シロクロの艤装がついに完成したことで活気付く施設。突破が難しいと思われている鳥海の耐久力に対する回答にもなりそうなため、シロクロは即戦力となる。今のこの状況、戦力が1人増えるだけでもありがたいものだ。それが施設内で最も高い火力を持っているというのなら、尚のことありがたい。
今日は丸一日を浜辺と工廠の片付けに使ったため、訓練をするなら明日から。だがその前に、夜間警備がある。昨日は二四駆が、一昨日は九二駆が受け持ったため、今度は私、若葉が率いる五三駆が夜間警備を行なうこととなる。引率は摩耶。初期から施設にいる者5人で集まることになった。
初めての仕事なので、これについては5人で集まって打ち合わせ。タイムスケジュールは飛鳥医師が決めてくれた。
「夕食後仮眠、その後に夜の海に出て、朝が来たら朝食を摂ってから改めて休むという方針になる。これで大丈夫か?」
「了解。24時間働けるが、仮眠が取れるならもっと働ける」
「アンタは出来ても私らが無理よ」
仮眠はざっと3時間ほど。他のみんなが寝静まるくらいの時間から、私達の新しい仕事が始まるわけだ。生活習慣が崩れてしまうが、そこは飛鳥医師監修の生活プランにより、不健康にはならないようにいろいろと考慮してくれている。3日に1回というローテーションも、ちょうどいいくらいだという判断から。
引率が足柄と羽黒、そして摩耶の3人であるため、ローテーションはこちらも組みやすい。とはいえ足柄と羽黒は外の者。急に鎮守府に戻ることだってあり得る。そうなってしまった場合は、セスやリコにお願いすることになるか。
「リザーブとして朝霜と巻雲にも待機してもらっている。その辺りはまたローテーションを考えよう」
「体調が戻ったら、お姉ちゃんにも参加してもらう?」
「暁は練度が低い。まずは鳳翔に訓練をしてもらう方がいいだろう。そうでなくてもリハビリは必要かもしれないしな」
本来なら来栖鎮守府に移籍という形の方がいいのだろうが、記憶を失っており、かつリミッター解除のガタがまた来るかもしれないということで、施設での経過観察状態の暁。純然たる艦娘ではあるため、身体が動くようになったら多少なり訓練をしていく方がいいだろう。
とはいえ、いきなり鳳翔の手解きとなると、暁が大丈夫か不安になる。雷も同じことを考えたようで、苦笑していた。
「では、よろしく頼む」
「ああ、任せてくれよな。アタシらの居場所は自分の手で守るぜ」
「先生はちゃんと休むのよ! 今日も働き詰めだったんだから!」
私達が片付けをしている裏側で、飛鳥医師は漂着した深海棲艦の解剖に丸一日を使っている。昼食の時は処置室から出てきたものの、それ以外はずっと篭りっぱなし。休んでもいない。それだけ漂着した深海棲艦が多かったというのもある。
翌朝、リコの哨戒機が飛んでくるのを確認して夜間警備終了。毎朝飛ばしてくれているため、それが今後は終了の合図になるようである。
「何も無かったな。そりゃあ毎日毎日襲われても困るけどよ」
警備は何事も無し。大淀が襲撃してくることはおろか、深海棲艦が発生するようなことも無し。特筆すべき事件は何も無く、ただただ夜の海をグルグル回って警戒するだけで終わった。二四駆が昼にやってくれていることを私達で焼き直ししただけ。
「あちらも準備しているんだろうか」
「じゃないの? 前の拠点は大将が全部ぶっ壊してくれたみたいだし」
「今攻め込みたいところですよね……準備の期間を与えるのは癪ですが」
今は下呂大将が負傷中であり、逃げた大淀の新たな拠点の調査は進んでいない状態。あちらも拠点を変えたばかりだからか激しく行動を起こすようなことはしないのかもしれない。人形も生成できていないように思える。
次に襲撃するとき、大淀は来ないと言っていた。それを素直に受け取るのなら、次の襲撃はあちらもしっかり準備が出来てからだろう。大淀がいない分を人形で賄い、完成品数人と共に押し潰す。
「まぁ今は考えるのはやめておこうぜ。さすがに眠てぇ」
「だな。風呂に入ってさっさと寝よう」
