オルタさんと恋したい   作:ジーザス

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お久しぶりでございます。なかなかに忙しくてww

そういえばFGOでオルタさんの霊衣開放きましたね。毎日浮かれながらプレイさせていただいてます。

前回投稿よりUAが+7537、お気に入りが+205という珍現象が発生しました!一体何があったのでしょうか。気になるところですが、本編をよろしくお願いします。


牽制

〈ライダー〉を利用した〈キャスター〉の襲撃から一夜。破損した一部の廊下や教室を除いて、概ね普段通りに学校生活は行われることになった。学校内で生徒集団昏睡事件があったというのに平常運転とは、教職員トップの頭の中身を見ていたいと思ってしまう。

 

ただでさえ最近は昏睡事件が多発しているというのに。似たような事件が起これば、安全が確保できるまで休校にしてもいいはず。それでも続けるとは教職員だからなのか、安全より学業優先を推し進めるつもりらしい。頭の固さに頭痛を引き起こしそうだが、今更文句を言ってもどうしようもない。

 

いつも通りの学校生活を送る気がなかった泉世は、1限目には出席せずにある場所へと足を向けていた。

 

 

 

 

 

「して、何の用だね。学生の本分は勉強だったはずだが?」

「昨日あんなことあったってのに、翌日から平常運転なんていかれてる。1回の授業をさぼったところで、進級できなくなくなるわけじゃないし。それにあんたに頼みたいことがあって来たんだ」

「ほう?まさかお前の方から私に頼み事とは。〈聖杯戦争〉中に何かしら事件が起こるかもしれんな」

「〈聖杯戦争〉自体が事件だっつーの」

 

新都にある今回の〈聖杯戦争〉における唯一の中立地帯、〈言峰教会〉に俺は来ていた。制服姿で朝の8時に来ていては、一般社会に生きる者でなくとも少なからず不思議がることだろう。こいつだけにはそんな心配をされたくはないのだが。

 

「今回の〈聖杯戦争〉で此処に来たのはお前で2人目だ。1人目までとはいかないが丁重にもてなすとしよう」

「そいつはどうも。要件についてだが、昨日のことは連絡したから知っていると思う。〈監督役〉の決定権でどうにかできないか?」

「何をしてほしいと?」

「無関係な人間を巻き込んだ戦闘を禁止する声明を出してほしい。〈キャスター〉の戦い方は見ていて気持ちいいもんじゃないからな」

「前回と同様に〈キャスター〉の行動はは目に余るか。正直、私も事後処理がめんどくさい。学校生徒全員が衰弱している事態。どうやって誤魔化しきれる」

 

愚痴るな。中年オヤジの仕事の泣き言は見てる方が地味にしんどい。しかも背中から仕事が辛いとばかりに、泣いている言峰の霊体が見える気がする。

 

なんだかんだ言ってこいつもそれなりには頭を抱えていたようだ。〈聖杯戦争〉で起きた事態の収拾は、〈教会〉がどうにかもみ消す役割を担っている。もみ消すというのは証拠隠滅を意味しているから、誰が見てもわからない程度までに戻さなければならない。そうするためには誰に知られることもなく、迅速に早急に派遣して隠ぺいする必要がある。それだけの技量を持つ魔術師は限られてくるし、彼らに対する報酬も支払わなければならない。その負担も〈教会〉からの支出となると、事件や事故は起こさないでいてほしいことだろう。

 

「どうして〈キャスター〉陣営はこうも問題を起こしたがるんだ?」

「私に聞かれても困る。私は元〈アサシン〉のマスターであり現〈監督役〉だ。素性もわからないのであれば目的意識も理解できん」

「〈監督役〉ってのは《真名》を看破できるんじゃないのか?」

「〈監督役〉はあくまで中立であって、それぞれのサーヴァントを知る権利は与えられていない。どのサーヴァントが現界したのかがわかる程度だ」

「と言いつつ、前回はなかなかのクズっぷりだったけどな」

 

中立であるはずの〈監督役〉が遠坂陣営と結託していたのは笑いものだ。何処に「中立」の文字があったというのか。援護はするわ擁護はするわで〈聖杯戦争〉そのものを崩壊させた張本人だろうに。まあそれを誰にも言わなかった俺も他人のことは言えないのだが。

