継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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かねてより

嵐の夜ということでまた襲撃される可能性があった。そのため、施設内ではあるものの夜間警備は続行。羽黒と二四駆が受け持ち、一晩を明かしたが、幸いにも何事も無かったようである。嵐自体も夜中のうちに終わっており、私、若葉は気持ちいい朝を迎えることが出来た。

この頃には、眠り続けていた九二駆も全員回復。まだ傷は残るものの、全員が自分の足で歩くことが出来るほどになっていた。両腕を握り潰されていた姉も、痛みは残るものの五体満足である。

 

「後遺症も無いようでよかった」

「うむ。一番酷かった腕と、艤装が壊された時に負った火傷に修復材を使ってもらえたらしいからの。おかげさまでこの通りじゃ」

 

肩を回す姿を見せてもらい、安堵する。所々の傷は修復材無しでの回復となるため包帯は巻かれているものの、ほぼほぼ完治と言ってもいい。

姉だけでなく、他の3人も似たようなもの。鳥海の手により握り潰された部位や、自然治癒が見込めない部位に修復材を使い、他は薬を塗った後に自然治癒という方針。

 

「九二駆は今日1日は安静にせよとの指示じゃ。片付けに参加できずすまぬのう」

「いや、身体の方が大事だ。姉さんはゆっくりしていてくれ」

「若葉さんもあまり激しい運動はダメですからね」

 

三日月に念を押された。私も怪我を自然治癒で治していく方針であるため、日課のランニングも今日は散歩に変更しているくらい。

片付けも重いものは持たない方針。散歩の時にある程度チェックしており、いくつか大物があることは確認済みなので、それは他の者に頼むことにしている。

また、今回は深海棲艦の亡骸が数体発見された。それの運び込みは既に実施済みである。私達が片付けをしている間に、飛鳥医師が解剖を行なうとのこと。

 

「人型がおったのが少し辛いのう……奴らにも営みがあったろうに」

「ああ、リコの時のことを思い出してしまった」

 

リコの脚である戦艦ル級とは違う人型の深海棲艦の亡骸ではあったが、姫のために奮闘したイロハ級がいるということも知っているのだから、今回のそれももしかしたら同じような境遇だったのかもしれない。

獰猛で理性の無いイロハ級とは違う、言葉は介さずとも意思を持つ人型は見ていると辛いものがある。

 

「次の命のために、使わせてもらおう」

「うむ」

 

今後はさらに激戦になる。今回以上に怪我人が出る可能性は高い。それこそ、四肢欠損の恐れだって大いにあった。ドックが無い今、不謹慎ではあるが揃えられるものは揃えたかった。当然だが、本来の持ち主には感謝を示し、無念を晴らすために使わせてもらうことになる。

解剖の前に供養させてもらおう。次の命のために、その亡骸を使わせて欲しい。

 

 

 

予定通り、朝食後は浜辺の清掃。九二駆と足柄は安静に、羽黒と二四駆は夜間警備の後のため不在。そのため、参加者は五三駆とその他諸々。鳳翔すらも手伝ってくれる。足柄は不完全燃焼のようで工廠の手伝いをするとは言っていたが。

暁はここがどういうところかを知りたいということで、呂500が車椅子を押すことで私達の仕事を眺めることとなった。一晩経っても身体はまだ言うことを聞かないようで、ようやく手を握るくらいは出来るようになったくらい。

 

五三駆と朝霜、巻雲の6人で行動。残りは逆方向へ。暁と呂500は、雷がいる私達の班に便乗。

 

「今回は目星もつけてあるんだ」

「朝にこの辺りを散歩していたんですが、その時にすごいものを見つけました」

 

そう、今回はとても()()()()を発見している。散歩の時は艤装を装備していないため、私達の手では運ぶことが出来なかった。普段着が艤装と一体化しているセスも運ぶのを躊躇う大物。当然浮き輪やエコでも運べない。

今回はパワートップであろう朝霜がいるため、その辺りは心配はいらなかった。おそらく私でも1人で持てるかな程度ではあるものの、激しい運動を禁じられているために朝霜に頼ることにする。

 

「で、それがこれだ」

「……深海の戦艦主砲!?」

 

待ち望んでいた戦艦の主砲がついに流れ着いた。しかも2基。シロクロの艤装に必要な最後のパーツである。

シロクロの艤装は、武装以外は完成していた。一度襲撃を受けて大破させられ、そのまま施設の修復に使われたことでリセットしてしまったが、そこからまたここまで立て直していたのだ。そのため、ずっと武装待ちだった。それがついにこの場に。

 

「あたいが持てばいいのかい?」

「ああ、頼めるか」

「任せろい」

 

2基の主砲を軽々と持ち上げた。流石に私もあそこまでは出来ない。朝霜がいることで作業時間が大幅に短縮出来そうだ。

 

