継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

169 / 303
協力者達

飛鳥医師達の話し合いが終わったのは、夕飯時。準備が終わって、まさにこれから盛り付けをしていこうという段階のことであった。白熱した作戦会議だったようで、3人ともそれなりに疲れた様子であった。

 

「医療施設でこの人数を養うのは厳しいだろう。これまでの功績もあるのだから、私が大本営で話をしておく」

「すみません、助かります」

 

新提督が居るおかげで、財務系はトントン拍子で話が進んでくれる。

飛鳥医師の功績は目を見張るものだ。本来なら出来ないことを次々とこなし、事件の解決にも繋がる偉業をいくつも重ねている。蘇生の件は隠し通すとしても、人形や完成品の治療方法の確立だけでも多くの褒賞が出てもおかしくないレベル。

事実、新提督はそこを大きく評価してくれているため、監査の結果も頗る良いらしい。いち医療施設が戦力を保持してしまっている点に関して目を瞑られるほどである。

 

「むしろ雷に負担がかかりすぎなんだ。食堂の人員は増やせないのか?」

「その辺りは雷がどうにかしたそうですが……」

「今回から赤城さんと加賀さんも手伝ってくれるから大丈夫よ!」

 

久しぶりに大分大人数での食事となったが、いつもの雷達の他に、赤城と加賀がしっかりと手伝っていたらしい。多く食べるのなら、その分手伝えと雷からの訴えを素直に聞いたようである。艦娘である加賀はともかく、深海棲艦である赤城までちゃんと言うことを聞くとは、雷恐るべし。

ちなみに腕は普通だったとのこと。不器用では無いが、特段上手というわけでもない、手伝いくらいなら出来るという程度。私、若葉もその辺りに属することになる。まだここに私が入ったばかりの時には多少手伝っていたくらい。

 

「いい雰囲気の施設となりましたね。絶妙なバランスで成り立っています」

「そうですね……正直予想外です」

「これからもよろしく頼みますよ、飛鳥」

 

これだけ認められているのならありがたい。一時は施設の存続まで不安視したものだが、今ではその不安も払拭された。深海棲艦と共存出来ている唯一の場所として、今までとは違う理由での『中立区』となりそうである。

 

 

 

夜、本来私達五三駆がやるはずだった夜間警備を請け負ってくれるということで、第一水雷戦隊を見送るために工廠へ。風呂上りではあるが三日月と共に工廠に入ると、既に5人が艤装を装備して準備万端だった。

神風は下呂大将の怪我を見ておかなくてはいけないため、常に傍にいるらしい。そのため夜間警備にも不参加。万が一、今晩襲撃を受けるようなことがあったら、神風がいち早く下呂大将を逃がすことになる。

 

「すまない、本当は若葉達の仕事なんだが」

「ううん、大丈夫。本来の仕事が無くなっちゃったから、これくらいして帰らないとね」

 

苦笑する阿武隈。来たところで仕事がないと言われて拍子抜けしてしまったようで、突然出来てしまった休暇を持て余していたようだ。

ここの者達との交流があまり出来ていなかったのもあるので、この機会にしっかり顔合わせをして、曙の訓練まで手伝ってくれたらしい。曙にはさっき愚痴られた。

 

「はぁ……夜は嫌よ夜は。どうせなら朝にやりたいわ」

「朝風さんは本当に朝が好きですものね」

 

その名の通り朝の方がいいとボヤく朝風と、それを嗜めるように微笑む春風、言う割にはしっかりと仕事はこなすから心配するなと、春風が目で訴えてきた。やる気があるかはさておき。

 

「姉貴はいつもこうだから嫌だねぇ。夜はさっさと寝ちゃって、ババくさい」

「誰がババくさいですって!?」

 

突然口喧嘩を始める2人だが、誰も止めようとしない辺り、これは普段でもあることなのだろう。阿武隈は溜息、春風と旗風は微笑みを崩さない。

 

「騒がしくてすみません。朝姉さんも松姉さんもいつものことなので」

「楽しそうでいいな」

「「楽しくない!」」

 

2人同時に絶叫。息もあっているようで何よりである。

 

「それじゃあ、行こっか。若葉ちゃん、三日月ちゃん、お見送りありがとうね」

「いえ、お仕事を任せるので、せめてこれくらいは」

「ああ、任せた」

 

夜間警備に向かいながらもまだ朝風と松風は夫婦漫才を繰り返していた。本当に仲がいい様子。

 

「奴らは行ったか」

「ああ、たった今」

「なら私も仕事を済ませておこう」

 

