荒天の夜襲は激化していく。私、若葉は三日月とリコと共に巻雲を相手にしている。近距離が苦手であるはずだったが、この数日でその辺りもしっかりと対策してきていた。おかげで私はまともに近付くことも出来ず大苦戦。リコの空爆と三日月の援護射撃により、乱射の隙間時間を突いて攻撃するものの、艤装の一部を破壊した程度に過ぎなかった。
乱射に魚雷を挟まれたことにより絶体絶命の危機に陥ったが、三日月が限界突破をしたことで何とか事無きを得た。そこまでしなくては勝てない相手と実感し、私もリミッターを外す。たった数分の力の前借りで、一気に巻雲を追い詰めるしかない。
「っしっ!」
リミッターを外したことにより、今までよりも数段速く巻雲に接近。これでようやく朝霜に追いつけるレベルになるのだが、巻雲の回避性能には追いつけるはずだ。
「うわ、速いですねぇ」
「余所見しない」
私に主砲を向けた瞬間、三日月がそれを見越して全ての主砲に砲撃。考えるよりも先に手が動く状態になったことで、私に向けられると考えた瞬間には既に砲撃を終えていた。これに関しては私のスピードよりも速い。代わりに持続時間や負担も大きいため、完全に諸刃の剣。
その砲撃は避けられてしまったが、私への照準もズレてくれた。あっという間に巻雲の懐に潜り込む。
「ここで確実にやる!」
「ノーサンキューですよぉ」
ナイフを振るおうとした瞬間、眼前に爆雷があった。このままなら巻雲もやれるが私もやられる。相打ち覚悟の妙手。
さすがにそれはまずい。こちらは命を取ることの出来る武器は持っているが、目的は巻雲と朝霜の鹵獲、救出だ。私が死ぬのも問題だが、巻雲が死ぬのも問題。この爆雷はこの場で解体する。
だが、その爆雷からは
「お前……!」
「ちょっとの間があればいいんです」
主砲を改めて構えられた。砲口は私の眉間に狙いを定めていた。即座に横へ移動するが間に合いそうにない。速さが取り柄でも、一瞬の隙を突かれるとこうも脆い。
死んでたまるか。私はまだ、動ける。
移動と同時にナイフで主砲を払う。さらには拳銃で腕を射撃。それと同時に三日月も砲撃していた。私の身体には傷付かず、本当にスレスレを通るような寸分違わない砲撃により、巻雲の主砲が破壊されていた。
だが、破壊の際に発生した小さな爆発が、私の右眼を焼いた。巻雲の腕と引き換えに、私は遠近感を失う。
「ぐぅっ……!」
「うそっ、これ反応できるんですかぁ!? ならこっち!」
もう片方の腕の主砲を私に構えるが、それすらも即座に爆散。三日月の反応が数段上だった。訓練により命中率が上がった分、私よりも厄介な存在になっているはずだ。
代わりに鼻血が出始めているのが見えたため、三日月はもう時間切れが近い。今の一撃がおそらくラスト。
「何なんですかぁ貴女達はぁ!」
今度は艤装から脇腹の辺りに主砲が伸び、私に照準を合わせる。無尽蔵に主砲が現れるのはインチキが過ぎるのではないか。
「それはこちらのセリフだ。お前は何様のつもりだ」
時間切れが近い三日月に代わり、今度はリコによる絨毯爆撃が始まる。上空からの匂いに私が即座に下がると、雨に混ざって爆弾の雨が降り注いだ。これには回避一辺倒にならざるを得ないはず。伸ばした主砲を撃つことも出来ず、爆撃をどうにか回避し始める。
私はまだ時間切れが遠い。まだ動ける。ならば、より確実に倒せる方へ。
回避の方向を見極め、匂いから遠近感を測り、巻雲の真後ろへ移動。背中の艤装さえ破壊してしまえば、何も出来なく出来る。
「撃つ暇なんぞ与えない!」
リコの爆撃を潜りながら、巻雲の艤装へ攻撃。それすらもギリギリ回避されたが、背中側の主砲はこれにより破壊出来た。まだ数は残っているが、攻撃の手段は大分減ったはず。おおよそ初期から半分以上は破壊した。
リミッターを外してから形勢逆転した。三日月のおかげで私は死なずに済み、巻雲の攻撃手段は削られた。私も行動範囲が増え、より艤装の破壊に成功。リコの爆撃もあるため、被害も最小限に食い止められている。
「もう! 朝霜ぉ、そっちはまだなの!?」
「こいつら、前と全然違うんだよ!」
堪らず朝霜に援軍を申し出たようだが、あちらはあちらで足止めが出来ていた。分断もうまく行っている。
それでも、実弾まで含めた一斉射が回避され続け、ジリジリと近付かれていた。遠距離が苦手なはずの朝霜も、巻雲と同じように対策を取ってきているのかもしれない。
「ったくうぜぇんだよ!」
