継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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彼女の見解

夜間警備の最中、しばらく無かった深海棲艦の発生が確認された。目の前で発生した深海棲艦は、5体の空母。そのうちの1体は、中立区で生まれるには分不相応な空母棲姫である。

生まれた場所は前回の戦いの跡地。翔鶴の命令で空母隊が一斉に自爆した場所である。その海域には、あの空母隊の怨念が渦巻いていたのだろう、それを糧にして深海棲艦が生まれ出てしまった。それほどまでに、あの空母隊の遺していった負の感情は強く、重い。

 

夜間警備を一旦中断し工廠へ戻ると、出撃準備をしていた朝霜と巻雲が待っていた。私達が帰らなかったらそのまま出ていただろう。戦い自体はすぐに終わったため、ただ起こしただけになってしまった。

 

「すまない、もう終わった」

「完成品じゃ無かったのかよ」

「深海棲艦が発生したんだ。念のため警報を鳴らさせてもらった」

 

朝霜と巻雲にはイマイチ理解出来ていないようだが、後から駆け付けた飛鳥医師や摩耶は、この事態の重要性が伝わっている。

中立区認定を受けているこの海域に深海棲艦が発生してしまったのはこれで3度目。2回目までは駆逐イ級であり、何処の海域でも見られそうなイロハ級だが、今回現れたのはよりによって姫だ。

 

「空母棲姫だと……!?」

「ああ、加賀がそう言った。そうだったな」

「ええ、あれは間違いなく空母棲姫よ。それに、まだ倒せていないの。胸を射抜いたはずだけど、何事もなく海中に沈んでいっただけだったわ」

 

悔しそうに話す加賀。だが、それ以外の感情も渦巻いている。むしろ、そちらの方が大きい。

最後に矢を放つとき、とても辛そうな顔をしていた。匂いも怒りなどよりも悲しみが強かった。あの時戦った深海棲艦が、元々仲間だった空母隊の成れの果て、怨嗟に縛られ異形と化した元艦娘だと考えると、あんな顔にもなろう。

 

「姫まで出てきたとなると、これは大本営への連絡が必要になるだろう。今日の夜間警備は中止にし、休んでくれ」

「いいのか? ここからまた襲撃を受ける可能性も無いとは言えないだろう」

「戦闘をしたまま夜間警備をしても、最大のパフォーマンスは出せないだろう。なら、一度休んで仕切り直した方がいい」

 

確かに、リミッターを外すことなく事を済ませることが出来たものの、当然疲れはある。私と曙は近接戦闘故に、敵の返り血も浴びてしまった。最低限、これを洗い流したいとは思っていた。

 

「僕の方から大本営に連絡しておく。君達は休むんだ」

「了解。今晩は休ませてもらう」

 

短いが、ここで夜間警備は終了。明日仕切り直して、今後の事を考えていくことになる。大本営に連絡するとなると、新提督や下呂大将も動いてくれるかもしれない。

 

 

 

夢の中。少し久しぶりに引き寄せられた。夜の海の上だが、先程までいた海とは違い、恐怖を一切感じない。私の中の世界だからだろうか。

そしていつも通り、駆逐棲姫が私の目の前にいた。相変わらずにこやかな笑顔で、私が来るのを待っていたかのように浮かんでいる。

 

『少し久しぶりになっちゃったね』

「ああ、何かあったのか?」

『バタバタしていたみたいだからね。声がかけづらかったっていうか、迷惑かもしれないと思ってちょっと控えてたんだ』

 

そんなこと気にしなくても良かったのに。むしろ、どんな時でも声をかけてくれれば私は嬉しい。それを伝えると、笑顔がより明るくなった。これからはバンバン夢に引き込むと宣言されたくらいである。

 

『そうだ、(ボク)から伝えられること、話しておこうかな』

「ああ、頼む。若葉達ではわからないことも、お前なら気付いてくれるだろうしな」

 

ここに来るまでに少し時間が空いているため、その間に駆逐棲姫が思ったことを説明してもらうことにした。差しあたっては加賀のこと。

人形であった加賀にも何かしらの細工がされており、何かのキッカケで私達を後ろから撃ってくるようなことがあられては困る。それを事前に知っておくことが出来れば、こちらも対策が取れるというものだ。

 

『加賀さんからは嫌な感じはしないよ。鳥海さんからもね』

 

暁のときのような暗示や洗脳は、加賀と鳥海にはかけられていないとのこと。前回の件があるため、駆逐棲姫の言葉には大きな信用性があるため、一安心である。これは目を覚ましたらみんなに伝えよう。