 

「そう言うな。あれは私の考えではなく父と師の考えだ。協力者の我々には口をはさむ権利などない。命令通りに事を成すだけの道具だ」

「今更だったか。言峰、そういや俺の前に1人来ていたと言ったが此処に来たのは慎二か?」

「間桐の小僧であれば夜明け前に出て行った。新しいサーヴァントを引き連れてな」

「新しいサーヴァントと?」

「手の空いているサーヴァントがいたのだ。間桐の小僧はまだ戦闘を続ける気が合ったのでな。君たちをひどく恨んでいたよ」

「神父が聞いて呆れる」

 

人の負の感情を自身の喜びとするのは、精神異常者か悪魔ぐらいだろう。さすがにこいつにはどちらも可愛すぎて例えるのは無理だが。

 

「手の空いたサーヴァントは、〈ランサー〉ぐらいしかいないんじゃないか?」

「それは何とも言えん。私にも秘匿義務があるのでな」

 

はい、エセ神父のご登場だよ。何が言えないだ何が秘匿義務だ。信頼なんか一厘たりともしてないが、〈監督役〉としての役目は少なからず果たしてくれるだろうと期待したりする。都合のいいことかもしれないが、別に俺の好感度が下がるわけでもない。知っているのは俺だけなので、知られることもないからどうでもいいのだが。ということでエセ神父に頼みを聞いてもらってから、俺は学校への道を歩きながら先ほどの話を思い返していた。〈キャスター〉との戦闘と言えば、最初の戦闘がなかなか辛かった。

 

最終戦闘で特に俺は何もすることもなかったし、気持ちの悪かったのが〈アインツベルンの城〉での戦闘だった。

 

 

 

 

深い森の一角で、一つの戦闘が行われようとしていた。戦闘とは言っても、数日前のようなサーヴァント同士ではなく、軟体動物に鋭い棘が生えたような不気味な生物が数多蠢いている中でだ。その中心では、その生物に身体を締め付けられているサーヴァントがいる。粘液がその身体を伝って地面に落ち、その触手は関節を完璧に抑え込んでいる。たとえ筋力が高かろうとも関節を動かせなければ、逃れる術は何一つない。数少ない可能性を除いて。

 

『いや、まったく気持ちの悪い得体の知れない生物だ』

 

突然何処からか声が響き、闇に紛れた何かが木々の枝をかいくぐって空から降りてきた。着地寸前に何かを斬り裂く音が響いたかと思うと、サーヴァントを締め上げていた触手が、無数の輪切りとなって落下していた。

 

『貴様はっ!』

『こんばんはと言うべきかな〈セイバー〉』

『〈アーチャー〉のマスターが何故ここにいる!?』

『おっかしいな。ここはお礼を言われる場面だと思っていたんだけど』

 

〈セイバー〉は舞い降りてきた敵である存在の少年に敵意をむき出しにする。だがその対象者はまったく動じていない。それどころかまったく周囲の状況を気にすることなく、平然とした姿で〈セイバー〉を見ていた。〈聖杯戦争〉に参加する者ならば、命の危険性を認識できないはずもなく。ましてやサーヴァントが戦闘中の場所に現れるはずがない。

 

『答えろ!』

『やれやれ答えるしかないか。〈監督役〉から聞いただろ?「直ちに互いの戦闘行為を止め、各々〈キャスター〉殲滅を優先せよ」って。俺はそれを実行しに此処へ来た。町で〈キャスター〉を見かけて追跡したのはよかったけど、この森があまりにも広すぎて見失った。ようやく探し出せたと思ったら、〈セイバー〉が捕まっていたってだけ』

『…つまり今の貴方は、私たちと事を構える気はないということか?』

『未熟な魔術師が最優と言われる〈クラス〉のサーヴァントに、ノコノコと挑むわけないでしょ』

 

戦闘意思はないという意味を込めて両手を上げる少年に、〈セイバー〉は敵意を向けるのを止めた。100%向けていないわけではないが、それよりも今の事態をどうにかして斬り向けることが重要だと認識を改めた。互いに背中を預けながら周囲の様子をうかがう。先ほどまではいなかった異形の生物が、少しずつその幅を狭めていた。

