曙達が鳥海を抑える中、私、若葉は五航戦と対峙。特に瑞鶴が私の妨害を強めている。そんな中に現れたシロクロによって妨害が緩み、そのおかげで後ろで空襲をし続けていた空母隊の武装を全て破壊することに成功。これにより、これ以上の激しい空襲は無くなる。
五航戦自身も、施設に空襲をかける余裕は無くなっているようだった。シロクロが参戦したことにより、パワーバランスが変動。合間合間にクロが放つ強烈な主砲と、シロがコントロールする艦載機と対空砲火により、防戦一方だった私達は状況を均衡にまで持っていけている。
「ああもう、最悪! アンタ達、ただじゃおかないわよ!」
「瑞鶴、落ち着きなさい。貴女はすぐ熱くなって周りが見えなくなるんだから」
姉の方が出来がいいらしい。思い通りに行かずに憤慨している瑞鶴を、翔鶴が宥めていた。
空母2人に対して駆逐艦6人。そこにシロクロもいるのだ。やれないレベルではない。
今までは施設への空襲も私達との戦闘の片手間にやっていたが、シロクロ参戦により私達の方は本腰を入れるようだった。艦載機の発艦は私達の殲滅を優先にしている。それでも私も三日月は捕縛対象となっているようで、最優先はシロクロのようだ。
「死んだはずの深海双子棲姫が生きていることにも驚いたけれど、まさか当時よりも強化されているなんて思っても見なかったわ」
「……おかげさまで……ここの人に生かしてもらってるから」
翔鶴の放った矢は一直線にシロの方へと向かうが、矢のままの状態で夕雲が撃ち墜とした。
足柄と羽黒の訓練を受けた九二駆の砲撃は、以前から考えるととんでもなく向上していた。同じところに何発も撃ち込むほどの命中経度を誇り、空母の放つ矢くらいであれば、艦載機になる前に撃ち墜としてしまう。
それを考えた瞬間に実行に移す三日月とはまた違った技ではあるものの、今はそれが出来るものが、姉、夕雲、風雲と3人いるということが大きい。矢を放ったところでもう艦載機に変化させることは無いほどに圧力をかけている。
「あたいらを無視すんなよ!」
そして私は朝霜と組んで瑞鶴に集中攻撃。性格上、翔鶴よりも瑞鶴の方が熱くなりミスを犯しやすいと思ったからである。先程の様子から見てもそれは正しいと思う。
だが、そういう者に限って、キレた時と爆発力が危険だ。それは敵であった時の朝霜が自ら体現している。巻雲がやられたことで、6人がかりの攻撃すら耐え切ろうとしていた。瑞鶴も同じタイプではなかろうか。
「このっ、ただの腕力馬鹿が!」
「あたいはそれでいいんだよそれで! アンタはそれで止まるだろうが!」
猪突猛進に瑞鶴に突っ込んでは、大振りすぎるくらいに棍棒を振りかぶり、海面に叩きつけるが如く振り下ろす。脳天に当たれば死を免れない渾身の一撃。
本来なら救出が優先だ。だが、鳥海と同じく手加減なんてしたらこちらが持っていかれる。常に全力で立ち向かっているからこそ、今以上に発艦はされないし防御に専念させていられる。
「止まらないわよ! アンタ、いつの話してんの!」
猛烈な振り下ろしを、弓を軽く倒しただけで横に払ってしまった。先程から瑞鶴はそういう攻撃の避け方をする。相手の力を利用して体勢を崩し、返しに渾身の一撃を入れる、合気道のような戦い方。雑な戦い方の朝霜にはうってつけの戦い方であろう。
だから私がいる。よろめいた朝霜の背中に弓を突き刺そうとした瞬間を狙い、それを握る手に拳銃による射撃。それと同時に突撃。
「っぶないわね! そんなチャチな攻撃で!」
「狙いはそれじゃない」
私の射撃を避けるために手を引っ込めてくれた。おかげで朝霜への攻撃は逸れ、腕に傷をつける程度になる。
朝霜への攻撃をズラし、且つ、手が届くほどにまで接近。射撃と同じように弓を握る手に対して攻撃する。どうせ避けるのならもっと大きく退いてもらいたい。
「また手!? やらせるわけないでしょう!」
キナ臭い匂い。殺意ある攻撃の時は確実にこの匂いだ。次の行動は避けるためではなく私を殺すための行動。
