オルタさんと恋したい   作:ジーザス

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バビロニア、エレちゃん次話で登場かな?かなり期待している作者です。


結界の撤去作業

間桐雁夜、〈御三家〉のひとつであるマキリ改め間桐家の次男坊だ。初めて会ったのは、桜が間桐に養子に出された少し後のこと。ちょうど〈第四次聖杯戦争〉が始まる1年前。年齢相応に外ではしゃぐ遠坂凛の遊び相手として、同行していた俺に話しかけてきた。

 

『君は一体誰なんだい?』

 

葵さんに『少しばかり彼と話をしたい』と言って、2人から少し離れた場所で人を疑うように、人を値踏みするように見てきた。

 

『お初にお目にかかります。自分は此度の〈聖杯戦争〉を体験するため、イギリスから赴いた者です』

『体験するため?死ぬかもしれないというのに?君のような幼い子が何のために。君は魔術師なのか?』

『魔術世界では有名な家系の跡継ぎですね。貴方が捨てた魔術(・・・・・・・・)の』

『っ!』

 

皮肉を込めた言葉に、怒り心頭なご様子の雁夜はひどくやつれているように見えた。桜の事情を知った時と同じぐらい、表情を曇らせている。というより何故俺が「魔術を捨てた」ことを知っているのか聞いてこないんだ?疑問だ。普通ならば聞いてもおかしくないというのに。もしやあれか?葵さんからとか時臣氏から聞いたと思っているのだろうか。

 

『何故君はこの地に来たんだ?何故遠坂家に片寄せをする?』

『遠坂家当主 遠坂時臣氏に呼ばれた(・・・・・・・・・・)からですよ。別に何か理由があって、遠坂家についているわけではないです。呼ばれた家が遠坂家だった。それだけの話ですよ』

『...年相応の言葉遣いと態度には見えない。君は本当に凛ちゃんと同い年なのか?』

 

たった数分でそこまで見破るか。いや、こればかりは、俺の言葉遣いと態度に問題があったように思える。間桐雁夜。魔術師としての才能が、衰退していく一方の間桐家にしてはあったはずなのに、魔術そのものを毛嫌いして家督を継がなかった。価値観や感覚的には一般人と大差がないため、魔術を嫌悪している。ある意味切嗣と似たような存在だ。魔術師でありながら魔術師らしからぬところが。...間桐の正統な魔術師ではないから、あまり一概には言えないか。

 

一般人としての生活と幸福を求めるが故に、魔術師の方針である、個人の才能によって人生を決められることを許容しない。

 

『まあ、家が家なので。それに経験=年齢でありませんから当てにはなりません』

『これだから魔術というのは嫌いなんだ。子供は子供らしく生きていくべきなのに、大人の勝手な妄想と願望で人生を狂わせられる』

『間違いなくその通りでしょうね。でもそれを貴方が言う権利はあるのですか?魔術を捨てた(・・・・・・)貴方が』

『...何が言いたい?』

 

憎悪にも似た感情を瞳に宿らせて、俺を脅すように見下す。雁夜の〈聖杯戦争〉への参加理由は、桜の救済と葵さんの幸せ。普通に考えれば素晴らしいことだと称される。

 

自分を犠牲にして他人を救う。切嗣や士郎と同じ考えであるはずなのに、何故馬鹿馬鹿しく思えてくるのだろう。他人の幸せを望むことは、簡単に出来ることではない。自分を犠牲にして、他人を救うことなど簡単に出来ることではない。

 

なのに何故幼稚(・・)だと思ってしまうのだろう。

 

『魔術を否定したいならば、それなりの結果を出してから否定するべきだ。実績のない人間が評価されないように、今の貴方の言葉には何の重みも無い。自分の感情を押し付けたただの飾り物だ』

『っ!俺にはその権利がないと言うのか?』

今は(・・)という注釈付きです。魔術を否定するなら、貴方自身の魔術で証明すればいい』

 

あぁ、なるほど。何故その言葉を褒められなかったのか今になったからわかる。彼の言葉は軽かったのだ。中身のない外見だけの言葉だったからだ。切嗣や士郎のように、言葉通り何かをすることがない。だから説得力がなく共感も抱けなかったのだ。

 

理想を抱くだけ。

 

理想を口にするだけ。

 

それにどのような意味があるのか。確かに口にすると考えるでは大きな違いがある。

 

口にしても行動しないのならば意味がない。

 

考えるだけで行動しないならば意味がない。

 