 

『〈アーチャー〉はどうしたのです』

『面倒くさいと言って、家でワインを開けてむさぼってる』

『何様なのだ』

『「雑種如きの馴れ合いに参ずるつもりはない」って言ってた』

 

彼のサーヴァントは〈監督役〉の方針に従うつもりは一切ないらしい。元々遠坂陣営と〈監督役〉が結託しているため、わざわざ表立って外に出る必要はないと判断しているのもあるだろう。戦闘を回数こなしていれば、そのうちに手の内を周囲へ知らせることになる。戦闘手段もデータとして積み重ねれば、いくらサーヴァントでもそれなりに追い詰められることになる。機器を利用するのが衛宮陣営ぐらいだから、それの心配は低いかもしれないが、ウェイバーだったなら情報収集で使い魔を放っているかもしれない。

 

〈ライダー〉の戦闘方法はまだ未知数だが、予測ではあのチャリオットを使った戦いをするとしか考えられない。百聞は一見に如かずと言うように、〈ライダー〉のことは今は考えなくてもいいだろう。

 

『ここまで数が多いと片付けるの手間だな』

『ならば全て切り伏せるのみ!』

 

背後でフェルリ・ヘルメス・アンソニアムの呟きを糧にして、〈セイバー〉が無限とも言えそうな数の生物に剣を振りかぶった。真っ二つに縦斬り・横斬りされた生物の血が周囲に飛び散る。特に危険性があるようにも見えないが、念いには念をということで、フェルリ・ヘルメス・アンソニアムが〈セイバー〉を魔術で守る。

 

それを視線で感謝を示しながら、〈セイバー〉は次々に切り伏せていく。同じようにフェルリ・ヘルメス・アンソニアムも、魔術で構成した剣に魔術を上乗せして葬っていく。刃の部分が揺らめくような剣で生物を斬ると、切り口から炎が立ち上って焼失させていく。

 

遠坂家にお邪魔していたおかげで、フェルリ・ヘルメス・アンソニアムは苦手な魔術を少なからず扱えるようになっていた。遠坂時臣が《転換》の魔術を扱い〈火〉の属性の使い手だったことで、フェルリ・ヘルメス・アンソニアムは学ぶことができたのだ。

 

《万能》の特性を操るフェルリ・ヘルメス・アンソニアムは、難なくそれを自身の魔術として身に着けてしまった。次期当主である凛よりも早くにできてしまったことで、少なからず申し訳なさを感じていた。そのことが凛を追い詰める結果になってしまっていたとしても仕方なかった。だが凜はそんなことで憎むような人間ではない。むしろ自分こそ上であることを示すと意気込む少女だ。そんなことを気にする方が気にしすぎだということになる。

 

『頑張りますねぇ聖処女よ。そこの子供は邪魔ですから殺して差し上げましょう』

『〈キャスター〉貴様、狙いは私であろう!その子供は関係ないはずだ!』

『我々の再会を邪魔する者は敵なのですジャンヌ』

 

聞く耳を持たないというより言葉が聞こえていない。いや聞こえてはいるがその言葉は意味を持たず、理解に苦しむといったところか。〈セイバー〉の言っている言葉は紛い物で言わされているだけだと認識している。

 

『一体どれほど斬ればいいのだ』

『たぶんあいつが持つ書が原因だと思う。あれから大量の禍々しい魔力を感じる』

『なるほど。〈キャスター〉、それが貴様の《宝具》か』

『そうですともジャンヌ。我が盟友プレラーティが遺した魔書によって、私は悪魔の軍勢を従えることができるようになったのですよ』

 

一向に生物が消えないのは、〈キャスター〉が無限に排出しているからではない。正確には切り伏せた生物の残骸が動めいて立ち上がっている。散らばった血肉を苗床にして増えていっているのだ。減らない理由はそういうことなのだろう。むしろ最初に見えたころより増えている。斬れば斬るほど生物は増えていき、自身を追い詰めることになるようだ。

 

だからある意味フェルリ・ヘルメス・アンソニアムの火を被せた剣で消し去る方法が有効だ。だがいくら使えても魔術師であり未熟なフェルリ・ヘルメス・アンソニアムでは、すべてを葬り去ることは出来ない。〈セイバー〉が使えるなら可能性はあるが使えるとは思えない。

