継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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旧友の帰投

利根と筑摩との演習は、私、若葉と三日月のタッグで相手をしたことで、その実力を窺うことが出来た。戦い慣れているようにも見えるので、即戦力として有能である。

だが、少し攻撃がわかりやすい、悪く言うなら()()()()()な感じはしたので、その辺りは少しだけ口を出しておいた。今回の敵はまともな考えでは戦えない。艦娘としては反則技のようなこともしていかなければ勝てるものも勝てなくなる。

 

顔合わせとしてはこれで終了。演習は想定外だったが、こちらの状況も伝えることが出来たし、やることは全てやれただろう。とはいえ時間は昼食時。突然の来客とはいえ、蝦尾女史筆頭の料理班は、しっかりと2人分追加で作っていたため、会食が開かれることに

 

「すみません、突然来たようなものなのにここまでしていただいて」

「いえいえ、今後協力関係になるのでしたら、これくらいさせていただきますよ」

 

申し訳なさそうな筑摩に対し、蝦尾女史も2人分増やすくらいわけないと笑顔で応える。一応利根と筑摩は戦闘糧食を持っていたようだが、それを食べることは無くなったようだ。

 

「また吾輩達の鎮守府にも是非来てくれ。秘書艦殿も喜ぶじゃろ」

「事が済んだら行きたいものだな」

 

利根にも言われ、来栖鎮守府とは違う鎮守府というのにも興味が湧く。

何でも中規模程の大きさの鎮守府であり、有明提督の階級は中佐。それでも実力は高いらしく、任じられる作戦は全て好成績を収めているそうだ。とはいえ今回もあったようなドジがちょくちょく出るせいで、何かと振り回されているのが部下の艦娘達。

 

「もう少し落ち着きがあればいいんじゃがなぁ。補給を忘れたり、任務をチェックせずに開発をしたりとなぁ」

「相変わらずなのね、あの人は」

 

唯一有明提督を知っている加賀が反応。知っている時から何も変わっちゃいないらしい。その当時を思い出してしみじみと語る。赤城もうんうんと首を縦に振った。

何というか詰めが甘い。初心者がやりがちなことを繰り返しているようなイメージ。落ち着きとかそういうものなのかはわからないが、ノリでしでかすタイプと見た。

 

「私が生きていた時から致命的なミスは無いんですよね。すごい危ういバランスの上に立ってる気がしてならないんですよ」

「お恥ずかしい限りで……。秘書艦の鹿島さんがサポートしているのでそれなりに無くなっては来たんですが……ご覧の通りです」

 

アポ無しでここにいる利根と筑摩が、有明提督のポカの証拠。今回は軽めのドジなのでまだ笑って許せる方か。

旧友と話すのは嬉しいらしく、赤城も一段と楽しそうだった。食も進むようである。利根も筑摩も赤城の変貌には相当驚いているようだが、のっぴきならない事情があるのは誰が見たってわかるため、細かくは聞いていない。

 

「誰も沈まずにここまで来れておる。それだけで充分じゃの」

「そうね。でも気をつけるように言っておくことよ。貴女達の鎮守府も狙われかねないわ」

 

加賀の言葉には重みがある。現に滅んだ鎮守府の唯一の生き残りなのだから。利根も少し悲しそうな匂いを漂わせつつも、それを表に出さずに頷くのみであった。

 

 

 

昼食後、利根と筑摩は帰投。急な客で驚いたものの、滅多にやることのない演習が出来たので、私や三日月は有意義な時間を過ごせたと思う。戦闘中での連携でお互いの繋がりをよく感じ取れたし、実戦経験が増やせたのはありがたいことだ。

見えなくなるまで、また見えなくなっても少しの間は、加賀と赤城が哨戒機を使って2人を見送っていた。今はこの施設近海ですら危険なところはある。行きは2人でここまで来れたものの、帰りに襲われる可能性だって無くはない。いくら中立区だとしても念のためだ。

 

「仲が良かったのか?」

「ええ。合同演習をよくやったんですよ。その時からの仲ですからね」

 

赤城もその時のことを思い出していた。一度死んで蘇った身でも、当時の記憶はハッキリと覚えているため、旧友との再会は落ち着いていた赤城の心をより一層穏やかにしていた。

 

「私はあちらに行くことはもう叶わないでしょうね。残念ですが」

 

