赤城に追い詰められ死の寸前となったことにより、どういうわけか深海棲艦へと変化してしまった翔鶴。今まで与えたダメージは全て回復し、艤装も新たに得ており、今まで以上の力まで手に入れてしまっている。
それと相対するは、翔鶴への憎しみを一手に引き受け、怨念を喰らい強化され続ける赤城。人間魚雷のせいで艤装はかなりダメージを受けているが、まだ戦闘が可能である。
私、若葉は侵食拡大によるリミッター解除続行の限界が訪れ、多少動けはするものの戦闘などとてもではないが出来ない状態まで追い込まれていた。自力での退避が困難なために赤城の艤装に乗せてもらっているが、2人の激しい航空戦の真っ只中にいるようなもののため気が気でない。
「ッハハハハ! ハヤク、ハヤクシンデ、アカギサン! ワタシノウラミヲウケトッテ!」
「貴女こそ、もう眠ってもいいんじゃないかしら。私達の憎しみを晴らしたいのだけど」
艦載機同士が衝突し、射撃で相討ちしながら墜落し、すり抜けたと思えば即座に別のものに墜とされる。それを至近距離で繰り出しているのだから恐ろしい。
艦載機の数だけで言えば翔鶴の方に分がある。だが、赤城の方が練度が高く見えた。質より量の翔鶴と、量より質の赤城。これにより、航空戦は拮抗を維持し続けている。
「アハッ、チョクセツ、イクワ!」
空爆を避けるため、お互い追って追われての広域戦闘。本体そのものでも攻撃が出来るのか、体当たりまで仕掛けてきた。そうなると、艤装にガタが来ている赤城の方が不利。あちらは新品同様のため、硬さも段違いである。赤城から行くことは無いが、翔鶴は頻繁にしてくる。さすがの赤城も、それにぶつかってやるほどお人好しではなく、キッチリと回避。
「サケルノ? ナゼ? サッキノイセイハドウシタノ?」
「厄介ね……こちらが不利な部分を把握されているのは」
戦闘は猛烈な速さで行なわれているため、周りのことなど一切気にしていない。そのため、翔鶴の体当たりは、失敗作と対峙する曙達の場所にまで流れていく。
この時間で残っていた5人のうち2人は処理できていたようだが、まだ3人とは必死に交戦している状態。
「ちょっ、回避回避!」
あの質量のものに体当たりされては、誰もがひとたまりもない。最初に気付いた曙の叫びと共に、全員一斉に散開。処理されて倒れていた失敗作達はまともに轢かれてしまい、そのまま沈んでしまった。
曙達にも翔鶴を止めることに参加して欲しかったが、意思を持たない存命の失敗作達は翔鶴の暴走を気にも留めずに戦闘をしており、合間合間に航空戦の流れ弾も飛んでくるせいで、戦場はしっちゃかめっちゃかに。誰もが手が離せない状況に陥っている。
幸い、こんな状態になってから人間魚雷が静かになってくれたのはありがたかった。そちらにまで気を回していられない。
「ちょっと若葉! あれどういうことなのよ! ってかアンタそれどうしたわけ!?」
「翔鶴が深海棲艦化した! 若葉のことは後から話す!」
「はあっ!?」
説明出来るほどの余裕が無い。赤城の艤装に掴まっているだけで必死だ。あちらも失敗作の処理でてんやわんやなので、出来ることなら翔鶴はこちらで方をつけたい。
しかし、一体どうすればいい。あんな暴走特急は艤装を破壊することすら出来ないというのに。本体だけを確実に撃ち抜くことが出来れば止まるかもしれないが、そもそも近付くことが不可能に近く、砲撃すらも狙えるかがわからない。私が動ければまだマシだったかもしれないが。
「アハハハハ! アカギサン、コロシテアゲルカラァ!」
「ごめん被りますね。死ぬのは貴女だけよ」
あまりに容赦のない航行。急カーブも多用し、艦載機は減るどころか増える一方。基本的には赤城に対しての攻撃ではあるが、殆ど全方位に向けた航空攻撃は、曙達にも被害を出し始めた。
「何なのよアレ!?」
「戦艦なんて構っちゃいられねぇだろ! あっち止めんぞ!」
翔鶴の無差別攻撃により、今まで以上に回避一辺倒にされていく。あの中では一番速く動けるであろう朝霜が翔鶴を止めるために動こうとするが、この期に及んでも失敗作達はそれを妨害していた。
意思が無いために、命令を忠実に守っているだけ。主人がああなっても、自分達がその攻撃に巻き込まれても、ただただ私達の妨害をするのみ。哀れな人形。
「クソが! 邪魔なんだよ!」
「私達が道を拓きます。曙さんと朝霜さんは進んでください」
旗風が一歩前へ。止まない爆撃を掻い潜りながら、流れるような動きで失敗作1人の艤装を斬った。無差別攻撃を受けたことで失敗作の動きは悪くなってきているため、今なら打倒が可能となった。ただし、近接戦闘でそれをするためには、あの空爆を回避しなくてはならないが。