 

『数が多い!』

『〈アーチャー〉を喚べないのですか!?』

『喚んでも結局殺される未来が見えるよ』

『…なるほど』

 

どうやらフェルリ・ヘルメス・アンソニアムの言ったことが理解できたらしく、納得してそれ以上何も言うつもりはないようで、そのまま接近してくる生物を切り伏せていく。だがあまりの数に〈セイバー〉でも切り伏せるのが間に合わない。数の多さに2人が生物に押しつぶされようとした瞬間、赤と黄の稲妻が横一線に走り怪異の群れを薙ぎ払った。怪異がその身を塵に変えていくその先には、若草色の戦支度に身を固めた罪作りなほど美丈夫の男が、微笑を浮かべながら立ちはだかっていた。

 

『無様だぞ〈セイバー〉。その剣では【騎士王】の名が泣くぞ』

『〈ランサー〉、どうしてここに』

『おかしなことはないはずだが?俺はマスターよりキャスター討伐の命を受けている。ここで敵対するのは得策ではないと思うがな。それにしても何故ここに子供が?』

『キャスター討伐を〈監督役〉が望んでいるならば、それを成しても特に問題はないと思うけど』

『いや、まさにその通りだ。さて、こうなった以上貴様は逃げられぬぞ〈キャスター〉』

 

右手の紅色の槍を攻撃の張本人へ向ける。戦闘の意思がありありと浮かぶその武器は、〈キャスター〉では躱すことはできないと思わされる。たとえそれが〈セイバー〉であったとしても結果は同じになるだろう。

 

『何者だ貴様は!誰の赦しを得て私の邪魔立てするかぁ!』

『それはこちらの台詞だ外道。〈セイバー〉を倒すのはこの俺だ。断じて貴様などではない』

『誰の赦し...か。じゃああんたは誰の赦しを得て〈セイバー〉を狙ったんだ?〈ランサー〉はあんたが〈セイバー〉と会う前に、剣を交えて戦っていた。横からかっ攫らおうとするのは盗人と同じだろ』

『たわけたわけたわけたわけぇっ!』

 

〈キャスター〉が長い爪を生やした両手で、頭皮を掻きむしりながら奇声を発する。唾を辺り一面に飛ばしながら、それでも尚自分が正しいと叫び続ける。

 

『私の願いが!私の祈りがその女性を蘇らせたのだ!すべては私のものだぁ!』

『他人の恋路を邪魔するつもりはないが、戦いの順番というものを守って欲しい。貴様が是が非でも【騎士王】を屈服させたいと思うのは構わん。だが片腕のみの〈セイバー〉(・・・・・・・・・・)を倒すならば、俺は貴様を決して許しはしない。片腕のみの〈セイバー〉(・・・・・・・・・・)を倒していいのは俺だけだ』

『張本人ですもんね』

『うぐっ』

 

鋭い追い打ちに〈ランサー〉が落ち込む。地面に向かって「騎士として一生の不覚」と叫んでいるあたり、案外気にしていたのかもしれない。正直、〈ランサー〉のその言葉と行動が同様のものか分からない。騎士として戦いたい〈ランサー〉は、槍の〈呪い〉を用いた戦闘でなのか純粋な腕だけで戦いたいのか。〈セイバー〉は剣を隠す以外の小細工を使わない。もちろん〈セイバー〉のその方法がせこいなどと言うつもりは毛頭ない。

 

〈英霊の座〉に在る者がその剣(・・・)を知らないということはない。つまり露見していれば、その使い手の《真名》がわかってしまうのだ。それほどにまで有名であるならば、視認できなくなるようにしても仕方がない。刀身が測れなければ、避けることも受けることも簡単ではない。ある意味〈セイバー〉の戦法は、事を有利に進めることができるものだ。〈ランサー〉がそれを時間がかかっても見抜けたのは、槍の〈呪い〉と〈ランサー〉自身の戦闘能力の高さの相乗効果である。

 

ケイネスの命令に従って《宝具》を少しばかり利用した戦闘は、〈本人〉にとってどのような気持ちを起こさせたのだろうか。

 

