継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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禁断の兵器

九二駆の参戦で激化する戦場。

失敗作の戦艦隊を相手している曙と雷、そして旗風。一撃の火力が即死級であり、掠っただけでも大惨事になりかねないものが、その数にして10人。おそらくシロクロ鎮圧用に連れてこられた高火力部隊なのだろう。そのシロクロはまだ戦場に来ていない。

失敗作はどう見てもおかしな形状をしている。本来の製作工程から外れて完成させようとした結果の失敗作も交じっているようだった。大淀の残酷な実験の成れの果て。見ていて気分が悪い。

 

「自爆装置は私と旗風で剥がす! 雷は足止め!」

「了解! とりあえず顔面ね!」

 

完成品は自爆装置が失われているが、失敗作はしっかりと配置されている。近くまで寄って嗅いだわけではないので正確な場所はわからないが、火薬の匂いはしっかりと感じた。おそらく位置は変わっていない。

水鉄砲の雷なら何処を狙っても問題ない。しかし、戦艦隊は戦艦という艦種もあるが、禍々しく変質しているせいかやけに耐久力が高く、顔面に水鉄砲を喰らってもちょっと怯むくらいで攻撃を止めることはない。目潰し程度では人形みたいなものは対処しづらかった。

 

「1発じゃ止まらないか! なら何発も当てるから!」

「援軍、来たよ!」

「こちらに人数がいるでしょう。夕雲達はこちらへ」

 

私達の方に姉と霰が来たように、あちらには夕雲と風雲が援軍として到着。とにかく今は失敗作達を足止めしなければどうにもならない。そのまま進まれて施設を破壊されても困るし、そもそもの主砲の威力がとんでもない。戦場にこの人数が居座られても困る。

失敗作は意思と理性が無くなっているだけで、1体1体が完成品に近しい。今までの戦いで、完成品と1対1で戦っても厳しいというのに、数的有利があちらにあるため、援軍を全てあちらに送り込むくらいしないと勝ち目がない。

 

「風雲さん、主砲を破壊してください」

「じゃあ夕雲姉は脚部艤装!」

「それじゃあ同時にやるわよ! せーのっ!」

 

雷は頭で視界を塞ぎ、夕雲が足で移動を止め、風雲が主砲で攻撃を制する3点同時攻撃をすることで、失敗作1人の足止めに成功。砲撃も封じたために、ほんの少しだが完全に動きが止まった。しかし、実弾を使っている夕雲と風雲の砲撃を以てしても傷がついた程度。まるで鳥海の持つバルジの如き硬さ。

瞬間、他の失敗作が守るように動き出し、曙と旗風が近付くことを封じられた。そのせいで足止めされていた失敗作が調子を取り戻し、再び攻撃を再開。意思と理性が無くても連携だけは一人前のせいで非常に戦いにくい。

 

「面倒な連中ね!」

「近付けなければ私の力も振るえません。潜れはしますが危険ですね。人数がもう少しいるでしょう」

 

旗風も手を焼いている状態。大淀の拠点襲撃の時に駆逐艦の完成品に苦戦したと聞いているが、今回はよりによって戦艦だ。余計に苦戦は必至。

ただでさえ施設の立場上、大きな怪我をすることが出来ないため、慎重になってしまうのは仕方がないことである。

 

「援軍はまだ来ます。申し訳ないですが、こちらを優先させてもらいますから」

 

敵の数的優位を覆すため、ここからの援軍は失敗作の対処に使ってもらう。とにかく敵の数が多いのは問題だ。

 

「おいおいおい、今度は戦艦様かよ、やりがいあるじゃねぇか!」

「朝霜、あんまり無茶しないでよぉ!?」

 

朝霜と巻雲も合流。駆逐艦ばかりで戦艦を相手しなくてはいけないが、もう全員がそれなりに経験を積み、訓練も絶やさず行なってきたのだから、勝ち目がないわけではない。

朝霜の接近戦は厳しいかもしれないが、巻雲の火力は確実に役に立つ。ここから巻き返してもらいたい。

 

そして、さらなる援軍。おそらくはあちらの本命。そしてこちらの希望。

 

「何処に撃てばいい!」

「クロ! あの気持ち悪い戦艦もどきにぶっ放して!」

 

朝霜と巻雲と一緒に、シロクロ参戦。登場して即座に主砲を撃ち放つ。相変わらずの轟音と共に放たれたそれは、不殺のための水鉄砲であるにもかかわらず、先頭の失敗作が吹き飛ぶほどの威力で直撃。艤装こそ破壊出来なかったものの、充分すぎるほどのダメージ。

それにより浮いた失敗作が他の失敗作を薙ぎ倒すように吹っ飛ばされ、陣形が途端に崩れる。

 

「相変わらず馬鹿みたいな威力よね!」

 

