継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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姉妹愛

中立区で生まれてしまった姫の件で、大本営からの遣いとして下呂大将と新提督が来てくれた。実際は既に終わったことなので、援軍にはちょっとした休暇扱いとなり、違う理由での話し合いの場となった。今の事件の解決に向けての情報共有は必要である。

特に下呂大将は、いつも恐ろしいほどの情報を持ち合わせているが、今は怪我を負っているためにそれが出来ていない。そのために、この施設が持っている情報は是が非でも欲しかったようである。

 

「すみません、まだ脚に慣れていなくて」

 

次の事情聴取の相手は鳥海。元完成品の1人。治療の甲斐あって、動かなくなっていた脚は回復したが、自分の脚では無いのでまともに歩くためのリハビリを繰り返している。この短時間で大分良くなってきているが、まだ少し安定していないらしく、今も摩耶が支えるために隣にいる状態。

 

「鳥海は完成させられた後遺症で脚が動かなくなっちまった。だから、センセが切り落として別のモンくっ付けてくれたんだ。おかげでここまで回復した」

「3人目でしたので、無茶な施術をすることなく治療出来ました」

 

充分無茶な処置である。下呂大将はともかく、声を上げていた新提督はついに言葉を失った。

本来なら入渠すれば治せる、もしくは入渠しても治せないような傷を、飛鳥医師はその助けなく治療してしまう。鳥海の場合は後者だったが、深海のパーツを使った継ぎ接ぎとはいえ、五体満足にしてしまっているのは完全に規格外。

 

「私が呼び出されたということは、あちらの戦力のことを話せばいいのですね」

「ええ、わかることだけで結構ですので」

「了解しました。覚えていることは全てお話しします。とはいえ、私が知ることはかなり限りがあります。大分少ないと思います」

 

鳥海の記憶障害は場所に関することだけだ。大淀の拠点が何処かは思い出せないが、やってきたことはしっかり覚えている。そして、拠点については加賀が供述してくれているため、情報としては揃っている状態。

 

「私がここに襲撃するときに完成させられていたのは、伊勢さん、日向さん、翔鶴さん、瑞鶴さんの4人です。他者の鎮守府を奪い、拠点としたときも同じでした」

「それ以上増えている可能性は」

「あります。襲撃した鎮守府の艦娘を素材にすると言っていたので。その時は姫も数人残っていましたから、それを完成させると」

 

これ以上増えるのも困ってしまう。とはいえ、この話を聞いて下呂大将はピンと来ることがあったようだ。

 

「なら、練度1から手塩にかけて育てた艦娘しか、姫にも完成品にも出来ないと見てもよさそうですね。成長過程で、何か仕込まなくてはいけないのかもしれません」

「何かとは?」

「妥当なのは深海の因子とかでしょうか。人形の段階で体液を注入されて慣らされているわけですし」

 

他人を完成させる素振りを見せなかったところから、下呂大将は完成品は姫からしか作れないと仮説を立てた。そしてその姫は、大淀が自ら育て上げた艦娘にしか施せないと。私が夢の中でシグと話した暗示の件もそれに該当しそうだ。

そういう意味では、最悪なことに私や三日月にも姫や完成品に改造が可能であるということ。深海の因子が必要だというのなら、練度1から今までずっと付き合ってきているものがある。故に、捕まったらアウト。

 

「五航戦はどんなものかはわかっていましたね。残っている伊勢と日向はどのように改造されていますか?」

「翔鶴さんや瑞鶴さんと同じようなものですが、万能兵装です。戦艦の主砲と空母の艦載機、それと近距離は刀があります」

 

刀と聞いて神風がピクリと反応。自分と同じ手段を持つものに、対抗意識を持ったようである。

 

「主砲と艦載機は元より持っている性能だ。刀も使わずとも持っていたはずだが、それを伸ばされたと思えばいいか」

「はい。何もかもを極限にまで。艦載機は深海のものですし、主砲の威力も段違いです。刀は……一刀で艦娘を()()()()真っ二つにする程度には」

 

それがわかっただけでも、ある程度は対策が取れるだろう。初見でやられたらまず間違いなく一撃の下に殺されていただろうが、わかっているのなら回避の方法が考えられる。

 

「あとはすみません、私が先生に治療されることを恐れていたのか、あまり情報開示されていません。ただ……」

「ただ?」

「飛鳥先生は早いところ始末したいと呟いているのは聞いたことがあります」

 