さすがに夜中ずっと海の上でグルグル回っているだけは、ただただ疲れる。曙以外は私も含めて疲れた顔。昼に同じことをするよりも疲れる。
暗闇の中という環境で緊張していたというのもあるだろう。戦闘中は興奮状態のおかげでそういった感情は湧かないが、そもそも私は夜の海には若干トラウマがある。そのせいで精神的に疲れたのだと思う。
「相変わらず、曙はタフねぇ」
「心臓のおかげよ」
摩耶ですら疲れた顔を見せているのに、曙だけはピンピンしている。ひとえに、深海のパーツによる心肺強化のおかげ。そこに曙の努力も加わったことで、屈指のスタミナを手に入れている。こういう時にもそれは役に立つようだ。
「風呂の中で寝ちまったら、部屋に運んでくれよ」
「朝霜にやらせるわ。全力でやってやれって」
「おう、絶対に寝ねぇ。潰されちまう」
和やかに警備が終わるのならいいことだ。今後もこのペースでやっていきたい。
朝に眠りについたというのに、私はまた夜の海にいる。さっきも見た光景……というわけでもなく、この海は少し不思議な感覚がする。夢の中というのはそういうものか。
この空間に入ると、当たり前のように目の前にいる駆逐棲姫。以前よりも距離が近いように思えた。前回の夢の中で握手をしたのが理由か、より親しくなれた。
駆逐棲姫と会いたいと思っていても、私からこの夢を作り出すようなことは出来ない。駆逐棲姫が私を夢の世界に誘ってくれない限り、こうやって面と向かって出会うことすら出来ないのは少し寂しい。
「お前に礼が言いたかった」
『
「暁の件だ。忠告をしてもらっていなければ、今頃雷も飛鳥医師も死んでいただろう」
前回の夢で気をつけるように言われていなかったら、摩耶がそれを知ってこっそり水鉄砲に差し替えるなんてことはしていなかった。そして、それが無かったら、雷の頭は無くなっていただろうし、飛鳥医師も最悪死んでいただろう。
そうならなかったのは、全て駆逐棲姫のおかげだ。礼を言わなくては気が済まない。
「ありがとう。お前はみんなの恩人だ。若葉達でも気付かなかった暁の洗脳に気付いてくれたのは、本当に助かった」
『どういたしまして。役に立てたようで良かった』
満面の笑み。私が礼を言ったことが素直に嬉しいようである。手を差し出してきたので、私も笑みを浮かべて手を握った。握手もお気に入りな様子。痣のある左手で求めてくるあたりわかってる。
『前にも言った通り、
「楽しんでもらえているなら何よりだ。若葉もお前を頼らせてもらっていいだろうか」
『うん、いいよ。これからも
今後も駆逐棲姫の言葉は信じていくことにしよう。仲間を救ってくれた恩人だし、今の言葉にも嘘偽りを感じなかった。大淀を倒すという目的が一致しており、お互いに頼りあって目的を達成しようとしている仲間だ。
『とはいえ、貸しすぎるとより一層侵食しちゃいそうだからね。次にやらかしたら、頭まで届いちゃうかな』
「かもしれないな」
頬にまで拡がった痣を撫でる。今でここなら、次はそのまま眼に届き、最終的には脳。三日月と同じようになるだろうか。
もしくは下は拡がるか。既に胸、心臓の辺りまで侵食されているため、これ以上だと曙のように心肺機能に侵食されるかもしれない。
後者は若干魅力的だと思ってしまったのは黙っておこう。先程までやっていた夜間警備で全く疲れていなかった曙は少し羨ましかった。
「早速頼らせてもらいたいんだが」
『なんだい? わかることなら何でも答えるよ』
「今は誰も暁のようにおかしなことになっていないか?」
私達のチェックを掻い潜る手段をあちらが持っているというだけで、疑心暗鬼に陥ってしまった。知らない間に洗脳、催眠、暗示が掛けられていたとしたら、敵を潜伏させることになってしまう。
事前にわかるのなら知っておきたかった。そして、それがわかるのが駆逐棲姫だ。
『今は大丈夫だと思うよ。施設にいる子に、変な感じはしないからね。暁ももう大丈夫』
「そうか。保証してもらえるならありがたい」
『
