継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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反逆

深海棲艦と化した大淀の襲撃を受ける施設。司令部棲姫としての力により、三日月まで支配されてしまった。

私、若葉を屈服させるために、わざわざ三日月を使って私を滅多打ちにさせるが、私は意地でも屈しない。心に刺さる言葉も何度も言われるが、私は負けなかった。

それに痺れを切らしたか、三日月を一度下げる大淀。三日月が忌々しげに私を睨みつけて離れ、大淀の側へ。あの場所は本来、私の場所なのに。それがまた気に入らない。

 

「若葉さん、本当に強情ですね。その強情さが仇になることを教えてあげましょうか。これは貴女のせいですから、後悔してくださいね」

 

再び気に入らないほどの満面の笑み。私の行ないは間違っていない。それが仇になるとは一体何を。

 

 

 

「司令部より伝令。駆逐艦三日月、()()()()

 

 

 

大淀の非情な指示を受け、何の抵抗もなく三日月は主砲を自らのこめかみに当てた。大淀の命令ならば、死んでも疑問に思わないらしい。

怒りが込み上げるが、それでも身体が動いてくれない。命令への抵抗のせいで、指一本動かない。三日月の自殺を私の手で止めることが出来ない。動いてくれと叫びたくても叫べず、ただ無力に三日月の命が散らされるのを見ているしか出来ないことが、悔しくて仕方が無かった。

 

しかし、三日月は突然動かなくなった。命令のせいで表情は無いが、トリガーを引く指は全く動こうとしない。

 

「……指が、動きません」

「私の支配を掻い潜っている……? さっきまでの調子はどうしました。駆逐艦三日月、自害せよ」

 

二度目の自害指示だが、三日月の指は震えるだけでトリガーを引かない。まるで、大淀の命令に抵抗するかのようだった。

三日月自身は命令を遂行しようとしている。匂いもそれだ。指示に従い命を落とすことを絶対の使命だと思っている匂い。だが、本人とは意図せぬところで身体が動かないように見えた。

 

一瞬、本当に一瞬、強打されて視力を失った左眼に、本来見えるものでは無いものが見えた。見えないからこそ見えたのかもしれない。

三日月の主砲を持つ手に、必死に抵抗する()()()姿()()()()()()()のだ。いや、表情からしてあれはシグではない。少し幼いイメージのシグ、つまり、三日月の中にいる駆逐棲姫、ぽいの姿だった。姉はこうやって見えているのかもしれない。

三日月には支配が行き届いてしまっても、ぽいには通用していなかった。死という大きなトリガーによりぽいが目覚めたとも言える。

 

「動きません。理由はわかりませんが、その命令は遂行できません」

「予想外が立て続けに起こりますね、ここでは本当に」

 

そんなこととは露知らず、ニヤつきはそのままに溜息を吐く大淀。こんな状況すらも楽しんでいた。結局私は三日月を止められていない。屈辱的な状況は何も変わっていない。それが楽しいのだろう。気分が悪い。

が、そのニヤつきも消えることになる。大淀の背後まで近付いていた人影、旗風がその胴を両断するように刀を振るっていた。相変わらず猫のように気まぐれに、誰にも気配を感じさせずに行動している。

 

「っ……」

 

背後からの一撃にもかかわらず、紙一重で回避していた。何なのだあの回避性能は。まるで自分の周囲全てを感知し続けているかのような動きだ。

その理屈は考えてみればわかるもの。奴は自らを司令部棲姫と名乗った。司令部ということは、危険察知もいち早くするもの。電探やら何やらが馬鹿みたいに使われているのだろう。

 

「駆逐艦三日月に伝令。旗風を抹殺せよ」

「させるとお思いですか?」

 

瞬間、三日月の主砲が真っ二つに斬られていた。これにより三日月は攻撃不能となった。しかし、大淀の命令は絶対。あらゆる手段を用いて旗風を殺そうとするだろう。ならば、気を失わせるくらいしなければまずい。

 

「峰打ちです。仲間ですから」

 

主砲を斬った刀を返してもう一撃。首筋に叩き込まれた峰打ちにより、三日月は気絶した。身体には傷一つなく、最善の勝利。

しかし、目を覚ましても支配は行き届いたままの可能性がある。三日月はもう元に戻らないかもしれない。その可能性を考えると、はらわたが煮え滾るようだった。頭が熱い。身体が熱い。大淀の支配なんてもう感じられないくらいに怒り狂っている。

 

「貴女は下呂大将のところの五駆でしたか」

「はい、こんなにゆっくりこっそり近付かなければなりませんでしたが、誰もの視線を欺くことが出来ました」

 

