継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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重い後遺症

元完成品3人の治療は完了したが、それぞれ重たい後遺症を持つこととなった。

如月は右腕不随。ただし、治療は可能であるため、最後の選択は如月に任せることにしている。その腕を罪の証としてそのままにするか、行動することで罪を償うとして治療に乗り出すか。決めるのは如月自身だ。

初霜は幼児退行。全ての記憶を失っているのは見方によってはいいことなのだが、人格まで破壊され、初霜の面影が無いほどになってしまった。今は姉に懐いている可愛い幼児である。

そして瑞鶴は……

 

「瑞鶴は植物状態だ。今のままだと、目を覚ます可能性は極めて低い」

 

植物状態。翔鶴が声をかけても目を覚ますことはなく、自発的な呼吸はしているものの、今後眠り続けることになる。この中でも最も重い後遺症であり、栄養を送り続けなくては死んでしまう最悪な状態。

 

瑞鶴の病状を聞いた翔鶴は、大きなショックを受けて膝から崩れ落ちる。昨晩も妹の安否をずっと心配していたのだ。この事実は受け入れられないほどに心にダメージを与える。

 

「……ジョウダンハヤメテ」

「僕は医者だ。患者の病状で嘘は絶対に吐かない」

「……ウソヨ!」

 

縋り付くように飛鳥医師に掴みかかった。今だけは深海棲艦ではなく艦娘の翔鶴の顔。感情を露わにして、泣きじゃくりながら訴える。

 

「アナタイシャナンデショ!? ナオシテヨ! ズイカクヲナオシテヨ!」

 

洗脳から解き放ったら今度は目覚めないだなんて、あまりにも酷過ぎる。納得出来ないのもわかる。つい先日まで話していたのだから尚更だ。

翔鶴の悲痛な叫びが医務室に響き渡っても、瑞鶴は目を覚まさない。こんなのあんまりだ。いいように使われた末路がこれだなんて。

 

「このままで終わるわけにはいかない。だが、今すぐは無理だ」

「ナンデ、ナンデヨ……」

「深海棲艦の侵食を治療する方法はまだ確立出来ていない。今探している最中なんだ。必ず瑞鶴は治療してみせる。だから、待っていてくれ」

 

宥めるように話すが、飛鳥医師からも悔しさが滲み出ていた。治療した結果が状態が悪化したようなものだ。

元々瑞鶴は改造を受けた結果そういうものにされていて、腸骨のキューブが無理矢理覚醒させていたのだと思う。キューブにどれほどの力があるかは知らないが、人格を捻じ曲げ、動かないはずの四肢を動かし、障害を持つ脳すら活性化させるのだから、恐るべきアイテムである。

 

「……カナラズ、カナラズヨ、カナラズズイカクヲ」

「ああ、必ず治療する。信じてほしい」

「ズイカクガシンダラ……アナタヲヤツザキニシテヤルカラ」

 

外的要因での植物状態なのだから、治療出来る可能性は大いにある。だからこそ、先程飛鳥医師は『今のままだと』と言ったのだろう。当然このまま放置するわけがない。いの一番に瑞鶴の治療を行なう。

飛鳥医師ならやってくれる。今までにいくつもの治療を行ない、最善の結果を出してきてくれている。今回もきっと大丈夫だ。

 

「翔鶴の大きな声が聞こえたのだけど……」

 

そこに、加賀が入ってきた。今は赤城の監視役をしていたはずだが、施設中に響き渡る声だったためか、気になって様子を見にきたらしい。

翔鶴の声を聞いて赤城が活性化したらしいが、艤装を持っていない赤城なら捻じ伏せられると朝霜に監視を交代してもらったそうだ。

 

「……どうしたの。翔鶴、貴女泣いてるわね……まさか瑞鶴が」

「モウ……メヲサマサナインデスッテ……」

「そんな……」

 

翔鶴から直に聞き、愕然とする加賀。今まで何かしら持っていても目を覚まさないということは無かったため、あまりにも重い後遺症にショックが隠せない。

寝かされている瑞鶴を見て、動揺の匂い。最初はただ眠っているだけと思えたが、触れることなく悔しそうに顔を顰めた。

 

「……先生」

「当然治療出来るように努力する。必ず起こしてみせる」

「お願い……この子はやり直せるの……だから私は生かして助けたんだもの……」

「ああ、こんな終わり方はさせない」

 