その隙を見て、曙が動き出した。今なら体勢を崩した失敗作に向かい、自爆装置があるであろう腹に一撃を入れる。思い切り返り血を浴びるが、これで自爆の心配はなくなるだろう。10人中の1人目ではあるが、確実な一歩。戦力としてはまだそのままでも、外部からの指示で自爆されることが一番避けねばならないことだ。

 

「素晴らしい一撃です。道が出来ましたね」

 

そして旗風も。曙が自爆装置を破壊した失敗作に近付き、流れるような剣捌きで、即座に艤装を破壊した。相変わらず惚れ惚れする程の技。これで1人は完全に無力化出来た。

その後すぐに陣形を戻されたが、残りはあと9人。連携を崩せば1人ずつを確実に倒すことが出来そうである。朝霜と巻雲も追加されたことで、戦いやすくなっているはずだ。

 

このシロクロの砲撃は、戦場を震撼させる一撃となった。これだけ大きな音がしたら、赤城と接戦を繰り広げている翔鶴だって、シロクロがこの戦場に現れたことは気付いている。

 

「来ましたね、この場で葬らなければいけない敵が」

「余所見する余裕があるのね。慢心かしら」

 

赤城の空爆がまだまだ激しさを増す。ただの空爆では無く、横方向からの射撃も加え、簡単には行かないように工夫している。

それに対する翔鶴は、前回にも見せた数本の矢を同時に放つことでそれに対応していた。一部は上へ、一部は横へ、そして一部は赤城本体へと放ち、互角に撃ち合っている。

そもそも完成品と互角に戦えている赤城もとんでもないし、怨念の力が普通とは違う赤城と拮抗できる翔鶴もとんでもない。あの場だけはレベルが違う。

 

「正直な話、貴女はイレギュラーなのでどうでもいいんですよ。私がここに来たのは、あの深海双子棲姫をここで沈め、施設の戦力を削ることが目的なんですから」

「貴女にはどうでもよくても、私には重要なことなの。しっかり付き合ってもらうわ。貴女が死ぬまで、何度でも何度でも撃ってあげる」

「好きにしてください。私はやらねばならないことをやるだけですから」

 

この施設の最大の戦力は誰がどう考えてもシロクロだ。翔鶴単体に匹敵する量の水上機、たった今失敗作を一撃で吹き飛ばした主砲、それに加え、対空砲と魚雷まで完備しており、海中に潜ることさえ出来る万能中の万能戦力。

そのまま生かしていたら、確実に大淀への脅威となると考え、それを最優先で終わらせに来た。戦力を見直すと言って前回は撤退したが、その結果が今の現場だとしたらまだ足りないように思える。

 

翔鶴はハッと鼻で笑った後、海面を爪先で叩いた。まるで()()()()()()()()()()()()ようだった。

途端に嫌な予感がした。キナ臭い匂いが戦場いっぱいに漂った。特にシロクロの方。あの戦艦隊がシロクロ対策の部隊だと思っていたが、それは違うと今の行動で何と無く読めた。

 

「シロ! クロ! そこから退け!」

 

キナ臭い匂いに気付いた瞬間、私は叫んでいた。初霜が眼前におり、姉と共にそれを押さえつけるために戦っている最中でも、これだけはちゃんと言っておかなければダメだ。それでシロが気付いてくれる可能性は高い。

 

「目の前の妹を無視するのは良くないわ」

「やかましい。貴様はわらわと楽しむんじゃよ」

「若葉は生かして捕らえるけど、初春姉さんは死んでくれて構わないのよ」

 

初霜の動きがさらに加速する。姉はそれを受けるのに必死だった。

私と1対1(サシ)で戦うために、私と同じ技能で私を超える力を手に入れているのはわかっている。嗅覚までは模倣出来ていないようだが、それ以上のスピードと技量を持っていた。

姉も私を守るために私を対策するという手段を取ったが、防御に徹さざるを得ない状況にされ、且つ、私の攻撃はそれでも初霜に受けられている現状。相変わらずこの場に縫い付けられているかのように行動を止められていた。

 

「っ、クロちゃん、バック!」

「えっ!?」

 

私の言葉で気付いてくれた。あまり無いシロの叫び声が戦場に響く。

 

 

 

その瞬間、シロクロの真下が大爆発を起こした。

 

 

 

シロが咄嗟にその場から退いてくれたが、ほんの少し間に合わなかった。クロは無傷であったが、シロはそのクロを守るために爆発に巻き込まれ、両脚が良くない方向に曲がっていた。失われていなかったのは良かったが、アレでは航行が厳しい。

 

「姉貴!?」

「まだ来る! すぐに退いて!」

 

痛みを堪えながら、クロと共に艤装を疾らせる。直後、元いた場所で水柱が上がった。

今は主砲を撃つために海面にいたが、これでは埒が明かないと海中へ。潜航した方が速度が上がるため、撤退するにしても攻撃に打って出るにしても、海上より海中の方が戦いやすいらしい。

