見てたら書きたい欲がでてきたので書いてみることにしました。展開的にはそこまで進んでおらず、映画とアニメの内容が混ざっている感じとなっています。
ではよろしくお願いします。
「桜、朝練行くぞ」
そう言って玄関から足を踏み出す。快晴の青空から太陽が優しく照らしてくれる。昨日の戦闘が嘘だったように穏やかな1日の始まりだ。
「大会が近いんだっけ?泉世の腕なら、多少気を抜いても問題ないだろうに」
見送るためにわざわざ出てきてくれた士郎が、今思い出したように問いかけてくる。
「そうも言ってらんないんだよ。大会上位に入れば部費の予算が上がるからな。そうしたら少しなら弦や糸の張り替えを頻繁に行える」
「美綴と桜に泉世か。団体戦なら余裕だろ」
「俺らが練習怠ったら、全体の指揮に影響がでかねない」
士郎は昨夜のようなことがあるから、あんまり無理するなと言いたいのだろう。気にするなと言えなくもないが、あれだけの大怪我をしたなら同居人を心配するのはおかしなことではない。ちなみに士郎の怪我は今朝になるまでに完治している。さすがは〈セイバー〉を召喚するために用意された触媒だ。回復能力が桁違いに高い。まあ、近くに〈セイバー〉がいなければ成立しない回復方法なのだが。
桜と士郎が親しげに会話をしている中、〈セイバー〉が目の前に立って心配そうに俺を見ていた。
「どうした?」
「学校まで付き添うのは本当にダメなのでしょうか」
「外国人がいきなり学校に現れたらパニックになるからなぁ。あ、もしかして俺と離れるのがさみしいとか?」
「無礼者!」
「げふっ」
からかったら怒られてしまった。まったくボディーブローはやめてほしいな。魔術師とはいえまだ半人前だし。しかもサーヴァントの攻撃って結構痛いんだからさ。一応肉体の鍛錬も行ってはいるが、〈セイバー〉ぐらいの俊敏さだと防御体制をとる前に攻撃をくらってしまう。敏捷性の高さがここで優位に立つとは思いもしなかった。
まあ、〈セイバー〉の気持ちはわからなくもない。学校とはいえ、他のマスターがいる可能性がないわけじゃないからだ。それにサーヴァントは、人間の精神を喰らうことで自身を強化する。大量の人間が集まる場所は、サーヴァントにとって格好の餌場になる。サーヴァントが独断で動くことはなくとも、マスターが人道に対して疎いことがあれば、狙われないという可能性は否定できない。
「さすがに昼間から仕掛ける奴らがいるとは思えないけどな。大胆に行動したら、他のマスターに自分の行動理由を知らせることになる。〈聖杯〉を狙う奴らなら、表立って目立つ行動はしないさ」
「泉世がそう言うのなら私はここで待っています。しかし万が一のことがあったならば、迷わず士郎に〈令呪〉を使わせてください。私にとって〈聖杯〉を手にする以前に、貴方たちの身の安全が最優先です」
「わかった、その時は迷わず士郎に使わせるよ。じゃあ行ってくる」
「お気をつけて」
今尚不満そうな〈セイバー〉に手を振って玄関を出た。隣では桜がいつもと変わらない様子で歩いている。
どうやら既に到着していた美綴に呼び出しをくらったらしい。朝練開始30分も前から着いているとは。熱心なことは感心することだが、他人に迷惑をかけてまですることではない気がする。藤姉がそういうことに無頓着だから、それほど影響があるわけではないけども。
「泉世さん、〈セイバー〉さんは家で留守番してもらうんですか?」
「まあ、それしかないんじゃないかな。この町のことなんか知らないだろうし、外を歩いたら周囲が驚きそうだし」
「そうですね。〈セイバー〉さん美人ですから」
確かに〈セイバー〉は文句無しの美人だ。スカウトマンに見つかれば、問答無用でスカウトされるだろう。下手をしたらR18系に引っ張られるかもしれない。それらから守るというものも含めて、〈セイバー〉には家に残ってもらっている。道場で剣を振るうか、瞑想をして時間を潰すのか。10時間はかなり長いが、忍耐強い〈セイバー〉ならその程度は苦にならないだろう。
桜と藤姉には〈セイバー〉のことを簡単に説明している。居候扱いをしてしまったことには申し訳ないが、〈聖杯戦争〉のことを説明するわけにはいかなかったからだ。
回想in
『おっはよぉ!士郎・泉世、ご飯ちょうだぁぁぃ。ん?』
いつも通り朝飯を食べるためだけにやってきた藤姉が、〈セイバー〉を見てから俺らを問いつめてきた。
『...こぉうらぁ!うちはいつから無断で人を止める許可を出しただよぉ!ちゃんと納得出来るせ・つ・め・いしてくれるかね!んん?』