少し悲しそうな顔。匂いは少しだけどんより。利根と筑摩に出会ったことで、他の旧友達と出会いたいという欲が出てきてしまっているようだ。

そして、それを叶わせないようにした大淀に対しての恨みと憎しみが余計に拡がっていくのがわかった。やはりそういうところは深海棲艦。根本がそれで出来てしまっているために、思考がそちらに流されやすい。

 

「大発動艇を使ってでも会いに行きましょう。今回の件が終われば、それくらい楽に出来ますよ」

「そうですね。その時は加賀さんも一緒に行きましょうね」

「勿論」

 

クスリと笑い、有明鎮守府に行くことを誓う。私も他の鎮守府というのは行ってみたいものだ。私のような異形でも受け入れてもらえそうならば、施設から出向していろいろなところに行ってみたい。勿論それは三日月とだ。

だが三日月は他人の目をとても気にする。その辺りは考慮して、お互いに嫌な思いをしないようにして、所謂()()()()にでも行きたい。

 

「哨戒機より入電……利根と筑摩が見えなくなったかしら」

「もうそれくらい離れていてもおかしくはないですからね」

 

哨戒範囲のギリギリまで見送っていたが、それも届かない位置まで航行したのだろう。これで見送りも終わり。

 

と、思いきや、加賀から意外な言葉。

 

「深海棲艦の侵攻を確認……!?」

「ここ、中立区でしたよね。深海棲艦が発生もしなければ侵攻もされないという。まぁ私はここで発生してしまったわけですが」

 

あり得ない。今赤城が言った通り、発生はおろか侵攻すらされないのが中立区の特徴だ。だから今まで自衛手段すら持ち合わせていなかった飛鳥医師達がここで暮らしてこれたのだ。

深海棲艦の発生はもう数度されてしまっているため、驚かなくなってしまった。近海で引き揚げ不能なほどの亡骸になってしまった時、その怨念が深海棲艦を発生させてしまっていることはわかっている。

だが、侵攻は今までに無かった。どういう理屈で深海棲艦が侵攻するのかはわからないが、少なくとも私がここに住まわせてもらっている数ヶ月、飛鳥医師が滞在し始めた長い時間の中でも初めてのことだ。

 

「数は!」

「……かなり多いわ。連合艦隊、いや、それ以上ね」

 

今までは姫、もしくは完成品が人形を連れての進軍だったが、それとは全く違う侵攻。敵の強弱はさておき、施設の防衛、そして利根と筑摩の援護のためにも、すぐに出撃しなくてはならない。

念のため施設内に警報を鳴らし、この場にいる4人ですぐさま出撃した。数が多いということは、利根と筑摩がやり手でも押し潰される可能性がある。

 

「武器だけ持ってすぐに向かうぞ。魚雷を装備してる時間はない!」

「私も主砲を1基だけ!」

 

加賀と赤城は哨戒機を飛ばしていただけあり艤装は装備していたため、先行して向かっている。私と三日月はすぐさま武装を手に取り、一航戦の向かった方へと飛び出した。後から誰かしらついてきてくれるだろう、それまでは粘る。

 

 

 

戦場に到着すると、半分近くは終わっているような状態だった。艦載機による爆撃で大分数を減らしており、潜り抜けた大型艦のイロハ級を各個撃破している。

幸い利根と筑摩に怪我は無く、戦況も悪いわけでは無い。加賀の言っていた通り数だけは多いが、力としては普通なイロハ級。搦め手もしてこないため、大淀の部下達よりは戦いやすい。

 

「すまぬ! 一航戦のおかげで助かった!」

 

2人の哨戒機による見送りが無ければ気付けなかった。そうで無ければ施設まで近付いてもらうしかなかった。遠目でも施設から見える位置までこの状況を持ってきてくれれば、嫌でも誰かが気付くはずだ。

 

「何処から来たんだコイツらは……!」

 

野良でありイロハ級であるのなら、この深海棲艦達は皆、怒りと憎しみに呑まれ理性を無くし破壊を望むだけの存在。それならここまで来るのは何かがおかしい。1体2体がたまたま流れてきたならまだしも、この数が一気に流れ込んでくるとなると人為的な何かを感じる。

と、ここで筑摩の言っていたことを思い出した。姫級もいないのに、妙に統率された群れの討伐作戦を行なっていたということを。

 

「……大淀の支配か」

 

戦闘中ではあるが、少し念入りに匂いを探る。野良の深海棲艦なら怒りと憎しみ以外の匂いは無いはず。だが、今回はそんなものでは無かった。

 

()()()()()()()()()()()

 