前回にもやった海面への攻撃。魚雷が爆発したかのような水飛沫が上がり、目の前から姿が消えた。だが、お構い無しに砲撃は続ける。その筆頭は私の姉、初春。空飛ぶ主砲2基により集中砲火を浴びせかけ、直感も込みで水飛沫も関係無しに撃ち続ける。
命中率は九二駆でも随一だが、朝霜相手ではそこまでの成果が得られなかった。とにかく素早い。それでも撃ち続けるのは意味がある。
「いい加減にしろよババァ!」
「口汚いのう。程度が知れるぞ?」
姉が朝霜の怒りを一身に受けるため。
朝霜は遠距離からの攻撃以外にももう一つ弱点があった。他人を煽る割に、煽られることにはとことん弱い。ムキになって襲ってくる。それを見越して、姉が朝霜をさんざん煽る。
当然これは危険な戦法だ。集中して怒りを買うということは、集中攻撃を受けるという事。これまでに姉は砲撃訓練は相当量こなしてきたが、回避訓練はどうだったかがわからない。巻雲の砲撃を回避していたのは見ているものの、朝霜のスピードに追いつけるかどうか。
「リコにも言われておったな。御山の大将じゃったか。いや、猿山の大将かえ?」
「あぁん!?」
「強く怒鳴れば誰でも怯むと思ったら大間違いじゃ。所詮はチンピラ、与えられた力で粋がっておるだけ。わらわが婆なら、貴様はクソガキじゃな」
水飛沫を突き破るように突撃してきた。怒り任せに姉へと向かい、力任せに薙ぎ払おうとする。直撃したら死も見えるその攻撃を、姉はヒラリと躱した。あの避け方、私達は何度か見たことある。
回避した直後、朝霜を挟むような位置を陣取っていた夕雲と風雲が同時に砲撃。進むか退くしか回避方法が無い絶妙なタイミング。朝霜の性格的に、ここは前へ来るだろう。
「このっ」
「頭に血が上っておるようじゃが、大丈夫かえ?」
予想通り、前へ。それに対して当然、姉は砲撃を浴びせかける。回避されることも見越して、わざと甘めに。しかし、回避方向は固定出来るような位置から。
「嘗めんじゃねぇ!」
「嘗めてはおらぬ。貴様は気に入らんほど強敵じゃ。だからわらわ達は6人も貴様に割いておる。誇れ誇れ」
回避した直後、その隙間を狙った雷の砲撃が、朝霜の顔面に直撃。人形なら気絶したほどの衝撃のはずだが、朝霜は怯む程度で終わった。回避だけならず、耐久力もおかしい。
「ってぇ!」
「頑丈すぎよ!」
続けてさらに顔面に一撃。さすがにこれは避けられるが、真正面の姉と、水鉄砲を放った雷しか視界に入っていなかったため、曙が真後ろから槍を振りかぶっていることに目は行っていなかった。だが朝霜は背後からの攻撃も当たり前のように回避するような者。不意打ちでも当たるかはわからない。
「邪魔なんだよ死に損ない!」
「背中に目でもあるわけ!?」
槍による強烈な振り下ろしを棍棒で受け止め、それを力任せに払い飛ばす。嫌でも体勢が崩れるが、それをカバーするようにすかさず雷が後頭部に砲撃。同時に霰による砲撃も加わり、その場から退避を余儀なくする。
回避性能が尋常では無いことはわかっていたことだが、曙が言う通り、
「水鉄砲じゃなきゃあ終わってたのによぉ、甘ちゃんで助かったぜ。お礼にお前は最後まで生かしてやるよ」
「それはどうも! でも、誰も死なないから安心してよね!」
「はっ、皆殺しにするっつってんだろうが!」
雷が水鉄砲でなければ、あの時点で朝霜は死んでいた。雷だけは水鉄砲であることを見越して回避しなかったようにも思える。そういうところまで私達を嘗めているのだろう。
だが、朝霜にも随分と余裕が無くなってきたように見えた。私達がここまでやるようになったことは想定外だったようである。数日間ミッチリとこなした訓練と、出来る限りのスペックアップ。改装もしてきた。しまいには私と三日月のリミッター解除だ。ここまでして人数を揃えることで、ようやく完成品2人に追いついた。
「くそっ、巻雲姉! 合流するぞ!」
「させるわけないでしょうが!」
「ええ、ダメですよ朝霜さん。夕雲達と遊びましょう」
朝霜の合流を妨害するのは風雲。こちらは2人とも実弾兵器であるが故に、回避以外の選択肢は無い。
「邪魔クセェ姉貴だ! 出来損ないのクセして邪魔すんじゃねぇよ!」
「可哀想に……朝霜さんはもっと素直な子だったと思いますけど」
「私達もああだったと思うと情けないわよ」
2人も妹のためと心を鬼にして煽る。それだけで冷静さを失ってくれれば問題なし。容赦なく2人がかりの乱射で行く手を遮った。やはり遠距離には弱い。
「ちょっと朝霜!」
「お前の相手は若葉だ!」
