朝霜からの情報により、大淀の拠点を割り出すことが出来た。事情聴取に来ていた下呂大将と新提督は即座に帰投、対策本部を設立し、早急に襲撃をかける方針で事を進めていくこととなった。
その襲撃についてで言えば、我々の暮らす医療研究施設は無関係ではあるが、こちらが逆に襲撃を受ける可能性はいくらでもある。さらに言えば、大本営の襲撃が必ずしも成功するとは限らない。その時が来るまでは、研鑽の日々を送る。
私、若葉は相変わらずリミッター解除に慣れる訓練を続けている。三日月と共に持続時間を伸ばすことで、戦場でより長く最大のスペックを発揮し続けたい。
この状態での戦闘訓練はまだ先になりそうではあるが、1日2日で多少は慣れてきた。疲れ果てて、薬湯で回復して、また解除してのローテーションをやっているおかげか、身体は鍛えられていく。
「昨日より確実に成長しています。この調子で行きましょう」
鳳翔にも太鼓判を押された。私は強くなっている。
夢の中で駆逐棲姫と会話出来たこともそれに繋がっているようだった。まるで彼女が手伝ってくれているかのように、リミッターのオンオフがスムーズに出来る。この現実で会話は出来ないが、感謝を込めて左腕を撫でた。
「少しずつ時間は伸びていますね……頭が熱いような、そんな感覚ですが」
三日月もリミッター解除には慣れてきており、繰り返し使うと熱っぽくなるようだが、鼻血を出すようなことは無い。
それに、外しながら砲撃訓練もしてみたが、慣れれば慣れるほど精度が増していた。ここに当てると思った時には既に放っており、それが綺麗に命中しているそうだ。巻雲との戦闘中もそれで助かった部分が大きい。
「三日月さんは休憩を少し多めに取った方がいいでしょう。若葉さんよりも反動が大きいですから」
「はい、そうさせてもらいます」
氷嚢で頭を冷やしながら休憩。感情まで取り除いての演算処理能力で、脳が熱を持ち続けているようだ。そのうち倒れないか心配である。程良いところで鳳翔が休憩させているものの、一度大きく休憩するべきか。
「三日月、一度薬湯に行こう。若葉も休憩したい」
「構いませんよ。若葉さんも大分酷使していますからね」
「では、お言葉に甘えて」
あまりやりすぎるのもよくない。壊れてからでは遅いのだから、ここいらで一旦リセットと行こう。
それが決まった瞬間に私の左腕に抱きついてきた。やはり反動による単純思考化は大きい。淡々と攻撃をした後は甘々を求めてくる。
「三日月、あまりくっつかれると歩けないんだが」
「すみません、ちょっと疲れてしまって」
「無理はしないように」
鳳翔にも苦笑され、少し恥ずかしい思いをした。
薬湯に入り終えると、何やら工廠が騒がしい。
「おおーっ、すげぇ! 腕も脚も痛くねぇや!」
そこでは、普段使いのための平たい艤装を腰に装備した朝霜が、その感触を確かめるために飛んだり跳ねたりしていた。艤装が無ければ一回跳んだだけで身体が耐えられずに脚が折れていただろうが、今はそんなことは無い。過剰出力ではあるものの、普通の艤装装備状態の艦娘と同様となっている。
まだ出撃用の艤装は無いらしいが、少なくともこれで朝霜はある程度自由に動けるようになった。力加減の習得は必須事項ではあるものの、身体が壊れる心配も無い。
「早いとこ完成して良かったぜ。戦闘用の艤装はセスがメインになるけどいいか?」
「誰が作ったって動きゃいいぜ。よろしく頼んだ!」
「はいはい。マヤは……訓練もやっていくんだっけ?」
今までに見たことがない、摩耶の訓練。私達に隠れて色々やっているとは聞いているものの、実際にやる姿は初めて見る。
この施設の摩耶は、戦闘もそれなりに出来るが基本は工作艦扱いだ。全員の艤装をメンテナンスし、最高最善の状態での出撃を約束してくれる。そのため、訓練らしい訓練はやっておらず、必要最低限の戦闘力で終わらせている。
とはいえ、射撃精度もそれなりにあるし、そもそも第二改装が出来るほどの練度なのだから普通に戦える。防衛にも今後は力が必要ではあるが、突然どうして。
「おう、若葉。話聞いてたみたいだな。艤装の整備は自分でやるか、セスとシロクロに頼んでくれ。ちょっとアタシも忙しくなる」
