継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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指輪の重み

来栖提督が提言してくれた、さらなる艦娘の強化方法。練度が限界に達している艦娘のみが行なえるという、艦娘のスペックを底上げする処置。指輪を着けるだけではあるが、結婚という名目がつく体裁上の諸刃の剣、ケッコン。

ある意味ノーリスクで強化されるということで、私、若葉と三日月はそれを受けることにした。練度については測ってもらう必要はあるが、おそらくそこは心配していない。以前測った時からかなり高く、そこから何度も訓練と実戦を繰り返している。

 

「練度99、限界値ですね」

 

明石に測ってもらったところ、案の定である。私も三日月も成長限界に達していたようだ。ケッコン以外での強化となると、技を研ぎ澄ますくらいしか無くなってしまう。それでも限界はあるだろう。練度が上がらないのだから。

 

「これで全員測り終えました。お疲れ様です」

「どうだったよ」

「練度が上がりきっていないのは暁と初霜だけですね」

 

暁は参入が遅かったのと、練度1の状態で拾われたというのもあり、まだ限界までは行っていないようだ。ただし、あと少しで達成するらしく、充分戦力として扱えるレベルになっている。リコの特訓恐るべし。

初霜に関しては、記憶を失っているのだから以降の練度は上げる必要が無かった。完成品だからといって練度が限界に達しているわけでもないようだ。

 

「暁はまず改装ですね。第二改装まで行けますから、鎮守府に来てもらえればすぐにでも出来ます」

「そうなんだ。先生、それでいいかしら」

「ああ、練度が高いのなら改装してもらった方がいい。身体が強くなることはいいことだ」

 

より戦えるようになるというより、死にづらくなるというのが大きい。死ななければ治せるのだから、なるべく長く生きられる手段は全て推奨である。

暁はこの後、来栖提督の帰投についていく形で鎮守府へ出向。改装を受けて明日施設に帰投するという流れが出来そうである。さすがに1人だけで行くのはやめたほうが良さそうなので、数名は便乗することになるだろう。姉妹である雷や、従兄弟に近い存在である曙、あとは台所の手伝いである呂500辺りが適任か。

 

「あとですね、深海棲艦の方々は測っても練度1で固定でした。おそらくですが、生まれた時点である意味練度の限界のようです」

「なるほどな。艦娘と違って成長しないってことか」

「ですね。おそらく例の処置をしても何も変わらないんじゃないかなと。やってみる価値はありますが」

 

ということは、残念ながら深海棲艦の面々はケッコンは出来ないという方向に。死んで蘇った赤城は元より、生きたまま変化させられた翔鶴もダメらしい。深海棲艦に変化した時点で練度は1に戻され、それが限界となったようである。

私や三日月のような侵食では練度が戻されるようなことは無かったのはありがたい。これでこれ以上は無理と言われたら八方塞がりだった。

 

「なら、大淀はこれ以上成長しないということか。改造はあるかもしれないが」

「完全に深海棲艦となっているのならそうでしょうね。翔鶴さんがそれを実証してくれています」

 

それでも油断ならないのが大淀なのだが。艤装やら身体やらを改造して強化されてくる可能性は全く否定が出来ない。

 

「暁と深海勢以外は全員可能ってことだな。結構人数いるじゃねェか」

「準備済みなんだろう?」

「まァな。ありがてェことに、大将が20人分は用意してくれてるらしいぜェ。深海勢が可能ってんなら足りなかったが、これなら足りてるな」

 

1つ用意するだけでも大変だろうに、さすがは下呂大将だ。とはいえ使わなかった分は回収らしいので、大本営も少し噛んでいそう。

 

若葉(ボク)と三日月はさっき言った通り処置を受けさせてもらう。よかったよな」

「ああ、他には全容を伝えておかないといけない。抵抗がある者もいるだろう」

 

指輪をただ着けるだけ。それだけでも随分と重いことになってしまった。大本営を少し恨むものも出てきてしまいそうである。

 

 

 

来栖提督を交えて、全員の前でケッコンのことが説明された。元々別の鎮守府にいた加賀や赤城はこういう強化があることは知っていたようだが、それ以外のものはその存在すら知らなかったようだ、大淀もそれについては何も伝えていなかったようである。

当然ながら打ち合わせの場は大波乱。やはりケッコンという名目と指輪を身につけるという行為がそれを助長している。強くなれることと婚約が同義語となると抵抗が現れるのもわかる。

