継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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夜の守護者

完成品の治療にもリコの花が重要な立ち位置にあることが判明した。完成させられた時に花の匂いがしたという翔鶴の証言から、蝦尾女史が早速解析に入る。

時間が時間だったため、昼食後に早速開始。艦娘の体組織のスペシャリストによる解析は、本人曰くそれなりに時間は欲しいとのこと。花は幾らでもあるとリコも何輪も摘んできてくれた。

 

「また私の花が何かに使われているみたいだな」

「ああ、それを今、蝦尾女史が確認しているところだ」

「まったく、人の花を何だと思っているんだ奴らは」

 

施設の周囲に咲いた彼岸花を整えながらリコがボヤいた。私、若葉と三日月で摘んだ彼岸花を纏めているところだ。

咲き過ぎたものは摘み、程よく施設を彩るように整備している辺り、リコもこの施設には愛着が湧いているのかもしれない。ここに滞在してそれなりに時間も経っている。

 

「リコさんにも、これが何かわからないんでしたっけ」

「ああ。私がいるところには勝手に咲くからな。力が漏れ出ているのは理解しているが、薬に使ってどういう効能があるかまでは流石にわからない」

 

それはそうだろう。漏れ出た結果生えた花を、わざわざ薬にするような文化が深海棲艦にないのだから。そもそも文化と言える文化自体が乏しい。リコは仲間達と一緒に花を整えることを楽しんでいたようではあるが、そんな深海棲艦は何処を探してもリコくらいだろう。

 

「これを機に知っておきたいところだ。処分の仕方も考えなければいけない」

「そうだな。海に流した結果が大淀に目を付けられたんだもんな」

「七面倒な話だまったく」

 

実際、この花にどんな効能があるかはわからない。彼岸花にはそもそも毒があると飛鳥医師や下呂大将が言っていたことを思い出す。リコの力以前に、そんなものが体内に入ってタダで済むはずがないのだ。

 

「少なくとも、私にもオオヨドを捻り潰す理由は出来た。この件が終わるまでは協力しよう」

「助かる。差し当たっては、飛鳥医師の警備だな」

「ああ。私が医者の警備を任された。チョウカイにはエビオの警備を任せている」

 

1階の方が艤装の力が届くからということで、リコは1階、飛鳥医師の周辺を警備しているとのこと。

 

「お前達はゆっくり休んでいればいい。夜は私とチョウカイに任せろ」

「何かあったら起きざるを得ませんけどね」

「その時はその時だ。少なくとも、寝るときは気を抜け」

 

ニヤッと笑いながら、彼岸花の手入れを進めた。口は荒っぽいが、リコは仲間思いのいい人だ。だからこそ、安心して全てを任せられる。

 

結局のところ、花の成分解析は今日中には終わらず。好きなだけ使えとリコに彼岸花の花束を渡されて驚く蝦尾女史は少し面白かった。

 

 

 

その日の夜、いつものように三日月と眠っていると、何やら外でゴソゴソという音が聞こえた。不意に意識が覚醒した瞬間にその音を聞いたため、妙に気になった。こんなことは、曙がこの施設に流れ着いて以来だ。

襲撃による爆音で起きたことはあったが、こんな小さな音で起きたのは珍しい。寝る時は気を抜けと忠告されたところにコレとは、私は眠りが浅いのだろうか。

 

「んぇ……若葉さん……どうかしました……?」

 

三日月を起こしてしまったらしい。べったりくっついて眠っている状態で私が動いたら流石に起きてしまうか。むにゃむにゃ言いながら目を擦る姿はなかなかに愛らしい。

 

「すまない。何か物音が聞こえたんだ」

「物音……ですか?」

 

私も不意に聞こえただけなので、誰かが部屋から出ただけと言われればそれだけなのだが。

 

今晩は夜間警備が夕雲率いる九二駆で、引率は摩耶。それに午後に話した通り、1階ではリコが、2階では鳥海が警備をしている。何かあったなら、それだけの人員がすぐに対処する。

物音がしたということは、海に出ている九二駆が何も気付いていないということだ。ならば、施設内の者が動いた音と考えるのが妥当。

 

「誰かが起きたんですかね……私達みたいに」

「かもしれないな。起こしてしまってすまなかった」

 

日を跨いで少ししたくらいだったため、まだまだ夜は長い。眠り始めたばかりでもあるので、まだまだ眠れそうだ。

三日月の温もりを感じつつ、そのまま眠りに落ちていく……はずだった。

 

突然、ガラスが割れるような音が施設内に響いた。

 

