継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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一致する意思

赤城と翔鶴が和解した瞬間を見ることが出来たからか、夜間警備を終えた私、若葉はとても気持ちよく眠れた。朝食後に風呂に入り、ベッドに入ったら即寝落ち。気付けばもう昼近くであったが、天気模様は生憎のところあまりよろしくない。夜間警備の時は天気が良かったのだが、私達が眠っている間にだんだんと天候が崩れていったようである。

同じように眠っていた三日月もグッスリだったようだが、今日はあちらの方が先に起きていたようで、目が覚めた直後に三日月と見つめ合う形になっている。目が合うと同時にクスリと笑い、心が満たされるような感覚がした。

 

「おはようございます、若葉さん」

「おはよう三日月。もう昼だな」

「夜間警備の後ですからね」

 

いつもとは逆に私が撫でられていた。私の左眼も侵食されて深海の物に変化しているため、私が撫でるのと同じようなもの。お互いの身体に触れている時が一番落ち着く。それが()()()()に近い時はさらに落ち着く。

 

「さすがに起きないとな。昼食を終わらせておかなくては」

「そうですね。名残惜しいですが、準備しましょう」

 

今からは作戦会議のようなもの。大淀の拠点、手瀬鎮守府への襲撃についての話だ。目処がようやくつき、そろそろ本格的に始動するという。

ここまで長かった。拠点の位置はわかっているが、敵の戦力は日々増え、さらには得体の知れない力を持っていたりする。鎮守府の中身も妖精が改造しているとの証言もある。そのため、なるべく被害が出ないように出来る限り入念に調査を続けてきた。その結果が実ったということだろう。

 

「決戦の時も近い……ということだな」

「はい。早く全部終わらせたいです」

 

これが終われば私達は楽しく生きることが出来るのだ。早急に終わらせたい。

 

 

 

部屋を出ると丁度新提督が2階を見て回っており、タイミング悪く私達の部屋の真正面だったため、危うくぶつかりかける。既に飛鳥医師の付き添いすらない単独行動。数度の監査で信用できるのはわかっているし、今ここで対面しても負の感情は感じられなかった。三日月も慣れたものである。

 

「おっと、大丈夫か」

「大丈夫だ。監査中だったのか」

「君達が眠っていることは聞いていたから、静かにやっていたつもりだが、起こしてしまったのならすまない」

 

私達が眠っている間に既に到着しており、作戦会議の前に監査を進めていたらしい。効率を考えるとそれがいいだろう。

私達のような夜勤がいることで全員揃うことがまず無い午前中に、大本営の遣いとしての職務を終わらせておく方が後々時間が作ることが出来る。それに、天気が悪くなるというのがわかっていたのなら早めに動くのが妥当。

 

「今回も問題無しと判断させてもらった。いろいろ驚かされたが」

「ねー。空母棲姫の赤城さんもそうだけど、空母水鬼の翔鶴さんもビックリしちゃった!」

 

後ろには護衛の瑞鳳がついているが、相変わらず新しい空母勢を見ると目を輝かせているようだった。新たな艦載機や発艦システムが見たくて仕方ないのだろう。さらに今回は、赤城と翔鶴の艤装は修復済み。やろうと思えば演習だって出来る。

仲違いがまだ続いているようなら、今回は事情を話して前に出さないつもりだったそうだが、今朝に完全な和解をしたことで、監査にも見せられると判断されたようだ。ここには協力的な深海棲艦しかいないという証明にもなる。

 

「またこれに関しては詳しく話してもらう。今日も泊まりがけになるだろうからな」

「もう部屋が無いと思うんだが」

「我々は何処ででも寝られる。私は医務室で構わないさ」

 

客人をそこに入れるというのは気が引けるのだが。おそらく談話室なり部屋をうまいこと空けるなりして工面するだろう。

 

「先生は1階で待機してもらっている。来栖大佐も到着済みだ」

 

本当に全員揃っていたらしい。やはりこの天気模様は予報されていたもののようだ。昨日のうちにそれを確認していなかった私の落ち度。

下呂大将は脚が悪いのでなるべく動かないようにしているのだろう。当然といえば当然か。

 

新提督と共に1階に降りると、談話室で休んでいる下呂大将の姿が。飛鳥医師から軽く診察を受けたらしく、順調に回復しているとのこと。無茶な生き方をしているというのに、身体がそれを許してくれているそうだ。正直恐ろしい。

