五航戦の夜襲を迎撃する施設所属の部隊。私、若葉は五航戦を攻撃しようとしたところで、新たな完成品、妹の初霜に妨害される。さらには、私を援護しようとした三日月を、その姉である如月が妨害。私達への当て付けのために完成させられた姉妹と相対することになり、心が押し潰されそうな気分になる。
「貴女が赤城さん? 何の冗談を」
「あら、現実逃避かしら。なら貴女が私達にやらせたことを1つずつ話してあげましょうか?」
笑顔を絶やさず、自分が
「他人の鎮守府を破壊し奪った挙句、人様の鎮守府を空爆させ、この医療施設も同じように破壊しようと思ったけれど、予想外の火力を持つお子様が出てきたせいで勝ち目が無くなって、死にたくないから情けなく私達の命を使ってスゴスゴ撤退した臆病者の翔鶴よね? 人形を自爆させないと撤退する余裕すら持てないような弱者なのかしら五航戦は。ふふ、お笑い草よね。実力で捻り潰すことも出来ないのに、たった1人出てきただけで泣いて逃げるだなんて、本当に愚か」
恨み節が出るわ出るわ。本来の赤城はここまで敵を卑下するような性格ではないらしいのだが、深海棲艦として蘇ったことがその辺りに影響しているようである。本人に対しては憎しみを一切隠さず、クスクス笑いながら見下したように話し続ける。
「……言わせておけば」
「私には言う権利があるでしょう? 貴女が臆病風に吹かれたせいで、艦娘としての命も尊厳も何もかもを壊されたんだもの。それとも何? 私が自爆させられたのは貴女のせいでなく、私が弱かったからとでも言うのかしら? 責任転嫁も甚だしい」
赤城から発艦される艦載機の数がさらに増える。まだ瑞鶴だけで抑え切れているようだが、限界が近いようだ。それに、加賀はそちらに艦載機を使っていない。増やそうと思えばまだまだ増やせる。
「随分と口が悪いですね。随分と堕落したじゃないですか。誇りある一航戦ともあろうものが」
「ええ、貴女のせいで私はこんなにも堕ちてしまった。一航戦の誇りなんて、もう何処かに行ってしまったわ。今の私には、あの時に散らされた全員分の怒りと憎しみしかないの。貴女をこの世から消し去ることが出来れば、後はどうでもいいのよ」
反論するも、赤城は一蹴。どれだけ何を言われようとも、折れる心が既に無いようなものなので、煽りに対しての耐性がありすぎる。理性が無いものに理性を壊す口撃なんて効かなかった。
「だから、簡単には死なないでちょうだいね翔鶴。恨みはいくらでもあるの。呆気なかったら承知しない。妹に守ってもらうのではなく、貴女がちゃんと自分の身は自分で守りなさい。まさか妹に守ってもらわなければいけないほど弱いわけでは無いでしょう? あれだけ調子づいていた五航戦の姉なんだもの。ほら、かかってきなさいな」
最後まで笑顔を絶やさず、翔鶴をピンポイントで煽り続けた。翔鶴から苛立ちを感じるほどである。
「瑞鶴、貴女は加賀さんをお願い」
「わかった。じゃあ一回止めるよ」
瑞鶴の迎撃が終わった瞬間、翔鶴が真上に矢を放ち、赤城の空爆を全て墜とした。瑞鶴以上の精度と搭載数により、空母棲姫と化した赤城とも互角の力となっている。瑞鶴だけではなく、翔鶴もこの数日で強化されているようだ。
「やれば出来るじゃない」
「当たり前です。私が何のためにここにいると思ってるんですか」
「私に殺されるためでしょう? 貴女には私の中にあるあの時の憎しみを全て受けてもらわなくちゃいけないの。よく来てくれたわ」
言いようのない恐怖を感じるあちらの戦場とは別に、加賀は瑞鶴と睨み合っている。やはり瑞鶴は何かされているようで、これだけのことがあっても一切感情を見せない。まるでリミッターを外している三日月のようだった。
「……」
「……」
元々加賀はそこまで話す方ではないようで、無言の睨み合いが続く。憎しみは深く、殺意も漏れ出している。あれだけ騒がしかった瑞鶴がこれだと、加賀も緊張感が取り払えないようだった。あれは決着に時間がかかりそうである。
