夜間警戒を開始した初日の深夜、本当に大淀本人による襲撃を受けてしまった施設。警備をしていた九二駆はたった1人の完成品、鳥海の手により全滅。死にはしていないものの、相当痛めつけられており、姉に至っては両腕を折られている大惨事。
さらにはその鳥海が何かをしたことにより、暁が暴走。雷の頭を撃ち抜き、飛鳥医師にまで砲撃を放つ。しかし、事前に摩耶が機転を利かせ、水鉄砲に差し替えられていたおかげで、どちらも死には至らず。雷は気を失ってしまっているが、命に別状は無い。
私、若葉は三日月と共に、静かに、そして速やかにリミッターを外した。私の中の駆逐棲姫も、大淀が目の前にいることで力を貸してくれる。ここは追い返すことが出来ればいいが、なるべくならここで終わらせるつもりで戦うため、最初から全開。
三日月もリミッターを外し、感情を失った。処理速度に全てを寄せ、今回は殺意すら持って大淀と鳥海に相対している。
「力を貸してくれよお前ら。鳥海はアタシがやらなきゃならねぇ」
鳥海との戦いは、摩耶がメインとなる。双子の妹の変わり果てた姿がどうしても許せないようだ。殺し合いの姉妹喧嘩となってしまうが、そうでもしなければ施設そのものを破壊されてしまう。
それを補助するのが私と三日月、他にもこの施設にいる全員だ。鳳翔も弓を携え、リコですら工廠に艤装を構えて迎撃態勢。
「暁はあたいが押さえ込んでおくから、そっち頼む!」
未だ暁は狂ったようにもがいていた。朝霜が軽く押さえつけるだけで振り払えない程度ではあるものの、練度の低い暁が突如あの精度を出したのはおかしい。まさか、暁も
そうだとしたら本当にまずい。時間経過で結局死に至ってしまう。それだけはどうにか避けたいのだが、人形ではないために姫の命令は聞くことも無いだろう。むしろ人形よりも身体が耐えられない。
「朝霜! 押さえておくだけじゃダメだ! 暁を気絶させろ! その状態はまずい!」
「き、気絶だぁ!? 暁、ちょいと痛ぇぞ!」
飛鳥医師の指示を受け、朝霜が暴れる暁の腹に拳を打ち付けた。暁だって艤装を装備しているため、それなりに耐久力はある。多少強い打撃を加えることで、暁は一撃で気を失った。
「すぐに治療する! 無理矢理でもいいから艤装を外してくれ!」
「無茶言うなよ!?」
「私がやる。アサシモはマヤを手伝ってあげて」
ここでセスが助太刀。先んじてこっそりと姉を回収してくれていたらしく、今度は暁の方に行ってくれた。暴れていない暁ならば、セスでも艤装を無理矢理剥がして処置室に運び込むことが出来る。
「巻雲姉! 雷を退かしといてくれ!」
「えっ、えっ」
今の巻雲には荷が重いかもしれないが、あの場所に倒れていたら、これからの戦いに巻き込まれる可能性が高い。せめて工廠の隅に移動させておいてもらえると助かる。
しかし、巻雲は艤装を装備していないため、艤装を装備している雷を退かすのは至難の技。二四駆の誰かが手伝ってくれるはずだ。
「おやおや、飛鳥先生はそこまで出来るんですか。人間も捨てたものじゃありませんねぇ」
そんな言葉を無視して、飛鳥医師は暁を運び込むセスと共に工廠から離れた。暁の砲撃が掠った腕を少し押さえていたようだが、治療に支障はないようで安心する。
しかし、外れたリミッターを掛け直すなんて芸当は出来るのだろうか。飛鳥医師に治療が出来るかはわからないが、今は頼るしかない。
「センセは避難出来たな。じゃあ、やるか」
「私に勝てるとでも?」
「勝つんだよ。無理も道理もぶっ壊してやる」
両用砲を鳥海に向け放ったことで、戦闘が開始された。その攻撃と同時に私も動き出す。
「その程度しか出来ないのなら、私を倒すだなんて夢のまた夢ですよ」
すっと、ただ身体を倒すだけでその砲撃を避けた。その瞬間を狙って、私と朝霜が鳥海狙いで各々の武器を振るう。私はリーチが短いが、その分場所を考えた。朝霜が上から振り下ろし、私は下から掬い上げるように攻撃。
「こら、私を忘れていませんか?」
だが、当然ながらここには大淀もいる。鳥海は朝霜を押さえることに専念し、大淀は興味深い私を処理しようと動いていた。
そんなことを忘れている私達なわけ無いだろう。大淀は私達の最も憎むべき敵だ。鳥海が倒せずとも、大淀だけはその場で死んでもらわないと気が済まない。だからこそ、私が即座に攻撃を繰り出したのだ。朝霜も合わせてくれると信じていた。
