継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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姫の力

鳥海と五航戦による夜襲を迎撃している私、若葉と施設の仲間達。戦いが進めば進むほど空を飛ぶ艦載機の数が増え、それを放つ者に手も届かず苦戦を強いられている。私が先行して空母隊を減らそうとしてのだが、それは全て瑞鶴に食い止められ、他の者も完成品に行手を遮られ続けていた。

完成品の力は凄まじく、3人が3人無傷のまま。対するこちらも傷は負っていないが、消耗はさせられている。1人に対して3人つけていても、圧倒的な力に自分を守ることで必死。

 

最中、新たな援軍、シロクロが戦場に現れた。今まで長い時間かけてようやく完成した、継ぎ接ぎの艤装の初陣。最初の狙いは、私達の誰の攻撃でもそのバルジに全て阻まれていた鳥海。

射線上から逃さぬよう曙と雷、霰がその退路を塞ぎ、轟音と共に放たれた主砲が直撃。バルジで受け止めたようだが、その強烈過ぎる威力で鳥海が宙を舞った。

 

「っぶな……私達までやられそうじゃない!」

「手加減なんて出来ないからね。装填の間は姉貴お願い!」

「うん……艦載機発艦……対空砲……撃つよ」

 

戦闘中も絶えず増え続けていた五航戦の艦載機。これを少しでも減らしてくれるとシロが艦載機を発艦。さらには高射砲による対空砲火を開始。主砲の威力もさることながら、高射砲も半端ではない。摩耶や巻雲の対空砲火よりは劣るかもしれないが、そもそも主砲を撃ちながら艦載機も飛ばしてやれる力では無かった。

シロクロに求められた艤装の再現をしただけなのだが、2人分の艤装を1つに集約するという深海ならではの滅茶苦茶な要望だったためにこれである。

 

「な、何なのアイツ!?」

 

水上機と対空砲火で五航戦の艦載機が迎撃されていく様を見て、瑞鶴が目を丸くした。拮抗とは言わないが、ここに艦載機を追加しなければ最終的には蹂躙し尽くす勢い。

ただでさえ耐久力に特化した鳥海が一撃の下に吹き飛ばされたことでザワついていたというのに、主砲と対空を両立する者が施設にいるとは考えていなかったのだろう。深海双子棲姫を匿っていることは知っていただろうが、艤装が完成していたのは計算外のようである。

 

「装填完了! アサシモ避けてよ!」

「あいよ!」

「ってことは私!? 冗談じゃないわ!」

 

朝霜に回避するように忠告してから再度主砲を放つクロ。掠るだけでもとんでもないことになる威力なのはわかっているため、朝霜との打ち合いを放棄してでも回避。

このタイミングで瑞鶴を狙ってくれたのは本当にありがたかった。当てるつもりがあろうがなかろうが、あの威力を目の当たりにしているのだから、受け止めようだなんて1mmも思わないだろう。

 

「今だな」

 

そのおかげで、瑞鶴からの妨害が若干緩んだ。これで後ろの空母隊に向かえる。リミッターを外した速度なら、これで潜り抜けられる。

考えた瞬間、身体が動いた。三日月とは少し違うが、今はこうしなければならないと確信したからこそ、即行動。艦載機の群れによる妨害を抜け、空母隊の先頭の人形に肉薄し、艦載機を発艦する弓を破壊した。

 

「瑞鶴!」

「あっ!?」

「完成させられてもそういうとこ変わんねぇよなアンタ」

 

弓を弾き飛ばすように棍棒を振るった朝霜が、そのままお返しと言わんばかりに瑞鶴の腹を蹴り飛ばす。朝霜があちら側にいた時から、翔鶴よりも若干詰めが甘いらしい。

それを見たからか、今度は翔鶴が私の妨害を始める。艦載機が私の方へ飛ばすために矢を放った。だが、そちらにも私の信用できる仲間はいる。

 

「やらせるわけないでしょう」

 

再度リミッターを外した三日月が、艦載機に変化する前の矢を撃ち墜とし破壊。さらには弓まで破壊しようと本体を狙ったが、それは流石に回避された。

 

「行け若葉! わらわ達が食い止める!」

 

既に艦載機へと変化した矢は、姉がしっかり対処してくれている。高く飛んでいない状態ならば、高射砲でなくとも墜とす事はできた。

 

このおかげで私はまだフリーとなったため、空母隊の発艦装備を次々と破壊していく。今回の敵は速さが足りないのがありがたかった。代わりに圧倒的な数で妨害し続けるつもりだったようだが、それを上回る単騎が来てしまったことで策が瓦解したと見える。

 

シロクロがいなかったらジリ貧で全滅だった。今施設がどうなっているかはあまり考えないことにする。

 

「空母隊は無力化した!」

「っしゃあ! んならこれで集中出来るな!」

 

