継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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新たな捨て駒

私、若葉にとっては2度目の嵐の後の浜辺清掃。深海双子棲姫の艤装を有り合わせで作成するためにも、使えるもの使えないもの関係なしに、浜辺に打ち上げられたものを片っ端から拾っている。浜辺の環境保全にも繋がる普段からやっている仕事だ。

そんな中発見したのは、私と同じように大怪我を負った状態で漂着した1人の艦娘。辛うじて息はあるが、全身大火傷を負い、予断を許さない状況。すぐにでも治療しないと死んでしまうため、飛鳥医師は清掃を中断して施術を開始した。

 

私はその手伝いを自ら志願した。この大怪我を負った艦娘は、おそらく私と同じ境遇。捨て駒として生み出され、囮に使われた結果、この状況になっている。言ってしまえば()()()だ。

 

「いいな、若葉。僕の指示を確実に実現してくれ。難しいことは言わない。ただし、絶対に動きを止めるな」

「了解」

 

医師と患者という関係ではなく、家主と居候という関係でもない。今だけは上司と部下、()()()()()の関係になる。飛鳥医師の指示は絶対。否定も疑問もなく、言われた通りに身体を動かせばいい。

今の私は敵を殺すための生体兵器ではなく、人を生かすためのロボットだ。それでこの艦娘を助けられるのなら、私は幾らでも自分の意思を捨てよう。

 

「よし、長丁場になるから覚悟しろ」

「ああ、若葉は24時間働ける。大丈夫だ」

「その言葉、今回だけは頼りにさせてもらう」

 

事実、その施術はそれから十数時間にも及ぶ大手術となった。

 

後から知ったが、私の時はそれ以上だったらしく、歴代1位。今回はこれでも摩耶の時よりは時間がかかっていないそうだ。四肢が一部欠損しているよりはマシということなのかもしれない。

 

 

 

全てが終わった時、外はもう暗かった。昼食も摂らず、夕食の時間も大きく越え、グッタリとした状態で処置室から出る。慣れていない私はともかく、飛鳥医師も疲労困憊。シロとクロを施設に運び込むときとは違う、精神的な疲れで頭が痛くなりそうだった。

 

「先生、若葉、さっきの子は!?」

 

処置室の前でみんなが待っていた。特に雷は一緒に発見したため、その結果が早く知りたかったようだ。幸いみんな夕食後だったようで、初めて浜辺の清掃をしたクロは疲れでうつらうつらとしている。逆にシロは、処置室の中をジッと見つめていた。

 

「一命は取り留めた……ギリギリだがな」

「よかった……」

 

扉を開けたままにし、処置した艦娘をベッドごと運ぶ。このまま医務室で機械に繋ぎ、経過観察となる。これも私が受けた処置と同じ。むしろ、みんな同じことをしているので、誰もが疑問に思わない。

 

「全身包帯だ。顔や頭まで巻いてある」

「……ここの誰とも違うよ……匂いがそこまで強くない……でも……()()()()()。……皮膚……かな」

 

さすがシロ、勘付くのが早い。

今回の処置は全て火傷により爛れた皮膚の治療が大半だった。骨や内臓に異常が無かったのは幸いだったが、とにかく火傷が酷かった。その影響範囲が、身体の6割。顔の半分、胴はほぼ全て、腕や脚も8割方が爛れ、髪も半分は焼け焦げ抜け落ちているという酷い状態。さらには眼。顔が半分焼かれたことで、片目がダメになってしまっていた。

シロのいう匂いがそこまで強くないというのは、眼球以外は表面上の施術だったからだろう。中身はしっかり艦娘のままである。

 

その施術の様子をずっと見ることになったのだが、飛鳥医師の手元が見えないほどに手早く、言われた通りに物を用意すると、即座に次の物を頼まれる。終わった時の疲労困憊もわかるというものだ。

 

「ほぼ全身の皮膚と髪の半分、あとは左目を移植した。今までの経験があるから移植自体は成功しているとは思う。面積が大きかったから、保管していた皮膚の大部分を使うことになったがな。眼球も1つだけ残っていてよかった」

「目か……あたしと同じだな。なら眼帯も用意してやった方がいいか?」

「かもしれない。摩耶と同じように()()()()()()と訴える可能性はあり得る」

 

皮膚は摩耶以外の全員、目は摩耶で施術経験済みだったため、方法を模索しながらの施術にはならなかった。確証を既に得られているため、躊躇いもない。

それがあったために比較的早く終われたのだとか。これだけの時間がかかっても早く終われたとはこれ如何に。下手をしたら日を跨ぐほどのことになっていたのかもしれない。

 

