継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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雪辱を晴らすために

夜、下呂大将の言っていた通り、風は無いが大雨。

前回とは違い、全員が万全の態勢で待ち構える。寝間着で戦うようなこともなく、装備の準備も万端。仮眠まで取って体調も完璧。

 

曙は熟睡から目を覚ました後、改めて今回の話を聞いた。今晩襲撃が来る可能性が高いと知り、自分の訓練不足を嘆くと同時に、気持ちを切り替えて戦いに臨む。ぐっすりと眠った分、体調も完全に回復し、100%の力を発揮することが出来るだろう。

 

「前の嵐の時みたく、シロクロが先行して調査してくれてる。来たらすぐにわかるぜ」

「嫌なことを思い出しますね……」

「うん……」

 

その時は夕雲が姫として襲撃してきた時だ。さらには霰の救出にも繋がっている。嵐とは少し違うものの、雨の中の戦いというのは少しトラウマが残っているものである。

 

「今までの戦いの話を聞いている限り、襲撃は基本的に日が変わってから。こちらが熟睡している時に不意打ちをするところから始まるようですね。ならば、今の時間が最適でしょう」

 

現在は既に丑三つ時。襲撃に備えた活動も、日を跨いだ時点から開始している。寝ぼけ眼だったシロクロも、今では元気に海中で泳いでいた。

 

『こちらクロだよー。異常なーし』

『シロだよ……こっちも大丈夫……敵影無し』

 

先行しているシロクロからの通信。まだ敵影は見当たらないとのこと。そして今回は、その中にもう1人。

 

『ウァーイ』

『ローは私と一緒にいるからオッケーだよ』

 

呂500はクロと一緒にいる。施設内に留まっていても良かったのだが、保護者である雷がいなくなる上に、第二の保護者となるシロクロも監視のために海に出てしまっているため、どうしても1人になってしまう。

故に、同じ潜水艦として海中の監視をしてもらうことにした。呂500本人も、何か手伝いたいと訴えていたそうだ。海の中なら曙の目にも入らないし、海上艦からの攻撃も極端に減らすことが出来る。一番安全な場所とも言える。

同じ潜水艦のまるゆはというと、緊急時に車両が出せるように運転席で待機。使わないなら使わないに越したことはない。

 

「アラレ、私の艤装は」

「だいはつどーてーにのせたよ……すぐにだせるから」

「悪いな。お前達よりどうしても遅くなるから助かる」

 

リコの艤装は現地まで大発動艇により輸送。超低速であるリコとしては、少しだけでも移動速度が速まることがありがたい。霰の大発動艇はこんなところでも役に立つ。

 

「施設はあたしと羽黒、あとセスで守る。足柄、アンタはどうせ行くんだろ?」

「当たり前よ! 戦場と勝利が私を呼んでるわ!」

 

これも前回と同じ。戦場の狼はいつでもやる気満々。天候や時間など知ったことではなく、戦えるのならすぐにでも向かう暴走特急。おそらく私達よりも先に突っ込む。

 

「鳳翔さんは厳しかったよな」

「はい、荒天で夜となると、専用装備が必要ですから。今回も貴女達に全てを託します」

「私も今回は施設防衛に努めるよ。護衛だしね」

 

鳳翔と瑞鳳は施設に居残り。この時間帯に来るのは、空母対策もあるのだと思う。施設に空母は所属していないが、こういう形で滞在しているため、念のための対策をしているのだろう。鳳翔も瑞鳳も達人級の実力者だ。

 

『来た! 敵影はっけーん!』

『数は多いね……()()()()のが2人……駆逐艦だよ』

 

下呂大将の読み通り、本当に来た。視界が塞がるわけでは無いが、戦いには邪魔な大雨の中。駆逐艦2人ということは、完成品である巻雲と朝霜である可能性が高い。

 

