空母隊総自爆からたった1人助け出すことが出来た正規空母、加賀が目を覚ました。胸骨の差し替えだけで治療が完了し、明日からは復帰出来るだろう。しかし、表には出さないが人形として活動させられていた記憶は、加賀の負の感情を増幅させているのが匂いでわかった。
次は完成品、鳥海の治療となるのだが、腸骨のキューブを摘出するために新たな腸骨が必要。それに関しては保管してあった深海の腸骨があったため、それの移植となる。胸骨は加賀に使ってもまだ在庫はあり、そちらを使う。結果的に、2箇所の骨が深海の物に差し替える形に。
「明日の朝から処置を開始する。洗浄が無い分、手早く終わるはずだが、胸骨と腸骨を同時に摘出して差し替えることになるから、相変わらず人手は必要だ。みんな、またよろしく頼む」
夕食の時に説明され、鳥海の処置の流れが決まる。処置に慣れているのは相変わらず私、若葉と摩耶だ。それに、完成品の処置ということで、いつものように確認組は全員参加。あとは諸々。セスはおそらく参加する。
「すまねぇ、アタシからも頼む」
摩耶も妹のためにと頭を下げた。そんなことしなくても、全員が鳥海を救うために力を貸してくれた。鳥海のせいで散々な目に遭った曙だって、今までのことを考えれば割り切っていられる。
元々完成品だった朝霜と巻雲もやる気満々だったが、朝霜にはご遠慮願った。あの腕力で処置に参加されたら、鳥海が潰れかねない。最近は力加減が多少出来るようになったようだが、万が一を考えると流石に。
朝霜には私達が出来ない夜間警備などをお願いすることにした。処置に参加する者は明日の朝から大忙しなので、それ以外の者に夜間警備をしてもらうことに。朝霜もそれならと喜んで受け入れてくれた。
「摩耶の骨髄が鳥海に適合することも調査済みだ。明日で全部終わらせる」
完成品の治療は早急に終わらせたいところ。全ての処置が終わったところで、脳障害が残ってしまう。それは早いうちに知っておきたい。
翌朝から早速準備を始めていくが、医務室ではまだ加賀が眠っている。処置は時間がかかるが、その後は医務室で透析に入るので、今のうちに新たな自室に移動してもらうことに。
説明をしに向かうと、既にベッドの横で身支度しているほどであった。以前に着ていたものが殆ど傷付いていなかったため、今はそれを着てもらっているが、その内替えを用意しなくては。今はそれをしてくれる来栖提督が動けない状態なので、新提督辺りにお願いするのがいいか。
だが、加賀の口から出たのは驚くべき言葉だった。
「私も見せてもらっていいかしら」
「見せてって……完成品の処置を見たいのか?」
「ええ、私がどんなことをされたのかも知っておきたいの」
手伝えるかはわからないけれど、と付け足した。何か不穏なことを考えているわけでもなく、純粋にこの施設のやっていることを知りたいという好奇心。今は世話になっているのだから、何らかの手伝いがしたいという真面目なところも感じ取れる匂い。
人員が増えてくれるなら助かる。いつでも私達が処置に参加出来るとは限らないのだから、伝授出来る技術があるのなら伝授しておきたい。
「確かに君には知る権利がある。だが……」
飛鳥医師か引っかかるのは、そんなことを言い出した者が今までに誰もいなかったこと。そして、暁という前例が出来てしまったことだ。
加賀が敵に暗示や催眠がかけられていないという保証が何処にもない以上、こんなことを言い出したのは
実際はまだわからない。目覚めた時に出た、五航戦への憎しみ。それは本当に心の底から出た感情なのは、匂いからしてわかる。
「信用出来ないのはわかるわ。外の者を疑うのは当然のこと。よく出来ていると思います」
「なら何故」
「私の身体に触れたのなら、どれほどの腕を持つのかを知っておきたいというのが本音です」
つまり、加賀も飛鳥医師のことを疑っている。こちらが加賀のことを疑っているのと同じだ。治療してもらい、生かされていることには感謝するが、何をやって生かされているかは知っておきたいと。
