継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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母の説教

翌日に施設に関係者が集まることが決まり、それに先んじて鳳翔が施設に来ている。その理由は、目覚めた瑞鶴を確認することと、赤城と翔鶴の確執を解消するため。三度目の大喧嘩を止められているが故に2人は軟禁状態であるため、お互いの事情などお構いなしに説教をすると呼び出している。

翔鶴を部屋から連れ出し、そのまま一航戦の部屋へ。今は軟禁中の赤城と監視役の加賀がいるはずだ。鍵はかかっていないので、躊躇なくその扉を開いた。今回の鳳翔は一味違う。

 

「ほ、鳳翔さん、ノックくらいしてもらえると」

「すみません加賀さん、今回は急を要するので」

 

笑顔のまま赤城を見据える。鳳翔がいきなり登場したことで流石の赤城も驚いていた。

そして、その後ろに翔鶴の姿があることに気付くや否や、怒りと憎しみが天井知らずに燃え上がり、憎悪のままに動き出す。鳳翔の後ろにいる翔鶴からも同じように憎悪を撒き散らしていた。

 

「赤城さん、翔鶴さん、おやめなさい」

 

翔鶴に向かおうとする赤城は加賀が取り押さえ、翔鶴は鳳翔自身が取り押さえる。軽く腕を掴んだ後、あっという間に捻り上げてその場で立てなくなるほどに。ギリギリと音が聞こえそうな程で、翔鶴も苦痛に顔を歪めていた。

 

「貴女達に説教するために私は来ました。そうですね、談話室に行きましょうか。ここで話すより余程効くと思いますから。加賀さん、いいですか」

「了解です。赤城さん、歩いてください」

「離してください加賀さん、目の前に仇がいるんです。ここで殺せと頭の中で声が響くんですよ」

 

何人もの恨みを内包しているが故に、赤城は翔鶴以上に止まらない。加賀が取り押さえようが、それを振り払ってでも向かおうとする。

 

「……赤城さん、今日は私も夕食を作ることを手伝う予定です。貴女の分は抜きにしてもいいんですよ?」

「うっ……雷さんと同じ手段を……」

 

憎悪より食欲。一時的にならこれでも抑えられるようだが、そう何度も効くような手段では無いだろう。そういうものもかなぐり捨ててでも翔鶴を殺すと言い出したら、実力行使しか無くなってしまう。

結果からして、鳥海がやった力押しが一番効くのだと思う。この2人には艤装が与えられることは今のところないため、艤装を装備したものの前には屈するしかない。明るい間は朝霜、暗い間は鳥海。実にわかりやすい。

 

「話くらい聞いてくださいね。話と言っても、お説教ですが」

 

翔鶴はズルズルと鳳翔に引きずられ、赤城は加賀に引っ張られて談話室に連れていかれた。

その間も赤城と翔鶴は睨み合い、一触即発のムード。手を離せばすぐに襲いかかるほどの険悪な仲であった。

 

 

 

談話室。鳳翔が真ん中に立ち、その前に正座させられている赤城と翔鶴。拘束されていないのでやろうと思えばすぐに殺し合いが始まるのだろうが、鳳翔の眼光によりそれが出来なくなっている。

見たことのないような威圧感。母が子を叱るものとはまた違った匂い。怒りと言うよりは愛が強いのが鳳翔である。

 

2人が説教されるという話は瞬く間に施設内を駆けていき、談話室前には人だかりが出来てしまっていた。私、若葉と三日月はここまで関わってきたので談話室の中で聞いている。加賀と瑞鶴も同席。

 

「私が貴女達をこうして並べている理由はわかっていますね?」

 

無言。お互いに顔を合わせようとせず、鳳翔とも目を合わせようともしない。理解はしているのだろうが、口にはしない。

 

「私は赤城さんに言いました。仲良くしろとは言いませんが、協力しなくてはならない時が来る。その時は殺し合いなどせず、共に戦えるようにしてくださいと」

「私はその時返しましたよね。鳳翔さんの言葉でも、聞けるものと聞けないものがありますと」

「そうですね。ですが、顔を合わせる度に喧嘩、殺し合い、これは許容出来ません。貴女達がどうこうではなく、施設に迷惑がかかっていることはわかりますね?」

 

喧嘩のたびに誰かがそれを止めるために被害を被ることになる。今のところ誰も怪我人は出ていないが、こんなことを続けていればそのうち被害が出かねない。毎回誰かが止められるとは限られないのだ。

一番危険なのが加賀と瑞鶴。身近にいるのだから、ほぼ確実に巻き込まれるわけで、今の状態の瑞鶴が巻き込まれようものなら、復帰がさらに先送りになってしまう。そうしたらまた翔鶴がダメになっていくのは考えずともわかることだ。