かくかくしかじか(説明中)
『ふぅん、切嗣さんの親戚だったんだ。パクパクムシャムシャ。そんなことなら前もって言ってくれたら、男だけの場所に1人でいなくてすんだのにムキュムキュ。士郎、おかわり!』
『もっとゆっくり食えよ藤姉...』
『2人のことならお気になさらず。心の底から信用していますから。切嗣が誰よりも信じたなら私も信じるだけです』
『わからないわよぉ。2人とも年頃だからねぇ』
『...藤姉、身も蓋もないこと言うなよ』
『〈セイバー〉が許可するなら構わないぞ』
『『『『泉世(さん)!?』』』』
回想out
どうやら4人はあの時の言葉を大きく取り違えたらしい。冗談のつもりだったんだけど、どうやら普段から冗談をあまり口にしない俺の言葉を本音として捉えたらしい。〈セイバー〉にさえ、本音と捉えられたことが何より悲しかった。
学校へ向かって歩いていると、朝の爽やかな風が頬を掠めた。隣では桜が楽しげに鼻歌を口ずさんでいる。桜が俺と居ることに対して嫌悪感を抱いていないのは、短い間ではあったものの、それなりに共に時間を一緒にしたことが要因だ。〈第四次聖杯戦争〉が始まる少し前から、俺は冬木市の遠坂邸で過ごした。それは桜が間桐家に養子として出される少し前のことだ。
その頃は凛と良く似た幼い年頃の少女で、間桐家の儀式と称した〈刻印虫〉の刻みによって変貌した桜しか知らない俺からすればとても新鮮だった。姉妹の仲がとても良くて、眩しいくらいに幸せそうだった。葵さんもそれを見ていつも笑顔を絶やさなかった。戻れるならもう一度、あの日を過ごしてみたいと思う自分がいる。
「衛宮ぁ、遅いぞ」
どうやら考え込んでいる間に学校に着いたらしい。何故か俺が怒られるという事態になっているのだが。そう言った美綴は既に練習着を着ていた。それと同時に生暖かい何かを感じる。呼吸がしづらく身体が重くなるような感覚。だが美綴や桜を不安にさせるわけにはいかないため、先程と変わらない表情で返事をする。
「美綴が早すぎただけだろ。何で開始30分前に来てるんだか」
「少しでも練習したいからだよ。大会までもう3週間しかないってのに、衛宮は能天気すぎ」
ビシッと音がしそうなほど、鋭く指を向けてくる美綴にため息を吐きながら素直に謝っておく。美綴ほど弓道に思い入れがあるわけではないのも、それほど朝練に乗り気でない理由の一つになるかな。
元々士郎の付き添いで弓道部に行っただけなのに、強制入会させられた過去が俺にはある。美綴の上手い口車に乗ったわけではないが、試しに射ってみたら案の定的に命中してしまい、それが原因で弓道部所属になってしまった。
矢を番え、的を照準し、矢を放つ。
単純な動作であれど、その中には様々な意味が込められている。その時々によって風向きや湿度、弓矢の状態によって変化する。それがまた弓道というスポーツの奥深さなのだと俺は思う。練習もバイトがあるため半分も出れていない。ほぼ幽霊部員であるにも関わらず、それなりに結果を残しているからなのか。俺の名前は弓道部員にも認知され、校内にも腕前を知る生徒や教師は多い。
それでも何故続けるのかと聞かれると、それは俺にも分からない。楽しいからと言えば楽しい。普段会話をしない他クラスの同級生とも話せる。やり甲斐があるかと問われるとそれには困ってしまう。俺には大会に出て名を売るつもりも、賞状やトロフィーがほしいわけでもないから。
だから続ける理由としては「なんとなく」というのが1番しっくりとくる。
「ボサーっとしないで着替えてきなよ。我が校のエースなら宝の持ち腐れは許されないぞ」
「わかったわかった着替えればいいんだろ?覗かないことを願ってるよ」
男子更衣室に押し込まれながらそう言っておく。ハラスメントに当たるかもしれないが、何かと女子部員は俺の上半身を見たがる傾向にある。確かに俺はそれなりに鍛え上げているし、腹筋も割れている。腹筋が割れていることに限定すれば、士郎だってそうだし一成もそれとなくある。なのに士郎より俺の方が盗撮されやすい。友人たちには嫉妬されるが、俺が望んでいるわけでもないというのに。ある意味ストレスの一つに含まれていたりする。
自身のロッカーに制服をかけてから練習用の衣に着替える。マネージャーが清潔に保ってくれるおかげで、毎日気兼ねなく着ることが出来る。それほど参加するわけでもない俺の練習着まで洗濯してくれるとは、今のマネージャーは自分たちの仕事を疎かにしない真面目な性格らしい。