「では、手筈通りに。短時間の詰め込みであっても、基礎を完璧にしているのは私も知っています。今の君達なら出来るでしょう」

「僕も巻雲と朝霜の治療の準備をしておく。任せた」

「私から気が利いたことは言えない。だが、大本営の者として、君達には期待している。頼んだぞ」

 

人間達からの声援を背に受け、私達はリベンジマッチへと赴くことになる。前回はほぼ完封されたが、今回は違う。短くとも鍛え直し、あちらの弱点もある程度はわかった。敗北ばかりを刻むわけにはいかない。

 

 

 

真っ暗闇の海を駆ける。監視の潜水艦達は危険が及ばないところまで退避しており、戦うのは私達だけ。事前に準備をしておいたため、出撃できる者は全員一斉に出撃した。

戦闘は私、若葉率いる第五三駆逐隊と神風、足柄。その後ろに姉率いる第九二駆逐隊と、海風率いる第二四駆逐隊。最後尾に霰が操る大発動艇に乗せられたリコ。

 

「人形は二四駆と神風、足柄に任せる。それでいいか」

「それはこっちのセリフ。完成品2人を任せて大丈夫?」

「大丈夫だ。五三駆と九二駆、それにリコがいる。前より人数は少なくなるが、今回は最初から考えてやれる」

 

人形を引き剥がす必要があるのは仕方のないことだ。そちらにある程度の戦力を割き、私達で因縁を晴らす。

前回の戦いでわかっている弱点、巻雲は近距離、朝霜は遠距離の攻撃に弱めであることを突くような布陣で行くことは決まっている。保険もかけつつ、最善の手を手繰り寄せたいところ。

 

「敵影確認しました」

 

深海の眼により、三日月がいち早く敵の存在を確認した。やはり巻雲と朝霜。前回の夜襲よりも得手である荒天の中での戦いだからか、装備も前回と同じように見える。こちらの戦い方を知っているからか、完全に嘗められているようだった。

全員が武器を準備。私は両腿のナイフを手に取り、二刀流で行く。右に拳銃付きナイフ、左に修復材ナイフ。手数が増え、攻撃の機会もその分多くなるはずだ。

 

「よう、久しぶりだな。待ち構えてるとは思わなかったぜ」

 

こちらに気付いたか、今回は不意打ちも無しに朝霜が話しかけてくる。随分と余裕があるようだ。気に入らない。

 

「お前らの行動はわかりやすい。雨が降れば攻め込んでくると思っていた」

「そうかい。んじゃあ、今回はちゃんと皆殺しな。建物にいる連中も全員だ。一人残らず、血祭りにあげてやるぜ!」

 

同じようにとんでもない速さで間合いが詰められていた。最初の狙いはやはり私。この中で一番警戒されているのか、大淀が生かして連れてこいと言っているのが気に入らないのか、とにかく私は目の敵にされているらしい。

下卑た笑みを浮かべながら、私に棍棒を振り下ろしてきた。前回はそれを受けたが、キナ臭い匂いを感じた。これを受けたら拙いと思い、即座に回避。

 

「逃がさねぇよ!」

「アンタの相手は私!」

 

一直線に私に突っ込んでくると最初から踏んでいた。その直線上に、曙が槍を薙ぎ払う。そのまま行けば直撃コースだったが、朝霜はそれも軽々回避。相変わらずこの意味のわからない回避性能が厄介である。

そこにすかさず、雷と姉が砲撃を開始。雷は当然水鉄砲。姉は実弾である。前回とは違うと察したか、雷の水鉄砲すらも回避し始めた。

 

「遊びはやめたってことかい。あたいを殺すつもりか?」

「どうとでも思えばよい。貴様はここで足止めさせてもらうぞ」

 

さらに夕雲と風雲、霰までもが追い討ち。

朝霜には砲撃を徹底してぶつけ、基本的には近付けさせない方針。それでも近付かれた時の場合を考えて、曙がそちらに入る。槍という中距離武器と、訓練してきた主砲の併用により、朝霜の間合いに持って行かせない。

