暁への事情聴取が終わった後、ようやく下呂大将から連絡があった。襲撃開始から丸一日経っての連絡であり、電話越しの下呂大将の声は疲れていたものの、大惨事にはなっていないようだった。
その連絡内容をみんなに伝えるべく、昼食前に全員集合。今回は事が事のため、巻雲も布団を被った状態で参加。その姿を初めて見る暁はギョッとしていた。
「来栖がここにいるタイミングで良かった。纏めて話が聞けたからな」
「おう。大将が無事で良かったぜェ」
「先生が傷を負ったため、手短に話してくれた。詳細は追って連絡が来るだろう。今からそれを皆に伝えさせてもらう」
安否確認が出来なかったことが一番不安だったが、それが出来たことで一つ、肩の荷が下りた。誰も死んでいないというのが一番の戦果である。
しかし、重傷とはいかなかったものの、下呂大将も怪我をしている様子。今は鎮守府で治療中だそうだ。
本来なら、艦娘が出撃するときは提督は鎮守府に残り、偵察機や通信で現場の状況を見ながら指揮を執る。だが、今回は下呂大将は現場まで足を運び、直に戦況を目で見ながら直接指揮を執ったらしい。下呂大将はこういう戦い方を度々やっているらしく、戦果が著しく高くなるがその反面本人が危機に晒されることになるため、諸刃の剣。
だが、今回は下呂大将の戦い方が正解だった。当たり前のように通信妨害がされており、鎮守府からの指揮が出来ないように細工されていたらしい。秘密主義もここまで徹底されているなら感心する。
もし下呂大将が現場にいない状態だったら、艦娘の独断で戦わなくてはいけなくなり、混乱を招いていたかもしれない。いくらあの阿武隈でも、あの場を取り纏めることは困難だろう。ただでさえ奔放な神風型がしっちゃかめっちゃかになること間違いなし。
「大淀は残念ながら姿を眩ましていた。それと、朝霜から聞いていた完成品達の一部もだ」
「何でも、駆逐艦の完成品にクソほど苦戦させられたらしい」
やはり完成品も量産されていたようだ。私達が朝霜と巻雲を命を取らず、ほとんど傷を負わずに撃破出来たのは運が良かっただけなのかもしれない。それか、完成と銘打ちつつもさらに進化しているか。そういう意味では朝霜と巻雲も実験段階だったわけだ。
しかし、完成品がそれだけいるということは、キューブのために尊厳すらも潰された艦娘が何人もいるということ。ここ数日だけで、何十人の命が蔑ろにされていると思うと気分が悪い。
「お前らの知ってる一水戦以外にも精鋭が殲滅に当たったが、互角に戦われた挙句に大破者続出だったそうだ。あとはだなァ……どうにもならずに命を奪うことになったらしい」
正確には、助けようと思ったら自害したそうだ。下呂大将は、大淀以外は救うつもりで襲撃をかけている。人形も姫も完成品も、全員大淀の被害者だからだ。
しかし、その努力も虚しく、拠点襲撃で敵側で生き残ったものは0。壊滅はさせたが、本命がその場にいなかったという残念な結果に終わった。
こうなると、また行方を探すところから始まる。振り出しに戻ったというわけでは無いが、姿を見せないとなると先は長い。しかし、追い詰めているのは確かだ。
「まだ戦いは終わってねェってことだ。気に入らねェがな」
「1つわかったのは、完成品は敗北すると自害するということだ。朝霜と巻雲がそんなことにならなくて本当に良かった」
視界の端で布団の塊がブルブル震えていたのがわかった。朝霜も嫌そうな顔。そのシステムが既に完成していたら、今頃2人は笑顔で死んでいたことだろう。洗脳されている時なら、主人のためにと喜んで命を捨てただろうが、今は違う。自分をハメた相手のために死ぬだなんて反吐が出る行為だ。
そうしないためには、完成品の意識を飛ばすことが重要になるだろう。巻雲はリコが、朝霜は曙が意識を飛ばしたため、自害など考える余裕も与えなかったのが良かったようである。
「今わかった情報は以上。僕達は今後も基本的には変わらないが、またここを襲撃してくる可能性は高い。油断せずに行こう」