「な、何なんだコイツら……無感情な深海棲艦……?」

「援軍来たわよ!」

 

都合よく、援軍として来てくれたのは曙と雷。だが、雷は少し戸惑い気味な表情。

 

「なんで、なんで! この子達、()()()()()()()!」

 

雷がそう言うのなら、私が感じ取った匂いもあながち間違いでは無い。無感情で無言。戦闘経験が少ない私達でもわかる。そんなイロハ級はおかしい。ここで大淀の支配によるイロハ級の侵攻であることを確信した。

意思だけでなく、本能すらも塗り潰され、生きたままに人形にされたイロハ級。この世に持っていた怨念すらも失ったただの傀儡は、言われるがままにここに来てしまったのだろう。

 

ならば完全に巻き込まれただけの部外者だ。倒すのが悔やまれる。だが放置していてもいい事がない。

 

「くそ……イラつく!」

「今は処理するしかないでしょうが! 躊躇ってたら死ぬわよ!」

 

人形と同じように、気絶させて治療したら元に戻るというのなら、いくらでも殺さずで倒していく。だが、イロハ級は支配が解かれたところで理性のない侵略者だ。どうであれ私達は襲われることになる。

いたたまれない気分になるが、曙の言う通り、今はこの群れを処理するしかない。心の中で謝りながら、近付いて来たイロハ級を一刀で斬り伏せた。

 

「この身体になってよくわかりますよ。この子達は普通じゃないと」

 

空爆を続けながら、赤城が忌々しげに呟いた。純然たる深海棲艦の姫として生まれ変わってしまったことで、イロハ級の意思のようなものはわかるようになったらしい。

思い返せば、リコも姫としてイロハ級を仲間にしていた。リコの仲間のイロハ級は、リコに合わせた温厚な性格であったことを覚えている。最期に姫に脚を提供するなんていう献身まで見せたくらいだ。

姫級はイロハ級と意思を通わせることが出来るのだと思う。初めてここに駆逐イ級が現れた時、セスが声をかけたこともあった。その時は完全に理性は無かったため、泣く泣く処理することになってしまったが。

 

「巻き込まれてしまったのはもう仕方ないでしょう。ここで安らかに眠ってもらいます」

 

赤城の爆撃が一層激しくなり、群れを一網打尽にしていく。

 

「味方になると空母棲姫も頼もしいな」

「そうでしょう。今度そちらに行けた時にでもご馳走してください」

「お主は食い過ぎるからのう」

 

戦場だというのに世間話。それだけ余裕があるということかもしれない。

 

しばらくして敵は全滅。戦闘は終了。だが、気分は良くない。

雷が言うには沈む直前でも何の声も聞こえなかったという。上から下まで完全に支配されていたのだとしか思えない。完全に何もかもを奪われていたのだろう。

 

「……いたたまれないな」

「支配されていなくても侵略者であった可能性は高いのだから、ここは割り切るしか無いでしょう」

 

赤城がまた忌々しげに呟く。自分があのイロハ級と似たような状態にされた経験があるから、余計に気分を害しているようだった。

そもそもは理性すらも危うかった赤城だ。一歩間違えれば、今沈んでいった深海棲艦と同じようになっていた可能性だってある。

 

「援軍感謝するぞ。このことも提督に伝えておく」

「ええ、そうして頂戴。くれぐれも気を付けてくれと」

「うむ。それではな」

 

戦闘が終わったため、改めて利根と筑摩は帰投。戦闘も私達援軍が参加したことで早く終わり、消耗も少なかった様子。そのまま帰投でも大丈夫そうだ。

 

だが、ここにまでイロハ級を侵攻させたのは何故だろう。有明鎮守府の近海で見られた深海棲艦の群れは、艦隊司令部の試験運用で動かされただけのたまたまな気がするが、ここに攻撃してきたのは明確な意思を感じる。

だが、今までの戦いから考えて、これで私達が屈するとも思っていないだろう。ならば狙われたのは私達ではなく利根と筑摩か。そうだとしたら尚更わからない。

 

「若葉、今は帰りましょう。私達、今日は夜間警備なんだから」

「……そうだな。考えるのは若葉(ボク)の仕事じゃ無い」

 

全て報告して、下呂大将にも考えてもらおう。こういうことが得意なのはあの人だ。

 




今までは話の都合上なかなか出てこなかった深海棲艦との戦い。今後は増えてくるかもしれません。自然発生のものを支配するのは、艦娘を建造するのとどちらが速いのか。
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