「なっ!?」

「えっ、えっ!?」

 

1階からバタバタと大きな音がする。同時に2階でも大きな音。警備をしている鳥海が動き出した音だろう。

 

「三日月、若葉達も行くぞ」

「は、はい!」

 

着替える余裕なんて無い。手早く靴だけ履いてすぐに部屋の外に出る。下でガラスが割れているのだから裸足はまずい。

あの音を聞いたら流石にみんな起きているようで、寝間着姿で次々と部屋から出てくる。その時には鳥海は階段前を陣取っていた。私達を守るため、敵が2階に上がってこないようにである。階段も艤装を装備した状態で通れるくらいの幅はあるため、フル装備の鳥海でも戦闘は可能。

その間も1階からは何かが壊れる音が続いている。

 

「どうした!」

「曲者です」

 

言いながらも、下の階から2階に上がってこようとする敵を蹴り落とした。暗がりなので見えづらいが、鳥海の眼鏡に仕込まれた探照灯のお陰で、敵がどんなものかは確認出来た。真っ黒なウェットスーツのようなものを着込んだ潜水艦だった。

夜間警備をすり抜けて施設に侵入してくるとなると、潜水艦くらいしかない。手にも私が扱っているような拳銃を持っていた。ご丁寧に消音装置(サイレンサー)まで完備。

 

「暗殺部隊ですか。来るのではないかと計算していましたが、まさかこのタイミングとは」

 

当たり前のようにあちらは拳銃を撃ってくるが、そういうもののための鳥海のバルジだ。必要最低限の挙動で銃撃を弾き、階段を下りて行きつつ殴り飛ばしている。

もう脚もしっかり動くようだ。摩耶の賢明なアシストと、何より鳥海の努力のおかげで、リハビリはほぼほぼ完了したと言ってもいい。

 

施設内で銃火器は使えない。特に鳥海の持つ主砲は威力が桁違いだ。こんな密閉された空間で撃とうものなら、自分達まで巻き込まれるのかオチ。下手をしたら施設も破壊してしまう。

だからこその徒手空拳。鳥海は尋常ならざる握力という私達にはない武器を持っているが、それを活かすために格闘もお手の物。そのために鳥海はこの役を自分から買って出たのだ。

 

「蝦尾さんは指示があるまで部屋から出てこないで下さい」

『了解です。戦闘は皆さんにお任せします』

 

蝦尾女史には部屋の中で待機してもらうことにした。出てきて怪我を負っても困る。部屋はシェルターとは言えないがそれなりに頑丈なはずだから、籠もっていてもらった方が安全。

2階にいる者は当然だが艤装は装備していない。敵がどういうものかはわからないが、私達も蝦尾女史とほぼ同じと考えた方がいいだろう。ここは鳥海に任せるしか無い。

艤装は勿論工廠に全て置いてある。ここから艤装を取りに行くには、階段を下り、真反対の部屋まで突っ切る必要がある。すぐに行くのは難しすぎる。

 

「近接組、いますね。工廠まで突っ切ります。ついてきて」

 

だが、鳥海は知ったことではないという雰囲気で、近接戦闘が出来るものについてこいと言ってきた。先程は音が1回だけだったが、敵が1人とは限らない。

だが、2階までは1本道だ。今ここから真っ直ぐ向かえば、誰も2階に上がらずに工廠には辿り着ける。リコもおそらく戦闘中だ。破壊音は鳴り止まない。

今の施設内で近接戦闘が出来るのは私と旗風。姉は鉄扇があるが、今は初霜を守ってもらいたい。恐怖で愚図り出すのも時間の問題だ。姉にあやしてもらうのが一番得策。

 

「音からして、1人2人ではありません。夜間警備が気付かないということは、潜水艦でしょう。私は知りませんでしたが、暗殺に特化した潜水艦隊が編成されていたのかもしれません」

「狙いは飛鳥医師か」

「ええ、一点狙いでしょう。私やリコさんが施設内で警備しているのは想定外だったのかもしれません」

 

ジリジリと階段を下りつつ話す。元々完成品として行動していたからこそ、敵の戦力は多少は知っているはずだ。

 

「私があちらにいるときから、潜水艦の完成品の話はちらほら聞いていました。ですが、顔も名前も知りません。私達よりも早く完成させられ、ずっと海中から監視していたのでしょう」

 

まるで呂500の後釜。人形の操作を海中から行なう者がいたくらいで、呂500が失敗作として捨てられたのだから、後釜がいてもおかしくないだろう。

もしかしたら、五航戦との戦闘中も海中からこちらを監視していたのかもしれない。人間魚雷の制御役の可能性もある。

 

