継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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念願の邂逅

呂500と巻雲の治療が完了した。特に呂500は今まで出来なかった意思疎通が出来る様になったのはとても大きい。

治療されたところで今後やっていくことは変わらず、呂500は雷のサポートとして食堂の手伝いを、巻雲は駆逐隊のリザーバーとして活動していく。今までと違うのは、その心持ち。2人とも以前よりも心を強く持っている。

 

「2人とも、治ってよかったですね」

「ああ、飛鳥医師と蝦尾女史のおかげだ。とんでもない治療をしてしまった」

 

私、若葉は、三日月と寝床で今日のことを話していた。巻雲が起きた時間はそれなりに遅い。今頃残しておいてもらった夕食を食べている頃だろう。

 

「恐ろしい薬ですよね……深海の細胞だけを死滅させる薬だなんて」

「ああ。治療にならいいが、兵器にでも使われたら終わりだ」

 

あの治療法は投与されれば最後、ほぼ死に直結してしまう危険すぎる劇薬を使ったもの。私達は触れてもいけない。今回の件で作り、余った分はすぐに廃棄したという。新たに作ろうと思えばすぐに作れるのだからそれでいいだろう。

廃棄もかなり慎重に行ない、ただ流しに捨てるだけではなく、蝦尾女史が適切な処置をして効果を完全に失わせてから廃棄したという。そこまで慎重にならなくてはいけないものなのだから、生成方法を外に出したくないのも頷ける。

 

「若葉達も生成方法は聞いていないからな。あれはもう秘蔵だ秘蔵」

「それが一番ですね」

 

満場一致で秘蔵が決まっている。むしろ状況に合わせてその場で生成するのがベスト。基本的には施設に置かないが大原則である。

おそらく下呂大将や新提督にも治療法を聞かれるだろうが、飛鳥医師と蝦尾女史は口を噤むようにすると相談済み。立場とかそういうものは関係ない。蘇生法も伝えていないのだから、その辺は察してもらう。

 

「あのことは一旦忘れて、今は若葉さんを堪能します」

「ああ、若葉も三日月を堪能させてもらう」

 

毎日一緒に寝てはいるのだが、ここ最近は少し気が張っていたというのもある。それも終わったということで、私達的には随分と気が楽になった。襲撃があるかもしれないのに。

 

「寝る時くらいは気を抜けと、リコにも忠告されたしな」

「はい、リラックスして寝ましょう。こうしているだけで落ち着けます」

 

三日月は私の左腕を抱き、私は三日月の髪を梳くように左の頬を撫でる。それだけでも充分気分が落ち着く。より深みにハマっていくような感覚もするが、お互いに気分がいいのでそれに身を任せている感じだ。

 

「離れないからな」

「はい、離れません」

 

肌を重ね合うように、私達は揃って眠りに落ちていく。リラックス出来ているからだと思う。

 

 

 

今日はシグに呼び出されて夢の中。いつもの夜の海に佇み、シグの到来を待つことになるのだが、今回は一味違った。

 

()()()()()()()()()()()()

 

「まさか」

『そのまさかさ。ようやく見つけたよ。この子がチ級だよね?』

「おそらくは」

 

私はチ級の姿を見たことが無いため、その深海棲艦の姿を見たところでチ級であるかどうかは判断出来ない。

 

口許と左眼以外を覆い隠す仮面をつけたその深海棲艦は、私やシグよりは少し大人びた印象の女性。特徴的だったのは下半身。艤装がほぼ全てを包み込み、海上をジェットスキーの如く滑って駆けてきた。この艤装もあり、脚のないシグはともかく私よりもかなり身長が高め。左手も主砲になっており、まるでサイボーグである。

だが、それ以外はしっかり生身。肩や腹など見えている身体もそうだし、頭は仮面をつけているだけで普通に人間や艦娘と同じものだ。

 

「お前が若葉の脚の骨……なのか?」

『……』

 

コクリと頷くだけ。イロハ級故に、言葉を介することは出来ないようだ。ここは夢の中、やろうと思えば何でも好きに出来るように思えるのだが、そもそもそういうシステムが無いものはこういうところでも出来ないのかもしれない。

私も雷のようにイロハ級の声を聞くことが出来ればいいのだが、残念ながら出来ない。そういうところも夢の中でも現実とリンクしていると考えればいいか。

 

『チ級は恥ずかしがり屋さんなのかな。(ボク)と顔を合わせた時も全速力で逃げてさ』

「単純にこんなところで人に会うだなんて思わないからじゃないのか」

 