武装だけ剥がして人形はそのまま放置。リミッター解除を掛け直す手段は飛鳥医師が持っているため、助けられることが出来るかもしれない。

戦場から離れるかはわからないが、空母故に発艦さえ出来なくなれば無力だ。前のように逃げてしまうかもしれないため、艤装だけは半壊させ、航行不能にしておく。

 

「あんな隠し球聞いてないわよ翔鶴姉!」

「深海双子棲姫がいることは知ってたけど、艤装は無かったはず。回収したのは私達だもの、それは間違いないわ」

 

艤装が完成したのはつい最近だ。知るはずがない。だからこそ、3人ともこの場で終わらせる必要がある。この情報を持ち帰られるわけにはいかない。

 

「やってくれましたね……」

 

吹き飛ばされてもまだ健在な鳥海。しかし、防御に使ったバルジは破損しており、あと数回攻撃を受けたら破壊されるほどであった。その衝撃もしっかりと効いており、今までにないほど憔悴している。

計算外が続いて焦ってきているのだろうか。落ち着くために眼鏡を指先で押し上げ、深呼吸。そんな隙だらけの行為を許すわけもなく、曙が破損したバルジに強烈な突き。咄嗟のことのため、ガードを選ばせる。

 

「増援が来たから調子付くとは、弱者の思考ですよ」

「これくらいしないと勝てないくらい私が弱いことは、自分でよくわかってるわよ。だけどね、クソみたいなインチキして調子こいてるアンタの方がよっぽど哀れだわ」

 

ヒビに食い込ませるように放たれた突きは、その一撃だけで今までどうにも出来なかったバルジを完全に破砕した。シロクロの主砲によるダメージが思っていた以上に深刻だったらしい。

 

「今度はそっちね! ってぇーっ!」

 

バルジを破砕した直後にクロの主砲がもう一撃。威力は変わらず、回避しなければ二の舞い。一度まともに受けて自慢のバルジがやられたことで、完全に回避に専念するようになっている。

だが当然、回避させないように立ち回っていた。先程と同じように回避方向の進路を塞ぐ。勿論逆方向は雷と霰。しかし、今回は意地でも回避しようと曙に突っ込んできた。

 

「そこを退きなさい!」

「退くわけないでしょうが! そのご自慢の盾で防ぎなさいよ!」

 

槍ではなく主砲で迎撃する曙。それを残っているバルジで弾きながら突っ込む鳥海。クロの放った主砲を鳥海はスレスレで回避し、さらには曙に手が届く位置にまで突っ込んでいた。擦りはしていないが衝撃で若干よろける。

それでも曙の首に手を伸ばしたが、直後に雷が鳥海の後頭部に一撃。それにより、曙を掴むタイミングがズレ、辛うじて回避が出来た。

 

「ダメよ鳥海さん、誰も死んじゃダメなの」

 

さらには霰が艤装に砲撃。誰でも艤装に不備があればいくら完成品でも機能不全に陥る。それを狙ったが、その艤装はやたら硬く、一撃だけでは傷が付く程度。破壊には至らない。

 

「かたい」

「霰なら同じとこ、行けるわよね!」

「うん、だいじょーぶ」

 

一方曙は、体勢を崩した鳥海を避け、槍の柄で腹を打ち付ける。だが、その攻撃は体勢を崩しながらもしっかりと掴み、握りしめることで槍を捻じ曲げられた。

さらにはもう片方の腕に装備した主砲を曙に向けて放つ。槍を受け取られるほどに近付かれているため、その砲撃は衝撃だけでも曙にダメージを与えてしまう。そのため、槍を放棄してその場から離れた。寸前のところだったため、衝撃を受け曙は軽く飛ばされてしまう。

 

「っくっ」

「よく避けましたね。でも終わりにしましょう。死に損ないにしてはよくやりましたよ」

 

その手を返して槍を振り抜いてきた。そのまま受ければ腹が真一文字に捌かれることになるが、槍の間合いを一番理解しているのは曙だ。紙一重のところで回避する。

同時に主砲を腕に放ったが、残念ながらバルジで止められた。槍にやられるようなことはなく、何とか間合いを取ることが出来る。

 

そのおかげで次の攻撃が飛んでくることになる。鳥海の足下が()()()()()()

 

「魚雷も使えるんだからね!」

「なっ……!?」

 

それはクロが放った魚雷だった。あえて殺傷力の無いダミータイプではあるものの、その勢いだけは本来の魚雷と全く同じ。足下で爆発したら、海面から足が離れるほどに吹き飛ばされる。身体を浮き上がらせたため、これで回避不能の状態。

 

「あられがやるよ」

 

前回の襲撃では摩耶が浮かせたままにしたが、今回はそれはない。代わりに霰の連撃。先程撃った艤装の傷に対して、黙々と撃ち続けた。矢で言えば継ぎ矢をするかの如く正確無比な砲撃で、艤装を徐々に削っていく。

