継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

121 / 303
人を殺す力

翌日、足柄と羽黒による特訓が開始される。特訓の対象は勿論、私、若葉率いる第五三駆逐隊と、姉、初春率いる第九二駆逐隊。この施設を守るため、中立区の抑止力として、私達は力を付けていくことになる。

今の段階では全然足りないことは、前回の戦いでわかっている。4人がかり、8人がかりでもまるで太刀打ちが出来なかった。それをどうにかするために、まずやらなくてはいけないことは、艤装と武器の改造である。

 

その前に、朝食の場で飛鳥医師の発表。

 

「新さんから連絡があった。監査の結果は良好。むしろ、先日の襲撃で新さんと先生が狙われたことで、武装強化の方針も固まった。……あまり喜べることではないが、殺傷兵器の所持も特例で許可された」

 

この事件が終わるまでという期限付きで、この医療施設は予備鎮守府として扱われることとなった。提督不在、もしくは下呂大将や来栖提督の指示による特殊編成部隊。相変わらず入渠ドックを入れることは出来ないが、多少の高速修復材の使用と、水鉄砲以上の主砲の所持が可能となる。

飛鳥医師としては不服かもしれない。人を生かすための施設に、人を殺すための武器を入れることは抵抗があるのだろう。しかし、そうでもしないと根本から潰されてしまうのが現状だ。苦肉の策ではあるものの、ここまでしてようやく一矢報いることが出来る程度。

 

「摩耶、武装の設定を変更してくれ」

「了解。シロとクロにちょいと手伝ってもらうぜ」

「うん、大丈夫だよ。海水から弾が作れるようにしたらいいんだよね」

 

主砲の設定を変更し、水鉄砲から実弾兵器へと変更される。ガワは艦娘の武装でも、中身は深海の武装だ。海水さえあれば無限の弾薬により攻撃出来る。あちらの巻雲が使う主砲もそれなのだから、これでようやく武器だけは互角。

 

「ここ最近は近海に深海棲艦の発生も見られないが、またいつ出てくるかわからない。その対処も全面的に僕達に一任された。皆、協力頼む」

 

殺傷兵器を持つことが出来るということで、近海に発生した深海棲艦の対処も出来るようになる。撃破するのは心が痛いが、やらなければ私達が全滅してしまうのだから、辛いがやるしかない。

 

「では頼む。今日からは足柄と羽黒の訓練だったな」

「ええ、任せて。私と羽黒で、この子達に勝利をあげるわ!」

「敵が強大であることは聞いていますから。お任せください」

 

今日からは、その設定を変えた武器を使っての訓練となるだろう。私と曙も、近接武器だけでは足りない可能性がある。覚えられることは全て覚えなければいけない。

 

 

 

朝食後すぐに摩耶達が武装の設定を変更してくれた。これにより、施設に属する全員の武装は水鉄砲から殺傷兵器へと生まれ変わる。

 

「訓練の前に、まずは撃ってみた方がいいわ。的ってあるかしら」

「廃材かき集めて適当に作ったのはあるぜ。水鉄砲の訓練用な」

 

足柄に促され、摩耶が的を用意。確かに、水鉄砲とは違う感触である可能性は非常に高い。相手を破壊するほどの火力が出るようになるのだから、撃ったときの衝撃も今までとは違うかもしれない。片腕で撃てるかも不安。

 

「うーし、用意したぜ」

「なら、そうね、三日月。ちょっと撃ってみなさい。その代わり、ちゃんと両手で、いつもの感じと思わないように」

「は、はい、わかりました」

 

慣れているのは後衛組である雷と三日月。2人とも片手で放つことも多いので、それでは危険かもしれないことを念を押した。

 

「では、撃ちます……っ!?」

 

トリガーを引いた瞬間、今までの水鉄砲とは違う爆音と共に実弾が発射された。衝撃のせいで弾は的から大きく外れ、三日月も尻餅をついてしまう。

 

「まぁ、こうなるわよね」

「これが、()()()()という事ですから」

 

羽黒の言葉にゾッとした。

今まではなんだかんだ人を殺すことの出来ない武器ばかり使っていたため、殺意があったとしても少し安心していたところがあったのだろう。だが、今後は違う。殺意が無くても命を奪うことが出来るようになる。

破壊力が高くなれば、当然反動だって強くなる。それを直に受けて、三日月はキョトンとしていた。手もビリビリ痺れているようで、驚きでその場から動けないようだ。

 

「今日中に、これをまともに撃てるようになってもらうわ。出来れば片腕で」

「咄嗟の判断で片腕で撃つことも多いですからね」

「羽黒、ちょっと例を見せてあげた方がいいわ。この子達の目指す先ね」

 