それを見送った後に、リコも工廠へ。夜間警備というわけでは無いのだが、寝る前に一回哨戒をしておくようである。軽くなら工廠からでも哨戒機は飛ばせるため、わざわざ外に出る必要もない。

さっと艤装を装備して、ゆっくりだが工廠の真ん中に立ち、哨戒機を飛ばした。数もいつもより少なめの小回り重視。ざっと見て回ったら、あとは阿武隈達に任せてさっさと寝るとのこと。

 

「明日からは私も夜に仕事をすることにする」

「そうなのか?」

「チョウカイ1人で医者の護衛は荷が重いだろう。私も参加することにした」

 

それはまたありがたい話だが、リコの艤装は大きすぎて施設内に入れることが不可能な上に、移動出来たとしても動きが遅すぎてどうにもならないはずだが。

 

「リコさんのそれでは施設内の警備は難しいと思うんですが……」

「別に素手でやるのだから問題無いだろう。艤装はいらない」

 

三日月もその疑問にぶつかったようである。それを言われ、リコは不敵に笑いながら拳を握った。

そもそもリコは体術も相当なもの。私が島に乗った瞬間に顔面に蹴りを入れられかけたほどだ。さらにはこちらの行動を予測して回避と攻撃出来るほどに()()()()している。

鳥海のように艤装を装備することなく、施設内であればこの艤装の影響範囲内に入っているためにパワーアシストも万全。今この時でも、全力が出せる状態だ。小回りも利くため鳥海以上に適応出来ている。

 

「得手不得手はあるだろうが、チョウカイと組めば大概は突破出来るはずだ。だから私が手伝ってやる」

 

リコの不得手はおそらく遠距離武器。施設内で発砲されるのは誰でも厳しいとは思うが、それに関しては鳥海がしっかりと防御出来るため、適材適所と言えるだろう。

あちらも施設内戦闘を見越して暗殺者のような者を送り込んでくるかもしれない。そうなればリコの出番。

 

「ありがたいが、急に決めたな」

「いや、チョウカイが正気に戻ってから、ある程度交流はしていた。私も奴とは()()だからな」

 

リコも鳥海と同じ脚の処置を受けた者。傷の位置も似たようなものである。摩耶と鳥海、そしてリコと、()()()()()()として、いろいろと交流があるらしい。おそらくこれは増えてはいけないタイプの仲間。

リコは再び歩くことにそこまで苦難を強いられてはいなかったものの、鳥海に対してそれなりにアドバイスが出来たそうだ。摩耶ほどではないにしろ、同じ怪我を持つもの同士、仲間意識が高い。

 

「リハビリはマヤがやるが、護衛は私が組む。医者もそれでいいと言った」

 

リコも最初は仲間達の仇討ちで成り行き上の協力関係というところから始まったが、今ではすっかり施設の心強い一員だ。仇であった巻雲が正気に戻り、本当の敵である大淀の存在を知ってからは、奴を倒すために全面的に協力してくれている。今では巻雲ともある程度話が出来ているらしい。

 

「ここが無くなられては私も困るからな。これだけ艤装を弄くり回して」

「整備してもらわなくちゃいけませんもんね」

「ああ、マヤとセスにな」

 

工廠組とは特に仲がいいようである。セスは今相部屋な程の仲。やはり同胞であることは親近感に繋がるのか。

 

「全て終わったら島に帰る。それまでは協力しよう」

「ああ、よろしく頼む」

 

まだこの事件は続く。それが終わるまでは施設を守ってくれると宣言してくれた。ある意味、この施設も自分の管轄する場所のように思っているのかもしれない。陸上施設型という深海棲艦にしかない種族の、私達とは少し違う感性か。

 

 

 

そして、今日は夢の中にも呼び出される。毎日でも呼べばいいとは言ったが、少し間を空けてきたのはシグの優しさか。

 

『やぁ、なんだか今日は賑やかだったね』

「ああ」

 

外からの者が沢山来たので、シグもそのチェックで忙しかったようだ。その結果は問題無し。誰からも嫌な感覚はしなかったとのこと。

第一水雷戦隊は大淀の拠点の襲撃をして怪我を負っているため、その時に何か仕込まれているのでは無いかという事態を危惧していた。それが払拭されただけで一安心。

 

『赤城さんが助けられて良かったね』

「ああ、ありがとうシグ。説得出来るかもしれないというのを教えてもらってなかったら、どうにかしてでも沈めていた。シグのおかげだ」

『あはは、どういたしまして。でも、無傷で説得するのはちょっと驚いたかな』

 