「忘れていませんよ外道」
私に手を伸ばす大淀に向けて、三日月が砲撃。当然実弾、そして急所狙い。考えた瞬間行動に移しているリミッター解除状態により、完全に殺そうとした。
「わっ、容赦無いですね」
それは流石に回避された。そこに重ねるように拳銃による砲撃。それも回避。さらに飛び込んできた曙が槍を猛烈に振り下ろすが、バックステップでさらに回避。着地のタイミングを見計らって三日月がもう一撃放つが、それすらも回避。一体どんなスペックをしているのだ。
だが、これにより大淀と鳥海を分断。ここにいる全員を使っての一斉攻撃を開始する。私達五三駆は大淀へ。そこにリコと鳳翔も加わってくれる。鳥海には摩耶を筆頭に朝霜、羽黒、そして二四駆が向かった。
工廠という狭い空間での戦いになるのは避けたかったが、私達の力で押し返すことは難しい。ならばこのまま戦うしか無いだろう。
「分断、ですか。少数で私を押さえ切れると思っているのなら……」
朝霜からの攻撃を軽くいなした鳥海がボソリと呟くと、瞳が燃え上がるように光った。大淀の方に専念しようとした私ですら気付けるほどに、悪意の匂いが大きく拡がった。
「三日月! 鳥海だ!」
「了解」
反応させれば身体が勝手に動くはずだ。大淀に専念させると見せかけ、匂いを感じた私が三日月に指示。即座に鳥海に対して砲撃。救出するはずの鳥海に対しても殺意ある一撃を放ってしまったが、何かしでかそうとする前兆を止めるためだ。
「片腹痛いわ!」
主砲を持つ腕を大きく振りながら砲撃。全方位に対するたった1人での一斉砲撃。巻雲ほどの密度は無いにしろ、見た感じ一撃一撃の火力が段違いだった。さらに、ばら撒くように見えて全て狙いが定まっている。三日月の砲撃はその攻撃の最中でもしっかりと回避されていた。
全員が一斉に回避行動を取る中、摩耶だけはその砲撃に真正面から打って出た。直撃したら当然重傷を負うことになるが、回避行動すら取らない。
「知ってんだよ。鳥海が矛なら、アタシが盾だってな。だから、アタシはこの施設の守護神になってやる!」
両用砲を真正面に向け、一斉砲撃。その弾は、自分に向かってくる鳥海の砲撃にことごとくぶつかり、摩耶に届く前に海に落ちていった。砲撃の威力は互角。押し返されることもない。
砲撃に砲撃をぶつけることで、全てを回避したというのか。いくら艤装整備を毎日行なうほど器用だとしても、あんな神業レベルの技を繰り出すなんて、仲間の私達ですら予想外だった。
「……摩耶、そんなことが出来るのね」
「お前のために滅茶苦茶訓練したんだ。おら、もっと撃ってこいよ! 全部撃ち墜としてやらぁ!」
挑発した瞬間、鳥海の真後ろに朝霜が回り込んでいた。後頭部狙いの薙ぎ払い。当たればやはり死が見える渾身の一撃である。朝霜と巻雲からさらに進化した完成品相手に手加減など考えていられない。殺す気でやらなくては殺される。
「貴女は横槍が好きですね。あちらにいた頃からやんちゃでしたが、それは健在ですか」
棍棒を
「くっそ、相変わらず滅茶苦茶だなぁオイ!」
「貴女は貧弱になりましたね」
棍棒が握り潰される。あれは艤装と同じ質で作られたものだ。素手でなんて破壊するどころか凹ませることすら不可能なもの。
そのタイミングを見計らい、二四駆が四肢を狙った同時攻撃。動きが止まっているのだから避けられるはずがない。避けるためには朝霜の棍棒を手放してその場から移動する必要がある。
だが、
「そのまま掴んでいなさい」
朝霜ごと棍棒を振り回し、砲撃の盾にしようと工廠側に吹っ飛ばそうとした。そのまま行けば、二四駆の砲撃の的になってしまうため、即座に棍棒を手放す。
それすらも見越して、朝霜が手放した棍棒を投げ飛ばす。それが向かっている先には海風。おそらくあの中で一番精度の高い砲撃を放ったからだろう。
「全部撃ち墜とすっつったろうが!」
海風に届く前に摩耶がそれを撃って破壊した。朝霜の武器は無くなってしまうが、あのままでは海風がやられていたため、こればかりは仕方あるまい。
「飛んでくるもんは全部墜としてやる。おら、次来いよ」
鳥海は砲撃がメインの戦い方では無いことくらい、摩耶はわかっている。だからこそ、本来の戦い方を引き出そうとしていた。それを倒さなくては意味がない。
棍棒を握り潰したことや、姉の惨状を見れば嫌でもわかる。私達とも違う近接、特に握力に特化されていることくらい、誰だって理解している。
