継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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死を知る者

翌日、夜間警備でも何事もなく、施設は安全な状態で朝を迎えることが出来たため、下呂大将と新提督は帰投した。加賀から手に入れた、手瀬提督の鎮守府の件を大本営で詰めるとのこと。

赤城が施設の一員となり、今のところはあの海域から深海棲艦が発生することは無いようだが、何かの弾みでまた発生する可能性はある。それに関しては、今は施設側で対処するということになったようだ。

 

「昨日のうちに先生と新さんにいろいろ作戦を練ってもらった。五航戦の襲撃は、ここ数日で来るだろう。下手をしたら今晩の可能性もある」

 

またえらく急な話となった。前回からそれなりに時間が経っており、あちらの襲撃準備も整ったのではないかというのが下呂大将の推理である。

前回の戦いで、こちらにシロクロという超が付くほど強力な戦力がいることを把握させてしまっている分、確実に勝利するための策を練っているだろう。そこから考えて、襲撃は最速で昨日では無いかと考えたらしい。それが来なかったのだから、ここからは毎晩が襲撃の恐れがあるタイミング。

 

「近々来るが、いつかはわからないために、新提督は帰投せざるを得なかった。あの人も大本営の一員として忙しい人だからな。先生も療養中の身だから、ここに拘束するわけにはいかない。代わりに1人だけ残してもらえることになった」

 

それが旗風である。今日から少しの間、施設に滞在して情勢を見続けるとのこと。以前の神風のようなものだ。

ここにいる間は、近海警備や私達の訓練の手伝い、あとは料理も得手らしいので雷の手伝いもしてくれるらしい。万能選手である。

 

「不束者ですが、少しの間よろしくお願いします。誠心誠意お力になれればと存じます」

 

こんなこともあろうかとと、しっかり着替えまで持ち込んでいるのだから抜かりない。旗風は最初からここに置いていってもらえる予定だったようだ。

そもそも今回は空母棲姫が現れてしまったことへの対策のための派遣だったのだから、長期戦も多少は視野に入れていたのだろう。昨日中に発見して撃破出来ればそれで終わりだったが、そうでなければ援軍として1人置いていく算段だったと。

 

「なら、これから毎晩、私と加賀さんは夜間警備のお手伝いをさせてもらいますね」

 

襲撃が近いということで、赤城が笑顔のまま殺意増し増しで宣言。

赤城の中身を感じとることが出来るのはおそらく私、若葉とシロくらいなのだが、今回は誰がどう見ても五航戦を殺すつもりで行動すると言うのが見えた。そのため、飛鳥医師もすぐに説明する。

 

「気持ちはわかるが、五航戦は生かして倒してくれ。彼女らも被害者なんだ」

「その件に関しては、頭の片隅にでも置いておきます」

 

これは確実に話を聞いていない。助けたとしても殺しかねない。この確執は、曙と呂500のもの以上に込み入っている。五航戦、特に翔鶴の指示により自爆させられ、怨念の塊となって蘇った赤城なのだから、五航戦を見た瞬間に理性など無くなるだろう。

 

「私も止められるかはわかりません。そのつもりでお願いします」

 

加賀も殺されかけたという憎しみがある。赤城に対するストッパーとしては使い物にならないぞと、自ら宣告してきたようなもの。加賀すらも五航戦は殺すつもりで戦うのだと思う。

殺害だけは阻止しなくてはいけない。大淀の被害者は、今どのような状態でも須く救出するのがここのやり方だ。いくら翔鶴のゲスさを見たとしても、あれはやらされているだけ。洗脳が解けた時、壊れかねないほどの自己嫌悪に陥るのも目に見えている。だが、死ぬよりマシだ。やり直せる。

 

「いざとなったら若葉達が止める」

「すまない……」

 

最悪の場合、出撃させないまであるのだが、どう足掻いてもこの2人は無理矢理出撃するだろう。今の赤城は、私達を攻撃してでも五航戦を殺そうとする。そんなことで施設内に不和を持ち込みたくない。ならば戦場で止めるのみ。

それまでにわかってくれればいいのだが、期待はしない方がいい。特に赤城はダメだ。そういう()()として生まれ変わってしまったのだから。

 

 

 

襲撃はいつも通り夜だろう。そして今晩の夜間警備は、私率いる五三駆。今日来るなら、一番最初に交戦するのは私達になる。若干緊張感が高まる中、朝食後に談話室を使い、五三駆で夜間警備の簡単な打ち合わせ中、少し眠そうな旗風がこちらへ。どうやら私達を探していたらしい。

