継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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鎮守府の危機

その日は朝から来栖提督が施設にやってきていた。職人妖精の派遣と、近況報告のためである。私、若葉率いる五三駆は夜間警備だったために昼まで休んでいたのだが、その間にいろいろと手配をしておいてくれたらしい。工廠の修復は既に完了していた程である。指示はシロクロとセスがやってくれたようだ。

相変わらず仕事が早い。たった3日ほどで半壊した施設をより良い方向に修復してくれただけある。工廠だけなら半日もいらないか。

 

「おう、夜間警備ご苦労さん。飛鳥、これでラストだな」

「ああ、この2人が最後だ」

 

私と三日月が最後まで眠っていたらしい。雷と曙、摩耶も既に起きて活動中のようである。生活する時間が変わると、なかなか上手くいかないもの。寝坊というわけではないのだが、こういうのは初めてである。

それに今回は駆逐棲姫との対談もあったし、なんだかんだ遅くまで眠ってしまったようだ。

 

「若葉達が起きるのを待っていてくれたのか」

「そりゃあな。真横で工事されたら困るだろ」

 

確かに。振動やら音やらで眠ることも出来ないだろう。しっかりと準備した状態で、部屋から離れた方が安全。

 

「じゃあ2階の増設を始めるぜェ。工廠よりゃ時間はかかるが、ひとまず4部屋増やしておくからよォ」

「ああ、よろしく頼む」

 

暁が一時的な施設の一員となり、今は雷と呂500の部屋に滞在中。曙が倒れた後に部屋割りが少しだけ見直され、曙は姉と同室に、リコが1人部屋となっているものの、使っている部屋の数は変化無し。そこに朝霜と巻雲が参入したことで、部屋は全て埋まってしまっていた。

外部からの出向組が今4部屋使っているため、事が済めばそれだけは空くが、これからの戦闘でさらに完成品を救出する可能性は高い。そうなると、寝泊りしてもらう部屋がないため、ここで増設してもらえるのは地味にありがたい。

 

「悪ィが、すぐに始める。1階に移動してくれ」

「了解」

 

私達が自室から離れ、飛鳥医師と来栖提督に先導されて1階に下りると、誰もいない状況になったことで工事が始まった。私達はこれ以降、2階は上がることが禁止される。階段には侵入防止のテープが張られているほどである。当然エレベーターも使用禁止。

 

「この音の中じゃ、寝れねェだろォ?」

「工廠の音は気にならなかったのにな……」

 

私達がぐっすり眠っている間に工廠の修復が完了しているわけだが、その時の工事の音は全く気にならなかった。

工廠は場所が違うし、そもそも音がするところなのだから慣れている。しかし、間近で工事をされたら流石に眠れそうに無い。この配慮には感謝しよう。

 

「大体数時間ってくらいだ。暗くなるくらいにゃ大方終わってるから、安心しな」

 

来栖提督はここでやっておきたいことが終わったらすぐに撤収するらしいが、職人妖精はここで一晩明かすらしい。明日また、仕事を終えた妖精達を鎮守府に運ぶために来てくれるのだとか。

 

「それなら来栖もここに泊まっていってもいいんじゃないか? 都合よく部屋も増えるのに」

「そうしてェのはやまやまなんだがな、こっちもそうは行かなくなっちまった。つい最近なんだが、彩雲がこちらに飛んできているのをうちの哨戒部隊が発見しちまったんだよ」

 

つまり、来栖鎮守府も監視されているということだ。この施設を襲撃するにあたって邪魔をしないように確認しているのか、()()()()()()という脅しなのかはわからない。

来栖鎮守府も大淀にとっては敵対勢力だ。さらに言えば、私達の施設よりも戦力が整っている。それ故に、私達が滞在している時に纏めて終わらせようと襲撃もしてきたし、監視をするのもわかる。

 

「今は大将が動けねェ。俺らのとこは俺らで守らなくちゃならねェんだ。そもそも頼りすぎるのも良くねェしな」

「そうか……気をつけてな」

「おうよ。奴らの思い通りには絶対にさせねェよ」

 

私達よりも経験があり、さらには人数も揃っている来栖鎮守府だ。施設を襲撃されるよりは健闘してくれるはず。

とはいえ、敵の情報が皆無であるため、対策が練れるかどうかは不明。そこで来栖提督はしっかりと考えてここに来ていた。

 

