継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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監視の目

連絡が取れなかった来栖提督の状況を知るため、鳳翔達と共に鎮守府に向かった私、若葉と三日月。私達がそこで見たものは、完成品達の夜襲により半壊していた来栖鎮守府。通信の配線が破壊されていたせいで連絡が取れなかったことがわかった。

艦娘の半数以上は多かれ少なかれ怪我をしており、来栖提督も腕の骨折や打身などの怪我。艦娘は入渠さえしてしまえばすぐに治るが、提督はそうはいかない。しばらくは激しく動けないと見るべきである。

それがあるため、秘書艦である鳳翔は私達の施設への出向は取り止め、来栖提督の世話をすることとなった。こればっかりは仕方のないこと。

 

「ここが落ち着いたらまた援軍行くわ。鳳翔さんは提督の世話で忙しいでしょうから行けないけど、私達はまた行くから」

「はい。私と足柄姉さんは援軍としてまた行かせてもらいますね」

 

足柄と羽黒は鎮守府再興が一段落ついたらまた訓練や防衛のために力を貸してくれるらしい。戦場が激しいのは間違いなく施設側だ。足柄の闘争本能に火をつけるには充分だった。

 

「私達も残ります。部屋は片付けておいてくれて構いませんので」

「また行った時に部屋貸してくれよな。次は江風達とは違う駆逐隊が行くかもしれないけど」

 

二四駆もまた来てくれるとのこと。あれだけ長居したのだから、第二のホームと言っても過言では無いほどに愛着が湧いてしまったらしい。

 

「若葉、三日月、すぐに施設に戻っておけ。少しでも人員を割くわけにはいかねェだろ」

「手伝わなくていいのか?」

「おう、誰も死んでねェんだ。協力しあえば今の人数でもどうとでもなるぜェ。職人妖精も連れ帰ってきてくれたしな」

 

腰をやってしまったのが辛そうで、今は瓦礫に腰掛けて他の者に指示を出し続けている状態。

ドックがない上に、高速修復材も全て破壊されてしまったために、大破状態の艦娘も今の来栖提督のように人間と同じ治療を受けている。こんな時に飛鳥医師がいれば、より良い治療が出来たかもしれない。

 

「話が通っているなら、飛鳥医師をここに連れてくることも出来るだろう。艦娘は設備があれば何とかなるが、来栖提督はそうは行かない」

「おう、悪ィな。こりゃ医者に診てもらった方がいい。余裕がありゃこちらから行きてェが、手段が無ェからな」

 

残念なことに、鎮守府に配備されていた大発動艇も破壊されてしまっているため、来栖提督からこちらに来るのは少し難しい。

下呂大将に連絡したことで、大本営から早急に設備の修復が進められたら話は変わるが、今すぐとなると、霰に大発動艇の運用を頼んでここまで来てもらうしかないだろう。それなら飛鳥医師をここに連れてきた方が早い。

 

大本営から軍医を派遣されるかもしれないが、それが遅れた時のことを考えれば、一番近い位置にいる飛鳥医師が適任だ。近いと言っても、艦娘の最高速度でかなりの時間がかかるのだが。

 

「だから、お前達は施設に戻って防衛を頼むわ。今はこっちも機能不全だからな。お前らのトコはこのタイミングで狙われんぞ」

「すまない。すぐに戻らせてもらう」

「おう、心配かけてすまねェな。連絡はしたが、飛鳥にヨロシク言っといてくれや」

 

少し疲れた顔で手を振ってきた。元気とは言えないが、命があることは喜ぶべきだ。これほどガタイのいい男だし、次に会うときにはピンピンしていそうである。

 

 

 

三日月と共に大急ぎで施設に戻る。

私と三日月が抜けていることでただでさえ人数が少ない施設の防衛力が格段に減ってしまっている。2人だと誤差範囲かもしれないが、いないよりはいた方が当然いい。

 

「この間に何かあられても困るが」

「お昼ですし、いつもと同じなら来ないですよね」

 

希望的観測ではあるが、敵は夜にしか来ないというのが今のところの定説。それが外れたのは、私達が一時的に来栖鎮守府に滞在させてもらっているときに、下呂大将もやってきて家村の鎮守府を調査しに行こうとしたときだけだ。

あの時はあの場所に飛鳥医師、来栖提督、下呂大将と大淀には好ましくない人間が勢揃いしたことが理由だろう。今は各個撃破でも充分と見做しているのだろうか。

 

「そうだとしても、夜が危ないな」

「はい。確か、今日の夜間警備は……」

「若葉達だ」

 