「急にどうしたんですか……?」
三日月も同じ疑問を持っていたらしく、摩耶に問う。その質問に、少し困ったように笑う。
「若葉は敵の完成品が誰か聞いたんだよな」
「ああ、朝霜が話す場にいたからな」
今のところわかっている完成品は5人。航空戦艦である伊勢と日向、鶴姉妹と称される翔鶴と瑞鶴、そして、
「鳥海はアタシの双子の妹だ。ならアタシがやらないわけにはいかねぇだろ」
姉妹が敵の手に落ちているというのなら、それを自分の手で救いたいというのが姉妹というものである。私だって、姉の治療には力が入ったのだ。摩耶だって当然同じように思うだろう。
完成品の異常な強さは私達が身をもって経験している。駆逐艦である朝霜であれほどの苦戦をしたのだ。重巡洋艦なら何処までになるのか。それに対抗するためにも、改めて摩耶は訓練に参加することを決めたようだ。
「それにな、他にも理由があるんだ。完成品に空母がいるんだろ。さすがにセスとリコだけじゃ制空権が取れない可能性が高い」
膨大な数の戦闘機が発艦出来る基地航空隊であるリコと、機動性を兼ね備えた軽空母のセスを以てしても、鶴姉妹2人の航空能力に対抗出来るかわからない。それに加え、伊勢と日向は航空戦艦。戦艦でありながら艦載機の発艦までやってのける。鶴姉妹に追加されると、それだけで押し潰されかねない。
そこに摩耶の訓練の何が関係してくるのだろうか。
「そこでアタシの出番だ。アタシの艦種、知ってるか?」
「重巡洋艦だろう。工作艦でもあるが」
「工作艦のことは考えなくていい。アタシはな、
なるほど、リコとセスだけでは劣勢になりそうな制空権を、防空性能で補おうということか。
そういえば、ここのメンバーに対空砲火が出来るものは今のところいない。元々あちら側で活動していた九二駆に所属する者達は経験があるかもしれないが、今ここには空を攻撃する武器がない。
「アタシ用の武装は勝手に作らせてもらった。両用砲なんだけどな、これで防空をしていくつもりだ」
「やっべぇ、これ深海の艤装も組み込んであんのか。かっけぇ!」
「朝霜、お前いいセンスだな。お前もわかるかこれの良さが」
当然ながら武装はここにあるものの組み合わせ、継ぎ接ぎ武装。摩耶の両用砲は、私達の扱うどの武器とも違う形状をしている。両用というくらいなのだから敵への砲撃も兼ねているのだろうが、腕に装備するものとは別に、艤装にも接続されるゴテゴテの砲台。
それがこれでもかというほど接続されていた。そういえば、巻雲が使っていたのもこのタイプだったか。まるでハリネズミである。
「有り合わせだけど、割といい感じに出来てると思うよ」
「ああ、セスもありがとな」
この武装は工廠組の力作の様子。私達ほど訓練をしていない摩耶が、即座に追いついてこれるような高スペック武装になるべく、出来る限りの技術を詰め込んだようだ。
「うし、じゃあ訓練やってみっか。まずはセス、艦載機ありったけ頼むわ」
「いいよ。リコよりは出せないけど、それなりにあるから」
リコはまだ雷に付き合っているため、セスが摩耶の訓練をすることになる。少し奥の方で鳳翔がウズウズしているようだが、数ではセスの方が上。素直にセスに任せた方が良さそうである。
朝霜の戦闘用艤装の作成は少しだけ先送りに。今すぐ必要といえば必要ではあるが、優先順位というものがある。いざとなれば、私も作成に参加させてもらおう。
私と三日月は休憩がてら摩耶の訓練を見させてもらうことにした。今までに無かった防空という戦い方は、三日月もやっていく可能性は充分にあるし、鳳翔も摩耶の防空性能を確認するために、確認は必要と一緒に参加している。
「よーし、じゃあ行くよ。エコ、発艦」
エコに合図を出し、ありったけの艦載機を発艦。自分で言っていた通りリコほどの数はないにしても、相当な数が発艦されたことがわかった。あれで本来なら艦隊1つを相手取るくらいだろう。
それに対するのは両用砲をありったけ装備した摩耶1人。まず腕に装備した艤装を空に向けて構える。
「っしゃあ、行くぜぇ!」