 

『来栖提督のところに向かった時にも、誰からも何も感じなかったから安心して』

「ありがたい。ならあちらにはその場で相手に何か暗示をかけるということは出来ないと考えていいな」

『だね。暁の場合は大淀に建造されたから暗示をかけられていたのかもしれないね』

 

そうなると、もしかしたら加賀は大淀に建造された艦娘ではないということになるのかもしれない。翌朝の打ち合わせでその辺りは聞いておいてもいいか。空母棲姫のこともあるし。

その空母棲姫に対し、駆逐棲姫はどういう風に思ったのだろう。今度はそれを聞く番。

 

「駆逐棲姫、若葉から聞きたいことが」

『若葉、進める前にちょっといいかな?』

 

改まって見据えられた。笑顔は変わらないが、少しだけ真面目な雰囲気。

 

「どうした」

『駆逐棲姫って、呼びづらくない? (ボク)に名前なんて無いけど、その人間が決め付けた名前はどうかと思うんだよね』

 

何を言い出すかと思えば。だが確かに少し呼びづらいか。

人間が決めた名前、つまり()()()()で呼ぶのは、友人となった後だと失礼かもしれない。うちにいる深海棲艦は飛鳥医師が適当ではあるものの名前を付けているので、こちらでも付けてあげるのが道理か。

 

「そうだな……だが、どう呼べばいいのだろうか」

『そうだねぇ。そうだ、ふっと思い付いた言葉でいいかな』

「ああ、自分の名前だ、自分で決めればいい」

 

少しだけ頭を悩ませた後、手をパンと叩いた。何か思い付いたらしい。

 

『よし、これから(ボク)のことは、シグと呼んでくれないかな』

「何処から出た言葉なんだ」

『なんとなくだよ。名前名前って考えてたら、パッと思いついたんだ。口に出すとすごくしっくり来てね。やっぱり(ボク)は特殊なのかもしれないね』

 

駆逐棲姫改めシグ。今後はこれで呼称していくことに。飛鳥医師のように、今までの呼称を捩ることなく、独特な呼び名が出てきた。もしかしたら、シグ自身の出生に関わる言葉なのかもしれない。

 

「じゃあシグ、聞きたいことがある」

『何かな。何でも聞いてよ』

 

新たに得た名前を呼ばれたからか、おそろしく上機嫌である。少しはねた髪の毛が、ピコピコと嬉しそうに動いているように見えた。まるで犬である。

 

「あの空母棲姫、どう思った」

『あの人かぁ……(ボク)としては憎めないんだよね』

 

言ってしまえば、私も空母棲姫のことを憎むことは出来ない。自分の意思と関係なく守るべきものを破壊させられ、不要になったら目眩しのために命を散らされたのだ。ああなってしまっても仕方ないと思うし、憎しみに囚われてもおかしくないと思う。

だが、そのままにしておいてもダメだ。憎しみのままに暴れ回ることになる。人間がよく知る深海棲艦としての性質で、本当に人類の敵となってしまうだろう。そうなる前に終わらせたい。

 

『話せばわかってくれるかもしれないけど、今は元気だし、聞く耳持たないだろうね。でも、多少痛めつければ少しは話を聞いてくれるかもしれないよ』

「なかなか怖いことを言うな」

(ボク)は深海棲艦だからね。()()()()人類の敵だよ。がるるー』

 

爪を立てるポーズでこちらを脅かしてくるが、ずっと笑顔なので怖くも何ともない。むしろ可愛げがある。ただでさえ脚が無いことで私よりも身長が低くなっているため、小動物じみた愛らしさを感じた。

 

『でも、早いところ決着はつけた方がいいんじゃないかな。倒すも良し。説得してみるも良し。どちらにしろ、動けなくなるくらいまで攻撃はしないとダメだと思うよ。(ボク)だったらそのまま倒しちゃうと思うけど』

 

瀕死にまで追い込んで、こちらの話を聞いてもらえる段階まで持っていけば、説得に応じてくれるかもしれないということか。

怒りと憎しみに満ち溢れた空母棲姫が話を聞いてくれるかはわからないが、戦う必要はある。結果的にまた沈めることになるかもしれないが、その時はちゃんと弔ってあげたい。

 

「わかった。ありがとうシグ」

『どういたしまして。何度も言うけど、(ボク)が一番近くで見てるからね。いくらでも頼ってくれても構わないよ』

「ああ。いつも感謝してるさ。この前の戦いでは、チ級も力を大きく貸してくれたな」

 