大淀へは一太刀で沈めるほどの殺意ある斬撃。いつもの流れるような動きではあったが、大淀は即座に回避。相変わらずの異常な回避性能。

 

「三日月さんは貴女としては手元に置いて置きたかったのでは?」

「優先順位は若葉さんより低いですね。より至った若葉さんの方が素材として優秀ですから。欲しいか欲しくないかで言えば欲しかった、程度です。より良いものを手に入れるための犠牲にするくらいの存在ではありました。海老で鯛を釣るという言葉もあるでしょう? 三日月さんは所詮海老ですよ」

 

大淀が妄言を宣っていたが、今の私にはそんなことはどうでも良かった。三日月を自害に追い込んだ大淀への怒りは、今までとは比べ物にならなかった。

最初に仲間達を殺されかけた時よりも、初霜に姉を刺された時よりも、何よりも怒りと憎しみが湧き上がった。三日月をここまで巻き込んだことが何よりも許せない。心の底から許せない。

 

力が欲しい。大淀に抗う力が。

力が欲しい。大淀を殺す力が。

力が欲しい。力が欲しい。力が欲しい。力が欲しい

とにかく力が欲しい。何もかもを打ち倒す力が欲しい。

 

左腕が疼く。今は見えない左眼が疼く。頭が疼く。

シグも同調しているのがわかる。ぽいが必死に抵抗してくれたのは、私が見えたのだからシグにも見えたのだろう。それが怒りに火をつけた。持ってはいけない殺意に、私もシグも呑み込まれようとしている。

だが、それに抗おうなんて一切思えない。それで大淀が殺せるのなら構わない。もしかしたらこの侵食で私の身体はよりまずい方向に進んでしまうかもしれないが、それでも構わない。三日月を利用し、あまつさえ自殺させようとした報いを受けさせるために、私は何にでもなろう。

 

「おや、おやおやおや? これはもしや?」

「余所見をしている余裕がお有りで?」

「伊勢さん、日向さん、そっちはもういいです。こちらにいいですか」

 

雷達を牽制している伊勢と日向を自分の近くに戻して、旗風の処理を目論んでいるようである。私に何か起きることも見越してだろうか。

これにより雷達は解放されたが、過剰なストレスでその場から動けないようである。あれに関しては仕方あるまい。今は命の危険性が無いのなら良しとするべき。

 

「司令部より駆逐艦若葉へ伝令」

 

悪しき艦隊司令部による命令が響き、激しい衝撃と頭痛。だが、屈するよりも大淀への殺意が上回っている。命令を聞かない反逆者として、私は独自の()()()()()()を迎えようとしていた。

 

痣が拡がる感覚。さらに私を呑み込み、あらゆる場所が侵食されていく。脳はより一層蝕まれ、もう片方の眼も呑み込まれた。痣は今頃顔をより埋めるように拡がっていることだろう。知ったことではないが。

支配への抵抗で動かなかった指先が、ピクリと動き出した。私の反逆の意思が、身体を駆け巡るようだった。ただただ大淀を殺したいという圧倒的な殺意が、強制を超え真の反逆者として覚醒させてくれる。

 

「旗風、一死合願おうか。伊勢、お前はうちの大将を護衛していろ。旗風は私がやる」

「日向はホントそういうの好きだねぇ。はいはいお好きにどうぞ」

 

三日月を救ってくれた旗風は、大淀の側近である日向に絡まれていた。大淀はあくまでも私に興味があると言った感じで、私を見下ろしている。伊勢を護衛につけていたが、その横で人様の怒りと憎しみの変化をワクワクした面持ちで眺めていた。

 

「大淀……」

「発言を許可した覚えはありませんが」

 

立ち上がるために海面に手を突いた瞬間、海水が纏わり付くように私の腕を覆う。意識していなかったが、その腕は左腕、始まりの痣がある方だ。より深く堕ちていくのなら、それが起点になってもおかしくない。自分の身体が変化しているのを実感しながらも、妙に冷静だった。

そういえば、翔鶴が深海棲艦と化した時、海中に沈んでから新たな艤装を得ていた。あれは海水から賄う無限弾薬のように、海水を変質させて艤装を作り上げているのではないかと思う。今まさに、私の左腕ではそれが起きているのだろう。

 

「お前……ふざけるなよ……」

 

力が漲るようだった。三日月に殴られた場所の痛みは無くなっていた。左眼の視力まで回復している。まるで改装を受けたかのように綺麗な身体になっていくのがわかる。これでもう3回目だ。

 

「大将は下がんなさいな」

「いえ、これは是非ともこの目で見たいです」

 

