継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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激戦の後

完成品2人との戦闘が終了し、無事に帰投。あの戦いの中、数人の人形が施設側に流れていたらしいが、摩耶とセス、そして羽黒の力でそれは撃退済み。リミッターが外されており、セスの呼びかけにも反応しないように改良、もとい、()()されていたようで、時間経過と共に結局自沈してしまったそうだ。

遺体は回収済みらしく、現在は体内の自爆装置の摘出が行なわれている状態。その時間を見透かされて処置中に自爆されては敵わないと、神風の持つ刀と近しい物をもう1本用意してもらい、摩耶の手により先んじて破壊している。既に死んでいるとはいえ、少し辛い処置。

()()()()()は摘出処置が終わり次第、目につかない場所に安置し、明日、来栖提督に運んでもらうとのこと。

 

「怪我人はすぐに治療します。まるゆ、持ってきてますね」

「はい! 高速修復材、車から取ってきました!」

 

飛鳥医師が忙しいため、私を治療してくれるのは何と下呂大将。私の血で服が汚れることも気にせず、適切に処置をしてくれる。

こうなることも予想して高速修復材が用意されていた。私、若葉はその戦闘により右眼を負傷しているため、それを点眼してもらうことで傷は修復完了。

ただし、以前と同じように一時的に視力が失われているため、少しの間は遠近感が無く、包帯を巻いておく方針となった。おそらく丸一日もあれば大丈夫だろうという判断。

 

「修復材が無ければ、そのまま失明だったでしょう。用意しておいて良かったです」

「ああ、助かった。間近で主砲が爆発したんだ」

 

包帯を巻いてもらい、処置は完了。あとは動かないくらいまで消耗してしまっている体力を回復することに努める。三日月もフラフラしていたので、今は人の手を借りて部屋まで連れて行ってもらった。

まだ海上に残されている人形達の回収は、霰と二四駆が向かっている。私達とリコの艤装を降ろした後、そのまますぐに戦場に戻っていった。このまま何人運び込むことが出来るかはわからないが、出来る限りのことはしたい。

 

「艤装は外したな! なら部屋に運ぶぞ!」

 

倒れかけている私と三日月はすぐに休息が必要ということで、そのまま自室まで運んでもらうことに。私を下呂大将が、三日月を新提督に運んでもらうというなかなか無い経験をさせてもらった。

ベッドに下ろされると、途端に睡魔に襲われる。今の今までずっと気を張っていたからだろう。安心した途端気を失うように眠りについた。三日月は私のベッドに並べて寝かせている辺り、新提督は私達のことをよく理解してくれていた。

 

後から聞いた話だが結局、戦場から運ばれてきた人形の遺体は数人分。その全てが自沈していたそうだ。全員の自爆装置は神風により破壊されているため、これ以上の被害が無くなったとはいえ、あまりにも報われない。なかなか快勝とはいかないものである。

 

 

 

翌朝、もう日が高くなったところで目を覚ます。修復材を使ったおかげで痛みはないが、やはり右眼の視力は無くなっており、遠近感が無い。昨晩のうちに誰かが用意してくれていた新品の包帯を巻こうとしたが、まだ眠っている三日月が私の左腕をガッチリホールドしていたため、起きることが出来なかった。

 

「三日月、もう朝みたいだ」

 

動く右腕で軽く揺する。

 

「んふぁ……おはようございまふ……」

 

気怠そうに目を開けた。私をホールドしていることに気付いても、悪びれる様子もなく、マイペースに身体を起こす。

いつもよりも呆けているように思えたが、これもリミッター解除の反動かもしれない。戦闘中に過剰に頭を使いすぎたから、それにより今は頭を使わない方向に行っているような感じ。

 

「すまないが、包帯を取ってくれないか。こちら側から見えないから、そちら側の何処かにあると思う」

「あ、はい。これですね」

 

三日月にも手伝ってもらい、丁寧に包帯を巻いていく。両眼でない分まだ楽な方。行動に支障がほとんど出ないのはありがたい。強いて言うなら、物を食べたりするときに遠近感が無いことで面倒なことが起きそう。

 

「三日月は身体は大丈夫か? あのリミッターの外し方は辛そうだが」

「そう……ですね。グッスリ眠れば大丈夫みたいです」

 