結論からすれば、口先だけの思考だけの理想論は何も考えていないのと同じこと。口にしたならば行動し、最後の最後まで足掻き続ける。

 

それが魔術師ではなく人としての責任だ。

 

『あと1年でできることは限られている。でも何もせず失うだけならば苦渋を舐め、激痛に耐え、血反吐を吐いてでも抗うしかない』

『...あぁ、やってやるさ。桜ちゃんのため、葵さんのため、凛ちゃんのために俺はやってやる。俺はマスターとして戦う(・・・・・・・・・・・)さ!』

 

踵を返して歩き去る雁夜の背中が見える。普通の人間と何ら変わりない、特に大きくも小さくもない背中の責任感。現れた頃より遥かに重く痛いものがのしかかっている。だというのに、それを感じさせない強固な意思が満ちている。覚悟を決めたようだが、所詮は其の場凌ぎのものでしかない。10年もの間、魔術から遠ざかっていた。いや、遠ざけていた雁夜では、1年間でどうこうなるほど才能を伸ばすことは出来ない。

 

推測ではなく断定だ。感覚を取り戻せても、使いこなせるかどうかとはまた別の話。

 

 

 

 

 

〈第四次聖杯戦争〉は、始まりから終わりまで幾つもの感動と絶望が入り乱れていた。

 

己の願望のためにサーヴァントを切り捨てる者。

 

己の理想のためにサーヴァントを無視する者。

 

己の欲望のために関係のない人間を巻き込む者。

 

類を見ない残酷・卑劣・傲慢が泉のように溢れては流れ出た。それを体現したもの。死傷者500名以上、倒壊した建造物その数実に300以上の未曾有の大災害。すなわち《この世すべての悪(アンリマユ)》を形にした《聖杯の泥》だ。それは世界の変革を促そうとした。人間という醜悪な存在がある限り、生物は居場所を失くしその数を減らしていく。

 

だが人間はそれに気付かない。気付いたところで救済を施そうとも手遅れでしかない。もしくは気付いても見て見ぬ振りをするかもしれない。自分たちには関係がない。今対策をしたところで、効果が現れるのはずっと先のこと。自分たちがしなくても誰かが代わりにやってくれる。

 

無責任な責任転嫁は、今に始まったことではなく昔からありふれたものだ。世界の技術が進歩しようと、文明が発展しようと、人間の根本的なひねくれた本能は変化していない。

 

生物の成長にあたる〈進化〉も〈進歩〉も見かけない。

 

〈定常〉または〈退化〉にあたると考えられるかもしれない。

 

 

 

 

 

遠坂にイリヤと休戦協定を結んだ旨を伝えた日の翌日。珍しく連日の朝練に顔を出した俺だったが、普段なら来ているはずの美綴が来ていなかった。珍しく遅刻かと思っていたのだが、練習が終わっても顔を見せることはなかった。

 

無断欠席などこの2年間1度もない。ましてや遅刻さえなかった美綴が今日に限って忘れるだろうか。微妙な感覚に心を揺さぶられながら、1限目の授業に向かうのだった。

 

 

 

ピシッ。

 

「起きろ衛宮泉世、授業中だ」

 

頭部に衝撃と耳に鋭い音が聞こえて眼を開ける。視線を向けると、黒い表紙の学籍名簿を右手に、無表情で見下ろす高身長の男がいる。どうやら昼食後の満腹感による眠気に抗えず、日の差し込む窓際で寝落ちしていたらしい。

 

「すいません葛木先生(・・・・)

「お前が授業中に居眠りか。普段の生活態度から鑑みて、減点することはないが気をつけることだ」

「...え?あ、はい」

 

普段とは違い、意外に饒舌だったことに驚く。言葉を単調にそして短くまとめるだけの発言しかしない男が、長々と喋ることが初めてで反応が遅れる。

 

「...第一次世界大戦以前、プロイセンの首相ビスマルクが掲げた〈鉄血演説〉について簡潔に答えろ」

「ドイツ統一を果たすため、軍備拡張を論じた〈鉄と血〉という言葉に由来します。鉄とは銃や砲弾、戦車、戦闘機、爆撃機などを示し血とは兵士の流す犠牲です。これによりビスマルクは〈鉄血宰相〉の呼び名を与えられました」

「...授業を続ける」

 

授業内容に沿った質問だったようだが、生憎俺は歴史にはそれ相応に強い。興味があるため調べたりする程度だが、学校程度の内容であればある程度習得済みだ。

 