三日月から主砲を借りて、徐に1発放った。同じような爆音だが、羽黒は片腕で、さらには的すら見ていない。だが、遠方に置かれた的は弾け飛ぶように破壊されていた。

 

「これ重巡主砲くらい威力ありますね。深海棲艦の主砲を加工したからですか?」

「ああ、だから口径もちょっと大きくしてあんだよ。14cmだな」

「軽巡主砲じゃない。まぁ向こうもインチキしてるわけだし、それくらいはいいかしらね」

 

重巡組はこの主砲についていろいろ話しているが、これを使う私達は気が気でなかった。

私と曙はやっていないが、普段砲撃の訓練と称して的当てをしている他の6人は、いつも使っていた的が破壊されるほどの威力を持つ主砲を使うことになるということで若干怯えが出ている。雷と三日月は、今の立ち位置になって殺傷兵器自体が初めてだ。

 

「あ、アレを使っていくの……?」

「そうなりますね……。まだ手が痺れてます」

「あんなの、当たったら死んじゃうわ……」

 

やはり雷は相手を殺す武装ということに抵抗がある。掠めただけでも怪我をするし、直撃すれば誰だって死ぬ。水鉄砲とはわけが違う武器だ。

さらに言えば、今までとは勝手が違う。三日月が実演したことで、衝撃が段違いであることは明らか。しっかり訓練しないと取り扱うことすら難しい。

 

「嫌ならアンタだけ水鉄砲使ってれば? 私はアレ使うわよ」

 

その雷に対し、少し厳しい口調で曙が言う。

 

「私は死にたくないし、負けたくないの。だから、少なくとも艤装を壊すためにもああいう武器がいるわ」

「でも……でも、当たりどころが悪かったら」

「そうしないためにも訓練するんでしょうが。アイツらよりも技を磨くの。それとも何、アンタはあのレベルの奴を完全に無傷で助けられるとか夢見てるわけ?」

 

完成品は今まで戦ってきた姫、夕雲と風雲とはレベルが違う。そしてそれが、今後わんさか出てくる可能性が高い。今でさえ、たった2人に何も出来ずに全滅ギリギリまで持っていかれているというのに、無傷で救出は今の実力では無理。

だからこそ鍛える。あちらがインチキのゴリ押しで来るのなら、私達はそれを上回る技を得るのだ。乗り越えるために手段は選んでいられない。

 

「覚悟決めなさいよ雷。生っちょろいこと言ってたら死ぬわよ」

「……考えさせて」

 

まだ決断は難しい。だが考えている時間はもう僅かしかない。雷は割り切れるだろうか。

 

「若葉、お前は専用武器だ」

「何か作っていたのか?」

「ああ、お前のための武器だなコイツは」

 

裏から摩耶が持ってきたのは、何やらおかしな形のナイフだった。今までの高速修復材のナイフも使いがてら、こちらも使った方がいいということで摩耶が用意してくれたトンデモ兵器だという。

小銃のグリップの延長線上にナイフの刃が備え付けられたそれは、近距離しか出来ない私に中距離の戦闘を可能にしてくれた。

 

「えーとだな、試製拳銃付き軍刀ってヤツだ。軍刀じゃなくナイフだけどな」

「めちゃくちゃな形だな……」

「拳銃側はまるゆの小銃を素体にした。そんなでも機銃並の火力はあるからな。当然深海仕様、海水での無限弾だ。主砲より射程は短ぇけど、お前にゃこれがいいだろ」

 

つまりは見た目以上の威力はあると。片腕で撃ったら肩が抜けかねないから、まずは両手で持ち、しっかり照準を付けて。刃が邪魔ではあるが、出来ないことはないか。

トリガーを引くと、先程よりは小さめの爆音だが、思った以上の衝撃。以前、近海に発生した深海棲艦をどうにかするために水鉄砲主砲を借りたが、そんなものは目ではないくらいである。案の定、的の方には飛んでいかなかった。

 

「思ったより衝撃があるな」

「さすが前衛組。三日月みたいにはならなかったか」

「筋力が武器みたいなところあるしな。若葉は腕が深海棲艦だから、わりと耐えられるようだ」

 

頑張れば片腕でも撃てそう。足柄もこのトンデモ兵器には感嘆の息を漏らす。羽黒も予想外の武器の登場に目を丸くしていた。

 

「いいじゃない。若葉のスタイルにあってるわ。射撃訓練は必須だけどね」

「ああ、今日からは二刀流だな」

 