ここ以外でも話せればいいのだが、私が眠っているときに夢に干渉するくらいしか、対面するタイミングが無いという。そもそも夢に干渉するというのが意味がわからないのだが。
「今日は何故この世界に?」
『ただお喋りしたかった、じゃダメかな』
「構わない。時間はまだある」
意思を持ち、私の眼を通して世界を見て、さらにはこうやって私と話せるようになった。なら、もっとその感覚を使っていきたい。その気持ちはわからなくはない。
駆逐棲姫は私の意思がある程度わかるかも知れないが、私に駆逐棲姫の意思はわからない。話してもらえるなら嬉しいものだ。私と同じように、駆逐棲姫も私を信用してくれている。
『もっと話をしよう。
「ずっと側で見ているだろうに」
『それでもだよ。君の口から聞けることが楽しいんだ』
ずっとニコニコしている駆逐棲姫。こうしているのが楽しいのなら、ここにいる間はずっと楽しんでもらおう。たわいないお喋りは、私の心の癒しにもなる。
そこからは時間が続く限り適当な話題で話をした。施設の面々に対する駆逐棲姫の感想が主。誰かを嫌っているわけでもなく、警戒もしていない。ただ思ったことを話してくれた。特に三日月のことについては多めに時間を使った。
駆逐棲姫的にも三日月のことは気になるらしい。自分の眼を持っている存在として、他人の気がしないらしい。三日月も私に対して似たような感情を持っているが、同じ感覚なのだろうか。
「三日月も同じことを言っていたな。若葉の左腕を見て、他人の気がしないと」
『ああ、多分……三日月ちゃんは脳に侵食が進んでるから、
私の侵食が進んだ場合、同じように三日月のことを他人に思えなくなるかもと付け足された。それはそれで怖い。
「ああ、そういえば……三日月がお前に会ったらしいぞ」
『
ずっと側にいるのだから、三日月とそういう話をしたことも聞いているか。
私が今会っているこの駆逐棲姫とは、雰囲気が違うような三日月側の駆逐棲姫。使われている部位が違うから、性格も変わってくるのだろうか。
『
「ああ」
『三日月ちゃんの方には
パーツごとに宿っている人格が違うとでも言うのだろうか。それはそれで怖いのだが。
『前に話しているのを聞いた時、少し
「……正直よくわからない話だ」
『だよね。
ケラケラと笑う駆逐棲姫。自分の境遇のことは全く気にしていないようである。
「若葉はお前を見ているから、少し意外なんだ。子供っぽいお前がどんなものかとな」
『正直、
姉の言うもののけとして私に憑いているこの駆逐棲姫は、同じ形で三日月に憑いている別の駆逐棲姫の姿は視認できないらしい。見える世界が私と共有されているからじゃないかとは思う。私がもののけを視ることが出来ないのだから、駆逐棲姫も視ることが出来ない。
今も隣で三日月が眠っているのだから、こう、なんやかんやあってあちら側と繋がることが出来ないものだろうかなどと考えたが、引っ付いているとはいえ同じ身体では無いのだから、夢を共有するのはまず無理だろう。超常的な力が働かない限り。
同じ夢を見ることはあるが、
『っと、もうそろそろ時間かな。若葉、今日はとても楽しかった』
「そうか。楽しんでもらえたのなら若葉も嬉しい」
『また呼んでいいかな』
少し上目遣いにお願いしてきた。そんなもの、断る理由がない。
「当たり前だ。お前は若葉の仲間……いや、
『友達……うん、友達だよ』
最後はまた握手で終わる。今まで以上に満面の笑みだった。
目が覚めると、もう昼時。寝たのが朝だったので、少し睡眠が浅いくらいか。それでも、清々しい気分で目覚めた。身体の疲れも取れている。隣の三日月は笑顔で眠っていた。おそらく、あちらも駆逐棲姫と会っているのだろう。
今回の夢で、駆逐棲姫とはより強く結び付けたのだと思う。力を借り、そしてあちらの目的のために力を貸す。お互いに思いは一緒なのだ。仲間として、友達として、今後も一緒に進んでいきたい。
何もない1日というのが貴重になりつつある施設、癒しはいろいろありますが、若葉と三日月の中にいる駆逐棲姫は小動物的な癒しにもなりつつあります。