「あとはこの子が目を覚ますことだ。数値としては異常は無いが、時間はかかるかもしれない。若葉の時と同様、3週間コースを視野に入れておこう」

「なら私がちゃんとお世話するわね! でも、身体を拭くことは出来るのかしら……」

「少し難しいかもしれないが、包帯の交換は毎日頼む。全身だから消費も激しいな。すぐに注文しておこう」

 

医務室に到着し、すぐに機械を繋いでいく。ちゃんと脈があることが画面に現れるので安心。全身包帯で巻かれたミイラのような状態になってしまっているが、身体は安定しており、息をしているのも胸が上下していることで判断できる。

目を覚ますまではここで安静にしてもらう。この艦娘の身の回りの世話は、相変わらず雷がするそうだ。これも私の時と同じ。

 

「ふぅ……さすがに疲れた。これで安定したはずだ。若葉、少し遅いが夕食にしよう」

「ああ。若葉も腹が減った」

「すぐに準備するわ。少しだけ待ってて」

 

処置自体はこれで完了。あとはこの艦娘次第である。息があるのならいつか目を覚ますだろう。私達はそれをゆっくり待つこととなる。

 

 

 

施術が終わるまで待ったことでクロの眠気が限界を迎え、シロと一緒に自室に戻っていった。雷が私達のための夕食を用意してくれる間、摩耶にも先程の艦娘のことを伝える。

 

「あの怪我人の艦娘は三日月。睦月型だ」

「睦月型……文月達の姉妹か」

「ああ、10番艦だからあの4人の妹だな」

 

駆逐艦三日月。おそらく私と同じ境遇で漂着した艦娘。火傷のせいで見るも無惨な姿にされてしまっていたが、その姿を知っていた飛鳥医師が、しっかりと怪我をする前の姿に戻している。使ったものは深海棲艦のパーツではあるが、私達と同じように五体満足の艦娘としての姿は取り戻せているだろう。

とはいえ、いくつかは本来の姿からかけ離れてしまう部分はあったという。そのうちの1つが、髪。

 

「残っていた髪が、戦艦タ級のものしか無かった。長さは同じにできたが、白髪になってしまったんだ。ル級の方なら同じ黒髪だから違和感が無かっただろうが……」

「それはキツイな……だけど、そうしないともっと酷かったんだろ?」

「頭皮が焼け爛れていたからな。二度と髪が生えないほどの火傷だ。男ならいっそ全て剃るとか出来るが、相手は女で、しかも子供だ。白髪よりも苦痛に思えるだろう。それに、髪ならいくらでも染められる」

 

頭の半分が完全に禿げ上がることになってしまう。こればっかりは苦痛であろう。私はこの飛鳥医師の判断は正解だと思っている。

 

「眼球は何が残ってたんだっけか。あたしはネ級だったが」

「若葉の腕と同じ、駆逐棲姫だ。これで手持ちが無くなった。次に目に傷がついたものに来られると、治療が出来ない」

「次のことは今は考えないようにするとして、今回残っててよかったじゃねぇかよ。見えないよりは全然マシだぜ」

 

確かに、片方だけでも失明してしまうと、今後の生活が途端に厳しくなる。距離感が掴めないというのは厄介だろう。摩耶は眼帯で片目を使ってはいないものの、やはり両目が見えた方がいいという。

代償はオッドアイ化。そうでなければ義眼が入れられることになっただろう。私としては、見えている方がいいとは思う。

 

「結果的に、この中で一番、外見に影響が出てしまった。内面に怪我が無かった分、外傷が激しすぎる。顔にも傷が出来てしまったのが本当に申し訳ない……」

「顔……か……」

 

その施術は私も見ていた。顔の左側半分、辛うじて右目にはかからず、唇を綺麗に避けた形での火傷の治療は、想像を絶するものだった。薄く、薄く、爛れてしまった肌を切除し、代わりとなる深海棲艦の皮膚を移植した。

そのせいで、今の三日月の顔には、斜めに走る大きな傷が出来てしまっている。最初は正面の皮膚を全て剥がすことも考えたらしいが、傷付いていない肌を傷付ける方が負担が大きくなるとして控えていた。

健康な部分はそのままで、が本人に負担がかかりづらい一番の手段のはずだ。

 