だからこそ、後衛がここで真価を発揮する。連携が鈍くなってきたおかげで、砲撃に対するガードが甘くなっている。
「狙いやすくはなりましたね。行きましょうか」
空爆の届かない場所からの狙撃。本来ならヘッドショットをするところだが、当然殺すわけにはいかないため、主砲に対して集中砲火していく夕雲。
「そこね。なら私も!」
それに合わせて、風雲も同じ場所を狙撃。攻撃さえ出来なくなってくれれば妨害は簡単には出来まい。万が一接近戦を仕掛けてきたとしても、主砲で撃たれるよりは回避が楽だ。
2人がかりでの砲撃により硬かった主砲にも傷が入り、その状態で砲撃を行なったために機能不全を起こした。破壊しきれなくても、その力で自壊を狙えば何とかなる。
「そこ、動いちゃダメよ」
その瞬間に、今度は雷の水鉄砲。主砲が壊れたことで近接戦闘を仕掛けようと考えるタイミングを狙った顔面への一撃。いくら意思が無かろうが、その衝撃があれば動きが完全に止まる。
今なら雷にしか出来ない戦術だ。腕でも脚でも簡単には止まらないが、顔なら否が応でも反応してしまう場所だ。そこが狙えるのは雷だけ。
「よし、止まった! 行くぞボノ!」
「ボノ言うな! でも行くわよ!」
失敗作の妨害が止まった一瞬を突き、曙と朝霜が一気に進む。当然ながら激しい空襲に晒されることになるが、それも考慮している。
「巻雲がぁ! 守りまぁす!」
邪魔が無くなったため、完全なノーマークな状態から巻雲の猛烈な対空砲火。異常な数の艦載機も、曙と朝霜の進路を塞ぐものから次々と撃墜されていき、完全に道が出来た。
その道を突き進み、2人が赤城の艤装に掴まった。完全に重量オーバーだが、そこは深海の艤装、ガタが来ていようが4人乗っていても速度は落ちない。私達が駆逐艦だからギリギリ耐えられているのかもしれないが。
「っしゃあ! 悪ぃな赤城さん、乗せてもらうぜ!」
「あっぶな! 私はそんなに速く動けないんだから加減しなさいよ!」
「貴女達も手伝ってくれるのね。でも、自分の身は自分で守って」
高速戦闘故に、掴まっているだけの朝霜は遠心力で大きく振り回されている。曙はどうにか足も艤装につけることが出来たが、それでもかなり厳しそう。私もどうにか乗せてもらっている状況なので、落ちないかヒヤヒヤしている。
「アッハ、カズガフエタトコロデェ!」
そんな私達を見て、狂った笑みを浮かべる翔鶴。もう私を生かして捕らえるという気も無いように思えた。ということは、大淀の洗脳もああなったことで解けているのかもしれない。
だが、今の状態では話は聞いてもらえないだろう。翔鶴は完全に狂ってしまっている。赤城を殺すことしか頭にない、理性を無くした深海棲艦だ。赤城の時と同じようにダメージを与えれば話を聞いてくれるかもしれないが、そこまで持っていくことが非常に難易度が高い。
「見事に近接戦闘の子ばかりね……でも、その方が行けるかもしれないわ」
赤城が突然Uターンした。強烈な遠心力で朝霜が危険な状態になるが、どうにか張り付いて耐える。
「翔鶴に突っ込む。貴女達あちらに飛び移りなさい」
「はぁ!?」
「めちゃくちゃ言うな!? でも、あたいはそういうの大好きさぁ!」
あちらも猛スピードで突っ込んでくるが、こちらからも突っ込むようになったため、接近する速度が単純に倍に。恐ろしいスピード感だが、高速戦闘に慣れている朝霜はニヤリと不敵な笑みを浮かべて棍棒を握り締めた。曙も槍を構えて翔鶴との接近に備える。
私も最後の力を振り絞り、攻撃に備える。曙と朝霜がいれば充分だとは思うが、私も入ればより成功率は上がるだろう。リミッター解除の反動から多少は休ませてもらった。今なら少しだけなら動くはずだ。
「シグ……チ級……頼む。力を貸してくれ……!」
これ以上の侵食は無いだろう。だが出力が上がったのは確かだ。ほんの少しでいい。あの時の力を出させてくれ。
「シニニキテクレタノネ! ダッタラ、ヒトオモイニ!」
接近する赤城を見て、より嬉しそうに迎撃態勢となった翔鶴。艤装の口を大きく開け、赤城を艤装ごと噛み潰そうとしているのはわかる。あちらの方が若干大きいため、そういう意味でも接触は死を招きそうだ。
「死なないわよ。さっき言ったわよね。死ぬのは貴女」
直撃する前に舵を切り、真横を通過。その瞬間に、朝霜が艤装から跳んだ。
「おらぁっ!」
「ジャマシナイデ! コレハワタシトアカギサンノハナシナノ!」
