継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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義理の姉妹

みんなの祝福の中、私、若葉と三日月のケッコン式が執り行われた。その中で指輪交換を行ない、練度の限界を越えることに成功。男装させられたのも相まって、とても思い出に残る一幕となった。最後に明石が写真撮影までしてくれて、さらには式で使った服はプレゼントとして貰えるとのこと。これも立派な思い出の品だ。

 

その日の夜、本来は夜間警備だったのだが、暁の初陣をしておくということで私と三日月がトレード。リザーバーから暁と如月が夜間警備に出てくれた。如月からは初夜だものと物凄く余計なお世話をされたが、気遣いはありがたくもらっておこう。

 

「姉さんの気遣いが身に染みるわ」

「だな。如月はよく気が利いてくれる。たまにお節介だが」

「若葉も姉さんにとっては義理の妹なのよ」

 

急に貰った休みのようなもの。風呂に入り寝間着姿で語らう。如月から言われたせいで、新婚初夜というイメージが頭から離れず、いつもの夜とは少し違う感覚を持ってしまっている。

式の時から若干意識していた。明石に振られた誓いのキスの件を後回しにし、今の今までお互いに我慢してきている。夜に2人きりとなった時点で、三日月からも悶々とした匂いが漂い始めた。そして私もそれに引っ張られている。

 

「しかし……本当にこういう関係になったんだな」

 

左手の指輪を見てしみじみと呟いた。今はもう施設内の殆どの者が持っているものではあるものの、私と三日月のこれは意味合いが違う。お互いの想いが詰まった、心の拠り所だ。気持ちの持ち方が違う。

 

「……不思議な気分ね」

「ああ。だが、悪くない」

 

自然と手を繋いでいた。悶々とした匂いはより強くなり、お互い気分が昂っているのがわかる。夜であることもあり、初めて()()()()()時のことも思い出される。

気分が昂揚する。愛し合うには絶好の条件が整っている。三日月の眼も少し潤んでいるように見えた。お互いの気持ちは同じだ。

 

「三日月、もう若葉(ボク)は我慢出来そうにない」

「私も。式の時からずっと我慢してたもの」

 

誰も見ていないが誓いになるだろうか。お互いに誓っているのだからいいか。などと考えている間に、三日月側から来た。目の中にハートマークが見えた程である。

我慢出来ないと宣言しただけあり、そこからはもうすごかった。初めての時よりも激しかったと思う。

 

 

 

翌朝、清々しい朝。身も心も満足して眠り、目が覚めたら目の前に愛する人がいる。なんて素晴らしい1日の始まり。今までもそうだったが、ケッコンしたことでより一層世界が明るく見える。

時間としてはまだ薄暗いがそろそろ夜明け。いつもの時間よりほんの少し早いくらいか。夜間警備がもう少しで終わるかなというくらいのタイミング。

 

「おはよう、三日月」

「おはよう、若葉」

 

私が起きると同時に三日月も起きていた。布団の温もりと三日月の温もりが気持ちいい。昨日は少し激しかったが、朝は眠気もなく起きることが出来た。

 

「いつものに行こうか」

「うん、今日はシロさんとクロさんも便乗よね」

「ああ。エコの散歩だからな。今はそういうケアが必要な時だ」

 

朝は早いがちゃんと起きれているだろうか。今はセスと一緒に寝ているし大丈夫だとは思うが、少し心配。

 

ささっと着替えて外へ。私達が出ると既にセスが外にいた。これはいつも通り。少し違うのは、エコと元気に遊んでいるクロと、セスの隣で寝惚け眼なシロがいること。一応は起きれているようだ。

 

「おはようみんな」

「おはよう。いつも精が出るな」

「基礎は怠れないからな」

 

基礎トレーニングほど怠るわけにはいかない。ケッコンして練度の限界を越えた今なら尚更だ。基礎をしっかりしておかなければ、鍛えられるものも鍛えられない。

 

「……昨日より……繋がりが濃くなってる」

 

シロの的確な一言。前回もそうだったが、知識は無くても指摘はしてくるから恐ろしい。今回はケッコンしたからということでどうにか誤魔化したが、クロはさておきシロはいろいろ勘付きそう。

三日月が来たからか、クロと遊んでいたエコが三日月の方に突っ込んできた。これもいつもの光景。今までの基礎トレーニングのおかげで体幹がしっかりしている三日月は難なくそれを抱き締める。これくらいなら艤装が無くとも余裕である。

 