『ゆくぞ〈キャスター〉。俺と【騎士王】の戦いを邪魔したことを後悔させてやる』

『同感だ』

 

2人のサーヴァントの協調性に苦笑するしかない。いつまでも見ていたいと思ったフェルリ・ヘルメス・アンソニアムだが、早めに決着をつけることにした。数多の怪異を切り伏せた結果、その骸から発生する瘴気が少なからず身体を蝕んでいるのだ。常人であれば一呼吸で肺を破壊されるであろう濃度。それに耐えられているのも魔術による恩恵だが、長時間この場に留まるのは可能な限り避けたい。

 

その間にも2人は僅か数秒の間に10体もの怪異を葬っていた。槍による刺突と薙ぎ払い、剣による切り裂きは確実に数を減らしている。だというのに周辺からは減る様子が見られない。増えているわけでもないのがある意味ありがたいことだが、先ほどと同様に追い込まれてしまっている感は否めない。それが顕著に表れていたのが意外や意外。〈セイバー〉に対して大口をたたいた〈ランサー〉自身であった。

 

『…ここまで埒があかんとなると、呆れを通り越して驚きだな』

『私たちが苦戦していたのがわかったか?』

『我が身で感じて理解した。これは厄介な敵だ』

『〈セイバー〉の左手が使えたらなぁ』

『…勘弁してくれ』

 

本気でそのことを出汁にしてからかわれることが苦痛らしい。表情を暗くして懇願する様子は、美丈夫である〈ランサー〉の輝きが霞むようだ。そう言いながらも3人は途切れることなく、襲い掛かってくる怪異を仕留めていく。穿たれた衝撃で後ろに立っていた怪異を吹き飛ばす〈ランサー〉、鋭い薙ぎ払いで後ろの数匹を巻き添えにしていく〈セイバー〉、魔術で造った剣に〈火〉の特性を付与して焼失させていくフェルリ・ヘルメス・アンソニアム。

 

敵の数に限りがあれば、この程度の戦闘力である怪異を殲滅することは可能だろう。だが〈キャスター〉の《宝具》によって無限に増殖していっては、いくら連携のとれた3人であっても体力の減少は避けられない。サーヴァントである〈ランサー〉と〈セイバー〉であったとしても。

 

『対策が出来ればいいのだが』

『増殖の発生源はあの魔導書だよ〈ランサー〉』

『ふむ。なるほどそういう理屈か』

 

フェルリ・ヘルメス・アンソニアムの声で〈キャスター〉の手元を見る。一瞥しただけでそういうカラクリだと理解した〈ランサー〉の洞察力は恐るべきものだ。さすがサーヴァントとして《聖杯》に召喚されただけはある。その間にも怪異は不気味な触手を震わせながら、3人に躙り寄ってくる。〈ランサー〉の介入があったというのに、〈キャスター〉は先ほどから変わらない戦法を取っている。こうしてサーヴァントを2人相手取っても、その作戦を変えないのはそれなりの勝算があるからなのだろう。10分以上も増殖の速度を落とさずにいられるのは何故か。

 

いくら《宝具》の恩恵であっても、これだけ排出させていれば枯渇してもおかしくない。だが一向に変わらない様子は、本当に魔力が無尽蔵にあるとしか思えない。フェルリ・ヘルメス・アンソニアムは、いつまでたっても変わらない状況に恐怖を抱き始めていた。

 

『だがあいつから奪い取ろうにも叩き落とそうにも、まずはこの雑魚どもを突破する必要があるな』

『〈ランサー〉、このあたりで一か八か賭けに出る気はないか?』

『このまま雑魚とばかり戯れていても芸はない。ありがたくその誘いを受けよう〈セイバー〉』

 

勝手に話を進めていく2人に、フェルリ・ヘルメス・アンソニアムはどうとでもなれとやや投げやり気味に問いを投げる。

 

『どうやってそこまで接近するかだけど。〈ランサー〉はそれだけの策はある?』

『槍使いとして現界している以上、敏捷性にはそれなりの自信があるがな。一瞬でも切り開けてもらえればあるいは…』

『〈ランサー〉、風を踏んで走れるか?』

『ん?おうとも。何を考えているかは知らんがその程度は造作もない』

『熟年夫婦』

『『やかましい!』』

 