 

「貴女達は大淀という共通の敵がいるでしょう。せめてそれを倒すまでは協力出来ませんか。もう一度言いますが、仲良くしろとは言いませんが、喧嘩するのをやめなさい」

「何度でも言いますが、それは聞けないものです。私の本能が、翔鶴を殺せとずっと叫んでいるんです。翔鶴の指示で何人死んだと思っているんですか」

 

それは否定出来ない。加賀は救出出来たが、あの場で自爆させられたのは5人。さらには2度目の戦闘で数えきれない程の人間魚雷。自爆はしていないにしろ、失敗作の戦艦隊10人もあの場で死んでいる。うち4人はおそらく翔鶴が取り込んでしまった。

しかし、その指示を出しているのは大淀だ。あの時の翔鶴は洗脳され、自分の意思とは違う行動を取らされていたのだ。翔鶴は言われるがままにあの指示を出していたのだから、あの指示は大淀の指示と言ってもいい。だからこそ、私達は翔鶴に対しては何も感じていないし、憎しみは全て大淀に向いている。最初から最後まで翔鶴が考えていたというのなら多少は変わるかもしれないが。

 

「それは翔鶴さんの意思でなかった事くらい、貴女なら理解出来ているのでは?」

「ですから、大淀も殺しますとも。私達の死の黒幕が彼女なのは理解していますから。ですが、事実として私達を殺したのは翔鶴ですよね?」

 

堂々巡りである。赤城が絶対に譲らない程に歪んでしまっているのが問題。言い分はどちらも間違っていないのだから余計にタチが悪い。元々持っていた一航戦の誇りが歪んでしまったが故に、芯のある復讐鬼になってしまった。

 

「私にしか問題が無いわけでは無いでしょう」

「勿論。翔鶴さんも理性が利かずに攻撃しているのは問題です。落ち着けませんか」

「……私も赤城さんに殺されたようなものです。だから、顔を見ると殺したくて仕方なくなります。これが今の私の本質なのだと自覚しているんです。止めたくても止められないんですよ」

 

今まで黙っていた翔鶴も、話を振られて意思を示した。考えていることは翔鶴も赤城と同じだ。翔鶴は死んではいないが、死の寸前まで持っていかれたことで今の身体になっている。その原因を作った赤城に憎悪を持っているわけだ。

結局、赤城も翔鶴も似たもの同士である。お互いがお互いを殺したために生まれ変わり、堪えようの無い憎しみを募らせている。憎しみの中には、同族嫌悪も混じっているのかもしれない。

 

「……貴女達はどうしてこう、極端なんですか。手を取り合えとは言っていません。不干渉を貫けと言っているんです。顔を合わせたらお互い無視すればいいでしょう」

 

それが出来たら苦労はしないのだろう。こんな状況でもお互いをいがみ合い、鳳翔の監視下で無ければすぐにでも掴みかかる状態である。

 

「別に恐怖と暴力で貴女達を屈服させてもいいんです。ですが、それでは根本解決にはなりません。私がここから離れたら意味が無くなりますし。貴女達には()()してもらわなければ……」

 

鳳翔の物言いに少し驚いた。あの赤城と翔鶴に対し、恐怖と暴力による屈服を与えることが可能とは。何となくだがやれそうに思えてしまうのが恐ろしい。私達があそこまで苦戦した翔鶴すらも、鳳翔ならば片手で捻りそう。

だが、それが出来たとしても一時的なものだ。この場に鳳翔がいなければ通用しない方法だし、鳳翔がいるから仕方なく応じているだけ。渋々協力している状態でどうにか出来るとは思えない。

 

「それでも、一度刻んだ方がいいですか? 貴女達の本能が、どれほど他者に迷惑をかけているかを、その身に」

 

一瞬だが、鳳翔から2人に向けた愛の匂いが消え失せた。ただただお前達を痛め付けるぞと言わんばかりに、冷酷な瞳を向けている。それを本能的に察したのか、赤城と翔鶴の身が竦むのがわかった。

 

「そもそも、その言い分が罷り通るのなら、私は貴女達を痛め付ける大義名分を持っています。私の鎮守府を破壊したのは紛れもなく貴女達ですよね?」

「……そうですね。私も空母隊の一員として、翔鶴の指示で鳳翔さんの所属する鎮守府を」

「翔鶴さんの指示かもしれませんが、実行犯は貴女ですよね赤城さん。そのせいで提督が怪我を負いました。今は修復出来ていますが、一時は住む場所も奪われました。どう落とし前を付けてくれるんです?」