手首を回して私の攻撃を弾いた時、弓の刃の先端は私の顔面に向いていた。眼前に来られると流石に怯みかけるが、すぐさま手と足が出た。刃を払うようにナイフを振るい、ついでに瑞鶴の腹を蹴り、無理矢理間合いを取った。
「いいよワカバ……そういうことだよね」
この行動でシロが気付いてくれた。五航戦の艦載機処理をしている水上機の1機が、瑞鶴目掛けて特攻。たった1機だとしても、強烈な質量兵器だ。
「あまり調子に乗らないこと」
それを翔鶴が弓で撃ち抜いた。考えていたよりも早い一射であり、上に向けた対空の矢であったため、三日月も間に合わず。三日月が持つものが両用砲なら話が変わっていたかもしれない。
水上機を撃ち抜いた矢は上空で艦載機へと変化し、シロが散々拮抗している航空戦に参加し圧力をかけ始めた。若干の増加でシロが嫌な顔をするが、的確に処理していく辺りは流石だと思う。
「瑞鶴、熱くなりすぎよ。予想外なのはわかるけれど、落ち着きなさい」
「わかってるわよ! ああもう、イライラするわね!」
瑞鶴は多分このままイラついたままでいてくれる。問題は翔鶴だ。常に冷静で戦場を完全に把握している。鳥海の方は見えているかはわからないが、自分と瑞鶴への危機は全て管理しているように思えた。
まだ手を抜いているようにも見える。私と三日月の捕獲は諦めていないようだ。そのおかげでここまで奮闘出来ているのかもしれないが、最後までこうであってほしいものである。
「思い通りにならんからとイラつくとは程度が知れるのう」
「なんですって!?」
イラついている者にはまず煽る姉。冷静さを失わせて、より一層本調子を出させない作戦。朝霜の時もそうだったが、精神攻撃は姉の得意技であり真骨頂。最も気に入らない言葉をきっちり選んでぶつける。妹の私としても、正直意地が悪いと思う。
「やっておることが
「この……言わせておけば……!」
「瑞鶴、落ち着きなさい!」
煽り成功。翔鶴の静止を聞かずに姉の方へ矢を放ち、突撃してきた。姉も同じ訓練を受けた九二駆なのだから、命中精度は先程の夕雲並に上がっている。放たれた矢は空飛ぶ主砲の一撃で簡単に撃ち墜とした。艦載機になんて変化させず、航空戦力の増強もさせない。
「あたいもこうだったと思うと気分悪くなんね」
「洗脳されているのだから仕方ない」
突撃を迎撃するのは私と朝霜。思考を怒りで染め上げたのだから、動きも単調。弓をただただ振りかぶり、嫌なものを目の前から排除するために暴れ回る。姉の煽りと同じだ。
だが、その攻撃は怒り任せだからか朝霜でもしっかり受け止められるほど。その隙に私が修復材ナイフで腹を斬りつける。
が、キナ臭い匂いが強まった。翔鶴が朝霜狙いで矢を放つ瞬間を予見できた。三日月達が牽制しているにもかかわらず、お構いなしにこちらを狙ってくる。矢は三日月が撃ち墜としてくれるが、今回は同時に5本撃ってきた。あれに対応出来る人数を超えてしまっているため、回避せざるを得ない。
「朝霜退がれ!」
「ちっ、んなこと出来たのかよ!」
忌々しげに舌打ちしながら回避する朝霜。私もその場からすぐに退いた。瞬間、元々私がいたところを矢が通り過ぎる。5本同時撃ちという無茶をしているのに、その精度は正確無比。気付かなかったら、致命傷とはならなかったかもしれないが、確実に刺さっていた。
間合いを取ってしまったため、翔鶴が瑞鶴と合流してしまった。瑞鶴はまだ頭から煙を出しそうなほどに怒り狂い、今にもまたこちらに突撃してきそうだったが、翔鶴が諫めていた。
「瑞鶴、やめなさい」
「翔鶴姉! あそこまで言われて」
「瑞鶴」
低く、冷たい一言で竦み上がったか、瑞鶴の顔が若干青くなる。
姉妹だからか、上下関係もはっきりしていた。感情的で力任せな妹の手綱を握り、戦場でコントロールする。本来の五航戦の在り方は知らないが、あの姉妹は
そして、私が空母隊を沈黙させたことにより、さらなる援軍。