フェルリ・ヘルメス・アンソニアムの言葉は案外的を射ているかもしれない。息の合った会話と行動は、第三者から見ればそうとしか見えない。そう怒る〈セイバー〉だが、肉の壁を吹き飛ばすだけの技を持っている。伊達に最優のサーヴァントクラスの〈セイバー〉として、現界しているわけではないのだ。〈キャスター〉の視線による嘲笑をあびせられても、〈セイバー〉は怒らず、怯まず、ただ自然な表情で右手の剣を引き絞る。揺るぎのない眼差しが見据えるのは、ただひとつの掴み取るべき勝利のみ。

 

『その麗しき顔を...今こそ悲痛に歪ませておくれ、ジャンヌ!』

『ギィィィィィィィ!』

 

怪異の集団が一斉に吼える。歓喜とも憎悪ともつかぬ異形の奇声を張り上げながら、包囲の中心にいる3人へ殺到する。それを勝機のタイミングと見た〈セイバー〉は、透明な魔力を纏った剣を突き出した。

 

『〈風王鉄槌(ストライク・エア)〉っ!』

 

不可視の剣に見せていた魔力による超高圧縮の風が、主によって解放されて猛然と突き進む。〈風王結界(インヴィジブ・エア)〉の変則使用は、それ故の威力を発揮する。防御をその身の弾力に頼っていた怪異は、いとも容易く引き裂かれて肉片を粉砕されていく。数だけが取り柄だったその身は意味もなく為す術もない。10体ほどによって構成されている壁の一部が、その風によって消し去られた。

 

瞬時にその穴を塞ごうと怪異が動き出すが、その前にその隙間をくぐり抜けた影があった。その影の速度はサーヴァントであろうと出せるようなものではなく、魔法の域に至るほどだ。だがこの世界に〈魔法〉という概念は存在しない。しかし〈擬似魔法〉になるものはある意味存在しているだろう。まさに今の現象がそれだ。

 

大気中を物体が超高速で移動する時、正面の大気は切り裂かれ、逆に背後の空間には真空が現れる。その真空には周囲から大気が流れ込み、先行する通過物を後追いする気流となる。この現象は実際の車のレースにおいても使われている。俗に言う〈スリップストリーム〉というものだ。

 

〈セイバー〉が解き放ったことによって同様の現象が起こり、〈ランサー〉はそれを理解して颯爽と飛び込んだのだ。

 

この気圧と速度に耐えられたのは、超人的な身体能力を秘めたサーヴァントだからであって、魔術師や一般人が飛び込めば、怪異と同じようにその身を無惨なものに変えられる。

 

『獲ったり〈キャスター〉っ!』

『ひぃ!』

 

身を守るために〈キャスター〉が周囲の怪異で、〈ランサー〉を押さえ込もうとする。だがその移動速度に比べて、それらの動きはあまりにも遅い。触れる前には既にそこから1mも先に移動している。

 

どれほどの数をもってしても〈ランサー〉は止められない。

 

『抉れ、〈破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)〉っ!』

 

繰り出された槍は仰け反った〈キャスター〉に届かず、その手元の魔道書を薄く切り裂いた。そもそも〈ランサー〉の目的は〈キャスター〉自身ではなく、怪異を生み出し続ける《宝具》のみ。身体に届かずとも傷付けることが出来ればいい。

 

かつて〈セイバー〉を追い詰めた槍の穂は、あらゆる魔力を断ち切る《宝具殺し》。魔力によって構成されている武器や防具、物体などは何であろうと意味がなくなる。よって魔力によって稼働している〈キャスター〉の魔道書にとって、〈ランサー〉の槍はもっとも危険な武器だった。

 

3人を包囲していた怪異が、魔道書が傷つけられたことでその形を崩す。魔道書によって魔力を供給していた怪異は、僅かな時間であっても供給を絶たれたことで、その形を保てなかった。液体化したその身体は、異臭を放ちながら土に染み込んでいく。傷ついた魔道書はすぐさま修復して元に戻るが、〈キャスター〉は再び怪異の群れを発生させなかった。包囲できない今の状況では、どれほど出現させても意味もなく、魔力の無駄遣いにさかならないと悟ったのだろう。発動させる前に2人が、〈キャスター〉自身を斬り捨てることもできるだろうが。