「若葉達は他の物を運ぶ。なるべく大きいものから運んでいこう」

「今回は大物が多いわね! シロクロだけじゃなく、私達の艤装も改造出来そう!」

 

雷の言う通り、今の私達の艤装をバージョンアップも可能な気はする。いわゆる近代化改装というヤツだ。艦娘の艤装を深海の艤装で改造するなど普通ではあり得ないことだろうが、元々継ぎ接ぎであり、最初から深海の艤装も若干組み込まれているため、改造は容易い。

一応違法改造ではないギリギリの線を攻めている。敵がインチキを束にしてやってくるのだから、こちらも出来る限界で。

 

「本当に多いわね今回は」

「嵐が長かったからじゃないかしら。半日以上降ってたもの」

 

曙と雷は主機の残骸のようなものを運ぶ。これはそのまま動力部分を拝借すれば、出力増強などに使えるかもしれない。半壊しているため、使える部分だけ使うことになる。

 

「ちっちゃいパーツもいっぱいですぅ」

「全部使えると思ってくれていい。浜辺が綺麗になるまで運び続けるからな」

 

巻雲も軽巡くらいの主砲やら対空砲やらを持ち上げた。主砲の類は全て巻雲の強化に繋がる。朝霜と正反対な、遠距離武装の重装備である巻雲には、落ちている武器全てが強化に繋がるわけだ。

これらは使えなかったとしても、職人妖精に提供して、工廠の修復に使ってもらうことになるだろう。そうでなくても2階の拡張にも必要だし、そこにも使われず、艤装の改造にも不要となった残骸は全てエコの餌になるため無駄がない。それすらも多いとなったら来栖提督に持っていってもらうだけだ。

 

私も控えめに主機の残骸を拾い上げ、ここからは浜辺の往復が始まる。荷台でもあれば多少は往復の回数が減るかもしれないが、そういったものは施設にない。生半可なものだと荷台側が壊れてしまうので、今は地道に運ぶしか無かった。

 

「すごいわねみんな」

「身体が治ったらお姉ちゃんにもやってもらうから」

「も、勿論手伝うわ。レディだもの、困ってる人を助けるのがレディってものよ」

 

艤装さえ装備出来れば誰にだってこの仕事は出来る。強いて言うなら作業着が必要というくらい。朝霜と巻雲には私達の予備を貸し出しているため問題無し。暁も復帰したときに雷の作業着を借りることになるだろう。

 

「アゥー、ンゥウ」

「そうね、お姉ちゃんが治ったら、ろーちゃんにも手伝ってもらうわね」

「アーイ」

 

呂500も乗り気。今はお休み中だが、ここにさらに九二駆も交じるのだから、次からはさらに作業が捗るというもの。今回のようにいつもよりも多いような状態でも、難なくクリアすることが出来る。

 

午前中いっぱいを使い、なんとか浜辺が綺麗になった。もはやこれ自体が持久力の訓練になっているレベルの疲労感。日課でスタミナをつけている私や、元よりスタミナがある曙以外は、疲れが目に見えるほどに。

だが、シロクロはむしろより元気だった。理由は簡単、自分の艤装の最後のパーツが既にあることがわかっているからだ。午後からは艤装の組み立てに精を出すことだろう。

 

 

 

午後は工廠の片付けをしつつ、浜辺で集めた廃材達の洗浄と分別。それと同時に、シロクロは自分の艤装を組み上げていく。拾ってきた戦艦主砲は少し破損していたものの、廃材を組み合わせることでそれすらも修復していた。

シロクロもここの工廠作業をし始めてもう長い。摩耶やセスが手を貸さなくても、自分のものだったら組み上げられる。最初は不器用だったシロも、今ではクロと一緒に廃材をバラして、適切なパーツを組み込むまでしていた。

 

「はぁー、すごいもんだ」

 

組み上げられていくシロクロの艤装を見ながら、感嘆の声をあげる朝霜。艦娘の艤装が組み上がっていくのならまだしも、深海棲艦の艤装が組み上がっていくのは珍しいものだろう。シロクロの艤装は特に普通ではない形状をしているし。

 

巨大な腕を持つ深海棲艦を椅子にするリコの艤装とも、意思を持つ動物エコを飼い慣らすセスの艤装とも違う、両頭のウツボのような遠隔操作艤装。本来だったら両頭のどちらにも小柄な腕が付くらしいのだが、今回はその辺りはオミット。

そして、今回拾ってきた戦艦主砲を修復し、それを艤装に接続したことで、長かった艤装の修復、いや、再構築は完了する。

 

「よーし、よーし! これで、完成!」

「ついに……出来上がったね、クロちゃん」

「うん、やったね姉貴!」

 

