激化する工廠内防衛戦。私、若葉は、雷を除く五三駆の面々と鳳翔、リコと共に大淀と交戦中。私の身を張った行動により大淀の移動を、三日月、曙、鳳翔による攻撃で腕を使う手段を封じ、その隙にリコが急降下爆撃を決めた。
着弾する瞬間に私と曙は大淀から離れ、自分への被害は最小限に。瞬間、激しい爆発に大淀は包まれ、強烈な衝撃が発生。近くにいた私と曙は吹っ飛ばされることになったが、想定出来ていたことだった故に、着地も完璧。
「若葉さん、邪魔です。退いてください」
その爆煙の中に三日月がすかさず砲撃を放つ。あれだけのことがあっても、大淀ならまだ生きている可能性はある。それ故に追撃。確実に命を取るために容赦なく。
だが、大淀の匂いが薄いことがわかった。いくら爆煙の匂いが充満しているからといっても、あれだけ特徴的な匂いなわけだし、今まで間近に嗅いでいたのだから間違えようがない。
そこから考えても、今あの爆煙の中に大淀はいないと考えてもいい。あの瞬間に、あの空爆から逃げ果せたとは考え難いが、とにかくあそこにはいない。
「三日月、撃つのをやめろ! 大淀はいない!」
「なら何処ですか」
爆煙が大きいため、姿が見えなかった。攻撃力が非常に高い代わりに、回避されるとこちらの攻撃が阻害されてしまうのが、急降下爆撃のまずいところ。本来は回避を考える必要も無いはずではあるのだが、相手が相手だ。
瞬間、爆煙の中から砲撃。狙いはリコ。あちらも爆煙でこちらが見えていないのだろう、直撃コースでは無かったにしろ、リコの腕を捥ぐコースでの砲撃だった。ギリギリで回避はしたが、掠めたことで腕が上がらなくなってしまったらしい。
「まったく、5人がかりで急降下爆撃だなんて、えらいことしてくれますね」
煙の向こうから大淀の声。やはり回避している。あれだけの攻撃をしても未だにピンピンしているということか。
逆に私は腹と脇腹を蹴られた衝撃で、内臓にガタが来ていた。口の中に鉄の味が拡がり不味い。何処かに傷がついてしまったか。
「ここです」
煙の向こうに対し、鳳翔が矢を射った。私達には見えないが、鳳翔は今のリコへの砲撃から大淀の場所を割り出したようだ。矢が何かに命中したような音は聞こえなかったが、匂いが少しだけブレたところを感じたため、今の方向に間違いは無い。
だが、姿がまだ見えないのは厄介だ。爆煙がなかなか晴れず、矢を一射したくらいではそのまま、今もあちらは姿を見せないように動いている可能性だってある。
「姉様も、妹達も、貴女がやったというのなら! 巻雲は許しません!」
ここで巻雲参戦。持ち前の超火力はブランクを感じさせるものの、目の前が弾幕で埋まるほど乱射。あちらでは鳥海がそれに伴い一歩二歩と退いていった。
その弾幕はこちらにも流れてきて、爆煙を晴らしていく。大淀の姿がようやく見えたが、急降下爆撃を受けたことで艤装に多少の破損が見えた。それでもあくまで多少。本体は無傷。どうやって避けたというのだ。
「
リコが呟いた。確かに大淀はずぶ濡れだ。爆撃を逃れるため、あの瞬間に海中に潜ったというのか。確かに大淀の匂いに海水の匂いが混じっているため、それが一番妥当。
巻雲が参戦してくれたのはありがたいし、大淀の状況がわかったのもありがたいが、大淀と鳥海が合流してしまった。最悪なことにお互いほぼ無傷。ある意味仕切り直しとなった。
「こんな奥の手使いたくなかったんですよ。貴女達になんて」
海水が滴る髪を纏め上げながら、巻雲の乱射を回避していた。鳥海も退くだけ退いた後は回避に徹していた。
あちらも巻雲の復帰は想定しているはずなので、対策済みと言わんばかりに主砲を放つ。乱射の隙間を縫うような一発の弾丸が巻雲目掛けて飛んでいき、巻雲の主砲を1基破壊した。
「っあっ、まだ、まだまだぁ!」
一層弾幕を濃くし、特に鳥海に対して強めに撃ち続けた。
姉妹をやられた怒りが力となり、巻雲を完成品だった頃よりも強くしている。精度も、威力も、何もかもがあの時よりも強力だった。実際に受けた私だからわかる。
「アタシも手伝うぜ。殺したかねぇが、それくらいしないとお前らが止まらねぇことはわかったからなぁ!」
その隣から摩耶も同じように乱射による援護射撃。大淀にも鳥海にも撃つ暇を与えず、凶悪なほどの砲撃の壁を作り出し押し潰そうと撃ち続ける。巻雲も摩耶も、無限弾薬とはいえ装填時間が無いわけではない。何も言わずとも、それをお互いに埋め合うように。