爆撃を回避しながら少しでも朝霜に合流しようとしていたようだが、そうは問屋が卸さない。片目が見えていなくとも、主砲が半分以上破壊された今の巻雲なら相手が出来る。それに、リコは無傷で健在だ。
巻雲と朝霜の間に入るように陣取り、巻雲には曙達を邪魔させないように徐々に離していく。三日月は限界を迎え、リコの艤装にもたれかかるように休息中。感情も戻ってきているようだった。
「いい加減にぃ!」
「するのはお前だ」
退路を塞ぐような爆撃で退避出来なくさせていき、私とほぼ一騎打ちの様相になっていく。ここまで来れば、後は大丈夫だ。私の時間切れも近いが、それまでに終わらせる。
巻雲に焦りの匂いが強まっていた。圧倒的な力で蹂躙した前回とは違う。私達だって戦い方を学び、出来る限りの準備をし、この場に立っているのだ。同じように捻り潰されると思っていたのなら、それこそ慢心。
「巻雲1人に寄ってたかって! プライドは無いんですかぁ!」
「どの口が言うんだどの口が」
「堕ちたなマキグモ」
退路を塞いでいたのは、自らが近付くため。主砲は砲撃する前に私が丁寧に破壊していった。最終的には丸裸も同然なところまで剥いだようなもの。艤装に備え付けられた艤装は全て無くなり、残っているのは虎の子とも思われる魚雷くらいだろう。そうなれば、撃たせる余裕も与えない。
「お前にプライドを語る資格なぞない」
もうリコは巻雲の眼前に迫っていた。それに攻撃する手段も私が絶った。もう巻雲は涙目だった。
余裕を持って施設を破壊出来るとでも思っていたのだろうか。確かに苦手をしっかり対策してきたのは恐ろしいことだ。それでも、100%勝てると思ってここに来たのなら、あまりにも私達を嘗めすぎている。
「私の恨みは深いぞ」
見えないほどの速さでリコが巻雲の鳩尾に蹴りを入れた。念願叶うこの瞬間に、怒りも振り切れ限界を超えていた。回避に特化している巻雲ですら、それは回避出来ない。
「おぶっ、げほっ!?」
「仲間達を殺した罪は重い。だが、真の敵は知っている。だから、お前にはこの辺で終わらせてやる。姉妹に感謝しろ」
腹をやられて前屈みの巻雲の脳天に、綺麗なカカト落としが決まった。これにより、巻雲の意識は刈り取られ、海面に叩きつけられる。ここまでしたらもう安心だが、念を入れて艤装は破壊。これで航行も不可能。
そして、私は時間切れ。よくここまで保ってくれた。立っていられずその場に膝をつく。もう身体が動かず、焼かれた右眼の痛みが今更になって襲ってきた。
「巻雲姉! テメェらよくも!」
これを見た朝霜は当然のように逆上。そのせいか数段のスペックアップ。怒りで限界を超えるのはあちらも同じか。あとはもうあちらに任せるしかない。私はもう動けない。
「自分の姉がやられて逆上かえ。わらわ達を笑いながら殺すのに、それは都合が良すぎるのではないか?」
「うるせぇ! テメェら絶対許さねぇ!」
「許しなぞいらぬ」
乱射の密度はさらに上がり、ここにまだ余裕のあるリコが爆撃も追加したことで、回避すらも困難にしていく。
だが、怒り狂った朝霜はとんでもない行動に出る。理性が焼き切れてしまったかのように、こちらの目的を知ってか知らずか、砲撃すら無視して突っ込んできた。
「どうせテメェら当てる気無ぇんだろうが! 嘗めやがって!」
いの一番に狙われたのはやはり姉。眼前に来られると、撃って殺すか撃たずにやられるかの2択にされてしまう。
姉の主砲は飛んでいるのだ。接近されたら後ろからの砲撃に変化させられる。あとは朝霜の攻撃を回避出来るかの問題。
「死ねよババア!」
「死なぬよクソガキ。わらわには仲間がおる」
強烈な振り下ろしを華麗に回避。先程もやったあの躱し方、姫だった時の夕雲が見せた踊るような回避だった。
そして返しに砲撃で艤装を一部破壊。姉は接近戦まで視野に入れている。
「この……!」
「熱くなって周りが見えておらんのう」
スペックアップしたものの、頭に血が上りすぎて視野が狭まったことで、姉以外の仲間達が1人も見えていなかった。
真後ろから霰の砲撃で艤装がさらに破壊され、雷の膝への砲撃で体勢を崩される。
「わらわは囮じゃ」
「くそ、クソがぁ!」
「いい加減、黙りなさいよ!」
そこに曙が飛び込んできていた。渾身の力で槍を振り下ろし、巻雲と同じように朝霜の脳天に一撃。リコとは違う、鈍器での殴打で、この戦いを終わらせる。
はずだった。
「まだだオラァ!」
それすらも耐えた。頭から血を流しながらも、おそろしく頑丈。力任せに棍棒を振るい、間合いを取らざるを得なくなる。
戦いはまだ終わらない。だが、あと少しだ。