そう考えるのも無理はないだろう。入渠ドックも無いような鎮守府ではない施設がこうも抵抗出来るのは、飛鳥医師の神業のおかげだ。

重傷を負っても治療され、少量の修復材でも完治し、侵食や後遺症すらも治療し、さらなる力に変えてしまう。こちらが大淀の悪魔のような改造を恐れているように、あちらは飛鳥医師の神業を恐れているわけだ。

 

「飛鳥、君は護衛を付けなさい。ここからは確実に狙われます。今まではこの建屋ごとでしたが、君自身をピンポイントで狙ってくる可能性も充分にありますよ」

「夜間警備だけでは足りないな。ソナーに引っかからない潜水艦に艦娘が狙撃されたと先生から聞いている。今までそれが来なかったことの方が不思議だ」

 

下呂大将も新提督も声を揃え、飛鳥医師の安全の確保を最優先にする事を望む。飛鳥医師が倒れたら終わりであることは誰もが理解していることだ。

付かず離れずの護衛がいれば完璧なのだが、そういったことに慣れているものなんて当然いない。それに室内で戦うことも視野に入れると、小回りの利いた戦いが出来るものに限られてくるだろう。

 

「でしたら、私が先生の護衛をやらせていただきます。脚さえどうにか出来れば、この中では一番施設の中で戦いやすいと思いますので」

 

そこで護衛は鳥海が買って出た。この施設に滞在している艦娘の中で、施設内戦闘が可能なほど小回りが利くのは、近接戦闘を行なう私と朝霜、そして鳥海だ。その中でも、鳥海は防御力に特化しているため、万が一狙撃という手段に出られても、それを全て食い止めることが出来る。それに、私も朝霜もスピードタイプ。施設の狭い空間では、本領発揮しづらい。

護衛役としては最も適した人材かもしれない。脚の怪我さえどうにかなれば即戦力である救出組なのも大きい。実戦経験は残酷ながら私達よりも積んでいる可能性がある。

 

「鳥海になら安心して任せられるな。こいつの硬さは折り紙付きだぜ」

 

摩耶も太鼓判。巻雲と同時に放たれた両用砲の乱射を、無傷で耐え切ったあの耐久力は、敵ならば恐ろしいが味方なら頼もしい。

私も鳥海が護衛なら安心して任せられる。治療のおかげで不信感は匂わない。突然暴走するようなことがないことは、シグのお墨付きも得られている。

 

「なら……頼まれてくれるか」

「お任せください。まずはリハビリを終わらせなくてはいけませんがね」

 

脚を撫でる。本来の鳥海の脚とはまるで違う白い肌の両脚は、傷痕の位置まで摩耶とお揃いの深海の脚。摩耶がネ級に対し、鳥海はヲ級。艦種は違えど、しっかりと接合され、傷痕を隠せば違和感が無くなるほど。

摩耶も隠す事を勧めたらしいが、摩耶が隠していないなら自分もと、元々の服装から変えることはしなかった。割と丈が短いため、普段通りにしていてもその傷痕は目立っているのだが、本人がそれでいいと言うのなら無理して変えさせるわけにもいかない。

 

「もう少しで普通に歩けそうなんです」

「いや、マジで早ぇよ鳥海。アタシん時ゃ1週間はかかったぜ」

「経験者がサポートしてくれているからよ。摩耶がいなかったら私、そもそも歩くことを諦めていたもの」

 

なかなかいい雰囲気の姉妹である。先に同じことをしている者がいるというのは、それだけでも心強い。元々の真面目さもあり、勤勉にリハビリに励んでいるおかげで、ここまで回復している。

 

「ありがとうございます鳥海。参考になりました。場所と敵戦力がわかったことで、襲撃の段取りが組みやすくなりました」

「私もあちら側だった者なので、せめてもの罪滅ぼしをしたいなと。お役に立てたのなら光栄です」

 

少し悲しそうな笑みを浮かべ、席を立つ。これからのこともあるため、今からもリハビリに精を出すようだ。飛鳥医師の守護者として、すぐにでも活動したいと躍起になっていた。

 

 

 

ここからは人間だけでの作戦会議ということで、以前と同様機密に関わる部分が出そうなため、摩耶と鳥海と共に私達も退出。どうせ泊まらせてもらうのだからと、やれることは全部やっておきたいとのこと。今回も神風が部屋の前で門番をする。下呂大将が怪我人故に、すぐに支えになれるように配慮もしているようだ。