隣には蝦尾女史。こちらに召集される前から懇意にしていたようなので、今回の治療の功績は下呂大将も大いに喜んだ様子。しかし、その内容は極秘中の極秘として公開しないようにしている。

 

「若葉、三日月、おはようございます。よく眠れましたか」

「おかげさまで。大将は傷の調子はどうだ」

「頗るいいですね。ですが、皆は動くなの一点張りで」

「当たり前だ」

 

相変わらず、みんなの気も知らずにそこら中に動き回って調査に出ようとしているのだろう。頭を張っている者が怪我をしているのにそれでは、部下である艦娘は気が気でない。

 

「彼女は活躍してくれたみたいですね」

「ああ、本当に感謝している。蝦尾女史のおかげで全てが丸く収まった」

「そんな、私は出来ることをしたに過ぎません。それに……憧れの飛鳥先生のお役に立てただけでも胸がいっぱいで」

 

本当に嬉しそうに話す蝦尾女史。早口で話す辺り、それだけ飛鳥医師に首っ丈ということなのだろう。憧れ以上の感情も持っているように見えるが、敢えてそこは触れないことにする。

 

「今は人工皮膚の研究をさせてもらっているんです。人工骨までは成功したそうですが、それ以降になるとやはり難しいらしくて。私の体組織の研究が確実に役に立つと言ってくださったので、楽しくて楽しくて」

「有意義に暮らせているのなら充分ですね。推薦して良かった」

 

本当に、蝦尾女史のおかげで前に進むことが出来ている。推薦してくれた下呂大将にも感謝だ。

 

 

 

昼食後、全員集まって作戦会議が行なわれることとなる。こんな大人数が集まることは早々無いため、食堂くらいしか場所がない。来栖提督を運んできた二二駆や、先んじて来ていた鳳翔と海風山風姉妹。下呂大将の護衛として来た神風や、新提督の護衛である瑞鳳も入ると、今までにない人数である。

救出出来た者が次々と戦力として参加してくれているおかげで、もうこんな大所帯に。部屋がないというのも嬉しい悲鳴だ。赤城と翔鶴も、今は並んで話を聞いているくらいである。

 

「さて、ではこちらの調査状況を話しておきます。結論から言うならば、あと数日で襲撃が可能です」

 

ここは予想通り。手瀬鎮守府を入念に調査し、最適な海路と戦力を割り出していたらしい。

少なくとも見た目は鎮守府の体裁は保っているらしいが、内部は大きく改造されているのだろう。どう攻め込むにしろ、外部からの突撃は必須。今までこの施設が受け続けて来た襲撃のデータから、残った敵の戦力を計算し尽くしたそうだ。

 

「ただし、計算し尽くした結果でも、不明瞭な部分が多すぎます。大淀の隠蔽工作があまりにも上手く、私でも追い切れません。そのため、襲撃の作戦も憶測がいくつも入っている状態です」

 

限界まで計算した結果、これ以上はもう追えないというところまで来たために襲撃を決行するという、下呂大将としては残念な結果に終わってしまった。自らの脚で情報を稼げないという弊害もあるのだとか。

それだけ大淀は慎重。自分の素性は一切明かさず、手駒にすら全容を見せていない。近くに医療研究者の男が2人いることはわかっているが、その行方すらも掴めないそうだ。そうなると今生きているかもわからない。

 

「少なくとも聞いていた伊勢と日向に関しては想定出来ました。それ以上になっている可能性は否定出来ませんが、上方修正もしています」

 

今回の最大の強敵はその2人、伊勢と日向だろう。

艦載機を扱う戦艦、航空戦艦の力を遥かに超える改装航空戦艦としての力を、違法改造によりさらに底上げされていると考えた結果、私達が今まで戦ってきた者達の力を全て持っていると考えたほうがいい。砲撃戦、航空戦、さらには近接戦闘までもが破格のスペック。

下呂大将の予測では、砲撃戦はシロクロ以上、航空戦は五航戦を足したくらい、そして近接戦闘は第一水雷戦隊と同等かそれ以上ではないかと言っている。

 

「……勝てるのか、そんな化け物に」

 

思わず口から出てしまった。弱音なんて吐きたくないのだが、正直勝ち目が見えない。私達だけでは到底不可能。さらには、出来ることならその2人を()()()()()()()()

当然ながら、その2人も洗脳により大淀に従っている被害者だ。今までと同様に救いたい。死ぬのは大淀だけで十分。

 