 

「若葉と三日月は決まっている。他の者は自分で決めてもらいたい」

「重てぇ名前だなぁオイ。あたしらは誰と結婚することになんだよ」

「システム上の名目だ。誰かと婚姻を結ぶわけじゃない。鎮守府では提督との婚約のように扱われることも多いが、ここにはそういう者はいない。ただの強化アイテムとして見るべきだろう」

 

などと飛鳥医師は取り繕っているものの、この施設に飛鳥医師しか男性がいない以上、変に意識してしまうのは確かである。

それに比べて私と三日月の余裕感からの高みの見物。施設公認の仲というのはこういうところでも大きな意味を持つものである。どういう目で見られようがお構いなしである。

 

「来栖、今ここにはいくつかあるのか?」

「いや、今日は持ってきてねェ。大丈夫だとは思ってたが、練度の計測も必要だからよォ。数が決まったら明日にでも送らせるぜェ」

 

今すぐケッコンというわけではないので考える時間は貰えるようだ。とはいえおよそ半日。正直強化を受けない理由はないのだが、心の準備というものが必要だろうか。

私としては早急がいいと思う。今日突然襲撃に来る可能性だって無いわけではない。強化は早いうちがいいだろう。

 

まぁこれは建前。早く三日月とのケッコンしたいというのが本心。証が欲しい。だが、施設の仲間達の前で証を立てるというのもいいかもしれない。どちらかといえばそちらに迷ってしまう。

 

「暁の改装についていけば、指輪がすぐに手に入るんだろうか」

「そうなるなァ。大将に用意してもらった指輪は、うちの鎮守府にあるからよォ」

 

指輪が20個積んであるのは壮観だろう。それはそれで一度見てみたいものである。

 

「ならば、若葉(ボク)と三日月は暁に便乗させてほしい。あちらでケッコンするかはさておき、そちらの手を煩わせることは無いだろう」

「姉さん達にも会いたいので、私達が遠征という形で取りに行くということで如何でしょうか」

 

三日月もやはりどうせなら私達の居場所であるココでケッコンしたいという気持ちはある。だから、遠征という形での出向を希望した。

それに、文月達にも報告しておくのもいいかもしれない。妹さんを下さいと言わんばかりのご挨拶である。

 

「誰かに付き添いをしてほしいとは思ってたんだ。なら若葉と三日月、君達に任せる。あとはそうだな、暁が行くなら雷、付き添いをしてもらっていいか」

「りょーかい! お姉ちゃんのことだもんね、勿論私が行くわ!」

 

これで簡易駆逐隊となって1日だけの出向が出来る。大発動艇を使える者はいないものの、運ぶものがそこまでの荷物では無い。鎮守府から帰るときの荷物なら手で運ぶくらいで行けるだろう。

遠征はそれはそれで今までにやったことがないので楽しみである。これだけ長く施設で生活していて遠征1つしたことないとか、駆逐艦娘としてどうなのだろう。

 

「それじゃあ飛鳥、数が決まったら連絡くれや。出来りゃ今日中、最悪明日の朝な」

「ああ、暁のこと、よろしく頼む」

「あいよ。それじゃあやることもやったし、帰るぜェ」

 

これにより来栖提督の用事は終了。ここからは暁の改装のために鎮守府へと出向し、私達は指輪を運ぶための遠征となる。物資搬入の遠征というのは初めて。少し楽しみだ。

 

 

 

施設を出て、来栖鎮守府に到着した時にはもう薄暗くなっていた。午後から施設で用事を終わらせ、その日中に帰ろうとすると、どうしてもそういう時間になってしまう。

ここに来るのも久しぶりだ。以前に来た時は空襲を受けて半壊していた時だが、今は前よりも強靭に修復された後。工廠も以前よりも広く、使いやすくされているように見えた。

 

「じゃあ早速だが、暁の改装を始めるぜェ。つっても、30分もかからねェ。それは知ってるよなァ?」

「ああ。第二改装までやった摩耶の時にそこまで時間がかからなかったのを覚えている」

 

それくらいなら工廠で待てばいいだろう。雷も姉が改装でどうなるか楽しみのようで、工廠から離れる気は無さそうだ。

 