 

『ざっと、こんなものだ〈キャスター〉。〈セイバー〉に左腕が戻れば、お前は即座に消え去るだろう』

『貴様貴様貴様貴様貴様、キサマキサマァァァッ!』

 

〈キャスター〉は悲鳴を上げて頭をかきむしりながら、その場で霊体化して姿を消した。逆上して攻撃されると思っていたフェルリ・ヘルメス・アンソニアムは、戦闘終了による安堵で大きくため息を履いた。

 

『なかなかに疲れる相手だなあれは。〈セイバー〉、よくも長時間相手できたものだ』

『外道なやり方を見た。あれを見れば諦めもつく。無視を決め込めばある程度眼中になくなる』

『さすがと言うべきか、っ!?』

『〈ランサー〉どうした?』

『我が主が危機に瀕している。どうやら俺に命令したと同時にそなたの本丸に切り込んだらしい』

 

城のある方角を厳しい表情で視線を送る。その行動にフェルリ・ヘルメス・アンソニアムは空を仰ぐ。ケイネスのやり口は少なからず知っていた。ホテルを爆破されどうにかして難を逃れたケイネスは、〈セイバー〉のマスターを抹殺したがっている。

 

〈キャスター〉討伐を命じておいて、自分は敵陣へ乗り込む。倒せれば屈辱を返し、尚且つ〈聖杯戦争〉を勝ち抜くことに大きく繋がる。さらに〈キャスター〉討伐が成功すれば〈令呪〉をもらうこともできる。これほどメリットがあれば行動しないはずがない。〈ランサー〉はそのことを考えもしなかったようだが。

 

『行けばいいんじゃないか?〈セイバー〉だってそのことで貴方を侮辱はしないだろうし』

『その通りだ。私は貴方との勝負を心待ちにしている。互いに万全な状態でなければ意味はない。行くがいい〈ランサー〉、己が主の救援に向かえ』

『かたじけない〈アーチャー〉のマスター、【騎士王】。この恩は必ず』

 

恭しく礼をした〈ランサー〉は霊体化して、城へと向かっていった。気配が消えてから〈セイバー〉はフェルリ・ヘルメス・アンソニアムへに礼をした。

 

『貴方のおかげで助かった。礼を言う』

『別に気にしなくていい。〈キャスター〉を倒さないと〈聖杯戦争〉の意味が無くなるし』

『貴方は戦いを求めるのか?』

 

フェルリ・ヘルメス・アンソニアムの言葉を違う意味にとらえた〈セイバー〉は、自らの望みとの違いについて聞いてみた。

 

『別に戦いを求めるわけじゃないよ。それに〈聖杯〉を求める理由が俺にはないし』

『理由がない?では何故〈令呪〉をその身に宿しているですか?』

『それが俺にも分からないんだよね。マスターってのは願望を抱いた人間であり、魔術師としての才能を持つ者を選ぶはずだから』

 

フェルリ・ヘルメス・アンソニアムの言い分は半分正しい。願望を持ちながら魔術師ではないとマスターにはなれない。しかし〈聖杯〉を求めて争うための駒が揃わなければ、〈聖杯〉は適正に関わらず不足分を補う形でマスターを選定する。自身が魔術師と知らずとも、かつては魔術師であった家系の子孫であるために僅かな痕跡を残している。または偶然的に魔力を一般人より多く持っているという理由で、マスターとなることもある。

 

『つまり選ばれた理由はわからない。自身の願望までもわからないと?』

『そうなるかな。この戦いに勝ち続ければ、自分の願望も見つかるんじゃないかなって思う。〈キャスター〉がいると捜索の邪魔になるから、〈監督役〉の言い分に従ってる。狂わなければ傍観を決め込んでたけど』

『ならば貴方は私と〈ランサー〉の戦いを邪魔しないということですか?』

『むしろ応援したいかな。港での戦闘の続きを見たいから』

 