「勿論勝ちますよ。ただし、こちらとしてはズルい手段を使うことになってしまいそうですが」

「ズルいとは?」

「決して褒められたものではないでしょう。使える手段は全て使うのですから。最低限、大淀だけは確実に仕留める策を練っています」

 

鎮守府を占拠しているという時点で、裏をかくことはほぼ出来ないと見たほうがいい。そこに向かうための方向が固定されているのと同じだからだ。とはいえ、()()()()()()()()()()()()()、ある程度はダメージは入れられるはずだ。

なので、一番重要なのは空爆。地下施設まで造られている可能性も考えると、より念入りに。奴らが私達にも仕掛けてきたものだ。やり返してもバチは当たらない。

それに誘き出されて外に出てきてくれれば尚良い。伊勢も日向も一時的に無視し、大淀だけは確実に息の根を止める。

 

「ですが、今はあくまでも伊勢と日向の戦力を憶測で想定した段階です。大淀の実力には不明な部分が多いため、予想が出来ません」

 

確かに、大淀が一体何なのかが未だにわからない。今までに2回戦闘しているが、そのどちらでも圧倒的な力を見せ付けられた。謎の回避性能と、尋常ではない防御性能。私が全力でナイフを振っても、摘むように止められるのは辛いものがある。

隠蔽もここまで来ると尊敬出来る。その才能を何か別なことに使ってほしかった。

 

「そのため、今度の襲撃は危険な任務となります。本来なら戦闘力を持たない鎮守府とは違う施設への参加は促せません。ですが」

「ここの連中は因縁が強過ぎんだよなァ」

「はい、来栖の言う通り、私怨と言っては何ですが、ここの者達は大淀への因縁が他より強い」

 

ほぼ全員が犠牲者。無関係なのは雷と摩耶くらいである。その2人ですら、この施設にいるという理由だけで狙われているのだからタチが悪い。その上、飛鳥医師の医療の腕も危険視されているため、施設の存続そのものまで揺るがしてくる。

それ故に、全員の意思は一致していた。鎮守府襲撃には当然参加させてもらう。自分達のためでもあるが、これ以上のさばらせてはさらに犠牲者が増えてしまう。それを一刻も早く食い止めたい。

 

「先も言いましたが、強制は出来ません。自主参加、協力者として私達は受け入れる準備をしています。情報だけは開示しました。残りの時間で参加するかどうかを」

「考えるまでもないですね。大淀はこの手で捻り潰さなくては意味がありません」

 

下呂大将の言葉を遮るように赤城は言う。憎しみの権化として蘇った赤城のこの言葉に、今回ばかりは賛同するものが多い。

私もそうである。大淀はこの手で終わらせたい。さんざん迷惑をかけてきて、のうのうと生きているなど許さない。

 

「僕としてはあまり危険なことをしてもらいたくない。命を賭して戦うだなんて言わないでもらいたい。必ず帰ってくることを条件にする」

「当たり前じゃない! 私達、死にたくないもの!」

 

誰だって死にたくない。誰も死んでもらいたくない。

 

「意思は伝わりました」

「子供達が戦場に出張る戦いは、私としても早々に終わらせたい。協力感謝する」

 

新提督も頭を下げてきた。事実、この施設の戦力は他の戦力よりも重要視されている。ここまで何度も大淀の配下の襲撃を受け続け、無傷とは言わなくとも死者無しで乗り越えてきているのだ。経験が違う。参加せずとも教えることはあるかもしれない。

 

「作戦会議とは名ばかりの近況報告となってしまいましたが、私からは以上です。準備が出来次第、また連絡します。おそらく襲撃は来栖の鎮守府から出立することになるでしょう」

「うちの鎮守府が一番近いんスよね。了解でさァ」

 

その時になったら、参加メンバー全員が来栖鎮守府に移動。準備が完了次第、全員で出撃となる。その準備も来栖鎮守府の方でされているらしい。主には鎮守府拡張。

おそらくこの施設からは全員が向かう。誰も施設に残らない。戦闘に参加しない初霜だって、ここに残すわけにはいかないのだ。わずか数日ではあるが、一時的に施設を完全に空けることになるだろう。

 

戦いの準備は刻一刻と進む。使える手段を全て使って、奴を終わらせてやる。

 




大淀の隠蔽工作と、下呂大将の負傷が大きく影響しています。無策ではないですが、鎮守府襲撃はそれなりにリスクが高いのです。

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