もう片方の手も海面に突くと、両腕に海水が纏わり付く。気付けばその海水はグローブのように変化していた。これは夢の中でも見たシグの物。駆逐棲姫としての艤装が私に生まれようとしている。いや、シグが表側に出ようとしているのだ。

私とシグは今、大きく同調している。夢の中だけではもう留まらない。もののけとして見ているだけでも終わらない。共通の敵を自らの手で捻り潰すため、1つの身体で一緒に戦う。

 

 

 

「ここで……お前は若葉(ボク)が殺してやる」

 

 

 

脚に力が入る。自然と前傾姿勢になり、獣のように構えた。牙まで伸びるような、まるで本当に(ケダモノ)へと変化していくような感覚。目の前のものを全て殲滅したくなる、本能のままに生きていくようの思考変化。それでも一向に構わない。シグの恨みを、私の憎しみを、今この場で晴らしてやる。

この時には、大淀の支配による身体の硬直は完全に失われていた。今の私にはもう、悪しき艦隊司令部の力は無意味だ。一切の指示を聞かない反逆者として、私はここにいる。

 

「死ね」

 

太腿に備えた拳銃付きナイフを抜き、元々握っていた修復材ナイフと同時に携え軽く海面を蹴ると、海面が爆発したかのように水飛沫を上げた後、護衛の伊勢を無視し大淀の眼前にいた。簡単に手が届く場所。憎たらしい笑みを浮かべる顔面を、両の手に持つナイフで八つ裂きにするために、全力でナイフを振るう。

 

「こんな深海棲艦はいませんよ! ()()()()()()()()()()()()()んですね! 最高ですよ若葉さん!」

 

それを大淀は刃ではなく私の手首を握ることでその攻撃を止める。いつもならナイフそのものもを摘み上げるようにしていたが、それでは危ないと悟ったか。もしそうするつもりなら、確実に振り抜いていた。摘み上げる暇も与えず、顔面を切り刻んでいただろう。勘のいい奴め。

手首を掴まれたことでナイフはどちらも届かなかったが、大淀もそれなりに必死に私の攻撃を止めようとしているのが匂いからわかった。

 

「こらこら、私を無視とはどういうことかな」

 

真後ろで伊勢が私を真っ二つにしようと刀を振り下ろしていた。おそらく狙いは艤装の破壊。私がどういう状態になろうが、艤装を破壊されてしまったら航行不能で力も発揮出来なくなる。そう簡単にやられてたまるか。

大淀の手を振り払い、伊勢の振り下ろしをナイフで打ち払う。異常に重いその一撃は、受けていたらナイフごと私がやられていた。咄嗟の判断が功を奏した。

 

「お前に用はない」

「君に無くても私にはあるんだよね。うちの大将を殺さないでもらえるかな」

 

即座に横薙ぎ。振り下ろすのと同じ速さと重さを持っていたため、大きく飛び退くことでこちらも回避。結果的に大淀から離れる羽目になったが、そのまま受けていたら先程と同じように私自身が真っ二つにされていた。

大淀の意思は知らないが、伊勢は私を殺すつもりで刀を振るっている。斬撃に乗っている殺意が段違いだった。一撃一撃が必殺級なため、全力で回避する以外に選択肢が無い。

 

「そこを退け。邪魔だ」

「そう言われてもね。私の仕事は護衛なの」

「なら死ね」

 

もう救出だとか考えている思考は無い。理性などとうに捨てた。伊勢も邪魔をするなら殺す。容赦なく殺す。被害者であるなど関係ない。

先程と同じように海面を蹴る。またもや水飛沫が舞い散り、即座に伊勢の眼前。刀の間合いよりも近付き、反応出来ないであろう速度で首を薙ぐ。

 

「おっと危ない! ちっちゃいからすばしっこいのかな」

 

だが腹を刀の柄で殴られ、吹っ飛ばされることで間合いを無理矢理作られた。薙いだナイフは首に届かず空を切る。

飛ばされ海面に激突するが痛みすら感じなかった。またもや大きな水飛沫が立ち、私はそれに呑み込まれるように軽く沈む。

 

その時、両手のグローブのように海水が私に纏わり付き、新たな艤装を生み出していった。ナイフを収めていた太腿には特に多く纏わり付き、シグの持つイ級のような見た目の魚雷発射管が完成した。今までの艤装はそのまま、シグの力まで発揮できるようなもの。

 

「大淀、お前は必ず殺してやる。若葉(ボク)が、この手で」

 

浮上し、改めて大淀を見据える。もう殺意しか沸かない。何もかもをかなぐり捨て、三日月を貶めた報いを命を以て償わせてやる。

 

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