継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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大将再来

曙に誘われた釣りで精神鍛錬をし、護衛艦隊として滞在してくれている鳳翔に訓練を受け、私、若葉は心身ともに順風満帆な時間を過ごしていた。こういう毎日が送りたいという時間を体現出来ているため、心穏やかに生活できる。

今はまだ、家村の足取りは掴めていないため、不安なことは多い。いつ施設が襲撃を受けてもおかしくないような状況、緊張感は高まるが、今は仲間達も協力者もいる。前回は大敗を喫したが、次は負けてなるものか。

 

さらに翌日、改めて下呂大将が施設に説明に来てくれた。予定していた日は飛鳥医師の体調が優れなかったので控えたが、1日空けてくれたおかげで不調も取れている。

 

「今日は少し大荷物になってしまいました。施設を防衛しなくてはいけないということは、上も理解してくれましたからね」

 

今回は陸路でやってきた下呂大将。だが、護衛の第一水雷戦隊は海路で来たので、少し驚く。いつもとは違う登場の仕方。

 

「本当は艤装として持ってきたかったんですが、この施設は鎮守府ではないですから、武装の譲渡は禁じられています。ですが、()()()()()は問題ありません。実際、鎮守府から出た廃材で別のものを作る企業もありますしね」

「助かります。集めた漂着物も全て失われたので、艤装の修理もままならなかったところです」

 

以前と同じなら第一水雷戦隊の6人が乗っているコンテナには、大量の資材が積み込まれていた。艤装がそのまま入っていることは無かったが、これを組み上げれば新たな艤装を作り上げることが出来そうなものばかり。

他の者から見ればゴミの山でも、私達から見れば宝の山。使えなくてもエコの餌である。特にシロクロは、トレーラーの中を見て目をキラキラ輝かせていた。

 

「姉貴姉貴! これだけあれば、武装以外作れるかもね!」

「うん……そしたら私達も……少しはお手伝いできるね……」

 

廃材には艦娘の艤装以外のものも沢山含まれている。深海棲艦の艤装の残骸もだ。普通の鎮守府では残すことなく捨てるものでも、シロクロには自分の艤装のパーツになる可能性のある重要なもの。

これで艤装が組み上がれば、シロクロも戦力としてカウント出来る可能性がある。本来の武装は難しいかもしれないが、潜水艦という特性が非常に強い。

 

「ここからまず4人分の艤装だろ、シロクロの艤装と、あとリコの艤装にちょいと細工がしたいし、やれることが多いな」

 

摩耶は摩耶で、もう整備のことを考え始めている。

 

「ではこの荷物を下ろすのは後にするとして、先に例の件の話をしましょうか」

「了解です。人数も増えてきたので、食堂になってしまって申し訳ないですが」

「この施設に講堂や会議室は本来必要ないものなのは理解していますから、全員集まれればそれでいいですよ」

 

ここからは近海の警戒は第一水雷戦隊に任せ、ここにいる者は下呂大将の話を聞くこととなる。私達を苦しめている元凶に辿り着けたのか否か。

 

 

 

今ここに滞在しているのは20人弱。職人妖精に拡張してもらったおかげで、余裕とは言わないが食堂に全員入ることが出来た。

まだ少しだけ痛むということで、姉だけは車椅子。私はその隣につくことに。他は五体満足であるために、普通に着席。

 

「集まりましたね。では早速、私がここ数日で調査したことを共有しましょうか」

 

緊張感漂う食堂。誰も音を立てることなく、静かに下呂大将の話を聞く。

 

「まず、あの大淀の素性から」

「家村の秘書艦なのでは無いんですか?」

「それはそうですが、問題はそこではありません。彼女の経歴におかしなところがあります。それは、内通者の目出から探りました」

 

本人も言っていたことではあるが、大淀という艦娘は、どの鎮守府にでも1人いる任務娘として配備される。来栖提督のところにも当然配備されており、秘書艦ではなく事務担当として執務室で働いているらしい。任務の総括や大本営との円滑な仲介など、艦娘ではないような仕事をしているのだとか。

その大淀の艤装は、少し特殊な経緯で手に入るらしい。そのため、出撃させるためにはある程度の手順を踏む必要がある。来栖鎮守府の大淀は、艤装を持たないそうだ。そのため事務のみとなっている。