倒せたら御の字、せめてここから立ち去ってもらいたかった。入渠ドックがないこの施設だからこそ、早く治療に専念したい。足柄も九二駆も全員やられているのはわかっているし、朝霜もたった今やられている。リコも先程の砲撃が掠ったことで腕を負傷しており、雷はまだ気を失ったままだ。
「これはまたすごいですね。とんでもない弾幕です」
「巻雲ちゃんは貴女が作ったんですけど?」
「ああ、そうでしたね。さすが私」
敵がおちゃらけるのは何とも気に入らないものである。怒りが込み上げてくるが、今は弾幕に参加するのが精一杯。私も三日月もリミッターを掛け直して温存し、曙も含めて主砲を大淀に撃ち続けるのみである。余計なことをさせないように。
だが、おちゃらけるだけの余裕があるということは、いつでもやり返せるということ。回避しながらも鳥海が何やら準備していた。あれを止めなくてはいけないのは、私の目から見ても明らか。
「では、そろそろやめてもらいましょうか」
艤装や脚に装備されていたバルジが前方に集中し、この弾幕の中突っ込んできた。二四駆の魚雷も止めてはいない。それは回避しながら、弾幕は受けながら、ゆっくりとまっすぐ進んでくる姿は恐怖以外の何物でもない。
逆に大淀は援護射撃と言わんばかりに私達に向けて砲撃を繰り出してきた。私達も回避に専念しなくてはいけなくなり、鳥海は摩耶と巻雲に一任せざるを得なくなる。
巻雲の砲撃は駆逐艦の火力ではない。戦艦並とは言わないが、摩耶よりも強力な火力をいくつも備えている。その集中砲火を受けているというのに、普通に進んでくるとはどういうことか。
いや、受けているわけではない、要所要所を横に払っているだけだ。バルジ自体はどんどん傷付いている。必要最低限のダメージに抑えている。
「くそっ、あいつマジか!」
「耐久力特化……!」
握力だけでなく、あまりにも硬すぎる。そういう技だとしてもこれは異常だ。どうすれば止められるというのだ。
「止まりなさい」
「ダメですよ、横槍は」
そこにすかさず鳳翔が矢を放つ。だが、見越していたかのようにその矢を大淀が撃ち墜とした。流れ弾が工廠に当たり、そこかしこが破壊されていくのが辛い。
鳥海が止まらない。近付くにつれ回避も難しくなるというのに、むしろ防御はやたら正確。必要最小限の動きだけで巻雲の乱射をいなしている。
「あれをどうにかしないとダメか」
リコの空襲も鳥海の方へ。けしかけた戦闘機が全て急降下爆撃をするという滅茶苦茶な攻撃ではあるが、一番効果的にも思える。
鳥海が今までで唯一回避でも防御でもなく自分から放すようにしたのは、朝霜が繰り出した爆雷をダイレクトにぶつける攻撃だけ。鳥海はおそらく、
今すぐにそれを繰り出すことが出来るのはリコだけ。だからさっき、大淀はリコを狙って砲撃したのだろう。鳥海を止めさせないために。
「まったく、勘のいい輩ばかりで困ります」
こちらを牽制しながら、上にも砲撃を始める大淀。そのまま戦闘機を1つずつ潰していった。
従えるものではあるが、部下は優先的に守るようである。それ以外は全て材料のようではあるが、部下は使える道具程度には思っているのだろう。使えるものは使い倒すという性根が腐ったような性格である。
「鳥海さん、空爆は食い止めてあげますから、そこの裏切り者は壊しちゃっていいですよ。1人や2人なら無くてもいいですから」
「了解。巻雲ちゃん、貴女はここで死ぬことが確定しました」
「巻雲はぁ! こんなところで死にませんよぉ!」
近付いてくる鳥海に対し、虎の子の魚雷まで繰り出して迎撃を繰り返す巻雲。
「妹をあんな目に遭わせてぇ! ただで済むと思わないでくださぁい!」
「自分も似たようなことをしていたくせに、棚に上げるんですね。都合のいいことを」
ガードしながら魚雷を避け、さらには主砲による砲撃まで繰り出してくる。巻雲の主砲が1基、また1基と破壊されていくのに対し、鳥海のバルジはまだ破壊されない。充分に傷がついているというのに、傷だけで済んでしまっている。
「巻雲、聞く耳持つなよ!」
「わかってますぅ!」