シグはあくまで動かなくなるくらいまで痛め付けてから話をした方がいいと言っていたが、最終的には加賀との殴り合いによる怪我だけ。あれは加賀の思いが伝わったからどうにか出来ただけで、限りなく危険な行為である。

 

『結果オーライだから、(ボク)はこれ以上何も言えないね。ああ、赤城さんは大丈夫。ちょっと()()けど、いきなり君達に敵対するようなことはないよ。あの人にはあの人の信念があるみたいだし』

「信念か。仇討ちか?」

『そうだね。赤城さんの中には何人もの怨念が入っちゃってるから』

 

全て背負っているのだから、理性が焼き切れていたわけだし、今も結構危ういバランスの上に立っているのは仕方のないこと。負の感情から生まれたのに、今艦娘のように振る舞えるということ自体が奇跡に近い。赤城自身も、またおかしくなってもおかしくないと言うほどだし。

 

『五航戦を見たらまた焼き切れるかもしれない。だから、気をつけてね』

「ああ、肝に銘じておく」

 

怒りと憎しみの相手、自分を殺した張本人が相手なのだから、怒り狂うのは目に見えている。ストッパーとなり得る加賀も同じ憎しみを持っているのだから、赤城が暴走しても加担する可能性が高い。

一航戦を止めるのはその外にいる者、私達だ。あまりに目に余る暴走をした場合は、私達が強引にでも止める。

 

『あと、一応もう一度チ級を探してみたけど、やっぱりダメだね。届いてないや』

「それは仕方ないだろう。力を貸してくれているだけでもありがたいんだ。若葉としては面と向かって礼を言いたいだけだ」

『そういう若葉の律儀なところ、(ボク)は好きだよ』

 

チ級は残念ながら見つからず。こればっかりは仕方ない。私の身体に関わることだし、礼を言いたいのは山々だが、それが出来た場合に私が壊れている可能性がある。

 

『重要な話はこれくらいかな?』

「そうだな。いつも助かる」

『いいよいいよ。(ボク)(ボク)に代わって戦ってくれている若葉に協力したいんだからね』

 

にこやかな笑み。この空間にいるとき、シグが笑っていないことはない。私と話せるのが本当に嬉しいようだった。

それもそうかと思う。シグが会話出来るのは私だけであり、さらにはこの空間だけ。日中は私の周りを見ることが出来たとしても、他人と話すことは疎か、私ですら視認が出来ない状態。同じ状態である三日月すらも無理。寂しく感じていてもおかしくない。

 

「シグは姉には視られているのか?」

『目は合ってるね。この前手を振ったら振り返してくれたよ。ちょっと嬉しかったかな』

 

シグの存在を日中視認出来るのは、唯一私の姉だけ。意思疎通という程ではないものの、手を振ったら振り返せるくらいには認識されているようである。

 

『そろそろ三日月ちゃんの方の(ボク)とも話をしてみたいものだよ。えーと、ぽいだっけ』

「ああ、三日月がそう名付けたらしい」

『うん、確かにちょっと聞き覚えのあるフレーズだよ。あ、フレーズっぽい』

 

その言葉に聞き覚えのあるということは、やはり自分の身体の一部という認識で間違っていないようだ。私もあちら側のシグ、ぽいには会ってみたいものである。

だがそれは、チ級と会うよりも難しいことだろう。何せ、私の身体では無いのだから。これだけ密着して眠っていても、その片鱗すら見せないのだから、おそらくずっと無理なのだろうなと思う。

 

「三日月に様子を聞いておく。今はそれで我慢してくれ。若葉もそれで我慢する」

『だね。それに、(ボク)には君がいるからいいのさ』

 

腕にしがみつくように抱きついてきた。まるで三日月のようだが、夢の中だからか重さを全く感じない。むしろ心地いい程である。

 

「また呼んでくれ。寂しいなら毎日でもいいからな」

『ふふ、ありがとう若葉。寂しくないと言えば嘘になるけど、大丈夫だよ。(ボク)はこの第二の人生……第三なのかもしれないけど、それを順風満帆に過ごしてる』

 

今の状態を楽しめているのならそれでいい。私も楽しい。

 

『それじゃあね、若葉。また夢の中で』

「ああ、また」

 

シグとの交流は私としても楽しい。事件の見解を聞けることも楽しいし、こうやってただ遊んでいるのも楽しい。

眠ることで身体が癒され、夢の中で心も癒される。私は今この時が充実しているのだろう。

 




施設に協力する者達は、みんながみんな今を守ろうとしてくれています。方向は違うかもしれませんけど、一致団結しているのは確かです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。