「巻雲! 再び参戦しますぅ!」
シロの航空戦に紛れて巻雲が対空砲火で再参戦。猛烈な火力で次々と艦載機を墜としていく。私達が五航戦を抑え込み、航空戦力を増やさせなかったことでここまで来れた。
「先に謝っておきましょう。正直、私は貴女達を甘く見ていた。この程度の素人集団は赤子の手を捻る程度で済むと」
他の者の攻撃をヒラリヒラリと躱しながら、何を血迷ったか私達に謝罪。ここまでやっても私達が抵抗出来ているため、考え方を改めると。今の今まで嘗めてかかっていたと告白したわけだ。
「あの空襲を耐え切ったことも想定外。そちらの戦力を見直す必要があるわ。瑞鶴、一度撤退しましょうか」
「はぁ!? なんでこんな奴ら相手に撤退しなくちゃいけないのよ!」
こちらも撤退されては困る。シロクロの情報を持ち帰られるのは洒落にならない。
最初はこちらに被害が無ければ帰ってくれるだけで問題ないと思っていたが、ここまでなるとそうはいかない。
「鳥海さんは……あら、本当に想定外」
ちょうど今、曙が鳥海の武装を破壊し、雷が自害を止めたところ。これで戦力はさらにこちらに割ける状態になった。曙は腕をやられてしまい厳しいかもしれないが、他は無傷。さらにはクロもこちらに意識を持ってこれる。
同じ艤装を扱っているのに別々のことがやれるというのは驚異的だった。シロがこちらで対空しながら、クロがあちらに主砲と魚雷。1つの艤装でやることではない。
「空母隊は全滅、鳥海さんもやられて、あちらは誰1人として減ってないわ。今のままだと瑞鶴は
「お仕置き……ちっ、アンタ達命拾いしたわね」
最悪なことに、この時点で瑞鶴が冷静に戻ってしまった。これでは煽ってもこちらに向かってくるような事はないだろう。
だが、逃がすわけにはいかない。シロクロの対策を取られたら、それこそ
「貴女達、私達はここから撤退します。時間稼ぎ、よろしくお願いね」
武装を解除させただけの空母隊が、わらわらと戦場に乱入してきた。施設への空襲を止めることが最優先だったため、私は武装を破壊することしか出来ていない。そもそも痛覚があろうが無かろうが突っ込んでくるのだから、道を塞ぐには最適だろう。私達は人形も殺すことはしないのだから。
それにもう一つの懸念点。私はまだ、空母隊の
「雷! 手が空いてるか!」
「今空いた!」
「全員気絶させてくれ!」
我ながら無茶な要求だとは思うが、それが最善の方法だろう。群がってきた人形の1人、先頭の艦娘の腹を斬り裂き、返り血を浴びながら自爆装置を解除したが、まだ数はいる。加えて同じように解除出来る曙は、その武器をたった今失ってしまった。
解除出来るのは私だけ。ならば気絶してくれればこれ以上おかしなことにはならないはずだ。
しかし、
「自爆しなさい」
案の定、翔鶴は冷静に最悪な決断をする。たかが時間稼ぎのため、今まで仲間だった空母隊の命を散らそうとした。ここまで来てしまったら止めることは出来ない。もう気絶も間に合わないだろう。
身体は勝手に動いていた。たった今自爆装置を解除した人形の胸倉を掴み、無理矢理その場から退避させる。それでも足りないだろう。故に、私はそれを庇うように抱き寄せ、その場から跳んだ。
「全員散れぇ!」
間に合うかはわからないが、その場にいる全員に指示した。一番近いのは私と共に接近戦をしていた朝霜だが、あの速さを持っているのだから回避は出来る。他の者も離れてはいたので、衝撃は受けるだろうが致命傷にはならないはずだ。
私が微妙なところだった。唯一生き残るであろう人形を放り投げれば、私は無傷で助かる自信はある。
だが、そんなこと出来るはずがなかった。救えるのなら、ここで救わなくては。諦めてなるものか。
「力を貸してくれ! チ級!」
脚の骨の本来の持ち主、チ級に嘆願し、力一杯跳躍。不思議とその時はいつも以上に力が発揮出来た。人形を抱きかかえたままでも、いつも通りの移動が出来た。
その瞬間、群がっていた空母隊が全員、その場で自爆した。