魚雷を避けた瞬間に、自ら魚雷を撃ち抜いて炸裂させた。さらには二四駆の放った魚雷も、タイミング良く爆破。真横で魚雷が爆発したため、一瞬だが鳥海の動きが鈍る。やはり爆発が唯一の弱点だ。そのほんの少しの隙を見逃さず、摩耶が足下狙いの砲撃。さらには巻雲も爆雷を放り、それすらも撃ち抜いて間近で爆発させる。
眼前と足下で何度も爆発が起こったことで、鳥海はようやく今の段階から少し退いた。無傷かもしれないが、しっかり効いている。
「この……!」
「鳥海さん、熱くならないでくださいね」
「わかってますよ!」
こちらがここまで抵抗出来るというのが計算外だったのだろう。鳥海に苛立ちが見えている。大淀が注意をしているが、頭に上った血は簡単には引っ込まない。最初の余裕は何処かに行ってくれた。
これは好都合だ。ムキになってくれれば、こちらが俄然戦いやすくなる。私達五三駆は大淀を抑え込むので精一杯ではあるが、あちらだけでも今ならいけるかもしれない。ならば、大淀を絶対に援護に回さないようにしなければ。
「ようやく通ります。執念深く撃ち続けた甲斐はありました」
巻雲と摩耶の乱射に紛れて脚のバルジを撃ち続けていた羽黒。そう言って撃った砲撃は、脚に展開されたバルジの1つを完全に破壊した。
弾切れの恐れはあったものの、最小限の消費で
「くっ……!?」
「あそこを狙ってください!」
「よくやったぜ羽黒! 喰らえやぁ!」
たった1箇所ではあるものの、ガード出来ない場所が出来たのなら、そこはもう弱点と言ってもいい。鳥海を突き崩すのはあそこからになる。
足下狙いならば、やはり魚雷。二四駆も含めてありったけの魚雷を放ち、それを巻雲がタイミングよく撃ち抜いていく。
「このっ、ふざけるなぁ!」
バルジが剥がれた脚を庇うように跳び、さらに前進。あまりにも滅茶苦茶だが、それが通ったことでもう巻雲の眼前だった。跳んでいるために魚雷は効かず、たまたま巻雲の装填のタイミング。弾幕に抜け穴が出来る瞬間だった。
「鳥海、
「何を……はっ!」
「アタシは、
装填中の巻雲の前を陣取り、両用砲全ての照準を一点集中。バルジがあっても関係ない。羽黒がそれを証明してくれている。
「いい加減、止まれやぁ!」
同じ場所、同じバルジの、寸分違わない一点に向けて、ただただ連射、連射、連射。空中故に回避も出来ず、威力が高いため砲撃にも転換も出来ない。さらには一度跳んでしまったために、摩耶の集中砲火の衝撃により着水が出来ない。
故に、鳥海はバルジが破壊されるまでは成す術が無くなった。摩耶の一時的な弾切れが先か、バルジが破壊されるのが先か。
「巻雲の弾幕ぅ! 復活ですぅ!」
そこに巻雲が弾幕を重ねる。より一層身動きが取れなくなった鳥海は、防ぎきれずに弾幕に押し潰され、バルジの一部がさらに破壊された。まだ鳥海自身は無傷ではあるものの、このままなら押し勝てる。
「ちょっとまずいですね。すみません若葉さん、貴女に構っている余裕が無くなってしまいました」
私達への牽制をやめ、鳥海を助けるために摩耶と巻雲へ砲撃を繰り出し始めた。ということは、私達はノーマーク。今なら大淀への攻撃も可能。再度リミッターを外して、大淀に突っ込む。
「逃がさん!」
「ちょっと黙っててください」
喉元を切り裂くようにナイフを振るったが、やはり片手で受け止められる。腹をやられたせいで少し力が出ていない。だからこその拳銃。受け止められた腕を狙うように引金を引こうとしたが、無理矢理引き寄せられた後に腹に膝が入った。
三度目の腹への攻撃で、完全に決壊した。口の中に血の味が拡がる。気持ち悪い。力が入らない。
「今回は撤退させてもらいますよ。思ったより抵抗するんですね。次来る時はこうは行きません。私は来ないでしょうけど」
「逃がさないって言ってんでしょうが!」
私がやられた瞬間を狙って、曙が渾身の突きを繰り出し、大淀の艤装に一撃入れる。が、本体には通らず。
「はぁ、ここまで計算外だと余計面白いです。それに、やっぱりいい材料になりますよ」
主砲を薙ぎ払われ頭に一撃入れられた。嫌でも意識が飛ぶ。
またしても、大淀に勝てなかった。まだ足りない。傷すらも付けられなかったのが、ただただ悔しかった。悔しさの中、私の意識は闇に落ちていった。
あいつの何処にあの力の源があるというのだ。あまりにも滅茶苦茶過ぎる。今も結局、最後まで遊んでいたに過ぎない。
一矢報いたけど、そこまで。大淀の実力はまだ掴めません。