継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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暗殺の夜

深夜、敵潜水艦による暗殺部隊により襲撃を受けている施設。元々施設内の夜間警備をしてくれていたリコと鳥海のおかげで、飛鳥医師が有無を言わさず殺害されるという最悪な事態は回避出来たが、暗殺とは名ばかりな静かなる群れによりピンチに。

 

リコと鳥海だけでは押し潰される可能性もあるため、鳥海の指示により私、若葉と旗風がすぐに艤装を確保。旗風はそのまま工廠内に現れる敵を、私は外に追い出したが再び施設内に入ってきた敵を倒すために動き出した。

追い出すだけではまだ危ない。自爆装置は当然埋め込まれているため、こんな狭い施設内で爆発されたら、私達どころか施設そのものが危険だ。

 

「遅いですよ。私が出張ることはあまりやめた方がいいと思うんですが」

 

2階に上がろうとしていた敵達を止めてくれていたのが、状況が状況だけに軟禁が解かれた赤城。艤装が無いため深海棲艦とはいえ力は人間に近い。ギリギリ拮抗を保てているくらいだ。

 

「すまない、すぐに追い払う!」

 

私はまだ1階だ。赤城の負担を減らすために、すぐにでも私が2階に行く必要がある。一番手っ取り早いのは、階段に詰め寄る敵達を全て蹴散らすこと。鳥海のようにバルジで銃撃を弾きながら突っ込むことは出来ないが、今の私には艤装と修復材ナイフがある。

ならば、とリミッターを外した。力が湧き上がると同時に、理性が消えていく。目の前の敵は斬り払ってでも退かす。仲間達に危害を加えるのなら、私は許さない。艦娘に暴力を振るうことに対しての抵抗は、今この時に私の中から消えた。

 

「退け」

 

チ級の力を借り、敵陣に突撃。目の前には数人の敵。手には当然消音装置(サイレンサー)付きの拳銃。私の突撃を察知したか、赤城に向けていたかわからない意識をこちらに向けてくれた。振り向いた時点でもう遅い。それだけの()があれば私は充分に動ける。

擦り抜ける際に腹を斬り払い、ステップを踏みつつ2人目、3人目と始末していく。痛みで倒れないのは残念だが、自爆されないだけマシか。銃を撃たせる間も与えず全員の自爆装置を破壊した後に、もう一度窓から蹴り出した。その時、メキリと嫌な感覚がしたが知ったことでは無い。

 

「若葉さん、容赦ないわね」

「情けをかける必要がない」

 

階段から敵を追い払ったことで赤城と合流。その後ろには2階から動かなかった他の仲間達も待機してくれていた。艤装があっても砲撃が出来ないこの施設内だ。艤装すらないのだから、一箇所に固まっていてくれたのなら守りやすくてありがたい。

だが、まだまだ敵は雪崩れ込んでくる。あくまでも私がやったのは自爆装置の解除とここから追い払うのみ。痛みを感じていても止まらない人形相手には、ほんの少しの足止めにしかならない。

 

「曙、いるか」

「当たり前でしょ。槍じゃ戦えないんだもの」

「工廠で旗風を手伝え。潜水艦が次から次へと出てくる」

「ったく、それじゃあゴキブリじゃないの。ウザいわね……」

 

自爆装置を破壊出来るのは曙もなのだが、槍を施設内で取り回すのは無理に近いため、鳥海からも今はお呼びがかからなかった。

だが、敵が1体2体で終わらないなら話は別だ。少しでも戦力を増やし、工廠で食い止めることもしてもらいたい。工廠でなら槍を振り回すことも出来る。故に、曙にも参戦してもらいたかった。

 

「赤城、また食い止めておいてくれ。すぐに戻る」

「人使いが荒いですねまったく。これでも結構ギリギリなんですからね。明日のお昼ご飯は豪勢になると期待しておきますよ」

「保証する! 頑張って赤城さん!」

 

出来ることがわかっているのだから、頼んでおいて問題ないだろう。雷も後押ししてくれたので、赤城も俄然やる気になったようだ。

 

「ワカバ!」

「リコ、どうした!」

「シロクロも連れてこい! ()()()()()()()()を探させたい!」

 

潜水艦の暗殺部隊だ。その指揮艦も潜水艦だと踏んだリコからの指示。さっき鳥海が言っていた、呂500の後釜が近海の海底に潜んでいるかもしれないということか。

ならば、シロクロに潜ってもらうのがベストだ。発見したところで捕らえることも出来るはず。あちらはシロクロ対策を万全にしてきているのは目に見えているが。

 

「いいよ……すぐに行く」

「海の底にいるかもなんだよね? なら私達の出番!」

 