2人で手を合わせて喜び合っていた。廃材を組み合わせ、一から作り上げた艤装だ。愛着は以前のものよりも大きいだろう。

ここまで来るのに本当に長かった。再構築のためのパーツは嵐待ちであり、流れ着いたとしてもそれが使えるものかはわからない。それでも根気よく待ち続けて、ついに形になった。

 

「早速潜っていいかな!」

「おう、行ってきな。テストは必要だろ」

 

摩耶もずっと手伝ってきたのだから、感慨深いものがあるようだ。私達も、この艤装が動くところを見てみたい。

徐に作業着を脱ぎ捨てると、こうなることも予想してか既に中に水着を着ていた。準備万端である。

 

「それじゃあ、よいしょーっと!」

「よいしょ……じゃあ、行くよ」

 

艤装を2人で持ち上げ、海に飛び込む。見た目は海上型の艤装だが、海中に潜っても何ら問題がない潜水艦仕様。潜ってしまえば遠隔操作で泳ぐようにシロクロについてくる。両頭だというのに器用なものだ。

 

「私が主砲と魚雷担当!」

「私が……艦載機と対空担当……」

 

片方の頭をシロが、もう片方の頭をクロが受け持っているとのこと。頭ごとに出来ることが違うようで、要所要所で担当を入れ替えることも可能。私達には出来ない、超万能戦力である。正直出来ないことがない。

 

「通信の準備しとくぜ。耐圧テストもするだろ?」

「うん、お願ーい」

 

マスクをつけて、艤装ごと一気に潜水。艤装ごとスイスイと潜っていき、あっという間に海上からは視認出来なくなる。潜航の速度も相当だ。

しばらくして、海の底に到着したという通信が届いた。以前はここで艦娘の亡骸を何人分も見つけてしまって叫んでいたが、今はそれもなく静かな海底。以前沈んでしまった人形達は、翌日には引き揚げ済みである。

 

『こちらクロだよ。艤装の調子はすごくいいね!』

『シロ……良好だよ……前よりもいいくらい……』

 

何でも今は海底に足を着け、凧を操るように艤装を動かしているとのこと。私達では到底耐えられない海の底でも何の不自由もなく行動出来るというのは、海上艦の私達から見ると少し羨ましく感じる。

 

工廠の片付けをしている間、ずっと潜り続けて小一時間。これだけ潜っていても何の支障もないということは、出来上がりは完璧ということだ。

浮上してきたシロクロは、満面の笑みでマスクを取った。泳ぐだけでも満足していたが、艤装が完成したことでさらに満足げ。

 

「最高だね! 私達がついに元に戻ったんだ!」

「だね……欠けてたものが埋まった感じ……かな」

 

あのシロですら笑みを絶やさない。本当に嬉しいというのがありありとわかる。

そして最後に武装のテスト。私達がやっていたように的を用意して、主砲の準備をしてもらう。火力が火力なので、射線上には何もないことを確認し、絶対に怪我人を出さないように。戦艦の主砲なのだから、掠めただけでも致命傷の可能性だってある。

 

「それじゃあ行くよー! てぇーっ!」

 

主砲担当のクロの掛け声と共に、とんでもない轟音が響いた。魚雷が同時にいくつも爆発したかのような衝撃と共に弾は撃ち出され、的に命中。的を破壊するどころか粉々にしてもその勢いは止まらず、海面に着弾したと思った途端、それこそ魚雷が爆発したのではないかという水柱が立った。

工廠でそれを見ていたものはみんな、唖然としていた。まさかここまでとは正直思っていなかった。

 

「いぇー! 命中!」

「威力も凄いね……」

 

キャッキャッと喜ぶクロと、その威力に驚いているシロ。シロの表情を見る限り、以前に使っていたものよりも威力が高い様子。

 

「これで完璧に元通りだな」

「うん! みんな、ありがとね!」

 

やることをやったので艤装を持って上がってきた。当然ビショビショではあるが、潜水艦仕様なため、軽く拭くだけでお手入れ完了という便利さ。優秀すぎやしないか。

 

「んじゃあ改めて聞くけどよ、お前らがここにいるのは艤装が直るまでって話だったな。どうする。艤装は直ったぜ?」

「もー、マヤは意地悪だなぁ」

 

もうお互い笑ってしまっていた。

 

「昨日も言ったけど、オオヨドを倒すまではここにいるからね。今までは見てるだけだったからさ、今度からは出撃もするよ」

「敵に硬いのがいるんだよね……なら……私達の出番かな」

「おう、頼むぜシロクロ、うちの最高戦力だ」

 

改めて、施設に滞在することを宣言してくれたシロクロ。ここまでしてくれた恩を返すと、笑顔で約束してくれた。

 

念願叶ったシロクロの艤装再構築。やらなくてはいけない仕事が1つ完了し、私達も清々しい気分になった。

 




ついにシロクロも戦力へ。初登場8話のシロクロが、148話目にして艤装完成。感慨深いものがありますね。

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