ローテーション的には二四駆なのだが、4人は鎮守府に戻っている。故に、今施設には駆逐隊が2つしか無いため、ローテーション前倒し。私達が夜間警備となる。

状況的には今が一番危険だ。外部の者がいなくなったことにより人員が元に戻り、施設が必要な者のみが滞在している状態。さらには援軍も期待出来ないような環境である。今晩は確率が非常に高い。

 

「今晩が峠か」

「でしょうね……同じように空襲を受けるかもしれません」

「だが、それを守らなくちゃいけない」

 

好きにさせてたまるか。などと強がってみせても、私は対空砲火なんてやったことがない。むしろ、五三駆の面々は誰1人として経験が無いのでは。そもそも高射砲や両用砲を使えるのは摩耶と巻雲のみである。

雷がリコから手解きを受けていたが、あれはあくまでも低空飛行の戦闘機を撃ち墜としていく命中率上昇の訓練であり、対空砲火では無い。

 

「空襲を相手にするのは摩耶に任せよう。若葉達には手段がない」

「そうですね……代わりに本体を叩くしかないです」

「それも立派な防空だろう。発艦するのがいなくなればいいわけだからな」

 

そもそも艦載機を発艦させないというのが一番の防空だろう。元から断つ。それが上手くいけばいいのだが、相手は性格が捻じ曲がった大淀作の完成品である。遠距離からの航空戦専門の五航戦は、近接攻撃にも何らかの耐性をつけられているだろう。それこそ、回避性能が上がりすぎているか、近距離用の武器を持つようにさせられているかは定かではない。

 

「五航戦だけならいいんだけどな」

「そうですね……一緒に鳥海さんが来る可能性だってあります」

 

総攻撃という可能性だってある。名前を知る完成品5人が一斉に来るとしたら、さすがに厳しすぎる。

 

「やれることをやるだけだ。そのために若葉達は訓練を続けてきたんだからな」

「……そうですね。弱音は吐かないようにします」

「ああ、それがいい」

 

航行しながら頭を撫でておいた。気持ちよさそうに目を細め、機嫌が良くなる。落ちていたテンションも少し上がったようだ。

 

「ん……?」

「どうした」

 

そろそろ施設の近海。トップスピードで航行中だが、三日月が何かに反応した。

 

「あれ、若葉さん、見えますか」

 

三日月が空を指差す。私もそちらの方を見ると、空を飛ぶ何かを見かけた。言われなければ私は気付かないレベルのもの。

海上から見ると、もう大分小さく見えるほどに高い位置にある。形状までは判断出来ないが、鳥ではないことくらいは素人目に見てもわかった。

 

「彩雲か」

「じゃないでしょうか……」

 

以前に一度見たものとは少し違った。あそこまで高い位置では無かったし、色も違うように見える。だが、速度は私の知っている。確かに彩雲のそれだ。

私達の真上を通り過ぎて、チカッと光を発した。こちらを見ている目に、太陽の光が反射したか。

 

「施設も監視しているということだな」

「ですね。あれを追えば敵の居場所に辿り着けそうですが」

「若葉と三日月だけでどうにか出来るとは思えない。一旦帰投する方が確実だ」

 

出来ることなら追いたいが、さすがに危険すぎる。私達が施設に向かっているのもこれで確認されているだろうし、誘き出されている可能性も捨てきれない。ならば、戦力的にはまだある施設に戻ることを優先する。

私達だって、来栖鎮守府から休息無しで戻っているのだ。実際のところ、少し疲労もある。一度休憩しないと、最大のパフォーマンスは発揮出来ない。

 

「帰ろう。まだその時じゃない」

「了解しました。私は若葉さんに従います」

「……お前が言うと重く聞こえるな」

 

ひとまず帰投を優先。来栖提督からどのように連絡が行ったかはわからないが、私達が知る限りの情報も全員に認識してもらっておきたいところだ。

 

 

 

奇襲を受けるようなことはなく施設に到着。その間に不審な影を見るようなことも無かった。

やはり襲撃してくるのなら夜なのだろうか。空母封じもあるかもしれないが、慣れていなければ視界が狭まるのも辛いところ。それに慣れているあちらには、時間なんて関係無いのだろう。

 

「帰投した」

「ただいま戻りました」

「おう、お帰り」

 

工廠では摩耶がシロクロやセスと一緒に艤装整備しながら待っていてくれた。出向組の帰投ということで、訓練のプランを練り直しているところらしい。そんな中でも曙はリコに鍛えてもらっているらしいが。