「衛宮ぁ、準備できた?」
「あぁ、今行くよ」
全てをロッカーに押し込んでから更衣室を出て練習場に向かう。ドアを開けて中に入ると、何故か俺に見蕩れている美綴と桜の姿があった。俺より桜の方が早く出てきていることに驚く。美綴に声をかけられるぐらい長く物思いにふけっていたのかもしれない。弓を持ちながら惚けている2人に問いかける。
「…何だよ」
「あんた相変わらず似合ってるよね」
「どうしたらそんなに似合うんですか?」
「似合うも何もただの練習着だろ」
まったくもって普段から着ているの練習着なのだが。何故そこまで呆然とする必要があるのだろうか。
「1週間ぶりだからかな。新鮮に見えて仕方がない」
「華やかです」
「顧問が来たよぉ~って、ぐはっ!眩しすぎる!お姉さんには眩しすぎるぞ!」
「...あんたもか」
何故揃いも揃って同じような反応を示すのか。これ以上続いたらこっちもやる気が無くなる。3人を無視して準備運動を開始するこてとにした。5分もすれば再起動すると思ったのだが。ちらっと背後を見れば、3人が何か作戦会議を始めているのが見えたので認識外に追い出すことにした。
しばらくして他の部員が集まってきたのだが、到着して数秒で眼を細める者・卒倒する者・顔を真っ赤にする者等。軒並み何かしらの過剰反応を示したので、泉世の気分は朝から右肩下がりとなっていった。
ー昼時ー
4限目が終わって教室が生徒のものになる頃。泉世は席を立って教室の外へと向かおうとしていた。
「衛宮、飯は?」
「悪い、今日は学食なんだ」
「そうか。また後でな」
弁当を一緒にしようと声をかけたクラスメイトに、食券の半券を見せながらやんわりと断りを入れ、泉世は廊下へと出た。すると少し早めに授業を終えていたらしい他クラスの生徒たちが、泉世の姿を目にして(女子生徒が)歓声をあげた。そんな様子を慣れたように無視しながら、隣のクラスへと向かう。前方のドアを開けると、誰が来たのかと視線を向けられる。するとまたしても歓声やヒソヒソ声が聞こえてくる。
「遠坂、話がある」
「...はいはい」
「「「「「ええええええええええ!!!!」」」」」
何かを盛大に勘違いしている生徒たちを、気にした様子もなく2人は教室を出ていく。その後ろ姿を野次馬のように眺める生徒たちは、何が起こるのかをこの眼で見ようと追いかけていく。だが生徒たちの期待は少しばかり薄れることとなる。何故なら、泉世がまたしても隣の教室の前方のドアを開けたからだ。
そして三度歓声が上がる。
「士郎、話がある」
「泉世?すまん一成、また後で」
「ん?あぁ、わかった」
話をしていたらしい友人に謝罪してから、士郎が教室から出てきた。
「どうした泉世。遠坂までいるなんてよっぽどのことか?」
「まあそれなりには」
それ以上何も言わず、階段へと歩を進めていく泉世を2人は少し遅れて追いかけていく。泉世の後ろを歩く2人を見て、同級生たちが何かを隣人に呟いているのが3人の視界にも入っている。周囲の注目を黙殺した3人は、普段からあまり人が寄り付かない屋上へと来ていた。泉世が柵にもたれながら話を切り出す。
「今日の深夜、教会付近で襲撃された」
「なんですって!?」
「奇襲じゃなかったのが唯一の救いだったかな」
「〈クラス〉は?」
「〈バーサーカー〉だった。マスターはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
その名前を聞いて遠坂の表情が大きく揺れる。それもそのはずだ。イリヤ個人は知らなくとも、御三家ということを知っていれば驚くことだろう。
「...御三家の一角が〈バーサーカー〉を召喚していただなんて。強さはどうだったの?」
「まるっきり歯が立たない。あの時は〈セイバー〉に士郎からの魔力補給がなかったのもあるが、パスがあったとしても苦戦はしただろうな。あいつの強さは異次元すぎる」
「〈セイバー〉でも苦戦するなら、私の〈アーチャー〉じゃ尚更無理ね」
「〈真名〉は看破しているが、知ったところでどうこうなる相手でもない」
〈真名〉とは英霊本来の名前のことだ。サーヴァントとなった英霊は、それを隠しながら他のサーヴァントと戦っていくこととなる。〈真名〉が明らかになれば、弱点を突かれることになり〈聖杯〉を獲得することが難しくなる。