飛鳥医師が加賀の身体に何をしたのかは、加賀自身にはわからない。それこそ、この施設で新たに人形扱いでいいように使われるかもしれないと勘繰っているのだろう。
「若葉、彼女からの忠告は」
「今回は無い」
暁の時の駆逐棲姫の忠告は、救出したその日にあった。駆逐棲姫のおかげで私達は誰一人失うことなく今に至っている。飛鳥医師も命拾いしたのだか、私の中の駆逐棲姫のことは信用している。
彼女からの忠告は今のところない。むしろ夢にもまだ出てきていない。暁の時のように緊急性が無いと考えてもいいだろうか。私としては、駆逐棲姫に全幅の信頼を置いているため、加賀には何事もないと信じている。
「わかった。君が僕を疑う気持ちもわかる。得体の知れない処置を、得体の知れない処置で治療されても訳がわからないだろう。さっきも言ったが、君には知る権利がある。ただし」
「貴方達の不利益になると思ったら、後ろから撃ってくれても構わないわ」
物騒な言い方ではあるが、それだけ自分には何も無いと証明しているようだった。それすらも暗示で言わされているのではと勘繰ってしまうのは、疑心暗鬼になりすぎだろうか。
暁の件でのこちらへの精神的なダメージは大きい。大淀はその辺りも狙っていたのだろうか。奴ならやりかねない。
「撃ちはしないが、監視をつけさせてもらう。ガチガチに拘束するわけでも無いが構わないか」
「ええ、それが普通です。私だってそうします」
これで一応決着。だが、その監視というのに加賀が首を傾げる。
「……これは」
「浮き輪だ」
この施設の全容は全く知らないだろうから、こんなものがいるとは思っていなかっただろう。ダバダバと歩いてきた浮き輪の1体が、加賀の肩に飛び乗った。
疑問に思うのも無理はない。だが、この施設ではこの浮き輪も有用な人材である。アニマルセラピーが主な仕事だが、割と何でも出来てしまうので、こういった監視任務も任されてしまう。
「……少し、わからないのだけど」
「ここはこういう場所だ」
「……そう。なら、この子の監視下に置かれるということでいいのね」
複雑な表情ではあるものの、一応受け入れてくれたようである。
早速鳥海の処置が始まる。一度やっていることではあるものの、前回は駆逐艦2人だったことに対し、今回は重巡洋艦。身体のサイズが違うため、処置もその分難航する。
とはいえ、主体として動く飛鳥医師はプロだ。相変わらずの目にも留まらぬ速さで処置を進めていく。経験をしたからか、初見だった巻雲の時よりも断然手際が良く、胸骨を深海の物に差し替えるため、より一層処置が早く終わっていく。
「相変わらず、惚れ惚れするような手際じゃのう」
「僕にはこれくらいしか出来ないからな」
「そのこれくらいがわらわ達を救ってくれておる」
次々と進んでいく処置に姉が呟く。胸骨と腸骨を差し替えるだけとなると、私達は処置に手を出すこと自体が大分少ない。せいぜい、骨が抜かれた鳥海の身体を支え、あらゆる死の原因を省いていくことくらいだ。
しかし、今回は腸骨をどうするかというのもある。私達は腸骨に触れることもシロから禁じられているほどだ。これをまともに触れることが出来るのは、侵食が一切有り得ない飛鳥医師のみ。また内部から摘出した後、墓標を作ってやることで供養することになるだろう。
「若葉、匂いは」
「前と同じだ。胸骨と腸骨が取り除かれた時点で、全て失われている」
「三日月、見た目は」
「嫌な感じは消えました。鳥海さんはもう巻雲さんや朝霜さんと同じ状態です」
骨を抜いた時点で、体内も確認。相変わらず歪んだ骨や侵食された内臓が痛々しい。それを今、治療することは出来ない。だが、これがあることで鳥海を苦しめるわけでも無いため、今はそのままに。
問題は頭の中になるのだが、それも今は置いておくしかない。鳥海に残ってしまった脳障害が何かは、目覚めてみなくてはわからない。
「これで終わりだ。骨は全て修復された。シロ、初春、どうだ」
「うん……落ち着いてるかな……」
「うむ、混沌としておるのは変わらぬ。じゃが、以前よりは格段に大人しいのう。朝霜や巻雲と同じじゃ」
前回よりさらに早く終わり、鳥海の治療は完了した。私の嗅覚と三日月の視覚でそれを保証し、シロの感覚と姉の霊感で他の悪い部分も取り払われたことを確認。