去り際に感心する様子で俺を見るように左手の甲を見てきた。左手の甲はテーピングをしているので、〈令呪〉を見ることなどできない。周囲には、料理中に皿を割って怪我をしたと言っている。正直、騙すことはあまり好まないがTPOを考えて我慢しておく。

 

刺青のようにも捉えられる可能性もある以上、生徒指導に何かを言われるの癪だ。しかし遠坂や士郎はどうやって隠しているのだろうか。士郎が何かで隠しているようには見えなかった。...そういえば、ずっと左手をポケットに突っ込んでいた気がする。

 

教卓へと移動し、黒板に文字をつらつらと書いていく葛木宗一郎の背中を不自然にならない程度に睨みつけ、生徒から評判の良い授業に耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

『本日の部活動はありません。生徒のみなさんは速やかに下校してください』

 

予め録音していた音声を教師が放送する。近頃はぶっそうであるため、部活動を規制しており、生徒は余った時間をどう潰そうか悩んでいる。命の駆け引きをしているこちらからすれば、実に羨ましい悩みだ。

 

仲の良い友人の家に上がってゲームでもするのだろうか。それとも今日出た課題を減らすため、勉強机にかじりつくのか。人それぞれの行動にそれほど興味を抱かずに考える。校庭を見ると、1人で帰宅する者・数人の友人同士で帰宅する者・カップル同士で手を繋ぎ仲睦まじく帰宅する者。

 

その背中が眼に映る。視線を逸らせばいいだけの話だが、暇な以上それ以外にすることがない。

 

「お待たせ泉世」

「遅れて悪いな泉世」

 

屋上の扉を開けて、遠坂と士郎が軽く謝罪しながら歩み寄ってきた。

 

「葛木先生はともかく、藤姉が時間通りに終わるなんて珍しいな」

「苦情が来てるらしい。SHRに割く時間が長すぎて、グダグダになってるみたいな感じで」

「なるほどね」

 

十中八九生徒からの要請だろう。葛木先生のクラスは担任の性格も相まって、簡潔しかし十分に話した上で迅速に終わらせている。もちろんクラスからの評判は上々だ。

 

「そういや話しておくべきことがある」

「話しておくべきこと?結界の解除に取り掛かる前に聞くべきか?」

「決して俺らが無視できる事じゃない」

 

真面目な顔で俺たちを見る士郎に押される。遠坂と視線を交わしてから、士郎に話をするように頼んだ。

 

「昨日、夜遅くの部活動に出た生徒が帰ってこないと職員室に連絡があったらしい」

「今日の部活がないのはそれが理由か」

「そうだろうな。今日の昼、生徒会室で一成と葛木先生が話していて、一成に聞いたんだがその生徒は美綴らしい」

「...今日の朝練に来てなかったのも行方不明だったからか。クソ、もう少し周囲に配慮してればこうはならなかったのに」

 

言い訳かもしれないが、《転生》してからというもの、どうもこの世界における知識が薄れていっている気がする。完全に消えるわけではないが、その部分に霞がかかったように何も思い出せなくなる。文字に残しておこうにも同じような現象が起きる。《抑止力》が邪魔をしている?

 

馬鹿馬鹿しい。

 

「そんなことできるわけないでしょ。市全体の人間を把握するなんて、私たちに出来るわけないじゃない」

「あぁ、勘違いしてたよ」

「それから最後の目撃証言は、慎二と美綴が口喧嘩しているところだったそうだ。慎二に事情聴取しようにも何故か無断欠席してる。桜にも聞いてみたが数日見ていないらしい」

「怪しすぎるよな。前日に美綴と会って今日は休みで、美綴はその後行方不明。怪しんでくださいって言ってるのと同じだ。それに2人は犬猿の仲だから余計に疑われるってもんだ」

「慎二が来ていない以上、あいつのことを考えても意味がないわ。まずはここの結界を解除することを優先しましょう。泉世は何か気づいたことがある?」

「ここの結界はあまりにも粗くて脆い。それも〈聖杯〉に喚び出されたサーヴァントが使うような代物じゃないな」

 

ここに造られた結界は問題が多すぎる。強力な結界に時間と魔力が必要となるのは当然だ。だが発動待機中の結界はそれほど強力なわけでもないにもかかわらず、必要量の魔力が膨大すぎる。それもマスター1人で補えるような量ではない。ましてや学校の生徒を生贄にしても、ギリギリ足りるかどうかという瀬戸際だ。故に造るにしては作業効率は悪く、発動させたところでさしたる意味もない。