まだ生きているというのなら、ここはまた狙われるだろう。私達の戦いはまだ終わらない。一息つける時間は、まだまだ来ない。
事情聴取と下呂大将の安否がわかったことで、来栖提督は帰投。そこからはいつも通りの午後を過ごすことになる。
あの神風すら苦戦を強いられた完成品相手に私達だけで何処まで出来るかはわからないが、勝たなければ意味が無いのだ。弱気になっていては勝てるものも勝てない。恐怖を捨て、次に歩き出さなければいけない。
「アサシモ、約束のものが完成したよ」
「お、マジか! 早速頼むよ!」
訓練の前に朝霜の艤装が完成したということでお披露目。リミッターの問題やキューブが取り除かれていることで、あの頃よりはスペックダウンしているものの、単純なパワーだけなら私や曙よりも上。
武装も完備され、以前から使っていた棍棒の他に主砲も完備された。とはいえ主兵装は近接武器。私と同じように砲撃は緊急時。朝霜の主砲は艤装に引っ掛けられ、いざという時は後ろ手で握れるように設置された。
「かぁーっ! やっぱあるのと無いのとでは違うねぇ!」
「一応、前のを修理する形にはした。使い慣れてると思ったから」
「ありがてぇ!」
早速装備して棍棒を振るう。あの時とほとんど同じくらいの速度でブンブンと振り回されるそれは、一撃必殺の威力をそのままにしていた。攻撃からスペックダウンはわからないくらいだ。
完成品相手でも救出が目的ではあるため、その攻撃により死に追いやってしまってはいけないのだが、これくらいしないとむしろ攻撃すら通らないというインチキっぷりなので、これでも足りないのではも思えるほど。
「うっし、誰か
「なら若葉が相手をしよう。あの時は曙に頼んでいたからな」
「いいぜ。あたいもお前とは再戦したかったんだよ」
さすがに棍棒そのままでやられても困るので、ダミーのゴム棒で戦ってもらうことにした。私も拳銃は水鉄砲にし、ナイフもダミーに。演習用に切り替えたそれでなら、お互いに傷付くこともないだろう。
それに、リミッター解除の演習ではこれ以上ないほどの強敵だ。これで朝霜に敵うとわかれば、今以上に自信に繋がる。
「勿論
「ああ、横槍無しだ。若葉も今、何処まで動けるかを知りたい」
この演習は見るだけでも勉強になると、他の訓練が全て中断されて全員が観客に徹してくる始末だった。見世物みたいになってしまうが、それはそれで。娯楽が少ないこの施設では、こんな息抜きもそれなりに重要である。
いつもとは違い少し沖へ行き、向かい合った。本来ならこんなに近くではないだろうが、お互いに近接戦闘を行なうのだからこれがベストな位置。
戦闘スタイルは同じと見ていい。スピードタイプで、高速で近付いて一撃を入れる。ただし、その一撃が朝霜の方が異常に重い。私はそういう意味では朝霜に勝てている部分は無いかもしれない。
「よぉーし、んじゃあやろうぜ!」
朝霜が一気に近付いてきたため、即座に私もリミッターを外した。
人形との戦いでも実感があったが、今までの訓練の成果がしっかり出ている。スムーズにリミッターが外れ、負担を感じることなく力が湧き上がる。フルスロットルになるまでの時間もすぐだ。
「おらぁ!」
「っ……!」
速いが大振りなため、回避は比較的簡単。さらにはスペックダウンはスピードに出ている。充分速いのだが、リミッターを外した状態で見ていると、完成品の時と比べて対処がしやすいスピードになっていた。
その振り下ろしはナイフで受けることなく回避したが、すぐに次の攻撃が飛んできた。連打のスピードは変わらずと。
「はっはぁ! どうしたどうしたぁ!」
心底楽しそうに棍棒を振るう。洗脳されていようがいまいが、戦闘狂の気質は元から持っているようである。
「落ち着け……!」
対する私は、朝霜よりも速度が出ることを活かして、回避しつつ瞬時に背後を取った。そこから斬り付けるのではなく拳銃で、さらには死角から狙った一撃を繰り出す。
しかし、それを勘で察知したのか、引き金を引く前に振り返りながら拳銃付きナイフを弾き飛ばそうと棍棒を振るってきた。反応速度は以前のままか。