 

「まだ、やられない!」

 

握りしめていた曙の槍を霰に投げ飛ばした。握り締めて曲げていたことと、空中で無理矢理体勢を変えたために勢いはほとんど無かったが、刃が飛んできたために霰が若干怯む。鳥海への砲撃を1発だけ槍を撃ち墜とすことに使う羽目に。

このまま着水されれば、近接武器を失った曙は少々不利。それを見越して、鳥海が槍を投げた瞬間に雷が水鉄砲を撃っていた。狙いは僅かな隙間、()()()()()

 

「っつぁ!?」

「視力はどうか知らないけど、それは壊させてもらうわ」

 

探照灯が飛んだため、戦場は暗闇に包まれる。鳥海だけは常に照らしながら戦っていたが、それが無くなったことで動きが急激に鈍くなったように思えた。

眼鏡をかけているだけあって、鳥海は視力が低い。加えて夜だ。目の前の曙すらもボヤけて見えるのだろう。眼鏡が失われたことで戦闘能力が一気に下がった。

 

「こっの……!?」

「もういっぱーつ!」

 

着水と同時にクロの魚雷が足下へ。せっかく足を着けれたと思ったところで、もう一度打ち上げられる。

いくらダミータイプの魚雷とはいえ、衝撃はそれなりにある。本来なら両脚が消し飛んでいるものだが、今回は2回受けたことで脚部の艤装に深刻なダメージを与えていた。次は着水しても即座に行動が出来ないだろう。

 

「これで、とおった」

 

さらには霰の砲撃により、主機に砲撃が通る。同じ場所に数度、削って削って削って、ついにそのダメージが届いた。いくら硬い艤装でも、傷が付かないわけではない。そこに何度もダメージを与えれば、最終的には通る。

航行に必要な艤装に深刻なダメージを受けたことで、まともに戦えなくなった。あとは武装のみ。それがある限り抵抗される。

 

「霰、槍ちょうだい!」

「ぼろぼろだけど、はい」

 

投げられた槍を撃ち墜としていた霰が、曙にそれを蹴って渡す。放物線を描いて曙の元へと飛んでいき、見事にキャッチ。

 

「まだっ、私は!」

「いい加減諦めなさいよ!」

 

空中でもどうにか体勢を立て直そうとした鳥海が主砲を曙に構えた。撃たれれば当然酷いことになる。

真ん中から捻じ曲がり、槍としては機能しづらいそれを受け取った曙は、すかさず鳥海の腕に装備された主砲を突いた。外装は主機と同じく相当な硬さだったようだが、撃とうとした瞬間の砲口に捻じ込むことで、内部で爆発させた。

 

「っああっ!?」

「っぎ……これで手段無くなったわよね!」

 

モロに爆発を受けることになり、鳥海の腕はズタズタ。その爆発を曙も受け、槍を持つ腕に酷い火傷を負う羽目に。

槍も完全に木っ端微塵にされてしまったが、まだ曙には主砲が残っている。対して鳥海は武装の全てを失った。残っているのは尋常ではない握力だけだが、航行不能に陥ったため、それも接近戦として使うことは出来ないようなもの。

 

「アンタの負けよ……諦めて投降しなさいよ」

「負け……私の負け……?」

 

それを自覚した鳥海は、動かなくなった。

が、下呂大将が襲撃をしたときのことを思い出す。()()()()()()()()()()()()。鳥海も当然、そのシステムが組み込まれているはずだ。自爆装置は撤去されているにしても、何らかの手段を使って自ら命を絶つ。主砲があるなら頭を撃ち抜くなり何なりしているだろうが、それも曙が破壊した。

そうなると、考えられることは1つだ。あの鳥海ならば、自らの握力で自らの首を折る。

 

「命を粗末にしちゃダメ!」

 

それを察した雷が、怪我を負っていない手を水鉄砲で撃ち抜いた。首に向かっていた手は弾き飛ばされ、海面に叩きつけられることになる。

 

「生きてればいいことあるわよ! だから、自殺なんてダメ!」

「せっかくなんだから、救ってやるわよ。摩耶さんもアンタが死んだらきっと気分を悪くするわ」

 

気絶させるために雷がもう1発撃ち、頭に命中。今の状態で喰らえば、脳震盪により気を失うだろう。これで鳥海は気絶。

 

「ああーっ! しんどいわ!」

「曙、腕は!」

「クソ痛いわよ!」

 

鳥海に関しては戦い方を一度見ていたおかげで対策が取れた。曙は負傷したが、何とか勝利。初見で九二駆が全滅させられたことを考えれば、充分な結果である。

 

あとは私達だ。厄介すぎる五航戦をどうにかしなければならない。

 




シロとクロは同じ艤装を使っていますが、別のことがやれます。シロが艦載機と対空砲火をしながら、クロが主砲と魚雷で攻撃。何かのインチキ。

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