 

つまりは無駄だということだ。

 

「全くもって同意見。サーヴァントが技量不足なのか、マスターが衛宮くんみたいに素人なのか。まあ、どっちでもいいか。朝から調べてたんだけど、どうやら少しばかり面倒みたい」

「遠坂、面倒ってどういうことだよ」

「衛宮くんは結界にも種類があるってこと知らないのね。簡単に言うと、ここの結界は付属の小さな結界が至る所に張り巡らされていて、それを解除しない限り大元の結界の基点を見つけられない仕組みになっているのよ」

 

「どうしてそんな手間を」という遠坂の文句を、左から右に流して考える。大きな結界の基点を隠すため、小さな結界を張り巡らしていれば、そりゃまぁ規模が異常なほどでかくなる。「塵も積もれば山となる」という諺を体現した結界というわけだ。

 

さて、その結界の解除に移行するわけだが。見つけるのは案外難しいと思われる。結界を作るには魔力を必要とし、それらを認識できる魔術師なら簡単だ。だが必要な魔力が少ない術式を使われてしまうと、如何に魔術師と言えど発見は困難を極める。それに何処に在るのかを見つけるためには、ある程度接近する必要がある。学校の何処にあり、どれほどの数があるのか分からない以上、難易度は数段跳ね上がる。

 

それもこの土地面積だ。3人で捜索するにも範囲が広すぎるし、士郎を単独行動させるには危険が高すぎる。ここに結界を造ったならば、マスターやサーヴァントが何処かに常駐しているだろう。迎撃できるだけの能力を持たない士郎は、到底太刀打ちできない。ならば〈セイバー〉を呼べばいいと思うが、〈令呪〉を無駄にするわけにもいかない。今の士郎には2画しかない(何故か1画だけ俺にあるが)。

 

この先どれくらい〈聖杯戦争〉が続くか分からないから、残しておくに越したことはない。まあ、出し惜しみも愚の骨頂になるが。

 

「話をしているのもなんだし、そろそろ開始しましょうか。昨日みたいな失態(・・・・・・・)は勘弁だし」

「あれは遠坂のせいだけどな」

「衛・宮・く・ん?」

「あ、はい...」

 

昨日は遠坂が突然現れたゴキブリを見て叫び声を上げ、《ガンド》を打ちまくったせいで、《認識阻害》の術式が壊れてしまった。それにより駆けつけた警備員や教師に見つかりそうになった。どうにかこうにかして退散したせいで、ロクな捜索もできず時間を無駄にしたのだ。

 

「いつマスターやサーヴァントがでてくるかわからない。可能な限り近くにいるようにしようか。まずは本校舎の3階から始める。俺たちはA組からC組、遠坂はD組からE組を頼む」

「何かあったら《認識阻害》が壊れない程度に叫んでね」

「あいよ」

 

士郎の肩を軽く叩いて、「行くぞ」とアイコンタクトしてから屋上の階段を降りていった。

 

 

 

それから階段を降りて、3階の廊下を手当たり次第に確認する。特に発見することもなかったので、二手に別れて各教室を調べている最中だ。

 

「...ここまで面倒だとは思わなかった」

 

窓や椅子の裏、机の内部などを虱潰しに見て回る士郎が愚痴った。しかし文句を言いながらも作業を続けている当たり、それほど気にしていないのかもしれない。

 

「仕方ないだろう。そうでもしなきゃ見つかるもんも見つからない」

「ん?泉世、見つけたぞ」

「やるな士郎。発見一番乗りはお前だ」

 

士郎の見つけた椅子の裏を覗くと、禍々しい模様をした術式が描かれていた。椅子をひっくり返し、魔力を込めた掌を術式に触れさせる。魔力で防御しながら術式の回路を把握していく。一度敷かれたあらゆる術式は、他者の干渉を反発させる特性を併せ持つ。素手で触れれば弾かれるばかりか、強力なものであると怪我をする恐れがある。

 

この術式は結界の基点を隠すために使われているので、特にこれといった危険性はない。それでも万が一の場合も考えて、予防することに越したことはないだろう。

 

術式は魔術回路を幾重にも巡らせたものでだ。簡単に表現するならば、編み物などの縦糸と横糸を複雑に絡ませたものである。本当はもっと複雑だが、このような表現は案外的を射ている。結界を構築する回路は、周囲に張り巡らされたものと比べて、大きく複雑に形成されている。それを辿れば、回路の重要箇所を発見できる。それに魔力回路には魔力が流れているから、それを辿ることで源を探ることも可能だ。