最初は殺意で満たされていた加賀も、瑞鶴のことは心配で仕方ないようである。加賀から見れば、瑞鶴は可愛い後輩なのだ。あれだけ殺意を持っていても、最初から瑞鶴のことは殺せない。加賀は表情には見せないが優しい人だ。

 

「今は泣きたいだけ泣けばいいわ」

「……カガサン……」

 

翔鶴を抱き寄せた。翔鶴は赤城には抑えきれない殺意を持っているが、加賀に対してはまとも。殺意も無ければ、負の感情そのものが浮かばない相手。

対する加賀も、最初は殺意を向けていた相手ではあるが、翔鶴だって瑞鶴と同様可愛い後輩。落ち込んでいたら不器用にでも慰めるし、今のように心の支えになろうとしてくれる。

 

「先生を信じなさい。私は処置を身近で見たけれど、彼のそれは普通ではないわ。きっと瑞鶴を元に戻してくれる。だから、信じなさい」

「……ハイ……ハイ……」

 

深海棲艦へと堕ちても、生きたまま変質したからか翔鶴は翔鶴だ。加賀に慰められ、余計に泣きじゃくるものの、随分とスッキリしたように見えた。

 

「あまり期待させたくはないんだが、幸い、研究材料は手元にある。それを研究すれば、瑞鶴の脳の侵食は治せるかもしれない。不安ではあるが、やらないよりはマシだろう」

 

その研究材料というのが、鳥海の脚だ。救出した完成品の中では初めての、頭ではないところに侵食を受けた者。その時に切り落とし、深海の者へと差し替えた際に残っている、侵食された脚そのものである。

その侵食具合を調査したら、脳の侵食を取り払う方法が編み出せるかもしれない。多少は後遺症は残るかもしれないが、目を覚まさないよりはマシだ。

 

「僕は全ての医学を齧っているつもりだ。全ての知識を使って、出来る限りのことを全力でやっていく。だから翔鶴、待っていてくれ」

「オネガイ……ズイカクヲ……ズイカクヲスクッテ……」

 

加賀に抱かれながらも、飛鳥医師に懇願する翔鶴。今の翔鶴からは、もう誰への負の感情も感じられなかった。加賀に言われて飛鳥医師も信用してくれるようである。

飛鳥医師もそれに応えるべく、今日からそれに専念するとのこと。三日月の視覚や私の嗅覚、それにシロの感覚も時には必要になるかもしれないと、先に教えてくれた。そういうことなら好きなだけ私達を使ってくれればいい。

 

「あのひとすごいの?」

「うむ。わらわが知る限り、世界一のお医者様じゃ」

「すごーい!」

 

疑問に思った初霜に教える姉。大きな言葉で言うが、私もそう思う。比較対象を知らないとはいえ、入渠ドックを超えた治療をしたのだから、世界一の医者と見ても間違いは無いだろう。当人は少し恥ずかしそうであったが。

 

「あの……飛鳥先生、その治療法が出来たら、如月の腕ももしかして……」

「ああ、深海のパーツを移植せずとも治療出来るかもしれない。腕に大きな傷が残る可能性はあるが、移植も同じではあるな。だが、あくまでも可能性だ。万人に効く治療法では無いかもしれない。その間に考えておいてほしい」

「わかりました……もう少し考えます」

 

なら最初からそう言ってくれればいいのにと思ったものの、それがうまく行くかどうかは今わかるわけではないのだからか、話すことも保留にしたんだろう。実際、その方法では瑞鶴しか治療出来ない可能性だってある。

如月の腕を治すのは、二の腕だけの移植が確実。それも今すぐ出来る100%治せる治療法だ。余計な期待をさせて、結局出来ませんでしたでは笑えない。

 

「あのさセンセー、だったら沈んじゃった人達の身体、拾ってきた方がいいんじゃないの? それ調べればもっとわかったりとかしない?」

「調べられるものが多いことは良いことではあるが……」

「私と姉貴なら持ってこれるよ。場所も大体覚えてるし」

 

クロが進言。失敗作のうち6人は、今もおそらく亡骸が海底に眠っている。研究のために必要というのなら、クロが取ってくると言っている。

鳥海の脚だけだとわからないことは多いだろう。言い方は悪いが、研究材料は多い方がいい。失敗作なら脳にまで侵食が行き届いているだろうから、まさに今知りたいことが調べられる。

 

「……頼まれてくれるか」

「おっけーおっけー。姉貴もいい?」

「……うん、あのままだと……また同胞が生まれるよ……早ければ早い方がいいと思う……」

 