 

愛の中に怒りが混ざり始めている。鳳翔は来栖提督の秘書艦、さらには相思相愛と言ってもいいほどに信頼している仲だ。来栖提督が危険に晒された時の行動力は普通では無かった。派遣も全て取り下げ、側に侍ることを選択したほどである。

赤城の言い分を通すなら、一方的な被害者である鳳翔は反撃無しに赤城と翔鶴を痛め付ける権利がある。

 

「加賀さんはその件で悩み、苦しみ、最初は私達の前に姿を現すことが出来ない程でした。ですが貴女は何ですか。深海棲艦の本能とやらで、謝罪もなく後悔もない。私達の鎮守府を破壊したのは自分ではなく指示を出した翔鶴さん、もしくは黒幕の大淀だから、自分のせいではないと言い張るんですか?」

 

赤城は青い顔をして震えていた。おそらくこれで気付いてしまったのだ。自分が翔鶴と同じだと。道具として使われていたのだから自分に罪はないとでも思っていたのだろうか。そうだとしたら、それこそが傲慢だ。

 

「赤城さん、貴女は被害者面しすぎです」

 

最後、たった一言で赤城の心を完全に叩き折った。

 

「翔鶴さん、貴女はまだここまで堕ちていないとは思います。瑞鶴さんを目覚めさせるため、施設の仲間達と協力していたのは聞いています。ですが、何ですかこの体たらくは。目覚めたらこれですか」

「……すみません……刻まれてしまった本能のせいで……」

「自制しなさい。貴女はまだ瑞鶴さんが目を覚ましていないときに、喧嘩を売られても無視したと聞いています。それを徹底しなさい。本能かもしれませんが、貴女達には理性があるでしょう」

 

翔鶴は俯くばかり。赤城は反論するが、翔鶴はただただ聞いているだけ。事態を重く受け止めているのはどちらかといえば翔鶴だ。

完全に死んだ後に蘇ったわけではないからだろう。僅かではあるが、艦娘としての本能も残されているように思える。

 

「ここまで話しましたが、反論を受け付けます。私が間違っているというのならどうぞ訴えてください。私も真摯に受け止めます。私だって間違えることはいくらでもありますから、言ってもらえれば直します」

 

2人とも無言。反論無し。この説教で論破されたと言っても過言ではない。

特に赤城は立ち上がれないくらいに憔悴していた。在り方を否定されたも同じ。それをよりによって母と感じられる程の鳳翔に。むしろ鳳翔だからこそここまで打ち負かしたのだと思う。

 

「何も無いのでしたら、お説教はこれで終わりです。お疲れ様でした」

 

鳳翔が談話室から立ち去った。赤城も翔鶴も、その場から動けなかった。

 

 

 

説教の後、赤城と翔鶴は加賀と瑞鶴に任せ、私と三日月は鳳翔を追う。あれだけ話したのだから喉が渇いたのであろう、食堂でお茶を飲んでいた。

 

「……はぁぁ……これであの子達は少しはわかってくれるでしょうか……」

 

鳳翔とは思えない弱々しい呟き。説教というもの自体がほとんどやったことのないようなことなのだろう。元気付けるための叱咤激励とは違う。途中少しだけ感情的になった部分もあった。鳳翔はそれを後悔している。あの2人から見えないところで、今度は自分自身の反省会。

私達が駆けつけたことに気付き、また慈悲深い笑顔を見せてくれた。とはいえ疲れも匂いからわかる。

 

「お恥ずかしいところを見せてしまいました」

「いや、何も問題は無かったと思う」

「はい、少し怖かったですが、あの2人はわかってくれたと思います」

 

事情がわかっていても止められない状態から、一旦考えることが出来るようになったはずだ。これでも尚、顔を見たら殺し合うようなことがあれば、今度こそ実力行使になるだろう。わかっていても衝動が抑えられないというのなら、その衝動を見せた時点で周りが全員敵になることを教え込む必要がある。

なんというか、動物の躾のようであった。あまりよろしくない傾向なので、赤城も翔鶴もそうならないでほしい。

 

それからすぐに、赤城と翔鶴の軟禁状態は解かれることになる。ここからどうなることやら。

 




鳳翔の説教で2人の心はどう変化したのでしょう。それでもいがみ合ったら修正は不可かもしれません。施設ではみんな仲良くでいてほしいですね。曙と呂500が和解できたんですから。



前回200話達成したとき、Twitterの方から記念イラストを頂きました。掲載許可も頂けたので、こちらで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

何処かで見たような癖っ毛付き若葉。中に入ってる子が色濃く出ていて可愛らしいですね。
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