シロクロも乗り気だ。ならやってもらおう。

 

「道を拓く」

 

まだ流れ込んでくる敵潜水艦を蹴り飛ばしながら道を作っていく。以前に曙が朝霜に喰らわしたように顎に一撃を加えたら、人形でも意識が飛ぶようだった。それを率先して狙っていこう。

今回の戦いは全員気絶させれば終わりだ。武器を破壊しておけば抵抗もしない。しかし、当然ながらリミッターは解除されているため、時間経過で息絶える可能性がある。()()()()()。よくもまぁ赤城はそれを艤装無しで食い止めていたものだ。

 

「旗風、援軍だ」

「助かります。私だけでは少々手に負えません」

 

戦いながら数人は気絶させている様子。鞘で敵の顎を殴り付け、意識を飛ばしている様子。数が多くとも対応は出来ているが、それでも拮抗。もう一押しが欲しかったようである。

気絶させなければ()()()()というのが一番厄介だった。今でこそ鞘を使った打撃まで繰り出しているものの、本来やるようなことではないのだろう。旗風も初めての試みに少し疲れ気味。

 

「艤装まで行かせる。そこからは好きにやれ」

 

行く手を阻むもの、曙やシロクロを狙おうとする不届き者には、即座に一撃を喰らわせる。今邪魔をされるのは気に入らない。

拳銃だろうが何だろうが、やられる前にやってしまえば関係ない。撃つ前には必ずこちらを見て、照準を合わせた後に引き金を引く。なら、()()()()()()()()()()

 

「まるで嵐ね……」

 

曙がボソリと呟いたようだが、気にも止めずに道を拓き続けた。おかげで曙もシロクロも艤装を獲得。すぐに装備して参戦した。

シロクロは海までの道が必要だ。曙は放っておいても自分でどうにか出来るくらいの実力はあるだろうから、今度はそちらの道を作るために奔走する。

 

「ありがとうワカバ!」

「すぐに……見つけてくるから……」

 

海中に潜ってしまえばこちらのものだ。あの暗殺者達は、潜水艦ではあるもののシロクロよりは遅い。シロクロがただただ異常なスペックを持っているだけかもしれないが、急速潜航に追い付かれることは無いだろう。まだ海中に潜んでいるというのなら話は別だが、それすらも潜り抜ける。

 

「そこは任せた」

「ええ。さっさと戻ったげなさい!」

 

2人いれば止められるだろう。通路はリコと鳥海で充分。やはり私の役割は赤城の援護だ。

 

「本当に早かったですね。助かります」

「有言実行だ」

 

多少は減っているようで助かる。新手かどうかは匂いで判断し、そうなら腹を掻っ捌き、そうでなければ顎を殴り付けて気絶させる。一切の容赦なく。相手の怪我など知ったことでは無い。この施設を襲撃した時点で、命があるだけマシだと思ってもらわなくてはいけない。

 

曙が工廠に加わったことで、施設内に流れ込んでくる敵が格段に減った。大分余裕が出来てきたので、少しずつ階下へと進む。施設外に投げ飛ばした敵も、気絶させているおかげで再び入ってくることはない。その全ての腹を掻っ捌いているので、自爆の心配は無い。

ふと、気絶させた暗殺者の耳にイヤホンが付いているのが見えた。やはり指揮艦がいることは確定。それを奪い取り、どんな指示を聞いているかを把握するために自分の耳へ。

 

「何か聞こえますか」

「ザーザーと水の音が聞こえるな」

 

余裕が出来たのでリミッターを戻す。これにより理性が戻ってきたため、冷静な判断が出来るはずだ。

 

『次、行ってー。ほい、頑張ってー』

 

呑気に命令している子供の声。まだ敵は残っているようだが、それが全て終わるのも時間の問題か。

 

『あれ? あれあれ? 潜水艦かな?』

『見つけた! お前が指揮艦だな!』

『げえっ、双子棲姫!? じゃああんなに嗾けたのにお医者さん殺せなかったのかぁ。やっぱりお人形さんはダメダメだね。ふにゃふにゃー』

 

イヤホン越しにクロの声。指揮艦を探し当てたようだ。あちらでも警戒されているシロクロと対面しても、あまり焦っているようには聞こえない。むしろ何だか楽しそうにも聞こえる。

 

『そっかそっかぁ。じゃあ、上に行った子達は大体ダメになっちゃったかな』

『……みんな気絶させてる。自爆装置も壊してるから諦めて』

 

これは少しだけはったり。リコと鳥海が処理している敵の自爆装置は破壊出来ていない。ちゃんと確認しているわけではないが、気絶くらいはさせているか。この指揮艦からの言葉は聞いていないと信じたい。