「お姉ちゃんは改二なのよね。すごく強くなって帰ってくるかも!」

「そうだな。あのリコに鍛え上げられてるのもあるし、もう十分戦力だろう。戻ったら夜間警備に参加してもらうことにしような」

「そうね! これで駆逐隊も3つ作れるわ!」

 

今までリザーバーだった朝霜と巻雲も、如月と暁と組むことで新たな駆逐隊として活動出来るだろう。隊内部で入れ替えをしてもいい。それこそ以前のように、九二駆を夕雲型で固めてもいいかもしれない。その辺りは戻ったら考えよう。

 

暁が改装を受けている間に、件の指輪を見せてもらう。試作品とかそういうのではなく、本物。明石に絶対に嵌めないようにと念を押された。嵌めた時点でケッコン完了。情緒も風情もなく処置が終わってしまう。実際はそれでいいのかもしれないが、私達はそれでは困る。

しっかりと小さなケースに入ったそれは、どちらかと言えば飾り気のない銀のリング。だが、艦娘である私達だから感じることの出来る力のようなものを感じる。

 

「これがケッコン指輪……確かにただの指輪じゃないわねコレ」

「鎮守府によっては選ばれた者しか着けられないリングなんですよね……。何処か神々しさを感じます」

 

三日月もしげしげと見つめていた。嵌めてはいけないのだから、ケースから出すこともなくただ見るだけ。触れもしない。

 

「雷は処置を受けるのか?」

 

私達には躊躇いが無かったが、雷はどうなんだろう。私達には全員その選択権がある。名目上の結婚という形になるが、抵抗さえしなければ全員が貰えるものだ。

 

「私? 私は受けるわよ。だって、施設を守るためには力が必要だもの」

 

あっけらかんと言ってのける。名目なんて関係無しに、施設の存亡がかかっているのだから躊躇しないと。

他の誰よりも施設に愛着があるのが雷だ。未だに敵を殺さない水鉄砲を使い続けているが、施設を守るためには手段を選んでいられないと考えている。不殺さえ出来れば良し。それ以外は全て掴み取るようだ。

だから雷には恋愛感情的なものは微塵も存在していない。雷にとっては、誰もが好きの対象である。飛鳥医師にも、私にも、等しく好意的。だからケッコンという言葉にも抵抗がまるで無い。

 

「それに、先生とそういう仲で見られるのは苦じゃないわ。長い付き合いだしね。そもそも施設に来る人は事情を知ってる人達ばかりでしょ」

「まぁ確かにな」

 

そういう意味では躊躇う必要は無かったか。特に雷は、何があっても施設から離れるようなことは無いだろうし。

それは私も同じだ。こんな身体になった以上、戦いが終わっても三日月と共に施設に居座り続けることになる。特に三日月は、肌を治療してもらうという約束もあるわけだし。

施設を離れる可能性がある者は少し抵抗があるかもしれない。

 

「若葉と三日月も?」

若葉(ボク)と三日月はお互いに送り合う形でな」

「2人でケッコンするんです。式は挙げませんけど、指輪交換はするつもりですよ」

 

それを聞いて、雷は素敵だと称賛してくれた。施設公認の仲であるお陰で、みんな理解してくれている。これは絆の証なのだから、指輪交換でより深い仲になれるだろう。そもそも大分深いが。

 

若葉(ボク)がここに来たのは、ほら、二二駆の面々に報告もしたくてな」

「報告? 三日月さんを僕に下さい!みたいな?」

「それに近いな」

 

そうやって突き付けられると途端に緊張感が出てきてしまうが、元々三日月に私との仲を問い詰めるような姉妹達だし、付き合いも長い。三日月からどう聞いているかは知らないが、正直心配はしていなかった。

 

「私は応援してる。どんな形であれ、2人は幸せなんでしょ?」

「ああ」

「はい、勿論」

「なら言うまでも無いわよね。何はなくとも楽しく生きていけるのが一番よ。2人の選択は、きっといい方向に行くわ!」

 

雷も祝福してくれる。その後押しだけでも自信が持てるというものだ。

 

みんなは強化的な意味合いが強いが、私達には少しだけ意味が変わる。今からその時が楽しみである。

楽しく生きるを実現するためには、三日月の存在は必要不可欠だ。いてくれるだけで、私は楽しく生きていける自信がある。

 




暁は改二で探照灯を持ってくる上に索敵も上がるため、実は夜間警備に最も最適な人材。しかもここの暁はリコに鍛えられています。空襲への回避性能は段違い。
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