今までの傾向でいけば、その亡骸も新たな深海棲艦の発生に使われかねない。あの場所には人間魚雷として命を散らされた潜水艦達の怨念が渦巻いている。その媒介にされてもおかしくはないのだ。赤城が怨念を喰らっていたが、それが全て晴れたとも言い難いし。

今後のことを考えると、引き揚げはなるべく早い方がいいのは確かだ。今からでもお願いしたいくらい。

 

「姉貴、脚がまだ本調子じゃないからさ、今からやるけどちょっとゆっくりめでね」

「ああ、頼んだ。死体を見ることになる。辛かったらすぐに言ってほしい」

「はいはーい。じゃあ姉貴、早速行こう」

「……ん、それじゃあ、行ってくる……」

 

シロクロはすぐに行動を起こしてくれた。今から亡骸を引き揚げ、施設に運んでくれる。なるべく人の目につかないところに運んでもらい、研究を進めていくという方針に向かっている。

 

「翔鶴、ここの人達みんなが瑞鶴のために動いてくれているわ。しゃんとなさい」

「……ハイ、ワタシモデキルコトガアルナラテツダイマス」

 

加賀の言う通り、施設のみんなが一丸となって瑞鶴の復活のために力を合わせる。翔鶴も意気消沈してしまったが、協力してくれるようだった。

 

 

 

医務室にいたままではどうにもならないため、瑞鶴は翔鶴に与えられた部屋に移動させることとなった。栄養は何処にいても与えられるため、それなら硬い医務室のベッドより、私室のベッドの方がいいだろう。検査着のままで申し訳ないが、しばらくはこれで生活してもらうしかない。

 

「ズイカクノコトハ、ワタシガヤリマス。ヤリカタヲオシエテクダサイ」

「そういうことは私に任せて!」

 

管理の方法は雷に教わることとなった。この施設でもそういうことに最も精通しているのは雷だ。教えるのも上手く、今や少し不器用な暁でも、施設のバックアップが出来るほどに成長している。

こと瑞鶴のことに対しては、翔鶴も何も文句を言わなかった。みんなが瑞鶴のことを大切に扱ってくれていることがわかり、心を開いてくれているようである。

 

翔鶴のことは雷に任せ、私はもう一つ気になるところへ。それは赤城である。

 

「私の殺意は翔鶴にしか向いていません。だから、瑞鶴のことは気の毒だと思っています」

 

加賀と浮き輪の監視の下、現在は部屋で軟禁中。こんな一大事の時にくだらないイザコザを起こされては、施設全体の士気にも関わるし、そもそも治療が遅れてしまう。今はジッとしていてもらうのが一番だった。

 

「ですが、私が手伝うことは無いでしょう。そんな状態でも、私は翔鶴の顔を見たら理性を失う自信があります」

 

それが今の赤城の存在そのものだ。そういう観念で今を生きているのだから、和解しろとは一言も言えない。落ち着いていても、翔鶴はずっと敵。顔を合わせたら殺し合いが始まってしまうのが常。

 

「ですので、私はこの部屋で軟禁としておいてください。その方が施設のためでしょう」

「了解した。飛鳥医師にもそう話しておく。理解してくれて感謝する」

「いえいえ、これでも私、誇りを失ったとはいえ一航戦ですので。殺したいほど憎い相手かもしれませんけど、そこまで不憫だと憐れに思えますから」

 

にこやかに言うものの、その言葉にはトゲがある。やはり憎しみの権化ともなると、今の状況を見ても敵意は消えないのだろう。とはいえ、ザマァ見ろとまでは言わなかったので良しとする。匂いからも感じない辺り、赤城はそれはそれで瑞鶴の心配をしているのかもしれない。

 

「赤城さんの管理は、私とこの子で行なっていきます」

 

加賀の肩で浮き輪がサムズアップ。

 

「私は瑞鶴の様子も見に行きますから。赤城さんは部屋でジッとしておいてください」

「わかってますよ。加賀さん、私は子供じゃ無いんですよ?」

「子供よりタチが悪いことを自覚してもらえると助かります」

「ごもっともですね。でも、私は私が押さえつけられないの。わかるでしょう? もう私は()()()()存在なんですから」

 

ひとまずは、赤城と翔鶴を引き剥がしておくことで治療に専念できる環境を作ることが出来た。

 

あとは、今後の研究次第。飛鳥医師なら辿り着けるだろう。それがどれだけ時間がかかるかはわからないが、その間は私達で支えていくのだ。

 




赤城と翔鶴は一時休戦続行。お互い不干渉を貫いて、今は瑞鶴の治療に専念します。
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