 

「本日の夜間警備、私も参加させていただきます。よろしかったでしょうか」

「ああ、人が増えることはいいことだ。よろしく頼む」

 

夜間警備には旗風も同行してくれる。昨日から引き続きとなってしまうが、旗風がここに残ってくれた理由がこれなのだから、飛鳥医師も良しとしていた。その旗風はこれから仮眠を取り、夜に備えるとのこと。夜間警備の後にまだ一睡もしていないはずなので、ここで身体を休めておいてほしい。

 

「ああ、いたいた。さっき言った通り、私達も参加します。よろしくお願いね」

「……ああ」

 

そして旗風と同じように赤城と加賀も談話室へ。赤城は終始微笑んだままであり、加賀は無表情。だが、五航戦の話題が出たことで、2人とも憎しみが匂いに表れたまま。他の者はわからずとも、私にはわかった。

 

「赤城、若葉も飛鳥医師と同じ意見だ。五航戦の2人は生かしてほしい。あくまでも救出することが若葉達の目的なんだ」

「善処しますよ」

 

念を押しておく。加賀はともかく、赤城は絶対に許さないだろうが、言葉にしておけばもしかしたら届くかもしれない。だから何度も何度も言う。赤城の気持ちが変わらないように、私達の気持ちも変わらない。

しかし、それに対する返答は簡素なもの。善処すると言う者は大概何もしない。それを笑顔で言い放つのが余計に怖い。邪魔をしたら後ろから撃つなんてことまでしそうで困る。

 

「私は赤城さんの気持ち、多少はわかるわよ。()()()()()()()()()()。殺したいくらい憎いわよね」

 

そこに曙が言い放った。それを聞いて赤城が目を丸くする。自分と同じように一度死んでから蘇った者が他にいるとは思っても見なかったのだろう。加賀も施設に所属するようになってからその話は聞いていなかったので、無表情ながらも相当驚いている。

あちら側で使われている時に、大淀から聞いていなかったのだろうかと思ったが、赤城も加賀も別鎮守府の者。こちらの内情は殆ど知らなくてもおかしくはないか。

 

「なら曙さんも私と同じ……?」

「私はここの先生に蘇生してもらってるから違う。ほら、これが証拠」

 

少しだけ服をはだけて胸の傷を見せた。爆散した後に存在そのものが変化してしまっている赤城とはダメージが雲泥の差だが、死を乗り越えたというところでは同じ。

死の苦痛を知るもの同士として、多少なり親近感はあるようではあるが、曙の表情はあまりいいものでは無い。

 

「なら、曙さんの仇討ちは?」

「私の仇は今ここの一員よ。しかも、そいつは私を殺したこと忘れてんの」

「ここにいるのなら、殺してしまえばいいのでは? 自分を殺してのうのうと生きている姿を見るのは、それだけでも腹が立つでしょうに」

 

簡単に言ってくれる。この言葉も当然笑顔を崩さずに言ってきた。要は、気に入らなければ誰だって殺すと言っているようなものだ。本能のままの殺戮に、一切の抵抗が無いと見える。

すぐに殺すかどうかの選択になってしまうのは、深海棲艦の本能だからだろうか。それとも、何か別の要因があるのだろうか。

 

「最初はそうだったわよ。赤城さんの言う通り、ツラを見るだけでも腹が立ったわ」

「だったら何故殺さないんです?」

 

本当に疑問に思っているようだ。腹が立つのなら消してしまえばいいのにと。

深海棲艦は本能のままに生きているような素振りはある。帰巣本能もそうだが、憎しみのままに殺戮を犯す辺りがまさにそれ。赤城は艦娘の人格があったとしても本質が深海棲艦故に、その本能を隠すこともしなかった。

 

「なんで嫌な奴を手にかけて自分の手を汚さなくちゃいけないのよ。だから、徹底的に無視し続けた。関わり合いを持たないようにしたわ。腹が立ってアイツ自身に当たり散らしたりもしたわ」

 

あの時の一触即発のムードはあまり良いものではなかった。雷とも険悪な仲になっていたし、曙自身がストレスで倒れたりもした。あの時のことを思い出して、雷も少し顔を伏せる。

 

「でもね、アイツはアイツなりに記憶が無くても罪悪感を持ってたの。訳がわからないけど私に謝ってきたりした。トドメは戦場で助けてくれたのよ」

 

それが、今は違う。朝霜との戦いで、呂500の決死の行動により撃破することが出来たことで、多少なり付き合い方が変わった。自分からは行かないが、来られたら毛嫌いせずに適当に流すくらいに。