処置を手伝っていた摩耶が、疲れ果てたように大きく溜息をついた。妹が助かったことで安心したようである。昨日もあまり眠れていなかったようだった。
「ありがとな……妹を救ってくれて」
「構わないさ。姉妹だとか関係無しに僕は救っている。戦えない人間の僕がやれるのは、君達を救うことだけだ」
すぐに鳥海の身体を綺麗にして、透析の準備をしていく。回を増すごとに洗練されていく飛鳥医師の行動は、もう私達が間に入ることが出来ないほどである。
私達は結果的に、鳥海の現状を逐一通達するだけとなっていた。知識を飛鳥医師から貰った私達程度では、この処置速度には一切手が出せない。今の飛鳥医師は、
「よし、扉を開けてくれ」
透析準備中に、摩耶とセスが処置室から医務室への直通扉を開く。そのまま飛鳥医師も含めた3人がかりでベッドに移し替えたところですぐに透析。ここからは飛鳥医師でも手が出せない、時間が解決する問題だ。
「ふぅ……お疲れ様。鳥海への処置は後は待ちだ」
これにて鳥海への処置は完全に終了。透析終了は誰が何をやっても時間短縮出来ないため、いつも通りざっと4〜5時間といったところ。
次は腸骨の中のキューブの摘出と供養。一切の休憩無しに動いているため、逆に不安になってしまう。
「飛鳥医師、さすがに休憩した方がいい」
「だが、これも早急に対処しておかなくては、君達に影響が出てしまう可能性がある。供養も早くしてやりたい」
言っている間に、鳥海の体内から摘出した腸骨を丁寧に加工していた。それをされるともう私達は近付くことも出来ない。飛鳥医師が止まらない。
「よし、少し離れてくれ。すぐに終わる」
一度やったことを焼き直すだけだからか、手早くキューブを取り出す。それが私達の目の前に現れた瞬間、嫌悪感が湧き上がる。三日月はまだダメなようで、すぐに流しの方で吐いていた。
「何を考えればこんなものが作れるんだ……」
取り出した飛鳥医師も、険しい顔をしながら処理をしていく。キューブは袋の中に入れ、腸骨そのものも砕いて処分出来るように対処していった。
今でこそ自分が間違っていたことを認め、命の尊さを知った飛鳥医師だからこそ、このキューブの存在には人一倍怒りと悲しみを覚えているようであった。
「加賀、飛鳥医師は信用出来たか」
処置室の隅でずっと飛鳥医師の処置を見続けていた加賀に問う。
常に肩の上に浮き輪が乗っている状態で、速すぎる飛鳥医師の処置を目で追うのもやっとという感じか、茫然としていた。
「加賀」
「い、いえ、あまりのことで……少し驚きました。この腕を持つからこそ、大淀はこの施設を狙っているのね」
人形であった時の記憶があるのだから、大淀がこの施設を本格的に狙っていることも知っているだろう。飛鳥医師のそれを目の当たりにして、何もかもが繋がったようだ。
「恐ろしいほどの手際の良さ、艦娘すら追いつくことの出来ない速度での作業、最初から最後まで何もかもが噛み合った治療……正直なところ、私は彼に
艦娘ならまず触れることのない医療現場というものを見たことで、加賀の中で何かが変わったようである。
「疑ってごめんなさい。この施設はいいところね。私も防衛戦に参加させてほしいわ」
「一航戦の航空戦力なんて百人力じゃねぇか。今は猫の手も借りたいくらいなんだから、みんな大歓迎だろ。なぁ?」
摩耶の言葉に全員頷いた。
これにより、正式に加賀が尽力してくれることになる。本来なら鳳翔と同じで夜戦は無理なのだが、幸いここに来るまでの洗脳が活き、艤装さえ直せば夜間での航空戦も可能となるようだ。施設への空襲が、今度は奴らに襲いかかることになる。
人手は常に足りない。手伝ってくれるのなら、誰だって大歓迎だ。
そろそろ飛鳥医師も人間やめそうなくらいになってきていますが、戦闘面ではないので許してください。
ちょっとだけ別件。
現在開催中の桃の節句イベント、皆さんどうでしょう。作者は初めての甲勲章を目指して頑張ってますが、泥沼も泥沼です。3本目半分まで削りましたが、ストレスフルでございます。