すごく強く頷かれた。夢の中云々もあるが、死した後に意思を持っていることも驚いているらしい。だというのに2人目が現れたら、それが自分より格上の姫だとしても逃げ出したくなる。

シグは特殊な生まれのようだからこうなってしまっていてもわかるが、チ級もそうなのだろうか。それとも、深海棲艦というのは()()()()()()なのだろうか。こればっかりはわからないことだろう。

 

せっかくだからと近付き、握手。ちゃんと手がある右手に握手を求めたところ、少し躊躇ったものの握手を返してくれた。隠れていない口元は、薄くではあるが笑みを浮かべていた。感情はちゃんとあるようである。

 

「脚はどうなっているんだろうか」

『艤装と同化しているみたいだね。(ボク)の脚と似たようなものじゃないかな』

 

シグはそもそも脚が無いわけだが、チ級も同じように脚がなく、艤装と完全に同化しているらしい。なら、私の脚に移植された骨は何処の骨なのだろう。チ級に脛は無い。

と、私の考えていることを読んだのか、チ級が自分の腿の辺りを指差した。艤装と同化はしているが、腿から下が同化しているため、脚らしき部位は一応ある。私の脛の骨には、そこの骨を拝借したようだった。

 

「そうか、若葉の脛の骨は、チ級の腿の骨を加工したものなんだな」

 

肯定するように頷いた。本来の場所の骨では無いから力が出やすいとかあるのかもしれない。

 

「2人のおかげで若葉は戦える。本当にありがとう」

『どういたしまして。でも、あの潜水艦モグラ叩きは(ボク)もちょっと驚いちゃった。結構無理してたよね』

「……それで全員の命が救えたんだ。身体を張った甲斐がある」

 

あの後気を失ってしまったのも仕方ない。それほどに集中し、限界を超え続けて行なった救助行為だ。そのおかげで救えた人形もいるわけだし、私の行為は間違っていないと自負できる。

すると、チ級が徐に私の頭を撫でてきた。この世界では嗅覚も失われるため、チ級が何を考えてその行為をしているのかが匂いから判断は出来ない。だが、私のために頭を撫でてくれているのはすぐにわかった。

 

「ありがとうチ級、労ってくれているのか」

 

頷く。言葉は無くとも、表情は乏しくとも、チ級は感情豊かだった。最初は初顔合わせだったためにすぐに動かなかったが、この少しだけの交流で本来の姿を見せてくれている。

 

(ボク)もナデナデしてあげたいけど、届かないからなぁ』

「気持ちは届いてる。これだけでもやった甲斐があった」

 

逆に私がシグを撫でる。それはそれで嬉しそうであった。

 

『それじゃあ、今回もいつもの』

「ああ、頼む」

 

ここからはシグの見解。とはいえ、今回は内容は少ない。

前回から変わったのは、瑞鶴、如月、巻雲、呂500の4人が治療され、深海の要素が一切無くなったこと。それについては何も言うことが無いそうである。

 

『とはいえ、目下の悩みは赤城さんと翔鶴さんの確執だけだね。その件は前回話したからいいか。そう考えると、ある意味心配事は全部取り除けたのかな?』

「かもしれない。残っているのは、襲撃を迎え撃つことと、大淀を倒すことだけだと思う」

 

ついにシグからの助言が必要なことも無くなった。不安要素はもう無く、治療が必要な者も治療完了。念願であったチ級とも出会えたことで、悩みはもう無いと言える。強いて言うなら初霜の件があるが、あれは時間が必要なことだし、助言が欲しい内容でもない。

悩み事が無くなるというのも、なかなか無いこと。シグもお役御免と言った感じになった。

 

『なら、今日は本当にただただ適当な世間話をするだけの時間だね』

「たまにはいいなそういうのも。だが、お前達は若葉の見ているものは全て知っているだろう」

『勿論。チ級もわかってるよね?』

 

頷く。シグ達は私の目を通して私に起こっていることは全て把握済み。だから悩み事に対しての見解も話してくれるわけだし。ここ最近はそれが晴れていくことばかりなのでありがたい。

チ級も私が施設で新たな生を得てからずっと見続けていたようだ。私と話す機会が出来たのはたった今だが、シグと同様最初から知っているとのこと。私が初めて戦闘した時も力を貸してくれたのだから、やはり最初から意思だけは残っていたようだ。

 