 

『それじゃあもう仕方ないよね。上がってく子達は、施設に辿り着いた瞬間に自爆してね。ああ、なるべく()()()()()()()()()()()()でね。もし起きてる子がいたら、今すぐ自爆していいよー』

 

なんて命令だ。よりによって、味方すら巻き込む自爆を指示するなんて思っていなかった。本当に罪悪感が無い。この状況でケラケラ笑っているようにも聞こえた。

直後、施設の外で爆発音が聞こえた。リコか鳥海に群がり、外に投げ出された敵の1人が自爆したのだろう。最悪な事態が始まりつつある。

 

「指揮艦が全員に自爆を指示したぞ!」

 

施設中に響き渡る声で叫んだ。私が言うのだ、誰もが危機感を持ってくれるはずだ。こういう時こそ焦らず行動しなければいけないのはわかるが、急いでもらわないと死ぬ可能性がある。

 

先に上がった者がいる場所での自爆は、誘爆を意識しているのだろう。自爆装置を破壊したとしても、体内に仕込まれた火薬はそのままだ。それに引火したら誘爆して同じ爆発が発生する場合もある。

大規模な爆発を発生させることで、仲間の命全てを引き換えに施設を木っ端微塵にしようとしている。あれだけ静かに終わらせようとしていたくせに、最後の最後に雑に終わらせようとしてきた。

 

「ふざけるな……ふざけるな!」

 

再度リミッターを解除。出来る限りのスピードを出し、施設の破損もあまり考えることなく、目についたまだ自爆の兆しの無いものから気絶させていくしか無い。最低限、誘爆しない位置で自爆させるに留まらせなくては、強化された施設といえど耐えられないだろう。

 

「お前達は避難だ! 急げ!」

 

2階の者達には大急ぎで避難させる。未だ部屋で待機してもらっている蝦尾女史や、眠ったままの瑞鶴を守っている翔鶴にも、施設を出てもらわなくては危険が及ぶ可能性があった。そこは協力して施設から出て行ってほしい。

 

『この……!』

『あたしのお仕事はこれでおしまい。今日は帰りまーす。Addio(さよなら)!』

『逃げんな!』

 

あちらはシロクロに任せよう。今は施設を守ることが重要だ。

 

リミッターを外して理性が失われて躊躇が無くなったことで、最善の一手は瞬時に思いついた。施設内で気絶している敵は全て施設外に追い出す。同じ誘爆でも、施設内か施設外かではまるで違うからだ。

敵の今回の最後の策は、先に来たものが生きていようが死んでいようが関係ない。出来ることなら全員から火薬を抉り取りたいところだが、そんなこと出来るわけがない。

 

だが、それでは誰も救われないこともわかっている。ならば、海上に姿を現した瞬間に気絶させる。さっきの指示からして、海中で爆発することはない。

その瞬間は私の嗅覚で判断する。キナ臭い匂いを嗅ぎ分け、海面に顔を出した瞬間に叩く。要は()()()()()だ。

 

「集中しろ……集中……!」

 

そこ彼処から爆発音が聞こえる。だが、施設内では聞こえない。他の者も最善の状態で対処してくれている。爆発のたびに施設が揺れるが、大きな破壊には至っていない。

工廠に辿り着き、バタバタと倒れている敵達で埋め尽くされている散々な光景を目の当たりにするが、気に留めていられない。すぐに海に出て、モグラ叩き開始。

 

「そこっ!」

 

キナ臭い匂いが一番強くなった海面を蹴り上げる。丁度頭を出した瞬間の潜水艦の後頭部に一撃を喰らわせることとなり、自爆するまでもなく気絶。首がイカれるほどの衝撃になったと思うが、死んではいないだろう。折れた感触は無かった。

タイミングはおおよそ掴めた。同じことを終わるまで繰り返せばいいだけだ。嗅覚に全神経を集中し、次へ次へと続けていく。全て終わるまで限界が訪れないことを祈るのみ。

 

しばらくして、キナ臭い匂いは無くなった。私が蹴り飛ばした()()()は2桁を超え、その全てを気絶させ、余裕があるときに旗風と曙に自爆装置の破壊を頼む。これで遠隔で自爆させられることもないだろう。

これにより、施設の防衛は終了。爆発音を聞きつけて九二駆も戻ってきたが、その頃には全て終わっていた。

 

同時に私の限界が訪れ、その場に倒れ伏すこととなった。

 




海面に頭が出た瞬間に気絶するほどの蹴りを喰らったら、鞭打ちどころじゃ済まないと思いますが、それだけリミッターを外している若葉は容赦がありません。
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