瞬間、一斉射。空を埋め尽くすかのように砲弾のシャワーが真上にばら撒かれた。勢いよく飛んだ砲弾は、エコから発艦した艦載機を次々と破壊していく。
「ちょ、それとんでもないって!」
セスの艦載機も当然、リコと同じで空中で停止したりバックしたりする深海仕様。不規則すぎる挙動で回避性能もかなり高いはずなのだが、そんなこと一切関係なしに狙いを定めていた。
当然艦載機からの攻撃だってあるが、それは撃ちながらもまた綺麗に回避している。素早いわけではないのだが、今のところ1回も当たっていない。
「ちょっと真剣に行くぞ」
「おう、やれること全部やってくれや!」
速さを変え、角度を変え、場所を変え、不規則な動きをさんざん織り交ぜながら摩耶の周囲を飛び回る。1人で相手をするにはかなり難しい。
しかし、摩耶はそれにも互角に立ち回っている。艤装に接続されている両用砲は、真後ろにある艦載機にも照準を合わせて撃ち続け、自分に向けての攻撃を、自らの攻撃により抑え込む。攻撃は最大の防御とはよく言ったものだが、今の摩耶はまさにそれ。
「えげつないなお前も!」
「マヤには絶対言われたくない!」
防空性能を鍛える訓練にもかかわらず、超低空飛行も織り交ぜ始めた。摩耶はそれすらも撃ち墜としていく。
「具合いいなコイツは! アタシ専用にチューンした甲斐があるぜ!」
既に発艦された艦載機は半分近くが無くなっていた。お互いに出来る限りのトップスピードでの攻防。
「くっそー、マヤがこんなにやれるなんて」
「伊達に改二じゃねぇよ! ああくそ、そろそろ弾切れか!」
深海のシステムを組み込んでいるのだから、海中を潜らせれば補充は可能。腕の方はまだ簡単だが、艤装に接続された方は補充が難しいがどうするつもりなのだろう。
「装填!」
腕を海中に潜らせ、次弾装填。それを徐に背中に回し、両用砲に重ね合わせたら、そちらの方にも装填完了。さんざん触ってきただけあり、完全に使いこなしている。自分用に使いやすいように弄り回しているだけある。
だが、装填が隙だらけなのは誰が見ても明らかだった。装填完了する頃には、既に艦載機が四方八方を取り囲んでいた。
「隙あり!」
「いってぇ!?」
背後の艦載機が水鉄砲で摩耶の後頭部を撃ち抜いた。本来なら死。そうなった時点で訓練は一旦終了となる。
次弾装填の隙が無ければ、摩耶はそのまま押し切れていたかもしれない。弾幕を張るという意味ではいい戦術ではあるが、弾の乱射ですぐに装填が必要になるのは少々大きなデメリットか。
「武装のスペックはよくわかった。こっちは完璧だけど、アタシがついていけてねぇ。訓練でひたすら慣らすしかねぇな」
「じゃあ私で慣らしておく?」
「ああ、頼む。でも工廠の仕事もあるからな、どっちも頼むぜ」
「忙しいねまったく」
お互いにいい感じの仕上がりだったようで、2人で盛り上がっていた。
そういえば摩耶とセスは相部屋。普段から工廠での付き合いもあり、かなり仲がいい。人見知りのセスも摩耶相手だと積極的。
「すごいな摩耶……あそこまでやれるとは」
「工作艦のお仕事ばかりしてましたからね……」
私達には出来ない戦術を目の当たりにして、三日月と共に感心していた。同じ状況に陥っても回避以外の選択肢が無いため、艦載機は正直苦手だった。だが、摩耶のあれがあれば、その回避もしやすくなる。
「防空……ふむ、誰かをそちらに割くべきですね……」
今の訓練を見て、鳳翔もいろいろ考えていた。敵に強力な空母がいるというのがわかっているのだから、先んじて対策は取るべきである。
鳳翔も空母ではあるものの、昼に襲撃されるのなら戦力として迎撃をお願い出来るが、夜襲だと出撃も憚られる。ならば、施設所属の艦娘にしっかりと防空を学んでもらいたい。
敵の情報が判明したからこそ、それに対抗する手段を手に入れていく。既に難敵であることは間違いない。だから、今はやれることを全力でこなしていく。
私も三日月も、これまで以上に力を付けていくのだ。差し当たっては、リミッター解除を完璧に使いこなすことが目標。
防空巡洋艦兼工作艦、摩耶。深海艤装を含めた両用砲とか、完全に防空巡棲姫。摩耶は重巡洋艦ですけどね。