「なら、もう帰るのか?」

「そうだな。朝霜からはさっき話は聞いておいたしよォ」

 

前回の朝霜への事情聴取の場に来栖提督はいなかった。そのため、直にしっかりと話を聞いていたようだ。

朝霜なら、現状がわからなくてもこちらに来る直前までの完成品達は知っているはずだ。完成させられたことで新たな能力を与えられている可能性もあるが、まるで違うということはないはず。ならば、情報としてはかなり有用である。誰であるか、どんなことをしていたか、本来との変更点は何か、などなど、知りたいことは沢山ある。

 

「昼飯くらいは呼ばれていくか。今から帰っても時間が微妙だからな」

「ああ、こちらに手伝えることは何でもやろう」

「おう、悪ィな」

 

持つべきものは友。私もよく理解させてもらっている。私の中にいる駆逐棲姫とは、いい友好関係を結んでいきたい。少なくとも私は、彼女を友人と感じているし、それを口にした。あちらもそれを喜んでくれている。

今一番必要なのは、こういった関係性なのかもしれない。あちらは数人でも異常な強さ。こちらは対抗するためには仲間達と協力する必要がある。

 

 

 

午後、来栖提督は帰投。その後は工事中ではあるが普段通りの生活に戻った。私は三日月と鳳翔に見てもらいながらリミッター解除の訓練を続け、他の者もそれぞれにあった訓練を続けている。

だが、今回は鳳翔が少し調子が出ていないようだった。来栖提督が言っていた、鎮守府に飛んできた彩雲というのが気になっているのだろう。私達が眠っている間にその辺りは聞いていたようだ。

 

「……鳳翔、気になるのか」

「そう、ですね。私の居場所が監視されているというのは、やはり気になります」

 

訓練の合間を見て聞いてみると、やはり。自分がいない間に、本来の居場所が攻撃を受けるというのは気分の良いものでは無い。ましてや、鎮守府を壊滅させられるほどの勢力でもあるため、いくら自信があるとしても気にならないわけがない。

 

「一旦戻ってみてはどうでしょう。長くここにいてもらっていますし、戻ることは悪いことでは無いと思うんですが」

 

三日月も気になるなら見に行った方がいいのではと案を出す。

鳳翔は本来、来栖提督の秘書艦だ。それが、私達の戦力増強のためにずっとここに滞在してくれている。それこそ、もう大分長いこと。そういう任務だと言われればそれで終わりなのだが、あまりに施設で占有し続けるのもどうかと思う。

二四駆だってそうだ。ここをずっと警備してくれているが、自分達の鎮守府が気にならないことはないだろう。警備隊を違う駆逐隊と交代して、一時帰投するのも無くはない。

 

「その間は、ここの戦力が大きく減ります。むしろ追加で人員を増やしてもらいたいくらいです。ただでさえ施設は常に危機的状況だというのに、私の我儘でここを空けるというのは……」

「我儘でも何でも無いと思うのだが。自分の本来の居場所を守ることを優先させて何が悪い」

 

だからといって、独断で鎮守府に帰る、ということが出来ないのもわかっていることだ。今はもう帰投してしまったが、来栖提督に一度聞いてみるべきだった。

鳳翔は少し悩んだ後、ふぅと息をついて微笑む。いろいろ考えた結果、自分が納得する答えが出たようである。

 

「明日もまた来ると言っていますし、その時に話してみますか。確かに私も不安ではあります。それですぐに帰投することが出来るとは限りませんが」

「それがいい。話しておけば、来栖提督も何か気にかけてくれるだろう」

「心配してくれてありがとうございますね」

 

私達が気付いたことで、鳳翔も少しだけ心が落ち着いた様子。

 

「では、私達が安心して一時帰投出来るように、一層強くなってもらわなくてはいけませんね。訓練を少しハードにしましょう」

「ああ、若葉は大丈夫だ。これ以上の訓練も悪くない」

「の、望むところです。強くならなくては、施設は守れませんから」

 

藪蛇だったかと思ったが、実際鳳翔の胸のつかえが少しだけでも取り除かれたのならそれでいい。元々スパルタではあったのだから、少しハードになるくらいで私達はへこたれるつもりは無いのだ。

 

実際、やってみたら少しどころか相当ハードになっていたのは言うまでもない。

 

 

 