たとえばあるサーヴァントの〈真名〉が、ギリシャの大英雄〈アキレウス〉だったとしよう。彼の武勇伝や伝説はあまりにも有名すぎるため、彼の弱点が〈アキレス腱〉だということがわかってしまう。
プーティア王ペーレウスと海の女神テティスの間に生を受けた彼は、幼少時に不死の身体を手に入れるため、冥府を流れる〈ステュクス〉の水に浸された。だが流されるのを防ぐため掴んでいたアキレス腱だけが、水に触れなかったため、その部分だけが不死とならなかった。そしてトロイア戦争において、〈パリス(一説によるとアポローン)〉にアキレス腱を射抜かれて死んだとされる。
このことから〈真名〉が〈アキレウス〉だと看破されると、戦闘においてかなりの不利に陥ってしまう。そのためマスターは、普段から〈クラス〉名で呼ぶことにしている。
「教えなさいよ」
「はいはい、〈真名〉はギリシャの大英雄〈ヘラクレス〉だよ」
「なっ!そんなの反則級じゃないのよ!〈狂化〉されてなくとも問題だって言うのに、〈バーサーカー〉だなんて滅茶苦茶よ!」
「俺に言われても困る。それから《宝具》は、あいつの逸話自体をそのまま昇華したものだろう」
「...〈十二の試練〉ってやつか?」
今まで聞き手に徹していた士郎が、彼のもっとも有名な英雄譚を口にする。その言葉に頷いてから話を戻していく。
「つまり12回殺さないと、あいつは本当の死を迎えることは無い。〈聖杯〉を勝ち取る以前に、もっとも難しいのが〈バーサーカー〉を倒すことだろうな」
「どうやって倒せって言うのよ。無理ゲーじゃないの」
「まあ、そうなんだが。どうにかイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと休戦協定を結べたから、最終局面までは安心していいはずだ」
「「は?」」
とんでもないことをさらっと言った泉世に、2人は間の抜けた返事をした。いつの間にそんなことをしていたのかと思ったのだろう。それにどうやって結べたのか気になるらしい。
「条件を掲示しただけさ。それがある限りあいつは
「俺たち?」
「遠坂も狙うなってことだよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。いつから仲間になったっての?」
「なってないさ。だから今ここで休戦協定を結べばいいだけの話だ」
押しに弱い遠坂ならこのぐらいで仲間になってくれる。泉世からすれば弱みに漬け込んだ形だが、命の保証に繋がるから問題ないだろう。
『その言葉、聞く耳持つ必要は無いぞ凛』
突如空気が歪んだかと思うと、1人の男が凛の横に現れる。裾が2つにわかれた赤いマントのような服をたなびかせ、圧迫感を感じさせる偉丈夫。言うまでもなく凛のサーヴァントである〈アーチャー〉だ。
「わかってるわよ。でも...」
「ふっ、難儀だな。用があったらまた呼んでくれ」
そう言ってすぐに消えていった。まったく何のために姿を現したのかわからない。わざわざそのことを言うためだけに実体化したのかと思うと、意外と〈アーチャー〉はマスター思いのサーヴァントなのかもしれない。
「まったく偉そうに!あんたは私の保護者かっての」
「遠坂は〈アーチャー〉を連れてきてるのか?」
「当然でしょ?マスターである私が護衛もなく学校に来れるわけないじゃない。それに〈アーチャー〉には学校の
「
「...ええ、そうよ。衛宮くんも気付いてたのね」
士郎は意外と目敏い。もちろん良い意味であるが、仕掛けている側からすれば面倒な存在に他ならない。知られれば真っ先に狙われるだろう、張本人に。
「校舎を中心として誰かが結界を張ろうとしてる。結界の基点が何処にあるか分からないし、まだ発動しているわけじゃないから静観してても問題ないと思う。放課後になり次第調査に出ることにしましょう。ラッキーなことに下校時間が早まってるから魔術で隠れた後、認識阻害を発動させておけば、誰にも気付かれることはないと思うわ」
「あ、いたいた。衛宮、悪いんだが生徒会室の機器の検査を頼みたい。どうも先程から調子が悪いようだ」
タイミングが良いのか悪いのか。どちらとも言えないタイミングで一成が現れて、士郎を借りたいと言ってきた。断る理由もないし、話の続きであれば後で聞かせておけば問題はない。気前よく士郎を送り出してから、話を再開させようとしたのだが。凛が予想外に真面目な顔をしていたので、調査の話題を避けることにした。
「どうやってアインツベルンと休戦協定をとりつけたのか、詳しく聞かせて欲しいわ」