だが、家村の大淀は普通に出撃してきた。あの艤装が正規品かは知らないが、練度も桁違い。ある意味おかしなところではあるが、出撃出来ないわけではないので、それだけ見ていると普通だ。

 

「おかしなところ、とは?」

「あの大淀はドロップ艦、さらにはD()()()の艦娘です」

 

任務娘として配備される大淀は、大本営が独自に建造することで各鎮守府に配備している。ドロップもするらしいが、極々稀らしく、それを待つくらいなら建造した方が早いとのこと。

だが、家村の大淀はドロップ艦。建造ではないことは少し珍しいが、大本営が保護したドロップ艦の大淀を任務娘として教育し、鎮守府に配備することは無くは無いそうだ。そもそもドロップが稀なので、そのケースが恐ろしく少ないだけ。

 

それに加えてさらに珍しいD事案。機密なのだが普通に話してしまった。

雷の正体で私達はそれについては何なのかは知っている。つまりあの大淀は、深海棲艦を素材にドロップした艦娘。深海棲艦の生まれ変わりであると。

 

「家村の鎮守府にあの大淀を配備したのは目出です。大淀の発見、並びに教育を行なったのもですね。だから、家村との繋がりはそこからあります」

「なら、大淀がああなっているのは目出のせいであると?」

「いえ、ここからは少し憶測が混ざりますが、大淀は()()()()()()です」

 

少し騒つく。戦った私達が一番驚いていた。

そもそも深海棲艦の匂いがしていたのもアレだが、最初からあんなふざけた奴だったとしたら、よくもまぁ家村が何も気づかなかったものだ。余程能天気なのか、大淀が隠すのが上手いのか。

どちらであれ、アイツのやっていたことは、家村が鎮守府を持った時から始まっていたということか。

 

「そこはまだ想定ですから置いておきましょう。では本題です。家村の行方ですが、簡潔に言います。()()()()()()()()()()

 

騒ついたと思ったら、今度は一気に静まり返る。

 

「鎮守府で発見した家村らしき死体は、他人のものでした。若葉のおかげですぐにわかりましたね」

「薬の匂いと、知らない煙の匂いか」

「はい。私の知る限り、彼はタバコはやりません。ですから、死体を工面して逃げ果せているのかと思っていました。やたら食糧も減っていたのも、必要分だけ持って出ていったのかと。ですが、そうじゃない。家村は()()()()()()()()()

 

想定外すぎた。なら私達に指示を出していた、あの貼り付いた笑みの男は何者だったというのだ。いや、少なくとも指示を出す姿は見たことを私は無かった。建造され、成り行きのままについていっただけだ。

言われてみれば、あの男が提督ではないと言われたら納得出来る要素はある。

 

「目出は最後までそこを隠蔽しようとしています。まだそういう証言もしていません。ですが、状況証拠からしてそれが一番正しい」

「何を根拠に?」

「新人提督は1年間月に一度、大本営からの監査が入るんですが、それを全て目出がやっていました。大淀を配備した縁として。だから、鎮守府で活動している家村の姿を知るものは目出しかいません」

 

ならば、()()()()()()()()()隠蔽していたということか。実際は大淀と目出がグルになっていたと。

 

「そこで1つ。私の知る家村の写真を持ってきました。ここには悪事を働いていた家村を知る者がいますからね。これでそれが繋がります。どうですか?」

 

下呂大将が懐から1枚の写真を取り出した。履歴書か何かに使われているものなのだろうか、真正面を向いた凛々しい表情の男の写真。

 

()()()()()()()()()()()()が、そこに写されていた。 

 

私もだが、一番身近にいたであろう姫であった夕雲や風雲ですら、その写真を見て驚いていた。誰だコイツと騒つく。

 

「鎮守府にいる男というだけで、その者を提督と考えてしまう。さらにはその男は提督として振る舞った。この男は艦娘を統率するために大淀が立てた代理でしょうね。拾ってきたのは目出でしょうか」

 

その男を大淀が裏でコントロールしていたとすれば、私達が生み出された鎮守府は、最初から大淀が鎮守府を牛耳っていたということだ。あの大淀なら艦娘を捨て駒のように扱ってもおかしくはないだろう。

なら家村は何故殺されたのかとなるが、それはすぐに考えつく。大淀に反抗したからだ。クズでも何でもなかった。下呂大将の教えをしっかりと守る、素晴らしい提督だったのだ。