言うなれば、三日月のリミッター解除は脳の酷使。常人には及ばぬ先の先まで見据え、考えた瞬間に身体が動くほどの処理速度を体現するために、最終的に鼻血が吹き出るほどの出力になってしまっているのだろう。

今は脳を休ませる時間。安心感を得られれば休まるようなので、私と同じ部屋で眠るという状況は、今は三日月にとって最も適切な状態のようだ。

 

「私が若葉さんの右眼になります。安心してください」

「ああ、両眼じゃない分まだ楽だが、頼んだ」

 

一時的な失明の時のように手を引っ張ってもらう必要はないものの、念のため側にずっといてもらうつもりだ。

今日はおそらく全員休息日。艤装整備くらいは動いているかもしれないが、施設に所属する者全員が疲れているのは間違いない。作業せずにゆっくり休息することも重要だろう。

 

「そういえば……お風呂に入った記憶が無いんですけど」

「ああ、若葉もだ。先に風呂に行こう」

「そうですね。包帯巻く必要無かったかもです」

 

申し訳ないが、私の嗅覚が早く風呂に入れと訴えてきている。戦闘後、そのまま寝かされたらいろいろな匂いが混じっても仕方のないこと。潮風やら汗やらで、それはもう大変なことになっていた。布団も洗った方がいいかもしれない。

 

 

 

風呂から上がり、さっぱりした状態で食堂へ。いつもなら朝食が終わっているような時間よりもさらに後、既に雷と鳳翔が昼食の準備を始めているほどの時間だった。日が大分高いと思っていたが、まさかそこまで眠っていたとは。2人してリミッターを外した影響が出てしまっていた。

 

「あ、起きたのね!」

 

私達に気がついた雷がパタパタとやってきた。今日に関しては、みんなが起きるのが遅く、朝食は誰も食べていないらしい。

艦娘の中では、施設防衛に徹していた鳳翔が一番早かったそうだが、それでも軽く摘む程度でいいかと思える時間だったのだとか。深夜の襲撃の弊害である。

 

「若葉達が最後か」

「起きたのはね。でも、入れ違いで飛鳥先生が寝ちゃったわ。多分起きてくるのは夕方くらいになるんじゃないかしら」

 

前回と同じように、下呂大将と新提督は既に撤収済み。来栖提督も朝一に来ていたらしく、昨晩の戦いの犠牲者である人形の遺体を運び出してくれたそうだ。それを見届けたのは、飛鳥医師と一部の者のみ。

徹夜で人形の遺体から自爆装置を摘出し、巻雲と朝霜の昏睡処置をし、その後に相談までしていたため、飛鳥医師が寝たのはついさっきなのだとか。全員疲れ果てていたのはわかっていたが、飛鳥医師だけは最後まで振り絞っていた。今はぐっすり眠ってもらおう。

 

「今日は休息日としています。危険かもしれませんが、今は護衛艦隊も海に出ていません」

 

鳳翔も追加で説明してくれた。

昨晩の戦いの消耗は激しく、一晩眠ったとしてもみんなが疲れ果てていた。徹夜明けの飛鳥医師は眠り、他の管理できそうな者は全員、やるべきことをやるために自分の場所に戻っている。今、この施設で活動しているものは艦娘と深海棲艦しかいない。

そんな状態で訓練しても意味がないだろうし、そもそも管理する者がいない状態で活動するのは危険だ。飛鳥医師が眠っているのなら、私達も動かない。それが一番いい。

 

「詳しい話は、飛鳥先生が目を覚ましてからとなります。私達も詳しくは聞いていませんから」

「だから、今日はゆっくりしてね。私も久し振りに家事がしたいわ!」

「雷さんもちゃんと休みましょうね」

 

鳳翔に念を押される。雷だって昨日は戦場で動き回っていたのだ。身体を休める必要があるのは私達と一緒。

 

「若葉さんと三日月さんは、飛鳥先生も心配していました。他より格段に消耗の度合いが違うと」

「ああ、リミッターを外したからな」

「休んだら元に戻りました」

 

少し怪訝そうな表情をする鳳翔。身体への負担を考えるのなら、リミッター解除は禁じ手だ。一度使っただけであれほどまでに消耗。下手したら私は身体が、三日月は頭が壊れていた可能性だってある。そうでもしないと勝てなかった相手とはいえ、これ以降、何度もやるようなら身体が保たないだろう。