 

「あの戦いで、私を殺したアイツはもう死んでいて、目の前のアイツは別人なんだってことが理解出来た。だから割り切れたわ」

「曙……私も嬉しいわ! これでもうちょっとろーちゃんと仲良くしてくれたら最高なんだけど!」

「割り切るのと仲良くするのとは違う」

 

雷が抱きつこうとするのを、頭を押さえて阻止する。わだかまりも無くなったおかげで、嫌な雰囲気は見せなくなったのはありがたい。曙の視界に入れないようにこちらが気を使ったりするのも疲れる。

 

「……私はそこまで割り切れませんね」

 

少し笑顔が失われた。一時的に施設の一員となってからほぼ常に笑顔だったが、今だけは違う。赤城が本音を言えそうなのは、この施設で唯一同じ境遇である曙だけなのかもしれない。

 

「あの子が殺したのは私だけじゃないもの。それがやらされたものであっても、あの時はあの子の意思。なら、その意思を持つなら死んでもらうしかないじゃない」

「洗脳が解けたら別人よ」

「罪悪感を持っているのなら、本人でしょう。なら死ぬしかないわ」

 

曙がここまで考えてくれているとは正直思わなかった。あの一件の後も、曙から呂500に話す姿は一度も見ていないが、心は少しだけ変化していたようだ。

 

しかし、どれだけ話しても平行線上な気がする。赤城の殺意は消えることはない。仇敵がこの世にいる以上、それが死んでようやく気が晴れる。下手をしたらそれでも気が晴れない。それほどまでに深い、深すぎる憎しみだ。

加賀はどうかとチラリと見てみると、曙も壮絶な体験をしているということで少し動揺を見せていた。顔には出さずとも、匂いにはしっかり出ている。

 

「加賀さんは……どうなんです?」

 

すかさず三日月が加賀に聞いたが、加賀は無言。目が若干泳いだようにも見えた。憎しみに呑まれているにしても、深海棲艦ではなく艦娘なのだから、そこはしっかりと理性が働いている。

殺したいほど憎くても、実際に殺すかと言われると抵抗があるのは艦娘としての本能。そこまで赤城と同調されていたら、正直どうにもならなかった。

 

「雰囲気が暗いですね。皆さん、一度お茶を飲みましょう。私が淹れますので、お待ち下さいませ」

 

その空気をぶった斬るように話題をすり替えたのは旗風だった。談話室であることをいいことに、勝手にお茶を淹れていく。

 

「あら、お茶菓子もありますね。赤城さん、美味しそうな甘味ですよ」

「そ、そうですか……」

 

テキパキと並べてお茶会の準備をしていく旗風。この空気の読まなさに呆気に取られている赤城。

こちらとしては助かった。このまま話を進めていくと、赤城がこの場で暴走していたかもしれない。さすがに艤装を持っているわけでは無いので

 

「甘いものを食べて、お茶を飲んで、少し落ち着きましょう。冷静にならなくては纏まるものも纏まりません」

「……私は別に」

「それに、親睦を深めるには、一緒にお茶を飲むことが一番です。ささ、ちょっと熱いですがどうぞ」

 

今度は旗風が終始笑顔で振る舞っていた。赤城の笑顔とは違い、こちらは本当に裏の無い笑顔。この場を諫めるために、あえて空気を読まずに動いている。

旗風のこの行動に気が抜けたのか、赤城から負の感情が薄れた。甘味を楽しむためにお茶会に参加することにしたようだ。こんな状況になったことでか、食い気が上回ったらしい。

 

「旗風、大丈夫か?」

「少し眠いですが、大丈夫ですよ。お茶会の後に眠らせていただきます」

「……悪いな」

「いえいえ、暗い空気は好きではありませんので」

 

そんなことを言いながら、戦場では飄々と敵の腹を捌いていくと思うと少し怖い。旗風の二面性を垣間見た気がする。

 

赤城はこれで一旦落ち着いたのか、今だけは憎しみを表に出さなくなった。お茶会もなんだかんだ楽しんでくれている。

だが、これは一時的なもの。戦場ではやはり暴走すると思う。その対処法は考えておかなければ。

 




旗風は猫みたいな雰囲気を持っているイメージ。春風よりはちょっと砕けているけど、他3人よりは丁寧。季節セリフとかでも「よぉーし」って言うことが多いんですよね。可愛い。





桃の節句イベ、無事甲クリア達成出来ました。最後はこのお話でも活躍中の朝霜が、中破状態で3択に成功し、トドメを刺してくれました。
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