「いいでしょう。摩耶、握り潰してあげる」
「どうせ握るなら寿司でも握ってくれよ」
接近戦をするということは、大淀からより離れるということだ。2人纏めて相手するよりはまだマシと考えた。個人の段階でとんでもないスペックではあるが。
一方私達も大淀との戦闘。五三駆は一度戦闘しており、あの時から力を付けている。対抗できるかはわからないが、あの時のように成す術なくやられるようなことは無いはずだ。
「前回と違って雷さんがいませんけど大丈夫ですか?」
「代わりに若葉の師匠が参戦してくれた。覚悟しろ」
私と曙の接近戦により行動範囲を鳥海から引き離しつつ、工廠の外に誘導していく。今は回避一辺倒であるおかげで、多少なり行動を抑制出来ていた。
前回戦ったことで、この大淀は目が良く、私の攻撃を片手で受け止めるほどの膂力もあり、やたら弾速の速い高火力の主砲を使ってくることはわかっている。あの時は水鉄砲だったため、砲撃は適当に払い除けるなど、インチキも大概にしてほしかった。
今回はあの時と違う。砲撃も、私達の武器も、大淀の命を刈り取るためのものだ。手加減など1つも無い。
「ナイフがちゃんとした刃になっていますね。おや、曙さんの槍も。私をちゃんと殺す気で来ていますか」
「当たり前だ。お前は生きていちゃいけない」
「いい加減消えてもらわないと私達が困るのよ!」
前回は艤装を破壊することを優先しようとしたが、今は違う。狙いは急所のみ。首と心臓を狙う。曙も同じように急所しか狙わない。
大淀は唯一、直接殺意を向ける相手だ。命を守るための施設ではあるが、この大淀だけは
「でしたらもう少し実力をつけてみてはどうでしょうか。私を殺したい気持ちはわかりましたが、その程度で抵抗になると?」
「能書きはいいです」
三日月の容赦無い砲撃と同時に、リコが工廠内だというのに器用に空襲を開始。大淀を徹底的に追い詰め、一切の容赦なく何もさせずに殺す。深海棲艦の容赦無さが、ここに来て活かされている。
当然近接戦闘の私と曙はその被害を被るわけだが、リコの空襲なら掻い潜りながら攻撃が出来る。それに、リコ自身がうまく私達を避けて攻撃してくれているので、尚やりやすい。
「見違えました。あの三日月さんがそんな悪態をつくなんて」
「黙って死んでください」
顔面狙いの砲撃を考えられない反応速度から繰り出し続けた。それすらも避ける大淀も大概だが、徐々に動き自体は単調化。私達の狙いが定めやすくなる。
そして、そこに鳳翔が矢を一閃。全てを掻い潜るように、大淀のこめかみを狙った一点集中。精度だけなら三日月よりも高く、他の追随を許さない。
「危ないですねぇ」
だが、その矢は当たる寸前でキャッチされてしまう。どういう反応速度をしているのだ。
「こちらが加減していることがわかりませんか? 貴女達はとてもいい実験材料なんですよ。私が
「お前は何を言っている!」
掴んだ矢を私に放ってきた。既にその時点で鳳翔が弓で射った時と同じ速度が出ているため、咄嗟に回避。
「アンタは何が目的なのよ! 人様をゴミみたいに使って、何様なのよ!」
その隙を見計らって曙が槍を薙ぎ払うが、矢を捨てたことで空手になったことで、いとも簡単にそれを掴み、曙ごと振り回すように揺さぶる。そこへ鳳翔の第二射。当然頭狙い。大淀との問答を拒否するかの如く、黙らせるための攻撃。
曙だってさんざん訓練してきたのだ。いくら振り回されたって、その場から動かないように耐えている。曙を盾にしようとしていたが難しいと判断したか、槍を離して回避行動に移った。
「目的とかどうでもいいですので、死んでください」
回避行動に移った直後に、その行動を阻害するために脚を狙った三日月。しかし、それは砲撃により回避。摩耶が先程やった、砲撃に砲撃をぶつける芸当をやってのけた。
「私の目的、そういえば言ってませんでしたね。では少しだけ話しておきます」
加減をしていたと言うだけあり、確かに今まで砲撃は一度もしてきていない。だが、それを解禁してきた。弾速の速い主砲を的確に放つため、今度はこちらが回避一辺倒にさせられる。
「私がこうしている理由、それはですね」
満面の笑みでこちらに言い放った。
「私の目的は、全ての生命への報復。
摩耶の盾という掛け軸がゲーム内にあります。防空による艦隊の盾となる摩耶は、ここでは全ての