明したわ。

 

「ヴンモォオオオオオ!!」

 

 天井の穴から顔を覗かせたのは人を丸飲みに出来る大きさの牛の頭、但し体は茶色の体毛に覆われた大蛇。荒い鼻息が少し離れている私の顔にも掛かる。生臭い口臭に不快感を覚える中、巨体が落ちて来た。

 

「わっと!」

 

 私がその場で後ろに飛べば巨体を空中でくねらせて一番近い床の穴に入り込む。またしても部屋中の穴から聞こえてくる音で今の場所が分からない。どうやら穴は中で繋がっているみたいね。

 

「賢者様、あのモンスターはご存知?」

 

「ガルズブルム、巨牛蛇(きょうしへび)とも呼ばれるパワー型のモンスターです。……魔族との戦いが控えていますし、私が相手しましょうか?」

 

「いえ、結構よ。準備運動には丁度良いわ」

 

 相手は私を消耗させる為に配置したモンスター、当然強いのでしょうね。だから私は賢者様の申し出を断る。数歩前に歩き、どの穴から飛び出しても襲い掛かれる位置に立てばガルズブルムの移動する音と振動が大きくなり、目の前の壁から飛び出して来たわ。

 

 大きな口を開き、普通の牛みたいに口の中に溜めている涎を撒き散らして向かって来る相手に私は一歩も引かず、その場で腰を落とす。相手を見据え、数十倍を越える大きさの相手を正面から受け止めた。

 

「ぎ、うぎぎぎぎぎ!」

 

 押し込まれて地面を足で削る。このまま行けば穴に落ちて上から巨体が押し潰そうと迫る手前で漸く止まったわ。困惑の色を見せるガルズブルム。きっと止められるだなんて想像もしていなかったのね。

 

「……せーの」

 

「ヴモ?」

 

 それが貴方の命取り。受け止めた手でしっかり掴み上に放り投げた。僅かに浮いたガルズブルムの頭、それを更に蹴り上げて上に向かわせ、ジャンプと同時に更に蹴り上げる。大きく仰け反るガルズブルムの巨体、その真横を跳んだ私が通り過ぎる。擦れ違い様に切り裂いた喉から血飛沫が飛び散り、私は壁を蹴って折り返す。

 

「じゃあね。ウォーミングアップには十分な相手だったわ」

 

 その言葉と共に反対側の喉も切り裂いた私が着地すれば続いてガルズブルムの巨体が倒れて部屋が振動する。やがて目を閉じて死んだらしい中、小石が天井から落ちて来たわ。それを見て私は剣をガルズブルムの眉間に投げ付けた。突き刺さる刃、やられた振りをしていたガルズブルムは今度こそ絶命し、私の体も良い具合に温まっていたわ。

 

「増援や伏兵は……うん、居ないみたい」

 

 穴に顔を近付けて鼻を動かすけれど土の匂いしか感じない。もしかしたら土の体を持つモンスターが居るのかも知れないけれど、今は一旦終わったと思いましょう。

 

 その代わり、入って来た通路の正反対にある方向に鼻を集中させれば鼻が曲がりそうな臭いを感じる。この汗臭さと魔族特有の臭い……ちょっと花みたいな香りも混じっているけれど間違い無くクレタがこの先で待っている。

 

 この時、私は少し安心した。今まで身も心も怪物になった相手と戦った時に感じた独特な悪臭は感じなかったから。敵だし、同情する様な関係でもないのは分かっているわ。それでも私は嫌だった。互いにちゃんと自分の心で向き合いたかったの。

 

 

 その後は不思議な位に何も起きなかったわ。通路の岩が崩れたり突き出して来たりしないかハラハラしながら進んだのが徒労に終わったのに対して、これも作戦かしらと思いつつ辿り着いたのはガルズブルムと戦った場所と似た大部屋、但し穴は無くって中央でクレタが待ち構えていたわ。

 

 

「……来たか。お前は敵ではあるが先に非礼を詫びよう。詰まらん真似をして悪かったな」

 

「子供を浚っておいて今更よ。……でも、一応は受け取っておくわね」

 

 謝罪の言葉の後、クレタは両手でハルバートを構える。予想はしていたけれど怪我は癒えているらしいわね。利き腕が使えるのと使えないのじゃバランスも力も段違い、前回とは全くの別物と思って良いわね。

 

「怪我は治ったのね」

 

「お前も更に強くなったな」

 

 でも、前回より強いのは私も同じ。一度敗れた相手を退けて女神の試練を達成した私は勇者としての能力が上がっている。だから三回目での決着は私が勝たせて貰う。だけど、今はそれ以外に言う事が有るの。

 

 

 

 

 

「えっと、どうして花嫁姿なのかしら?」

 

 うん、本当に意味が分からなかったわ……。

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