シグもそうだが、加賀を救出するときは特にチ級が力を貸してくれた。あのときの脚力は今までに無いほどに力が出た気がする。

 

『ああ、あの時ね。それもあったから、実は(ボク)、君の言うチ級って子を探してみたんだよ』

「見つかったか?」

『残念ながら、見つけられなかった。(ボク)が行ける範囲は限られてるからね』

 

私の声に応えてくれたのだから、シグと同じように私の中に住んでいるのかもしれないと、行けるところで探してみたらしい。だが、さすがに見つからなかったという。

シグは私の頭に近い部分だから私自身に干渉できたようだが、チ級は脚。しかも骨だ。シグのように意思を持っているかもわからない。無意識にその力を貸し出してもらっているのなら、尚のこと礼が言えるタイミングが欲しいものだ。

 

『侵食が脚まで届いたら、ここまで引っ張ってこれるかもね』

「勘弁してくれ。その前に頭に届くだろう」

『多分ね。(ボク)にはその辺り制御出来ないからなぁ』

 

三日月は自分の意思が消えるような事はなかったが、思考に若干の影響が出ている。私の場合はそれ以上になってしまう可能性が無いとは言えない。

力が手に入るのはいいが、私が消えてしまったら意味がない。それはシグも危惧してくれている。なんだかんだでいい友好関係は続行中。お互いに別れるのは嫌だと思えるほどに繋がりが深い。

 

「なるべく現状維持で」

『そうだね。それが一番だ。(ボク)はずっと君といたいからね』

 

少しくすぐったい言い方ではあるが、気持ちは同じである。今の私は、シグがいるからこそ生きていられる。もし飛鳥医師が治療法を確立したとしても、この腕は手放さない。

 

「これからも、よろしく頼む」

『勿論。こちらからも、よろしくね』

 

握手で夢を終える。お互いに笑顔で。これにより、一層シグとの繋がりは深まったと言えるだろう。こういう形で強くなれるのなら万々歳だ。

 

 

 

気付けばベッドの中。いつになく左腕を拘束する三日月が気になったものの、気分の良い目覚め。

昨晩の戦闘の疲れは取れていた。戦闘と言ってもすぐに終わったからか。

 

「三日月、朝だ」

 

右手で頭を撫でて三日月を起こす。むにゃむにゃ言いながら目を覚ますが、まだ寝惚けているのか、目を開いた状態で左腕に頬擦りしてきた。何だろう、今までよりも依存度が高くなっているような、そんな感じ。

 

「おはようございます」

「ああ、おはよう。そろそろ離してくれ」

 

あっ、と少し驚いてから私の腕を離してくれた。やはり無意識だったか。

 

「夢であの子が出てきてくれたので……その、ちょっと引っ張られました」

「そうか。若葉の方にも出てきてくれた。タイミングが同じなんだな」

 

今は別々で人格が違っても、元は同じ駆逐棲姫だったのだから、考えていること、思うことは全く同じと見ていいのかもしれない。私より三日月の方が夢に出てくる頻度は少ないみたいだが、それでもこうやって夢の中で会話が出来るようになったのは大きな変化である。

着替えながらその夢の中での話をするが、おおよそ似たようなことが行なわれていたようである。加賀や鳥海に心配は要らず、空母棲姫はもしかしたら説得出来るかもしれないという共通認識。その中で、あちらも名前について言及があったらしい。

 

「駆逐棲姫って呼ばないでほしいと言われまして、名前を考えてあげたんです」

「へぇ、それで?」

「話すときにいつもぽいぽい言っているので、ぽいちゃんと」

 

それはまた安直な。だが、当人が喜んでいるのなら問題ない。三日月の中の駆逐棲姫、ぽいはその名前を貰って大層喜んでいたそうだ。

 

「若葉の方も同じこと言われたな」

「どんな名前を?」

「本人が直感的に思い付いた言葉にしようという話になったんだ。そうしたらシグと名乗るようになった。何処から出た言葉なのやら」

 

三日月もピンと来ない言葉のようだ。同じ駆逐棲姫に憑かれているとしても、あちらにしかわからない言葉というのはある。

 

「お互い、彼女と友好関係が築いているようで何よりだ」

「そうですね。これからもよろしくと、笑顔で夢を終わりましたから」

 

私も三日月も、切っては切れない関係となった。三日月もこれに関しては、治療出来るようになっても手放さないと言うほどだ。

 

だが、結局シグは何者なのだろう。それはわからずじまい。まぁわかったところで今の関係性が崩れることはないのだが。

 




モロバレだった駆逐棲姫の正体がそろそろ判明しそうです。
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