 

「うぜぇ!」

「朝霜ぉ、てこずってるのぉ?」

 

ここから巻雲の援護が始まる。また、後ろに控える人形達が一斉に動き出した。こちらは残りの私達の仕事だ。

 

「それじゃあ、人形は片っ端からやっていくわよ! 勝利が! 私を! 呼んでるわぁ!」

「任せたわ。狼は放し飼いでいいのよね」

「ああ、頼んだ」

 

足柄が突っ切り、神風がそれを追う。その後ろから二四駆。前回より少ないものの、人形処理の経験のある5人と、経験を力で捻じ伏せる足柄なら耐えてくれる。

人形達はなるべく不殺で行きたいところだが、リミッターは外されているだろう。神風が自爆装置だけはどうにかしてくれるが、助けられる保証は無い。心を鬼にして、今は巻雲と朝霜を対処する。

 

「曙、みんな、頼んだぞ」

「さっさと行きなさいよ! こっちはもう必死なの!」

 

曙までが砲撃に加わり、朝霜を無理矢理足止めしている状態。合流されたら確実に面倒なことになるため、こちらに来させず、巻雲との合流もさせず、それを維持するために複数人の乱射で回避に専念させる。

これなら私達も巻雲に向かえるはずだ。背中は任せ、一番厄介な巻雲に立ち向かう。

 

「まぁいいです。先にこっちやっちゃいましょうかぁ」

「簡単に行くと思っているのか」

 

朝霜を曙達が引き付けてくれている内に、私が巻雲へと突っ込む。

巻雲には近距離。私が一番適しているのはわかっていることだ。背中にベタつきの長月を引き剥がさなかったくらいなのだから、あの乱射にも穴はある。それでも、この数日でその穴を埋めてきている可能性は当然考えている。

 

「若葉ちゃんが来るんじゃないかなって思ってましたぁ。巻雲、近いところが苦手なんですよね」

「ああ、知ってる!」

「だから、対策くらい積みますよぉ?」

 

真正面から突っ込むと狙い撃ちされると考え、素早く回り込んで背後を取ろうとしたが、よりによって全方位に砲門が伸びてきていた。

深海棲艦の艤装だからか、艦娘のそれとはあまりにも違う、まるで()()()()()のような主砲配置。逃げ場を無くすための過積載を目の当たりにして、さすがに突撃をキャンセル。

 

「逃がしませんよぉ」

「逃がすんですよ!」

 

巻雲が撃つ前に三日月が援護してくれた。そこら中に放たれる砲撃を避けながら、巻雲の艤装を破壊するために2つの主砲を駆使して攻撃を繰り出した。私は接近出来ないために、拳銃側で砲身に攻撃しつつ若干間合いを取る。

主砲ほど火力は無いにしろ、砲身を曲げるくらいの火力はあるため、艤装に当たりさえすれば傷をつけることは可能。しかし、巻雲は撃ちながらもしっかり回避してくるため、破壊までが遠い。

 

「近付けない……!」

「一旦退け」

 

私が間合いを取った瞬間、今度はリコの爆撃が始まる。私達とは違い、殺意ある攻撃ではあるのだが、ここまでしても手がつけられないのは確かだ。

とにかく巻雲の艤装を一部だけでも破壊しなくてはどうにもならない。近付くためにはリコの爆撃と同時にそこから攻めなくては。

 

「こっちに空爆来てるんだけど朝霜ぉ」

「クソが、バカスカ撃ってきやがってよぉ!」

 

巻雲は余裕そうであり、軽く避けながら乱射をやめないため、案の定近付くことが出来ない。朝霜はこちらの一斉射により足止め出来ているため、作戦は半分成功している感じか。朝霜は曙達に任せて、私は巻雲に専念しよう。

 