「なら、もう少しチ級のことを知っておきたいな」

『だよね。せっかく会えたんだからさ、(ボク)達としてはもっと仲良くなっておきたいよね』

「ああ。今まで会えなかった分、今から埋め合わせておきたい」

 

ようやく会えたのだ。こういう時にこそ親睦を深めておきたい。例えチ級が言葉を紡げなくとも、一緒に寄り添っているだけでもいろいろとわかるもの。

 

「時間の限り、お互いを知ろう。若葉のことは筒抜けだが」

『そうだね。三日月ちゃんとイチャイチャしてるのも、(ボク)達には筒抜けだからね』

 

もう少し言い方というものがあるだろうが、私はそれを否定はしない。私は三日月と()()()()()()()と自信を持って言える。

 

『ぽいちゃんも同じだろうね。いやぁ、会いたいなぁ』

「元はシグと同じモノだからな。機会が作れればいいんだが」

『もうちょっと(ボク)の部分を重ねて寝てみてもらえない? 三日月ちゃんの左眼を左腕に擦り付けるように』

「大概してるだろう。起きたらいつもそうなってる」

『確かに。ならやっぱり、分かれちゃったんだから会えないのかなぁ。残念だなぁ』

 

私だってぽいとは会ってみたいし、こういう空間でも三日月に会いたいものだ。やれることはいろいろとやってみるつもりではあるが、あまり期待しない方がいいだろう。

 

『それじゃあ、チ級のこと、やっていこうか。まずは仮面の下の顔かな?』

 

首をブンブンと横に振る。これだけは剥がしてもらいたくないようである。脚のことを考えると、仮面も艤装の内。ある意味チ級にとっては皮膚のようなモノかもしれない。それを剥がすと考えたら、ゾッとしてしまった。

 

「シグ、あれは剥がせないものかもしれない。やめてやれ」

『残念。若葉がそういうならやめておく』

 

ホッと安堵の息を漏らす。私が考えたことが正解のようだ。

 

「普通に仲良くすればいいんだ。なぁ?」

 

大きく頷き、私を抱え上げた。右腕しか使えなくても軽くそれをやってくる辺り、夢の中とかそういうのは関係無しに深海棲艦なのだと感じる。それの骨を使われているのだから、私の力が増すことも肯けた。

 

そこからは時間いっぱいまで世間話を続け、チ級とも交流を深めた。たった一度の夢の中でも、チ級は心を開いてくれたと思う。シグには若干の苦手意識を持っていそうだったが、そこは時間をかけて落ち着いてもらおう。

 

 

 

目を覚ますと外は少し明るめ。いつもの日課のランニングの時間。有意義な夢を見て、身体の疲れも回復。そして目を覚ませば隣に三日月。最高の朝である。その三日月も普段は見せない惚けた笑顔でまだ眠っている。私にしか見られない特権。

やはり左眼を私の左腕に擦り付けるようにしていたが、夢の中を繋ぐことは出来なかったので、そういうのは単純に難しいと判断しておこう。シグにはわるいが、出来るようになるのはもっと先。

 

「三日月、朝だ」

「ん、あさ……ふぁあ……」

 

まだ寝ぼけ眼ではあるが、私の声で起きる。いつもの朝、いつものルーティン。バリエーションはあれど、これは毎日変わらない。夜間警備の時は時間が変わるだけ。私と三日月は常に一緒。

 

「ん、おはようございます」

「ああ、おはよう。今日はついにチ級と会えたんだ」

「だから少し嬉しそうなんですね」

 

顔に出ていたか。

 

「私もぽいちゃんが来てくれました。もう心配事は無いって言ってくれて、ずっと遊んでいました」

「若葉も似たようなものだ。世間話で終わったな」

 

着替えながらお互いの夢の中の話をする。話題に関してはほぼリンクしているが、その後のことは少し違う。ぽいはシグよりも幼いイメージで、どちらかと言えば小動物的な可愛さがあるそうだ。遊んでいると言っても、飼い犬と戯れ合うようなものなのだとか。

 

「あ、勿論一番は若葉さんですからね」

「心配などしていない。若葉の一番も三日月だ」

 

着替え終わり、頭を撫でる。それだけで三日月の表情が綻んだ。

 

チ級とも話が出来たので、これで思い残すことは無いと言える。これからも順風満帆に暮らしていけそうだ。

もっと楽しく生きるためには、奴を消さなければならないが。

 




チ級に元の人格的なものはありません。艦種が特定され過ぎているので、3択はちょっと。
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