言いながらもズンズン進んでいく鳥海。確かに敵潜水艦は1人2人では無かったが、纏めてこちらに対して拳銃を撃ってきても、鳥海が全て弾きながら進む。

敵の時はこちらの砲撃を全て弾きながら突っ込んできたくらいなのだ。拳銃如きでは止められない。だからこそ怖いのは、自爆である。それを止めるために、私と旗風は早急に武器を手に入れなくてはならない。

 

「最悪を想定して、外に出てもらいます」

 

狭い通路での戦いだ。敵も一気に押し寄せてくるようなことはない。全てを巻き込んでの自爆をなかなかしてこないのは、あくまでも暗殺に特化しているからか。

静かに近付いて、ターゲットだけ抵抗無しに殺害するのがこの部隊の目的だとしたら、自爆は簡単にはしない。夜間警備にも気付かれないようにする目的もあるだろう。

だが、やり始めたら全員が一斉に自爆する。それは流石にまずい。

 

故に、鳥海が一気に敵に近付いた。射撃の隙間を突き、その拳銃を握り潰した後、即座に施設の外へと投げ飛ばす。当然窓ガラスを突き破ることになるのだが、お構い無しに1人ずつ処理していく。

 

「リコさん!」

「チョウカイ、こいつらかなりいるぞ!」

 

1階でリコと合流。あちらも同じように施設外に投げ飛ばしていた。鳥海と同じ結論に達したのだろう。施設を破壊されないように、最善を選択している。

 

「私は医者を守る! 斥候は任せた!」

「了解! 若葉ちゃん、旗風ちゃん、行きますよ!」

 

ここまで来れば工廠は目前だ。あとどれだけ敵がいるかは知らないが、艤装さえ手に入ればまだ戦える。幸い、鳥海が目の前の敵を次々と処理してくれているため、2階に向かう敵はいない。後ろのことは気にせずに進める。

怖いのは投げ飛ばした敵が窓から入ってくることだが、鳥海は外に追い出す際に武器をしっかり握り潰しているため、一撃必殺の射撃は無い。艤装を装備しているため、素の私達と比べるとパワーが段違いではあるが、武器が無いのならまだやりようがある。それでも耐えるのは難しいだろうから、艤装を手に入れ次第そちらも守らなくては。

 

「到着! すぐに艤装を装備!」

 

工廠に到着。そこは地獄絵図だった。

海面から潜水艦達が次々と上がってきており、わらわらとこちらに向かってくる。その全てが人形であり、さながらパニック映画のようになっていた。

あくまでも暗殺を目的としているため、大きな音を立てないように行動してくれているのが幸いした。こっそり艤装を破壊されていたら対抗策すら無かったが、そうされていなかったのは運がいい。

 

「了解。旗風……って、もう行ったのか!?」

 

私の後ろにいたはずの旗風が忽然と姿を消していた。気付けば既に自分の艤装の元に辿り着いており、戦闘準備を終えている。

 

「さて……では、参ります」

 

当然潜水艦からは狙われるのだが、まるで当たらず、危なげなく自爆装置のある腹を掻っ捌いていく。

意識の隙間を突いたような行動に驚きを隠せなかった。神風型の戦い方は各々特徴的であったが、旗風はまるで猫のように自由。のらりくらりとやってきては、その一刀で敵を伏す。速さの神風や、鋭さの朝風とはまた違った剣術だ。

 

旗風のおかげで道は拓かれており、難なく艤装に辿り着くことが出来た。すぐに装備し、ナイフを持つ。工廠内は旗風が押さえてくれており、鳥海はリコと共に施設内に抜けてきた者を対処してくれていた。ならば私は、2階に上がろうと窓から入ってくる輩を処理しよう。

 

「若葉は上に行く!」

「お願い!」

 

鳥海に一言断りを入れ、すぐに2階へと向かった。案の定、鳥海が外に追い出した潜水艦達が窓から戻ってきており、艤装も装備していない仲間達に襲いかかっていた。

 

「遅いですよ。私が出張ることはあまりやめた方がいいと思うんですが」

 

それを止めてくれていたのが、状況が状況だけに軟禁が解かれた赤城。艤装が無いため深海棲艦とはいえ力は人間に近い。ギリギリ拮抗を保てているくらいだ。

 

早く対処しなければ、最悪なことになるかもしれない。まずは全員の安全を確保しなければ。

 




危惧されていた暗殺という夜襲です。潜水艦は建造こそアレですが、運用コストが軽いため、こういうことには持ってこいなんでしょう。
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