「わっ、もう、エコちゃんは元気ですね」

「エコってミカヅキのことホント好きだよね」

「ええ、いつもこの時間は体当たりを」

 

三日月も加わってエコを舐め回す。艤装ではあるがエコが喜んでいるところが見えるようだった。三日月とクロの顔をペロペロ舐めながら嬉しそうな息を漏らしている。

 

「それじゃあ、散歩行くぞー」

「はーい! ミカヅキ、エコ、行こう行こう」

 

先日からは大分元気になっているように見える。だが、匂いからはまだ完全に開き直れてはいないことが嫌でもわかる。この中で唯一正気を保っており、あの戦場で大きく変化させられた私を見ると、どうしてもあの時の感情を思い出してしまうようだ。それでも、私達に心配させまいと明るく振る舞っていた。

心が痛いのに私を離そうとしなかったクロは、メンタルがとても強い。外面も内面も子供だが、芯は通っている。大淀なんかより人格者だ。

 

「シロ、行けるか?」

「……うん、大丈夫」

「無理せずにな」

 

シロクロはエコの散歩に参加するのも初めて。クロは性格通り元気いっぱいで体力もあるが、シロはクロと真逆。頭脳労働タイプなので体力があまり無い。それでも海中ではまるで違う動きを見せる辺り、特殊な潜水艦なだけある。

 

エコのスピードに合わせて歩いたり走ったり。クロが煽って全速力で走ったりするものだから、エコは大喜びだが三日月はゼエゼエと言い出す。シロは最初から走るつもりはないようで、セスと一緒にゆっくり歩きながらついてきていた。

私はどちらにも付き合うイメージ。全力疾走もやったり、ゆっくりとした散歩にも付き合ったり。エコやクロと戯れる三日月を遠目で見るのも良いものだ。どの視点から見ても愛らしい。

 

「……まだまだ……開き直れないね」

 

ボソリとシロが呟く。私が来栖鎮守府に出向していた一昨日や、三日月と共に寝た昨日も、シロは案の定悪夢に苛まれたらしい。クロも魘されたようで、エコを抱き枕にしていたがそれだけでは足りず、セスが2人とも抱き寄せたのだとか。

今も見た目相応に子供っぽく、セスと手を繋いで散歩しているくらいだ。次の戦いは深海勢は欠席となるが、出来たとしてもまともに戦えるかもわからない。その時までに開き直れるかなんてわからない。子供なのだからずっと気にし続ける可能性だって高い。

 

こんな形で施設の最大戦力が封じられるだなんて思いも寄らなかった。

 

「いいんだ、シロ。ゆっくり、一歩ずつ行こう。お前のは時間がきっと解決してくれるはずだ」

「……うん。ごめんね……大事なところで役立たずで」

「何を言ってる。十分に役に立ってるだろ。艤装のメンテ、完璧だったぞ」

 

出来ることはしっかりとやってくれている。それで今は充分だ。施設で艤装を整備することだって戦いの1つ。

シロも最初は不器用だったが、今はクロと一緒にやり続けただけあって工廠仕事も完璧。作業が遅くとも丁寧な仕上がりなので信用度も非常に高い。

 

「お前達は気負い過ぎなんだよ。甘えていいって言ったでしょ」

 

だんだん俯いてきていたシロの頭をセスが撫で回して慰める。やはりこういうところを見ると、本当の姉妹のようにも見えた。

 

「私は……クロちゃんのように強くないから……」

「強くなくちゃいけないわけじゃないよ。私見てみな。エコがいないと何にも出来ないんだから。戦力で言ったら私が一番弱っちいんじゃないかな。それに、まだ知り合い以外の他人が怖くて仕方ないよ。自慢じゃないけどメンタルも弱いからね私は」

 

自虐的な発言だが、それを自覚しているセスはその分だけ強い。自分の弱さをしっかり知っているから、妙に立ち回り方が上手くなっている。人との関わり合いを避けたがるからか変に回避性能は高いし、エコがいるのなら軽空母としては無類の強さを誇っている。

自分の在り方を理解しているからこそ、こんな戦い方が出来るのではなかろうか。

 

「私から見れば、シロも凄く強いよ。妹のこと、よく見てるじゃないか。気にさせないように気丈に振る舞ってるのはわかってるんだからさ。本当に弱かったらそんなことも出来やしないから」

「そう……かな」

「そうだよ。だから、シロの強さは私が保証する」

 