フリーとなった瞬間、瑞鳳はそれはもうテンション高くスキップすらしながら工廠へ向かった。赤城と加賀に艦載機を見せてもらうのだろう。この緩さでさっきは少し助かった。

 

「ホント、アイツはなんつーか、すげぇな」

「ああ……」

 

瑞鳳の後ろ姿を見ながら摩耶が苦笑した。すごいというか、呆れるというか。そこまでの情熱を傾けられるのはいいことだとは思うが。

 

「今からリハビリか?」

「ああ、今からは階段の上り下りだな。鳥海、無理してねぇか?」

「大丈夫よ。休み休みやってるし、早くまともに先生を守れるようになりたいもの」

 

壁に手を突きながらの鳥海の歩き方は何処かぎこちないが、最初に比べれば充分に歩けている。だが、走ったり跳んだりはまだ不可能。それが出来るようになれば、あの時のような超耐久の戦いが可能になる。

艤装の方は、摩耶が鳥海のリハビリを見ながら片手間に修復したそうだ。あちら側で使っていた時よりも強化までしたらしい。これは身内への贔屓も若干見える。

 

「焦らずにやることが早く出来る一番のコツなのよね」

「おう、イラついたら出来ることも出来なくなるからな」

「摩耶はこういうのイライラしそうね」

「うっせ」

 

先程もそうだが、本当に仲のいい姉妹だ。元々気さくな摩耶だが、鳥海と一緒にいると笑顔が絶えない。鳥海も沈んだ顔はほとんど見せない。

やはり身内というのはそれだけで心の支えになっている。いつ襲撃を受けるかわからない緊張感が高まる状況でも、こんなにも緊張感がほぐれる。楽しく生きることが出来ているように思える。

 

「でも、焦りそうになるわ。早くこの施設に貢献したいって思っちゃう」

「気持ちはわかるけどな」

「罪滅ぼしもあるけれど、脚を治してくれた飛鳥先生を守るために働きたいもの。そのためにも早く動けるようになりたいわ」

 

また脚を撫でる。双子の姉とお揃いの傷が、鳥海の心をより強くしている。

 

「まぁ焦らずに行こうな。大丈夫、アタシがずっと側にいるからよ」

「ふふ、頼もしいわね」

 

ほんの少し、鳥海から姉妹愛とは違う匂いを感じたが、少し判別が付かなかった。悪い匂いでもなく、純然たる好意を摩耶にぶつけているようなものなので心配はいらないだろう。

 

「じゃあ、頑張ってくれ。応援してる」

「ありがとう、若葉ちゃん」

 

そう言って、施設の階段の方へ。やる気に満ち溢れた鳥海はとても頼もしい。味方になってくれて本当によかった。

 

「……いいな、姉妹」

 

私にも姉がいるが、あそこまで手取り足取りの仲ではない。淡白というわけでは無いが、手と手を取り合って一緒に進んでいくということはあまりしたことが無いように思えた。相部屋でも無いし。

たまには甘えてみてもいいかも知れない。せっかくの姉妹なわけだし、もっと絆を深めるのもいいか。

 

「はて、どうかしたかの?」

 

などと考えているところで都合よく姉が現れた。昼の訓練の休憩中らしく、風呂上がりの匂いがする。

 

「……いや、摩耶と鳥海を見ていて、姉妹というのはいいなと」

「ほほう、ならばわらわに甘えてみるかえ?」

 

意地が悪い笑みを浮かべて引き寄せられた。子供をあやすように後頭部を撫でられる。私と姉は背丈が似たようなものなので、私が前のめりの体勢に。

 

「若葉はようやっておる。えらいえらい」

「な、なんだ、気恥ずかしいぞ」

「気にするでない。ほれ、姉妹の戯れじゃよ」

 

それからしばらく離してくれず、いろいろな者にこの姿を見られてしまった。ちょっと恥ずかしかったが、気持ちは休まった気がする。私もなんだかんだ疲れていたのだろうか。

 




摩耶と鳥海はすごくいいバランスの姉妹に見えます。猪突猛進の摩耶と、知的な鳥海。でもスペック的には攻守逆なんですよね。鳥海の方が火力があるっていう。さすが改二に設計図使うだけある。
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