「10年前の大災害。あれの発端となった〈第四次聖杯戦争〉のことを話すことになった」
「っ!」
「...あぁ、わかってる。お前が辛いのは了解済みだ。でもそうしなきゃ俺たちは生き残れない。イリヤには悪いが利用させてもらうしかないんだ」
10年前。俺にとっては師であり、遠坂にとっては父であった遠坂時臣氏を失った。命をかけて守ると誓ったというのに、遠坂との約束を守れなかった。僅か5歳にして遠坂家の主となるしかなかった遠坂を、10年間支えてきたつもりだ。時に励まし時に叱咤してきた。
魔術師としての関係性は、競い合うライバルとしてであった。互いに競い合い、高め合うことを糧に過ごしてきた。士郎には嘘をついて遠坂と魔術の鍛錬を行い、言峰の元で体術も極めた。10年の月日が経とうとも、遠坂の心の中からは時臣氏が消えなかった。思い出させると、パニックを起こすほどにまで陥ってしまったことを何度見た事か。だから今この場であまり話題にしたくなかった。
だが包み隠さず言わなければ遠坂は納得しない。
「アイリスフィール・フォン・アインツベルンのことを話せば、イリヤは少しぐらい俺たちのことを理解してくれるはずだ。だから今はこのことに耐えてくれ」
俯いてしまった遠坂の癖のない艶のある髪を、優しく撫でてやりながら慰める。昔から遠坂はこうされるのが好きだった。いつもこの立場にいたのは時臣氏と葵さんだ。よもや俺がこれを請け負うことになるとは。
「猫の皮を被るのはいいが、あまり無理をしすぎるなよ」
「皮を2枚被るのは衛宮くんと生徒たちだけよ。貴方になら素の自分を見せられる」
「感謝しておくよ。じゃあまた放課後呼んでくれ」
そう言い残して俺は食堂へと向かうため、屋上を後にした。
~アインツベルンの城~
「何故衛宮泉世・士郎両名を殺さなかったのですか。お嬢様なら容易にできたはず」
「イリヤ、またさぼった?」
またこれ。朝帰りした時も聞かれたのに、またそれを聞いてくることに嫌気が差してきた。別にそう口にした相手が嫌いなわけではない。自分の身の回りの世話をしてくれるメイドだから...というわけでもない。両親もおらず、血の繋がった存在が誰1人いない私にとって彼女たちは家族のような存在だ。でも主である私に命令するのは気に入らない。
「別にいいでしょ?私の好きなようにやって勝てたらいいじゃない。アインツベルンの願いは叶うんだから」
「勝ち負けのことを言っているのではありません。倒せる敵ならば倒しておく。それが戦いの定石というものです」
「戦い。勝てればいいわけじゃない」
「定石通りの戦いなんてつまんない。自分のやりたいようにやって、勝てた時の方が嬉しいに決まってる。それに...」
湯船に浮かびながら、巨大な浴室の無機質な天井を見上げる。あの時会ったおにいちゃんは、お母様のことを知っていた。「噂で知っている」ではなく、本人と正面から相対したから知っている。そう言っているような気がした。
もちろん確信があるわけじゃない。でも言葉から、瞳の光がそう物語っているように感じた。自分らしくないとわかってる。御三家の一角であるアインツベルンの当主である私が、そんなことで手を引くなんて可笑しい。でもお母様のことを知りたい。そんな子供心から戦いを止めてしまった。私を捨てた切嗣が育てた衛宮泉世。彼がどんな人間なのか知りたいと思う自分がいる。
造られたはずの自分が人間らしい感情を抱くなんて、あまりにも馬鹿馬鹿しい。...でも何処かで喜んでる自分がまたいる。たった数分話をしただけなのにこの変化。一緒にいたらどうなるのか気になる。
「...それに私は強い。〈バーサーカー〉は世界で1番強い。強者が揃って成し得ないことなんてない。そう私は確信してる」
待っててね泉世おにいちゃん。次に会った時はたくさん遊んであげるんだから。そう心の中で思いながら私は眼を閉じた。
アンケート結果によって、以前投稿した話でのセイバーとの会話などが変更になる場合があります。
セイバーのちょろさについて
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原作通り
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ちょろインのまま
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足して2で割った性格