ニカッと笑った。その笑顔に、シロの不安も少し薄れたように思えた。やはりシロには甘える相手が必要だったのだ。

この数日間、常にセスが2人の側にいた。辛くなったらすぐに甘えられる相手がすぐ横にいるというのはそれだけでも心強い。クロはもうそれで安定を手にしていたが、シロはもう少し時間がかかりそう。

 

「……セスは……強いね」

「さっきも言ったけど、私は弱いよ。でも、ここで暮らしてきていろいろ知ったからさ。楽しく生きような」

 

ここでなら楽しく生きていけるだろう。何もかもが終わったら施設を出るかもしれないが、その時が来るまではここで楽しんでほしい。

 

「……お姉ちゃんみたいだね……セスは」

「別にそう思うならそう接してくれても構わないよ」

「……ありがとう……セス姉さん……」

 

姉と呼ばれてセスがときめいたのは誰が見ても明らかだった。そういう関係もいいだろう。深海棲艦に姉妹関係というのは稀のようだし、心の支えをそういうところに見出すことも悪いことではないだろう。

 

 

 

散歩終了。三日月はクロとエコに振り回されていつも以上に疲れているようだった。朝食後くらいに風呂に行くべきだろう。ただでさえ上から下までジャージフル装備なのだから、私以上に汗をかいているようにも見えるし。

 

「夜間警備、お疲れ様」

 

そのまま工廠へ向かい、交代してもらった夜間警備の出迎え。今回は私と三日月の部分を暁と如月に交代してもらった五三駆である。本来私である旗艦は曙に代理を任せていた。引率は瑞鶴。潜水艦は伊504。

見た感じ何事も無かったことはよくわかった。ただただ疲れたという匂いと表情である。

 

「夜間警備は何事もなく終了。あー疲れた!」

 

瑞鶴が宣言し、全員が大きく息を吐く。一斉に疲労感を外に出した。引率の瑞鶴も何度も哨戒機を発艦したようで、大分お疲れの様子。

 

「みんなこんなことやってたのね……物凄くお世話になってたのがわかったわ」

「お姉ちゃんもこれからは一緒にやるのよ」

「え、ええ……すごく眠いわ……」

 

特に疲れているのは暁。初めての夜間警備に緊張していたのだろう。やっと終わったと言わんばかりの匂い。工廠に戻ってきたらドッと疲れが出たようだ。これだけやって疲労感をあまり出していないのは曙くらいである。

案の定、暁は夜間警備では大活躍だったようだ。何事も無かったにしろ、最初から持っている探照灯で闇夜を照らし、高い索敵能力で周囲を確認する。正直、今後も必要不可欠な存在だ。3つ目の駆逐隊の旗艦は暁になるのでは無かろうか。

 

Ho fame(お腹空いた)! 美味しそうな匂いもするし、早く行こう行こう!」

「はいはい、その前にアンタはちゃんと身体を拭きなさい」

「はにゃはにゃ、わかってますよーだ。ボノ、タオルタオル!」

 

海中から浮上してきた伊504は、多少は疲れているようだが元気いっぱいに空腹を示す。海中というのはやはり勝手が違うのだろうか。

 

「姉さん、交代ありがとうございました」

「いいのいいの。妹の新婚初夜だもの、如月からの餞別よ」

 

などと言いながらもこちらをニヤニヤしながら見てくる。如月はいろいろと察しているようだった。少し近付いてきて、ボソリと

 

「昨晩はお楽しみだったのかしら」

 

酷いことを呟くものである。そしてそういう関係を一番望んでいるのは如月ではないかと思えた。ただの耳年増な子供に見えなくもないが。

だから、私もハッキリと答える。

 

「ああ、楽しませてもらった」

「あらあら、それがどういう意味なのかは詮索しないでおくわね。妹もいいお婿さんを貰ったみたいで、如月嬉しいわ」

 

私と三日月の蜜月を手に取るように把握しているような仕草。私のように匂いがわかるわけでもなし、当たり前だが監視カメラを仕掛けているわけでもなし。本人曰く、乙女の勘。そんなことに勘を働かせなくてもいいと思うのだが。

 

「若葉ちゃん、これからも妹をよろしくね」

「言われずともちゃんと守るさ。義理の姉として、見守っててくれ」

「ふふふ、そうね。後は子供でも産んでくれればいいのだけど」

 

それは流石に無茶というもの。

 




シロはクロよりも深海棲艦としての能力は優れているかもしれませんが、それ以外は全て劣っています。不思議な能力を手に入れている代わりに、フィジカルやメンタルが残念。

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