まずは今日中にこれがしっくり来るまで使っていかなくては。

 

「私は主砲?」

「槍に付けるのは難しかった。銃剣(バヨネット)も考えたんだけどな」

「よくわかんないけど、その辺りは任せるわ。今はこの主砲で訓練する」

 

新装備は今のところ私だけの様子。曙の槍は私と違って両手持ちのため、武器そのもので主砲との両立は難しい。姉のように空飛ぶ主砲ならいいのだが、あれは初春型独特のシステム。いくら継ぎ接ぎでも、今から曙に組み込むのは流石に無理というもの。

曙は前衛をやりながらも砲撃を覚える方向で強化していく。やれることは全てやっていこうの精神である。

 

「わらわ達は据え置きかえ?」

「いきなり前衛の戦闘は厳しいだろ。今は実弾に慣れるべきだな」

「ええ、その方がいいわ。その時点で勝手が違うんだもの」

 

足柄と羽黒の訓練は、今日いっぱいは実弾に慣れることで費やすこととなる。的がいくつもあるわけではないので、壊しては作り直しになるのだが、その辺りは摩耶が適当に作ってくれるので問題ない。そもそも簡単に当たらないのだから、的がすぐに枯渇することはないと思う。

 

「で? 雷はどうすんのよ。実弾でやるのか、水鉄砲続けるのか」

 

短い時間ではあるが、まだ悩んでいる雷を焚きつける曙。自分のコンビの決断なのだから、自分の戦い方にも関わってくる。

それ以外にも感情が見え隠れしていた。別に雷のことは嫌いじゃないとは言っていたものの、愚痴がかなりの量出ていたので、やはり思うところがあるのだろう。それが匂いに出ている。

 

「……ごめん、やっぱり私、実弾は使えない」

 

目を合わせずに呟いた。

 

「何よそれ。怖気付いたわけ?」

「それもあるわ……。怖いの、どうしても。私の手で人が死ぬかもしれないって思ったら、手が震えちゃう。そんな状態で戦っても勝てないわ」

 

今の雷には恐怖の感情が強い。簡単に命を奪うことが出来る武器に対して、恐怖しか感じていない。

だが、違う感情も感じる。恐怖の結果、自分の道を見つけたような、そんな覚悟。

 

「だから、私は艤装の破壊とかは全部()()()()()()ことにする。その代わり、誰にも苦労させない。やりやすくするためにサポートする」

「どういうことよ」

「私は水鉄砲を極めるわ。水鉄砲に出来て実弾じゃ出来ないこと、いっぱいあるわよね?」

 

例えば目潰し、脚を直接狙った足止め、射角をズラすなど、実弾でやったら確実に相手に重傷を負わせることも、水鉄砲ならやれる。それに、余計な神経を使わなくて済む。脳震盪狙いで気絶させるという芸当も、水鉄砲でしか出来ないことだ。

雷はあくまでもその路線を突き詰めると決めた。人を殺さず、無力化することに特化した者。

 

「それは妥協じゃないのよね?」

「うん、私が出来る一番のことだと思うわ」

「ならいいわ。決めたんなら、しっかり極めなさいよ。私の足引っ張るようならコンビ解消だから」

 

こちらの心配は杞憂だったかもしれない。曙も認めるところは認めている。確固たる意思を感じるのなら、わざわざ強制するようなことはしない。やらせてダメなら強制するかもしれないが。

今はいろいろとある相手でも、戦場ではコンビだ。この辺りはしっかり割り切っている。

 

「だから、ごめんなさい摩耶さん。私は元に戻してほしいわ」

「おう、大丈夫だ。そういうこと出来るように、調整は簡単にしておいたんだ」

 

手早く設定を元に戻して、雷に渡す。使い慣れたものを使い続けるのもいいだろう。新しいことを始めるよりも成長しやすい。

 

「雷は別の訓練を用意した方がいいわね。慣れてる武器なら、もっと高度な技術を手に入れる訓練がいいわ」

「なら私に考えがあります。リコさんに手伝ってもらいましょう」

「ああ、途中からやれないかって言ってたヤツね。雷には先にそれやってもらいましょうか」

 

リコも使った訓練とはどういうことかわからないが、あちらは訓練のプランが出来ているみたいだ。

 

私達はここから、今よりもずっと強くならなくてはいけない。やれることを増やして、まずは目の前の脅威を討ち払う。

私も新しい力を手に入れることが出来たのだ。これを使いこなし、これからの戦いに希望を見出していきたい。

 




試製拳銃付き軍刀、正直めちゃくちゃ使いづらいと思います。でも若葉なら、若葉ならやってくれる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。