「治療する手段さえ手に入れば、最優先で三日月の顔を治そうと思う。構わないか?」

「おう、あたしは文句無ぇ。若葉は?」

「答えるまでも無い」

 

腕が深海棲艦そのものである私や、脚が深海棲艦そのものである摩耶よりも継ぎ接ぎが目立つ身体の三日月は、いの一番に治療される必要があるだろう。

 

「私も大賛成! 女の子の顔に傷なんてダメよ!」

 

私達の夕食の準備を終えた雷が、料理を私達の前に並べながら会話に加わる。調理しながらもこちらの話は全て聞いていたようだ。

 

「でも、なんであんな大怪我で流れ着いたのかしら。摩耶さんみたいなドロップ艦?」

「可能性が高いのはそれだとは思うが」

「……三日月はおそらく、若葉と同じ境遇だ」

 

雷と摩耶がビクンと震える。私の境遇は既に皆が知っていること。つまり、三日月も捨て駒にされた艦娘であると私は伝えた。

断言するにはまだ早いかもしれない。だが、どう考えても同じだった。真意は三日月が目を覚ましてから聞くことになるが、あの譫言で私は確信している。

 

「……捨て駒かよ」

「酷い……酷すぎるわ。若葉だってあんなだったのに、三日月まで……」

「このことは三日月が目覚め次第、話を聞き、来栖に伝える。若葉と三日月が同じ鎮守府で生み出されたかどうかはまだわからないが、同じである場合は常習犯だ」

 

そんな非人道的な行いを常習的に行なっているというのなら、どうにかしてでも罰してもらわなくてはいけない。私と三日月は運が良かっただけで、他にはもっと犠牲者はいるのかもしれない。

 

「……艦娘の敵は深海棲艦だけだと思っていた」

「普通はそうだろうな。でも、大分揺らいじまってる」

「シロとクロみたいな深海棲艦もいるんだもの。一括りに敵って言えないわよね。逆に、そんな鎮守府があるっていうし、よっぽどそこの方が私達の敵よ」

 

生み出された時に、艦娘の敵は深海棲艦であり、人間を守るために殲滅するのだと身体に刻まれた。だが今はどうだ。その深海棲艦と共に生き、身体の一部も深海棲艦となり、人間のやり方に憎悪している。

 

本当の敵は何だ。私達は何と戦うべきなのだ。

深海棲艦か。それとも、人間か。

 

「今はその辺りは考えない方がいい。結論を出すには早計だ」

「……だな。今考えるのは2つ。三日月が起きてからのことと、シロとクロの艤装だ」

 

悶々とするのはあるが、今は一旦切り替えていく。今後のことを考えていこう。摩耶のいう2つのことが、今の私達の優先課題である。

 

「雷、摩耶、僕と若葉が施術している間、何かあったか?」

「何かって言うと特別なことは無かったが、その間も浜辺の清掃は続けたぜ。工廠に拾ったモンは全部置いてある。大物もいくつか見つけてるから、明日からはそれを分解していくつもりだ」

「それでもやっぱりいっぱいあって、まだ掃除は終わってないの。明日も続けていくわ」

 

私達が抜けたことで終わらなかったというわけではない量のゴミが流れ着いていたようだ。それほどの大嵐であることは私も理解している。また、今回は特に多かったそうだ。

 

「三日月の件を聞いてたから一通りザッと浜辺を見て回ったが、深海棲艦の死骸は上がってなかったぜ。三日月が上がったのは、運が良かったのかもしれねぇ」

「そうか、わかった。ありがとう。明日も引き続き頼む」

「おう、まずは最低限、主機の部分だけは作ってやりたいからな」

 

そうすれば掃除の戦力も増えると、摩耶が少しニヤつく。本人達が希望するのだから、今より一層働いてもらうのだと。クロはやる気満々だったので、最優先は主機になりそうだ。そうなれば、私達と同じように重いものを運べるようになる。

 

「さ、食べちゃって! 今日は早く寝た方がいいわ!」

「ああ、そうだな。早く片付けなくては」

 

今日はここまで。次のことは明日以降に考えることにしよう。

 

 

 

新たな捨て駒、三日月。私と同じ境遇の艦娘は、この世界をどう思うのだろう。少なくとも私は、この施設に拾われたおかげで『楽しく生きる』ことが出来ている。ならば、三日月も同じようになってほしい。

 

この世界は、楽しいことで満ち溢れているはずなのだ。

 




スカーフェイスの三日月。今は包帯で全て隠されていますが、顔に関してはブラックジャックのようになっていると想像してください。
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