鳳翔がいい顔をしないのも納得。身を削って勝つのではなく、しっかりと十分に力を蓄えて勝ちに行けるように、訓練を積ませようと改めて決意したようだった。

 

「それは本当に奥の手にしてくださいね。貴女達が壊れかねませんから」

「そうしたいのはやまやまなんだが……」

「あれだけやってギリギリだったので……」

 

リコがいなければ巻雲にやられていた可能性だってある。完成品2人に対してだと、9人がかりでアレだ。朝霜に至っては潜水艦3人の助けが無かったらジリ貧という始末。

何も1対1で勝たなくてはいけないわけでは無いのだが、アレでは命がいくつあっても足りないと思えてしまう。楽に勝とうなんて思っていない。だが、もう少し余裕は欲しい。

 

「……ふむ、なら、リミッター解除を定期的に行ない、身体を慣らしていきましょうか」

「身体を慣らす……ですか?」

「はい。急激に出力を上げたから身体にガタが来るかもしれません。それなら、ゆっくりとでも身体を慣らした方がいいでしょう。時間はあまり無いかもしれませんが」

 

まだ未熟な身体で膨大な出力を突発的に出したことで影響が出たというのなら、そうならないように鍛えようというのが鳳翔の考え方。なるべくなら使わない方がいい力も、うまく付き合っていけば有用な力だ。

それに、私と三日月に備わった力は比較的私達に友好的である。まるで()()()()()()()()()()()()()協力してくれる時もあった。その協力に私達の身体がついていけていないというのなら、ついていけるようにこちらが努力するべき。

 

「若葉はやるぞ。この腕と、姫と楽しく付き合っていきたいからな。三日月はどうする」

「私は……私もやりたいです。この力を使いこなせれば、みんなを……若葉さんを守れるんですから」

 

2人の意思は一致した。三日月には()()()()()()()()という少しおかしな感情もあるようだが、やることは変わらない。

 

「わかりました。でも、今日は休息日です。せっかく身体を休める時間なんですから、無理をしないこと。のんべんだらりと過ごしてくださいね」

「了解。訓練も何もしないでおく」

 

明日からは私の身体の姫との付き合い方を学ぶための訓練となった。他と違う独自路線に進みそうだが、今の状況をひっくり返すことが出来るのは間違いない。もう少し長く続けば、もう少し負担が減れば、私だけでなく仲間達みんなが守れるはずだ。

三日月もみんなを守るために強くなると言った。私だってそうだ。ならば努力は怠らない。

 

「こいつと話でも出来ればいいんだが」

 

左腕の痣を見る。私の思いに呼応してくれることもあるのだから、意思の疎通も出来るような気はする。とはいえ相手はヒトのカタチを持っているわけでもない、ただの腕だ。姉が言うには、私に友好的なもののけらしいが、どうにかならないものか。

 

「お話し出来たら素敵よね。若葉のことを守ってくれてるんだもの、私もお礼が言いたいわ」

「そうですね。()()()……ではなく姫の腕とお話し出来たら、素敵ですね」

 

言いながら私の左腕を撫で回す三日月。みんなとは感情が違うみたいである。思考の侵食の影響が顕著。

 

「若葉もまずは礼が言いたい。いつも力を貸してくれるからな。若葉だけの力では、今まで生きてこれていないと思う」

「その感謝の気持ちは忘れないようにした方がいいかもしれませんね。本当に意思を持っているのなら、愛想を尽かされたら終わりですから」

「いつも感謝している」

 

左腕、というか痣は風呂でも念入りに洗っているまである。汚いものという意味ではなく、いつも清潔にしておきたいという気持ちの表れ。

 

「なんだか私も嬉しいです。違うとわかっていても、私が感謝されているみたいで」

「三日月にも感謝している。ずっとコンビでいてくれ」

「はい、勿論」

 

いつにも増して私の左腕に抱きついてくる。表情もほんのり柔らかい。今までは稀だった笑顔も、今の状態になってから私の前では多くなった気がする。いい方向なのかはわからないが、悪くはないと思いたい。

 

まだまだ課題は山積みだが、方針が決まっているだけいいだろう。ゆっくりと行くことは難しいが、着実に前に進んでいきたい。

 




若葉と三日月に憑く駆逐棲姫は一体どんな人物なのでしょうか。

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