 

「なら、大淀は黒幕だというのに戦場に出てきたということですか」

「そういうことになりますね。まだ家村は生きていると錯覚させる手段になりますし」

 

提督の指示と言っていたし、家村が生きているように仕向けている感は確かにある。

それもこれも、時間稼ぎをしているのではないかと下呂大将は言う。裏で何かやっているのは私にもわかる。それを成功させるために、誤報を流すように嘘をつき、下呂大将の目を撹乱しようとしているようだ。

 

「薬での資金稼ぎもしていたようですし、大淀は今頃、自分の鎮守府……いや、研究室を持っているでしょう。それこそ秘密裏に、さらなる協力者、内通者もいるかもしれません。行方を探しながら、そちらも調査するつもりですよ」

 

それこそ、飛鳥医師に匹敵するような医療研究者が仲間にいるかもしれない。麻薬精製、それに大淀の身体をああ改造した者もいるかも。黒幕は大淀としても、協力者は相当数いる可能性はある。

それに少なくとも、呂500、巻雲、朝霜と、名前が上がっているだけで3人の姫もいる。それ以上に姫がいると見て間違いない。その辺りはどうせ誰も死んでいないだろうし、その鎮守府だか研究室だかにいるのだろう。それらの救出も考えなければ。

 

だが、大淀はダメだ。救出など考えている余裕が無い。奴だけは死以外の選択肢は無い。

と、ここであの戦闘を思い出す。あの大淀はおかしいと判断出来る言葉をいくつも言っていた。特に、私が変化した時の言葉。

 

「大将、若葉から質問いいか」

「はい、どうぞ」

「あの大淀からは深海棲艦の匂いがした。それに、若葉がこうなったときに、『そこまで行けていない』と言ったんだ。これはどういう意味かわかるか」

 

あのときは確かにそういった。私の今いる場所は、大淀が向かっている場所なのか。こんな深海の力に侵された身体が、大淀にとっては求めているものなのだろうか。

下呂大将は顎に指を置き、頭を捻る。これに関してはまだ判明していないことのようだ。

 

「D事案の大淀ということで、何かをして深海棲艦に近付いたのではないかとは思いますが、それが何かはまだ。飛鳥から聞きましたが、ここの雷はD事案だとか」

「ええ、私は治療でお腹に入ってる子が、元々の私と一致しちゃったみたいで」

「そうですか。ですが、あの大淀は雷とは違うんですよね?」

「ああ、匂いが違う。雷はしっかり艦娘だが、大淀は見た目だけ艦娘という感じだ」

 

その辺りの身体の謎は飛鳥医師が研究するとして、大淀が深海棲艦の匂いがする件はついでに調べてくれるとのこと。決めつけは良くないが、おそらくあちらの研究による改造だとは思う。

 

「今はこの辺りにしましょう。確証が持てている、もしくはほぼ確実な情報は出しました」

「ありがとうございました。こちらで協力出来ることはやらせてください」

「先払いしてもらったようなものですよ。飛鳥の治療で何人もの艦娘が救われていますからね」

 

そう言いながら夕雲達を見た。

一番最初に治療された霰は、もう殆ど禁断症状が出ないほどに回復し、艤装さえあれば出撃すら出来るほどに。夕雲と風雲も大分回復している。まだ幻覚と幻聴に悩まされているものの、頻度は大分落ちているそうだ。姉は言わずもがな。

来栖鎮守府では42人の人形達全員の治療が終わり、禁断症状の治療の日々を送っているそうだ。そのうちあちらに行って、全員の匂いを嗅いでおかなくては。

 

これは飛鳥医師の大きな功績だ。飛鳥医師がいなければ、誰も治療されずに放置されることになっていた。姉を助けてもらっているため、私もとても感謝している。

 

「飛鳥、これからも頼らせてもらいますよ」

「はい、任せてください」

 

医療に関して、飛鳥医師の右に出るものはいない。それを手伝うことが出来て、私達も誇りに思う。

 

今回の事件の真相はまだハッキリとは判明していない。だが、大淀が明確な敵として判明しただけでも充分だ。

今後は大淀の行方を調査しつつ、襲撃に備えることとなる。私達は、この施設を守るために切磋琢磨していく。

 




事件の真相が少しだけ。大淀は本当に何者なんだというところに。

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