一方私は一旦三日月と合流し、2対2の状態に持っていった。五航戦や、後ろから現れた失敗作の戦艦隊は他に任せ、私と三日月は姉妹を正気に戻すことに専念する。とはいえ私達が出来るのは、殺さずに倒して、飛鳥医師に任せることしかない。
「三日月、大丈夫か」
「大丈夫です」
感情の無い表情で敵を見据える三日月だが、如月が現れてしまったことで、感情が戻ってこようとしている。外していたはずのリミッターが、動揺でかけ直されそうになっている。
いつかやってくるのではないかと思っていたが、このタイミングとは思わなかった。精神的な揺さぶりは、実の姉妹の哀れな姿が一番効く。
「あいつらを助けるぞ」
「当たり前です。姉さんのあんな姿は見たくないので」
あの2人の戦い方は、私達と全く同じなのだろう。初霜が前衛、如月が後衛。どのタイミングまでの私達を知っているかは知らないが、拮抗、もしくはそれ以上の力を持たされてここに立っていると思う。
そして、大淀の手が加えられているということは、私と三日月を捕らえるために動くと予想は出来る。瀕死の状態にされ、連れ去られ、改造される。それだけは回避しなくては。
「死なない程度に痛めつけるわね、若葉。大淀さんはまだ貴女のこと欲しがってるから」
「それはゴメンだな」
「若葉の意見は聞いてないの。素直についてきてくれれば痛い思いをしなくて済むわ」
気付けば初霜が私の眼前に。速い。リミッターを外した私と同等かそれ以上、神風と同じほどのスピードで突っ込んでくる。
そこから強烈な振り下ろし。死なない程度とは言うものの、まともに受ければ胴が袈裟斬りにされるため、私もナイフで受け止めた。腕力だけで言うのなら朝霜の方が余程キツいくらいの重さ。受け止められない重さでは無い。
「援護します」
「ダメって言ったでしょう?」
三日月の援護は如月がすかさず邪魔をする。初霜の持つナイフを狙ってのピンポイント射撃を狙ったようだが、その主砲を破壊するために如月が先に砲撃していた。勘付いたときには回避行動に移っていたが、そのため私の援護は出来ず。三日月の歯軋りが聞こえた気がした。
結果的に私は初霜と
「もっと速く行くわ」
「好きにしろ」
宣言通り、初霜の連撃はどんどん速くなっていく。二刀流のため、受けるのはまだ楽な方ではあるのだが、時間をかけるわけにはいかない。だが焦ったら負ける。
申し訳ないが、少し痛めつけるしかない。拳銃付きナイフを使い、脚に向かって射撃。動きが止まれば多少は変わる。
「その武器は瑞鶴さんに聞いてるわ。なら避けれる」
撃った時には後ろに回り込まれていた。それこそ、三日月と同様に避けようと思った時には避けていたような、あまりに速い動き。私がトリガーに指を引っ掛けたときにはもう回避行動を取っていた気がする。
真後ろからの斬撃は匂いにより見ずとも回避。一旦間合いを取ろうとしたが、それも予測されたか突っ込んできた。
「つっ……」
「大人しく捕まってよ。私、若葉を傷付けたくないわ」
回避は出来たが、腕に切り傷がついた。そこまで近付かれていたというのもあるが、まだあちらが加減しているのがわかる。あくまでも私は生かして捕らえたいと。あんなことを言っているが、それも仕方なくという気持ちが隠せていない。
時間のことも考えると、1人で戦うのは厳しい。だが、三日月は完全に如月に抑え込まれている。
「姉さん、退いてください」
「妹のお願いでも、それはダァメ。投降してくれたら攻撃はやめてあげるわよ?」
「冗談はよしてください」
三日月も如月の足止めをしようと、主砲や脚を狙って攻撃しているのだが、ヒラリヒラリと躱されていた。当初の夕雲のあの回避方法に似ているが、こちらは三日月の行動を予測しているような先行した回避。
「三日月ちゃんは単純だから助かるわ。撃つところが手に取るようにわかるもの」
「そうですか。黙ってもらえますか」