つまり〈アーチャー〉のマスターは邪魔をせずにいる。であれば戦う必要もなく、わざわざ始末する必要もない。幸いなことに、〈セイバー〉のマスターは〈アーチャー〉のマスターを敵として認識していない。いや、眼中にないといったところか。

 

「あんな子供を相手にする前に、僕たちは別にやるべきことがある。それを理解してくれアイリ」

 

そう言った自身のマスターの言葉を思い返す。監視だけは継続して行うように助手へ指示していたのも思い出す。といっても彼女の使い魔は何度も破壊されており、何処に潜みどのように日常を過ごしているのかも把握できていない。何も情報がないというのは、これほどに不気味なのかと思うほどだ。子供だというのに侮れないというのが印象的だった。切嗣が話していた限り、〈アーチャー〉のマスターは御三家のひとつで、現代当主である遠坂時臣であったはずだ。

 

奪い去ったのか協力関係にあるのか。それもまだ情報収集の最中である。自分はサーヴァントである以上、仮のマスターであるアイリスフィールの命令通りに動くだけ。そう結論づけた〈セイバー〉は考えるのをやめた。

 

『わかりました。では私もマスターの命令があるまでは、貴方が敵であっても手は出しません』

『助かるなぁ。こっちも王が何も言わない間は邪魔する奴らは敵と認識しとく』

『では私はマスターの安全を確認しに行きます。貴方も気を付けて森を出た方がいいでしょう』

 

そう言い残して〈セイバー〉は森の奥へと走り去っていった。

 

 

 

 

 

長い回想を終えて意識を現実に戻す。よくよく考えれば、〈ランサー〉が去って直ぐに移動しなければアイリスフィールは死んでいた。なのに生きていたのは言峰と出くわすまでに、少しばかり時間がかかったからなのか。

 

どちらにせよ何事もなかったのだから、今更気にしなくていいのだが。

 

学校に向かう途中にある公園を横切り、交差点で信号待ちしていると後ろから衝撃を感じた。振り返ると満面の笑みを浮かべるイリヤが顔を制服に擦りつけていた。

 

「イリヤ?」

「おはよう泉世おにいちゃん。こんな時間に会うなんて偶然だね」

「今日だけなんだけどな」

 

キョトンと首を傾げるイリヤの頭を軽く撫でてやる。傍から見れば戯れる兄妹だろうが、生憎俺とイリヤは血が繋がっていない。それにイリヤのほうが3つ年上だから、姉弟というのが正確なところだ。正直、誰もそんなことを気にはしないだろうが。実際俺もわざわざ考えたりはしないし、イリヤだってどうでもいいだろう。そうなふうに見られていれば慣れるだろうし。

 

「外にいるなんて珍しいな」

「セラから逃げて遊んでたの。城に籠ってばかりだと飽きちゃうしね」

「サーヴァントは連れてないのか?」

「〈バーサーカー〉はお留守番だよ。時には1人で歩いてみたいし」

 

常に〈バーサーカー〉といるイメージだったから、予想外の言葉に新鮮に感じてしまう。別にそれが悪いわけではなく知らなかったから驚いただけだ。俺もそうやって1人歩きしたくなるときもあった。養子同士ということで、周囲には常に俺と士郎は2人でいると思われている。あながち間違いではないのだが、生活習慣というより性格でズレが生じることがある。

 

すれ違いという意味ではなく、睡眠時間が極端に短い俺と普通の士郎では就寝時間や起床時間が違ったりする。こまめな鍛錬に真剣な士郎が蔵に篭ったりするので、そういう時は市内をぶらついたりする。喧嘩しないわけではないけれども、した時も似たような心境でぶらつく。

 

「見つけましたよお嬢様」

「だが断る!」

「あ、お嬢様お待ちください!」

 

背後から聞こえた声に俺は諦めを感じたのだが、イリヤはその小柄な体格を活かして脱兎の如く消え去っていく。その動きは元気な年相応の少女という感じがした。その後を追うように、セラと呼ばれたイリヤのメイドが追いかける。それを苦笑しながら見送ってから、学校に向かうことにした。




万能・・・アンソニアム家の魔術特性であり、あらゆる魔術への適性を持つ


話数が増えてきましたが章に分けるべきでしょうか。少し悩んでいたりします。
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