「ここは衰えてないぜぇ!」
「だな。流石だよ」
バックステップで回避し、間合いを取り直す。が、それすらも見越してすぐに突っ込んできた。
私は犬のようだと言われたが、朝霜も猛獣みたいな戦い方。近接武器持ちはこうなってしまうのだろうか。曙はしなやかに戦うけども。
「く……!」
朝霜の攻撃は、受けられるが重すぎて押し留めるのがギリギリ。だからこその拳銃付きである。横薙ぎにされた棍棒を必死に受けた後、それを掴む手に向けて射撃。
「痛ぇっ!?」
「本物なら手が無くなってるぞ!」
少しだけグリップが緩んだ。その隙に私も思い切り振り、棍棒を弾き飛ばす。
「あっ、てめっ」
「取らせないぞ」
さらにそこから先に動き、棍棒の前へ。武器さえ失えば私の方が間合いも広く攻撃力もある。
だが、瞬間的にキナ臭い匂いを感じた。早速手に入れた新たな武器を使おうと、後ろに手を伸ばし、既に私の眉間に狙いを定めていた。事前に当然水鉄砲に差し替えてあるものの、当たれば当然痛い。当たるわけにはいかないと咄嗟に上体を逸らして砲撃を回避。
「マジかよ! 今の避けんのか!」
「殺気が匂ったぞ」
「そういやそうだった!」
だが、回避したことで棍棒への妨害が疎かになり、武器を取り返された。再びあの猛攻が始まってしまう。
一進一退の攻防。私が攻めれば朝霜は回避し、それに合わせて攻撃してくるため私がそれを避ける。その繰り返しだが、毎回違った角度や威力をお互いに織り交ぜながらの戦いになる。
朝霜との攻防は気分が昂揚した。命の奪い合いでないとこうまで楽しく感じるかと思えるほどだった。鳳翔や神風を相手にするのとはまた違った昂揚感である。
「そろそろ時間切れだろ!」
「まだまだ」
指摘され強がったが、リミッター解除の限界は刻一刻と近付いてきている。外すのがスムーズに出来るようになったので、当然掛け直すのもスムーズに出来るようになった。一瞬のリミッター解除という芸当だって出来るようにしている。
だが、朝霜は単純に強い。掛け直す暇が無い。よって、どんどん消耗だけさせられていく。以前よりは確実に効果時間は延びているが、このままでは意味がない。
私のことを知っているのなら、耐えて時間切れを待つという手段に出てこられるということが理解出来た。だからこそリミッターの掛け直しというのが必要なのだが、そこはまだまだ精進が足りないということか。
「っし!」
ならばとここで打って出る。大きく振り下ろされた棍棒をナイフで受け、先程と同じように掴む手を射撃。
「同じ轍は踏まねぇ!」
一度やったことなのだから、当然回避してくる。即座に腕を引き、射撃を回避しつつ再度振り下ろし。
勿論それをやらせるために撃った。朝霜は本当に大振りのため、このタイミングが一番大きな隙だ。だからこそ、私は
「マジか!?」
振り下ろしは不発。胴にモロに突っ込んだお陰で朝霜は体勢を崩す。私も体勢を崩すが、さらに押し込むように倒れ込み、結果的にマウントポジション。リミッターを掛け直した後に、ナイフを喉元に突き立てる。
「終わりでいいか」
もう倒れるギリギリくらいだったのだろう。猛烈に身体にガタが来るが、動けないほどではない。
「本当だったらもう少し粘るけどな、演習だしな、艤装の慣らしだしな、これくらいで勘弁してやんよ」
「ああ、勘弁してくれ。若葉は割と限界が近い」
お互いにニヤッと笑い、朝霜を起き上がらせた。軽くふらついたがまだ大丈夫。だが薬湯は欲しいところ。
なんとか勝利といけたものの、辛勝に近い。さらには朝霜が全盛期よりもスペックダウンしているからこれで済んでいるだけであり、敵対しているときならやはり、1対1では勝てていなかっただろう。
この訓練は定期的に行なっていきたいと思った。リミッターの制御がやりやすくなったのだから、次は実戦訓練だ。幸いここには相手をしてくれる者が沢山いる。
この施設を守るため、楽しく生きるため、より高みを目指していきたい。
朝霜が正式に仲間に加わりました。敵だった頃に比べるとスペックダウンしている感じ、とてもスパロボ。