ムキになっているわけではないが、三日月の連射が激しくなる。手に持つ主砲を狙っていたが、途中からは胴体すらもターゲットに含まれ始めていた。感情を失いつつも、若干だがイライラしているように見える。
やはり実の姉がああなってしまったところを見て、心が揺さぶられている。攻撃したくないという気持ちもあるだろうし、苛立ちもある。そこから照準に殺意が込もり始めているのもわかる。
「……私は若葉さんと違うので、姉さんに攻撃を当てられるとは思えませんね」
「あら、諦めるの? なら投降する?」
「まさか。誰が諦めると言いましたか。姉さんの
気に入らないが、と付け足す。リミッターを外したことによる観察眼で、如月が三日月の攻撃を全て避けている理由はわかっているが、今の三日月にはそれを打開するための力が足りないという。
今の三日月に出来ることは考えた時点での行動。それで超えられないということは、如月は三日月の行動を
「三日月、交代出来るか!」
「三日月さんが出来ると言っても、私がさせるわけないでしょう?」
私と三日月の間に、初霜が妨害するように割り込んできた。これでは合流することが出来ない。
「確か三日月ちゃんは、時間切れになったら鼻血を噴いて動けなくなるのよね。じゃあ、時間切れまで付き合ってちょうだいね」
「若葉も動けなくなるって聞いてるわ。そうなってくれた方が簡単だから、ギリギリまで遊びましょう」
元よりそのつもりで戦っている。私と三日月の時間切れ待ち。私も三日月も、反動で動かなくなるのはあちらもわかっている。だからと言ってリミッターを外さなければ拮抗すら出来ずに敗北する。そもそもが私達よりも
だが、私は既に施設に警報を鳴らしている。援軍は期待出来る状態だ。元々いたものは戦艦隊に押さえ付けられていたとしても、追加の面々は抜けて来れるはず。
「九二駆、推参じゃ。見とうないものがおるが、其奴を封じれば良いんじゃな」
先行してきたのは姉率いる九二駆。夕雲と風雲は曙達の手助けに。霰は三日月の方に駆け付けてくれた。そして姉は私の下へ。歪んでしまった初霜を目の当たりにして、心底嫌そうな表情を見せた。
姉が現れても、初霜はあまり反応せず。あくまでも狙いは私。他の者は生かす理由も無いのだろう。私には向けられなかった、素直な殺意が姉に向いた。
「初春姉さんが増援で来たところで、何も変わりませんよ。若葉が倒れてしまえば、嫌でも押し潰されるでしょう?」
「若葉と三日月以外は雑魚か何かとでも思っておるのか」
「本当のことを言っているまでですよ」
私と同じスピードで、ここにやってきたばかりの姉に接近。一撃で殺してやろうと心臓に向けてナイフを振り下ろす。
「貴様はわらわの何処までを知っておる」
ガギッと少し嫌な金属音がしたが、姉は健在。無傷でその攻撃を耐えた。
「わらわ達は若葉と同等かそれ以上の者が刺客として来ることは想定しておった。最初からな。貴様らが若葉を対策するように、わらわ達はそれを対策しておったわ、この
姉が手に持つのは鉄扇。空飛ぶ主砲のおかげで両手が空いているのだから、近接武器を使うための手段はいくらでもあった。そこで選んだのがコレである。攻防一体の武器はかなり重いものではあるが、艤装のパワーアシストによりそれも簡単に克服している。
「三日月も同じじゃ。ほれ、見てみよ」
三日月の援軍として参戦した霰も、姉と同じように三日月対策の対策を訓練してきていた。
私達が違うことに奔走している間に、九二駆はよりサポートに特化していたようだ。
「きさらぎちゃん、あられとおなじこと、できるんだね」
三日月が理解したという
「……私の姉は面倒なのね」
「最高の褒め言葉じゃの」
姉の参戦により、初霜を抑え込むことが出来そうだ。すぐにでも倒し、飛鳥医師に治療してもらわなければ。
初春は元々扇子を持ってるんですよね。それを実戦に転化した形になります。鉄扇と言われて私が思い付くのはハクオロさん。