飛び掛かりながら棍棒による強烈な一撃。受けるのだけでも重くて厳しいその一撃を、翔鶴は受けるわけでなく、艦載機の一機を突っ込ませることで回避した。空爆しているものではないそれは朝霜の腹に減り込み、その衝撃で弾き飛ばしてしまう。
さらには射撃。減り込んだ状態で撃たれると回避は不能だったが、食い込み方が良かったか、脇腹を掠める程度で済んだ。それでも血が溢れる怪我にはなってしまう。そのまま海に落ちてしまうため、出血はまずい。
「くっそがぁ! 次だ次!」
赤城が即座にUターン。大きな波を起こすほどのドリフトをしながら、次の突撃へ。翔鶴は朝霜に気を取られたことで、すぐに振り向くことが出来ない。
「今度は私よっ!」
「チョコマカト!」
次に跳んだのは曙。突き刺さんばかりのスピードで真っ直ぐ跳び、ダイレクトに翔鶴へと槍を伸ばす。しかし、それも新たな艦載機にその一撃を阻まれ、前に進めず。それでも曙は諦めず、携えた主砲を体勢を崩しながらでも構えて放つ。残念ながら翔鶴の肩を掠める程度ではあったが、充分に一矢報いた。
艦載機による射撃も、主砲の連撃で回避することは出来たものの、海に背中から落ちる羽目になり戦線離脱。
「次行きなさい!」
赤城のこの戦法は充分に翔鶴を翻弄出来ている。あと数回同じことを繰り返せば、調子を崩すことが出来る。
さらにUターンし、三度突撃。今度は私の番だ。震える脚を撫で、もう一度シグとチ級に願った。
「頼む……頼む……今やらなければ大変なことになる。力を貸してくれ!」
翔鶴が迫ってきたところで、痣が伸びた心臓が高鳴り、力が湧き出た。リミッターを外した時と同じ。身体中の痛みが一時的に無くなった。保って数秒。この一撃がこの戦闘における私の最後の一撃になるだろう。失敗は許されない。だからこそ、なりふり構わずに跳んだ。
今までで一番スピードが出た。気付けば翔鶴が眼前だったが、勢いが殺せずに体当たりする形になった。だが、翔鶴が艤装から落ちることはない。
それでも、3人目の私でやっと届いた。だが、これで私も時間切れ。振り絞った力が急速に衰え、もう指1本動かせなくなる。
「っがっ、くそ……!」
「イタイジャナイノ! デモ、コレデアカギサンハムボウビニィ……!?」
艤装に掴まっていた私達3人が全員飛び立ったことで、赤城を守るもの、そして赤城以外に楯突く者はいなくなった。嬉々として赤城の方を振り向く。
跳んでいた赤城が、渾身の蹴りを翔鶴の顔面に叩き込んでいた。
「やっと、当たったわね」
私達に飛べと言ったのは赤城だ。航空戦が拮抗しているために、赤城も翔鶴も攻撃手段が極端に限られている状態だった。それをどうにかするために、翔鶴は体当たりを選択していたし、赤城もそれを回避しながら打開策を練っていた。
私達全員を囮に使ったこの一撃に賭けていた。結果、最後の最後に艤装すらも犠牲にして、自らが翔鶴に最も接近出来るタイミングを作り上げた。
朝霜でこちらの方針を教え、曙で翔鶴の思考を考えを固定し、私で牽制を完成させ、自分でトドメを刺す。
「ッア!?」
突っ込む勢いまで加わり、あまりにも強烈すぎる一撃を受け、ついに翔鶴は艤装から吹っ飛ばされる。主人を失った艤装達は、その勢いを相殺し合い、その場に止まった。元々ガタが来ていた赤城の艤装はこれでついに煙をあげることになり、翔鶴の艤装もタダでは済んでいない。
赤城も翔鶴も空母であるが故に海上でも航行可能。艤装を使った方が速いというだけ。2人して海面に叩き付けられた後、先に立ち上がった赤城が翔鶴に駆け寄る。だが、翔鶴もすぐに起き上がった。
「ここで終わらせてあげる」
「ヤラセナイ! シヌノハアナタヨォ!」
艦載機が拮抗状態の今、艤装から降ろされた2人が出来るのはもう1つしかない。
「この……!」
「シンデヨォ!」
出たのは拳だった。お互いそういうタイプではないことくらい私にもわかっている。赤城は翔鶴を縊り殺そうとはいていたが、実際格闘に精通しているわけではない。翔鶴は尚更だ。
私から見ても素人の喧嘩のような殴り合いが始まる。赤城と加賀の殴り合いを彷彿とさせるが、乗っている殺意が段違いだった。殺したくて殺したくて、ただただ拳を振るうだけ。
手甲がある分、赤城の方が攻撃力が高い。だが、翔鶴も負けてはおらず、一撃が非常に重い。さらにはお互いノーガード。殴り殴られ、お互い血塗れ。
「いい加減に……!」
「シネェェ!」
トドメの一撃がお互いの顔面に入り、同時に白目を剥いて倒れてしまった。
これで戦いは終わる。殺意をぶつけ合い、そして、どちらも命を落としていない。最善の終わり方。
本当の戦いはここからなのだが、今はこれで終わりとしてほしい。