 

手を添えてから数秒で見つけた俺は、その部分に術式の効果をなくす術式を上書きした。これによりここに敷かれていた術式は、二度と発動することはない。

 

「作業が早いな泉世は」

「戦闘系の魔術が苦手な分、こういうことに関しては適性があるからな。さて、次はB組だな」

 

椅子や机を元に戻してから隣の教室へと入る。各教室は鍵をかけられているが、魔術を使えばちょちょいのちょいで解錠できる。

 

もちろん旧式の鍵穴式だからできるのであって、オートロックなどに使えばセンサーに引っかかってお縄になる。そんなことにはなりたくないので、試す気も起きはしない。

 

その部屋でも同じように士郎が見つけるので、俺は上書きするだけで作業は特になんともなかった。そこで思い出したことを士郎に伝えておく。

 

「万が一のことがあれば、〈令呪〉を使って〈セイバー〉を喚べ。何かあってからでは遅いからな」

「でも〈令呪〉は回数制限があるんだろ?あんまり使わない方がいいんじゃないか?」

「使わずして死ぬつもりか?死んだら元も子もないぞ」

 

悩んでいる士郎を引き連れてC組の教室へと入った。ここでも似たような場所に敷かれていたので、何の問題もなく上書きしておいた。

 

「思っていた以上になかったわね。廊下にあったものは解除されてたし」

「敷いたのを自ら消したって感じだったけどな」

「3階に少ないってことは、他の階に準備しているのか...」

 

既に終わっていた遠坂と合流して、見つけた個数や情報を共有し合う。これだけ大きな結界の基点を消すなら、かなりの数が必要なはずだ。遠坂が消した数と俺たちの数を合わせたところで、10にもならない。

 

「キャーッ!」

 

突如本校舎一帯に女子生徒の悲鳴が響き渡った。3人で顔を見合わせて階段を落ちる(・・・)。降りるではなく落ちる。3階から1階まで、階段を使わず飛び降りた。魔術を用いて慣性を減少させてから着地する。衝撃も痛みもまったくなく、音を立てることなく着地する。約1名は全速力で駆け下りてきたが。

 

悲鳴が聞こえた辺りを目指して走る。すると廊下に女子生徒が1人、青白い顔色をしながら倒れていた。抱き上げて口元に掌を当てる。呼吸をしているが浅くて速い。どうみても危険な状況だ。救急車を呼ぶべきだが、下校時間を早めて誰もいない状況では、何故残っているのか怪しまれる。

 

「遠坂、頼めるか?」

「これくらいなら手持ちの石でなんとか」

 

遠坂に治療を頼んでいると、士郎が女子生徒の傍に屈んで申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「あんまり自分を責めるな。できないことだってある」

「あぁ、でももしかしたら傷つくことはなかったかもしれない」

 

「すべての人間を救う」という理想故に、今の状況を自分のせいだと思い込む。優しさと言うべきか愚かなのか。評価を下すことが非常に難しい。

 

()、危ない!」

「え?きゃっ!」

「ぐぁっ!」

 

何かが飛来してくるのを感じ、治療中の遠坂を庇うように突き飛ばして自身の身体を晒す。だが俺の身体には何の傷も残さずに鮮血だけが飛び散った。視線を戻すと、士郎の右腕に鎖の付いた短剣が突き刺さっている。

 

「...っ遠坂、その娘のこと頼んだ」

「士郎!?」

「衛宮くん!?」

 

何処かへと走り去っていく士郎の背中を、数秒間眺めてから我に返る。

 

「あんの馬鹿!後先考えず行動しやがって!」

「え、ちょ泉世も!?それよりあんた今あたしの...」

 

士郎を追いかけて去っていく俺の背中に向けて何か言ってきたが、聞き返す余裕などない。何より士郎を救うことが最優先だからだ。遠坂の疑問と士郎の安否。比べる必要もないほど決まっている。義家族であり守るべき弟のような存在だ。死なせるわけにはいかない。本人の意思に反しようとも、必ず助けると決めた。

 

「士郎!」

 

先に駆け出した男の名前を叫んで、俺は全速力で走った。

セイバーのちょろさについて

  • 原作通り
  • ちょろインのまま
  • 足して2で割った性格
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