夜、その頃には施設の増築も完了しており、本当に部屋が増えていた。これにより、救出した者の部屋も、出来ることなら援軍も受け入れる準備が出来たと言える。4部屋増え、同じような仕様なら2人部屋。8人の増員が可能となる。

それをやってくれた職人妖精達は、夕食で好物である金平糖を出されて満足げ。サイズ感的に近しい浮き輪達と戯れていた。

 

その場で鳳翔は飛鳥医師に一時帰投のことを相談していた。二四駆や足柄羽黒にもその件は話している。鎮守府が危機に陥るかもしれないと聞くと、やはり一旦帰投して様子を見ておきたいと話していた。

 

「ふむ、一時帰投か。僕としてはそれも必要だと思う。本来の居場所の危機かもしれないのなら、そちらを優先すべきだろう」

「ありがとうございます。明日、提督がここに来たときに聞いてみたいと思います」

 

飛鳥医師は、許可さえ出れば帰投もやむなしと快くそれを受け入れていた。

本来の居場所を優先したいのは誰だって同じ。私だって、もし来栖鎮守府に出向していたとして、施設が危ないかもと言われれば、施設を優先したくなる。

 

「彩雲の監視ってことは、空母隊ってことよね。あの時の連中かしら」

 

足柄は思い当たる節があるようだ。風雲が来栖鎮守府に襲撃してきたとき、とんでもない数の爆撃機による空襲を受けている。おそらくそれの実行犯が、その監視者である可能性を考えていた。

 

「そういえば、五航戦が指揮していましたね、あの空母隊は」

「完成品にも五航戦がいると朝霜は言っている。そういうことだろうな」

 

そもそも姫にもいたという五航戦。朝霜が言っていた完成品であろう者にも含まれているため、それがそのまま完成させられたと見てもおかしくはない。

 

「我々の鎮守府の航空戦力に抜かりはありません。防空も万全です。ですが、相手が完成品となると、話は変わるでしょう」

 

あの時も空母隊と防空隊で制空権は拮抗にまでは持っていっていた。それを続けられるのなら、鎮守府が空爆により失われるようなことは無いだろう。だが、それは前と同じならばだ。

完成させられた今、空母としてのスペックは別次元になっている可能性が高い。重巡洋艦である鳥海があのトンデモスペックだったのだから、大型艦である空母がそれ以上になっているのは誰でもわかる。

 

「対策を練っていないわけはないと思いますが、それを乗り越えてくる可能性は充分に考えられます。ならば、打てる手は全て打たなくてはいけません」

「制空権を取りつつ、ダメージを与え、出来ることなら救出も視野に入れなくちゃいけません……難しいですね」

 

羽黒も今の状況をしっかり見据えて考えていた。

鳥海と対峙しているのだから、完成品の脅威は身を以て知っている。ただ倒すだけではダメという状況で、ただ倒すだけでも損害が大きすぎる敵というのは、あらゆる方面で脅威。手加減をしていてはこちらがやられる。

 

「ただでさえ夜にも艦載機を飛ばしてくるような輩なのよね。うちに夜戦出来る空母なんてそんなにいないわ」

「出来ないわけでは無いですよ。私も今回は夜戦装備を届けてもらいましたから」

 

来栖提督は、鳳翔用の夜戦装備を持ってきてくれたようだ。今まで襲撃されても手を拱いていることが多かった鳳翔も、これで参戦出来る。

大淀と鳥海は工廠まで乗り込んできてくれたおかげで参加は出来たが、毎度のこと空母対策のためと思えるほどに夜襲を仕掛けてくるため、その対策はしっかりとった。

 

「まずは明日、来栖に話をしよう。出来ることなら先生にも話しておく。増援ももしかしたら許可してくれるかもしれない」

「はい、そうですね。急いては事を仕損じるとも言いますし、焦らず事に当たります」

 

こんなときにも鳳翔は冷静だ。だが、不安を感じている匂いは私にはわかる。表に出さぬよう、気丈に振る舞っているだけ。あの鳳翔だって、自分の居場所の危機となればそういう感情を持つ。

 

何事もなければいいのだが、こればっかりは私達が止められるものでも無い。迎撃しか出来ないこの環境が辛いが、それこそ鳳翔が今言った通り、焦らずに動いていきたい。

 




ここの鳳翔はおわかりいただける通り練度175です。
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