釣りの時のように、全神経を戦場を見ることに集中し、巻雲の隙を探る。一旦攻撃をやめ、回避に専念しながらとにかく見る。

巻雲の乱射は比較的一定の間隔。ランダム要素は少なめ。隙間時間は相当少ないが、私の速度なら潜れるかもしれない。むしろ、この面子なら私しか攻略出来ない。

 

「ここか!」

 

乱射の隙間時間を縫って、無理矢理接近をする。それに気付いてくれたリコも一瞬空爆の手を若干緩めてくれた。

低空なら直撃は無いとわかり、しゃがみ込みながら突撃。砲撃が頬を掠めるが、砲身1本をナイフにより破壊。同時に拳銃側での射撃で砲身もう1本も破壊。さらには修復材ナイフでもう1本。

近くなら当然当たる。回避も間に合わせない。だが、それはあちらも同じ。私が近付けばその分、私に当てやすくなるのは必然。一度当てたらすぐに退く。

 

「朝霜くらい速いですかぁ?」

 

巻雲は朝霜というわかりやすい例を見続けているため、スピードにも追い付いてくる。本人が速いわけでなく、反応速度がおかしい。初撃は当てられたが、2回目以降は私のスピードもカバーされていた。

そこに合わせてくれるのが三日月だ。私が攻撃し、それを回避した瞬間を狙って着実に砲撃を放つ。三日月自身は既に身体に当てるつもり満々の砲撃なのだが、死角から放っても回避されるため、艤装破壊にはちょうどいいくらいに。

 

「ああもう、鬱陶しいですねぇ!」

「それはこっちのセリフだ」

 

徐々に艤装を削っていくが、深海の無限弾のため乱射は止まることがない。一定の間隔になるのは、海水の再装填の瞬間なのだと思う。私達が主砲を海に浸けるのと同じことをしている。

 

「ならもう、隠し球も無しにしましょう。離れてもらえますかぁ?」

 

キナ臭い匂い。砲撃以外にも何かあるのか。などと考えた瞬間、猛スピードで魚雷が向かってきていた。近付きすぎて回避が難しい。

駆逐艦なのだから、そういう攻撃があるに決まっていた。あまりにも砲撃しかしないので、少し頭から魚雷の存在が消えていた。あちらにしても、魚雷はここぞという時にしか出さない虎の子なのかもしれない。

 

「くっ……!」

 

回避するには跳ぶしかない。だが、跳んだということは、巻雲の主砲に狙い撃ちにされるということだ。リコの空爆を避けながら、確実に私を殺そうと主砲を稼働させていた。

 

「空中では避けられませんよねぇ?」

「若葉さん!」

 

巻雲の主砲が私の額に照準を合わせた瞬間、撃つ前にその砲身が爆発した。

 

「んん? 何か……ああ、また()()ですかぁ」

 

それをやったのは三日月だ。だが、その三日月の表情は先程までとは打って変わって冷たい機械的な表情。夜だからか、瞳が煌々と輝いているのがやたら目立つ。

前回の戦闘と同じく、また限界突破をしていた。考えたときには行動が終わっているというそれは、まるで感情を犠牲にしたスペックアップ。

 

「離れなさい」

 

淡々と、回避方向まで見越した砲撃を繰り出す。私達とは処理速度があまりにも違うオーバースペック。たった数分の力の前借りだが、今回に関しては私の命が助かった。

 

「三日月、すまない!」

「いいです。次の準備をしてください」

 

反応が淡白だが、三日月にも時間は無いはずだ。ならば、私も。

 

「頼むぞ……少しだけ、力を貸してくれ」

 

左腕に意識を集中。一度出来たことで、リミッターの外し方は完全に理解した。心臓が高鳴る。血液が高速で駆け回る。力が溢れる。

 

ここからは第二ラウンド。未だに巻雲は疲れすら見せない上に、こちらは奥の手まで出す始末。それでも、今この戦いは勝たなくてはいけない。

 

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