 

「センセ、2人が帰ってきたぞ!」

「ああ。若葉、三日月、来栖からは連絡を貰ってる」

 

飛鳥医師には詳細ではないものの鎮守府がどうなったかくらいは連絡が行っているようである。来栖提督が負傷したという事実を聞き、すぐに治療をしに行きたいと考えていたようだが、時間的に今から行くとあちらに泊まらざるを得ない時間になってしまう。

鎮守府が大変な時に治療とはいえ、泊まりがけで押し掛けるのは流石に問題。そのため、明日の朝、改めて向かうことにした。下呂大将や新提督にもその辺りは頼まれたらしい。あちらも大変なようである。

 

「あと、さっきここに来るまでに彩雲を見た」

「……ここも監視をされているということか」

「ああ。三日月が気付かなかったら若葉もわからなかった」

 

そろそろ、下手をしたら今晩にでも襲撃を受けるだろうとわかると、そのための準備に移行。少なくとも、私達がここに帰投するまでに襲撃されていないのだから、やってくるのならいつも通りの夜襲。

 

「若葉と三日月の艤装整備は今すぐにやっちまう。迎撃すんだろ」

「そうなるだろうな。今日は五三駆が夜間警備だったか」

「おう。アタシが引率だ」

 

艤装の整備は私も手伝い、万全な態勢に持っていく。今訓練中の曙の艤装も、なるべく早いうちに終わってもらい整備をしておきたい。

 

それを伝えに曙の下へ。そこでは、雷がやっていた360度から戦闘機に襲われる訓練が執り行われていた。雷はそれを水鉄砲で撃ち墜としていたが、曙はその集中砲火を掻い潜り、防御し、それでも尚突き進み、リコに接近しようとしている。

今は押し返されているようだが、曙の成長は著しく、その動きは目を見張るものになっていた。水浸しではあるものの、持ち前のスタミナで息切れもなく、延々と回避し続けている。あらゆる場所が鍛えられている。

 

「すまない、曙、リコ。訓練を終わってくれないか」

「ああ、帰ってたの。で、何でよ」

「夜襲を受ける可能性が出てきた。ここに戻るときに三日月が彩雲を発見している」

 

この言葉に、曙の動きがピタリと止まる。リコも曙への集中砲火をやめ、訓練ではなく哨戒機を飛ばし始めた。今ここから飛ばして確認できるかはわからないが、やらないよりはマシだろう。哨戒範囲に敵がいるかがわかるだけでも大分変わる。

 

「今日、ローテ変わって夜間警備だったわよね。なら、私達が警備中に襲撃される可能性があるってこと?」

「ああ。だから万全にしておきたい。曙の艤装を整備しておきたいんだ」

「それなら仕方ないわね。リコ、感謝するわ」

「構わん。お前の強くなりたいという気持ち、わからなくもない。またやってやる」

 

素直に訓練をやめて、施設に戻ってくれる。リコも哨戒が終わったらすぐに戻るとのこと。

 

「あっちはどうだったの」

「……鎮守府が半壊していた。来栖提督も骨折していたほどだ」

 

曙の舌打ちが聞こえた。曙だって来栖鎮守府を知っているのだ。それを破壊されたと聞いたら、怒りが込み上げてくることもあるだろう。

 

「好き勝手やりすぎよあのクソ淀……生きていることを後悔させてやるわ」

「ああ……今までもそうだが、奴のやり方は目に余る。それでいて本人が出てこないのだから気分が悪い」

 

簡単な愚痴大会に発展。万全な態勢には精神状態も含まれるため、ストレスは取り払っておきたい。

曙にはこの口汚く罵るという鬱憤の晴らし方がちょうどいいらしい。部屋割りの変更で姉と同室になってからは、たびたび話を聞いてもらっているようだ。曙は溜め込みやすいようだし、それでストレスが発散出来るのなら万々歳。姉もメンタルカウンセラーとして優秀である。

 

「次に来たら絶対に逃がさないわ。どうせ鳥海さんと五航戦辺りでしょう」

「ああ、おそらくな」

「全員倒して洗脳を解いて、逆にクソ淀に嗾けてやるわ。自分の手駒にやられればいいのよ」

 

やはり鬱憤は溜まり続けている模様。だが、その鬱憤に呂500のことが含まれていないことは喜ばしい限り。

 

決戦は今晩。来ないなら来ないで構わないが、意気込みだけは強く。次は撤退もさせない。負けてたまるか。

 




施設防衛はよりハードに。人員欠如が大きく足を引っ張ります。

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