 

同時に、赤城の艤装の真下でも大きな爆発が起こった。先程の水柱と同じものが爆発したとしか思えない。同時に2箇所、ピンポイントで狙われて、爆発する()()

 

「おっと……不意打ちにしては大きなダメージを受けたわ」

「破壊まで行けないとは、つくづく頑丈ですね赤城さんは」

 

赤城も航空戦を続けながら高速航行を開始。また同じ目に遭うと、いくら赤城の巨大な深海棲艦の艤装であっても破壊されてしまう。さすがに回避行動を始めた。

何が起きたかわからない。キナ臭い匂いから少しして、シロがやられた。海中からの一撃で脚を破壊するということは相当な火力だ。魚雷か、もしくは……。

 

「姉さんと若葉は、『回天』って知ってる?」

「……何を言っておる」

 

私と姉の攻撃を払いながら、意地の悪い笑みを浮かべて初霜が話す。匂いからも私達の動揺を楽しんでいるようなゲスな感情が見えていた。

 

「さっきの爆発はね、()()()()

「……は?」

「2人とも知ってるでしょ? 潜水艦の子が自爆してるだけよ。その代わり、突撃して自爆するように特化して調整されてるんだけど」

 

今までにも数回、潜水艦が自爆することがあった。施設を破壊されたのが大きく、その後にこの場に深海棲艦が発生した。それをまたここで繰り返したというのか。

 

「狙いをつけて、突っ込むの。今は避けられちゃったけど、あの子供対策にいっぱいいるのよ。まだまだ海底に潜んでるわ」

 

人形にされているため意思は消されている。だが、何処にぶつかるかは思考出来る。最初から自爆するために作られた人権無視の最低最悪な兵器。

シロクロは潜水艦ではあるものの、その武装を惜しみなく使うために、戦場では海面まで浮上している。特に今回も、海上艦を黙らせるために一度も潜っていない。そこまで見越してこの作戦を立てたということか。

 

怒りが増す。左腕が疼く。

 

「説明ご苦労。して、それをわらわ達に話して何とする」

「別に何も。こちらの手段は知っておいてもいいでしょう?」

 

キナ臭い匂いはまだ漂い続けている。いつでも足下から突っ込んでくると脅されている。今の初霜の発言により、その場に立ち止まるのは危険だと本能的に悟った。

そのせいで、私達の動きは制限されてしまった。いつ真下から来るかわからない恐怖を抱えながら戦わなくてはいけない。私はあちらの目的のためにやられないにしても、姉は危険だ。

 

「動きが鈍くなってるわ。やっぱりアレは怖いのよね」

「ハッ、ぬかしよる。そんなものに頼らなくてはならぬ貴様らに反吐が出るというものよ」

「ふふ、姉さんは強がりがお上手ね」

 

初霜が先程の翔鶴と同じように海面を爪先で叩いた。あれは海中に潜む人間魚雷に向けた合図だったわけだ。だが、それでもそんな遠くにまでその合図が届くのは異常。

いや、これは人間魚雷を統率する完成品か姫の統率者がいるのだろう。それは今の合図が見えるほどに目が良く、視野が広い。誰がやったかも判断出来るのかもしれない。

 

「姉さん、一旦退くぞ!」

「退かせるわけないでしょう。若葉はさておき、姉さんには死んでもらわないと困っちゃうもの」

 

言った瞬間にはキナ臭い匂いが急激に近付いてきていた。狙いは完全に姉だ。同時に初霜の猛攻は私を無視するかのように姉に向けて行なわれ、撤退をさせないようにし始めている。これは確実にまずい。

 

「この……!」

「若葉も黙っててね。そこで見てて」

 

姉を助けようと突っ込んだところに被せられ、強烈な蹴り。ナイフだけではなく、体術まで仕込まれている。迂闊に近付いたら返り討ちに遭ってしまう。それでも、姉を助けるためには止まれない。

 

「タイムアウト」

 

しかし、その時は訪れてしまう。私が一瞬躊躇ったため、人間魚雷と化した潜水艦が足下から浮上。先程のようにその場で自爆するわけではなく、姉の身体に抱きつくように飛びついてきた。

そのまま自爆されたら姉ごと木っ端微塵。それだけはダメだ。

 

「あああああっ!」

 

出来る限りの全力で姉に突っ込み、初霜を完全に無視して自爆装置があるであろう人間魚雷の腹を掻っ捌いた。冷静でいられなかったが、瞬時に匂いを嗅ぎ、自爆装置の場所を把握し、確実に斬り払う。

手応えはあった。いつものように装置を破壊することは出来た。これで自爆は無い。

 

だが、その判断までも誘導されていたものだと知るのはすぐだった。

 

「若葉ならそうしてくれると思ってたわ」

 

初霜の持つナイフが、姉の胸に突き刺さっていた。

 

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