継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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遠征の裏側

艦娘が支配されている可能性があるため、下呂大将に従い有明鎮守府にまでやってきた私、若葉と三日月。有明提督と面会しつつ、下呂大将が割り出した支配されているであろう艦娘は、夜間にボーキサイト輸送を行なっているという第三十駆逐隊。

私達が鎮守府に到着した時には残念ながら遠征に出たばかりで鎮守府にはいなかったが、緊急事態ということで帰還命令を出してくれた。何事も無ければそれで良し、何かあれば即座に対処。とはいえ、私達にそれを判断する手段は今のところ持ち合わせていない。暁の時も見事にスルーしてしまったくらいだ。

 

戻ってくるまでに何かあった時のために、鹿島には艤装を装備しておいてもらう。万が一、本当に万が一を考えると、すぐに有明提督を守れる者が近くにいるべき。

 

「ここの最高練度ですか」

「はい、おかげさまで。私が提督さんを守りますからね」

「うん、お願いね。私は無力も無力だからさ、頼んだよ鹿島」

 

ここの信頼関係が透けて見える。私と三日月には及ばないが、お互いに信頼しあっていることが匂いも相まってよくわかった。おそらく鹿島がこの鎮守府唯一のケッコン艦。

鹿島の艦種である練習巡洋艦というのは、巡洋艦の中ではスペックが低いらしい。それが最高練度というのだから、相当な実力者なのだと思う。有明提督からの信頼も厚いし、不穏な匂いも無い。ならば鹿島に全て任せておこう。

 

「第三十駆逐隊、遠征終了のお知らせなのです!」

 

あれから少しすると、工廠にこれまた元気な声が響いた。有明提督が帰還命令を出した遠征艦隊、第三十駆逐隊の旗艦を務める艦娘、睦月の声。命令を出して30分ほど、そこまでまだ離れていなかったか。

第三十駆逐隊は、第二二駆逐隊と同様に三日月の姉妹で編成された隊だ。旗艦の長女睦月を筆頭に、私達にもお馴染みとなった如月、そして弥生と望月。遠征艦隊とはいえ練度はそれほど低いものではなく、睦月と如月はしっかり第二改装も終えている。

 

「およよ? 見慣れない人達がいるにゃし」

「出て行く前に司令が言っていた人達じゃないかしら。ほら、援軍に行くところの人達が夜中に来るって」

「なら、帰還命令はこれが理由なのかにゃ?」

 

何というか独特な話し方の睦月が、私達の存在を疑問視していた。遠征を突然中断させられてまでの用事なんて何事かと思うのは当然。私達だって夜間警備なりなんなりを途中で止めてまで施設に呼ばれたら事件性を勘繰る。

相方は如月。睦月よりも話はしっかり聞いている様子。一応睦月が長女で旗艦だが、どちらかといえば如月の方が統率しているように見える。

 

「せっかく行ったのにめんどくせぇー。用事があるならさっさと終わらせてよなー。このまま遠征終わりだと嬉しいけど」

「もっち……あまり文句言っちゃダメ……終わったら……多分また行く」

 

怠そうにこちらを見てくるのは望月。それを諫めるのは弥生。やはり私達の存在を疑問に思っているような節はあるが、望月はそれにも興味なさそうに欠伸をしている。

 

三十駆が鎮守府内に入った段階で、一水戦の6人は気付かれないようにだが臨戦態勢に入ったのがわかった。表情は変えず、殺気も出さず、だが刀に手を置きすぐにでも抜けるように。阿武隈でさえも、手に持つ主砲のトリガーに指がかかっている。神風も即座に下呂大将を守れるように位置取りを変えた。

そして私達はというと、

 

「……三日月」

「うん、言いたいことわかる」

 

4人の姿を目の当たりにして、言いようのない()()()()がしていた。ムズムズするというか、イガイガするというか。とにかくそんな感じ。表現が難しい。

これで思い出した。暁が施設に逃亡してきた時、夢の中でのシグの忠告。あの時、シグも今の私のような感覚を話していた。何か()()()()と。表現が難しいとも。おそらく今の私達の感覚と同じもの。

シグと大きく同調し、言動にまで侵食が拡がったおかげで、その感覚すら身についたようだ。そしてそれは三日月にも。私とは違う破滅的な負の感情だったとしても、同じように侵食が拡がったことで同じ感覚を手に入れている。

 

「ゆっくりでいい。リミッターを外しておけ」

「わかった」

 

この時点であの4人は黒。下呂大将の睨んだ通り、夜間の遠征中に何かされている。現在進行形で支配されているか、暗示や催眠の類が施されているか。前者はおそらく可能性薄。今はどうか知らないが、気を失っただけで支配は解けるため、眠れば解決。それに、記憶は残っているのだから大淀の存在を話しているはず。

暗示の線で行くのなら、トリガーは何だ。暁の時は一定のタイミングで光る探照灯だったが、今回はそれがわからない。

 

「大将」

 

小さく下呂大将に合図。私と三日月が4人に嫌な感覚を感じたことをコソッと伝える。それだけが伝われば、あの下呂大将なら何もかも推理してくれる。

 

「わぁ、もしかして利根さんが話してた白髪の三日月ちゃんかにゃ?」

「……はい、初めましてですね、睦月姉さん」

 

利根と筑摩の話は夜間の遠征艦隊にも行き渡っているようだ。私と三日月の話はしっかりと鎮守府全体に伝わっていると考えていい。

 

「こんな夜遅くにさぁ、わざわざ遠征から連れ戻して何のようなわけ? だりぃー」

「それは私が話しましょう」

 

望月の悪態に対し、下呂大将が話しかける。おそらく見ただけで有明提督よりも格上であることに気付いたか、文句はやめてだんまり。

 

「君達に少々疑いがかかっています」

「疑い?」

「知らず知らずの内に、敵の内通者となっている疑いです」

 

真正面から問いただしたが、4人は首を傾げるのみ。何を馬鹿なことをと逆に下呂大将を疑う始末。匂いからしても、内通者と疑われたところで悪意や嘘の匂いは何処からも感じない。本来ならここで疑いを止めるのだが、先程から嫌な感じが拭えない。

やはりこれは暗示をかけられている。本人達がその事実を一切自覚していないパターン。事が済んだら暁のようにその時の記憶すら消えているかもしれない。

 

「……根拠は?」

 

表情を変えずに弥生が問う。ごもっともな質問だが、下呂大将はすぐに切り返す。

 

「資料が全てを物語っています。ここ最近の遠征記録を全て読ませてもらいました。それによると、君達が行なっている輸送遠征の方角が最も疑われる航路なんですよ。本来なら範囲に入りませんが、深夜で視界が不安定な夜では海流を使っての遠征にもなるでしょう。そのせいで僅かに範囲に入っていた。この辺りの海流は当然全て頭に入れてきていますから、君達の遠征航路は全て把握済みです。そこから鑑みても、君達の遠征航路しかあり得ない」

 

遠征資料には向かった場所は記載されていても、どのような航路を通ったまでは正確に記載されていない。昼からまだしも夜の場合は周囲に何もない真っ暗闇の海のど真ん中なのだから、探照灯があったって簡単には把握出来ないのが常。羅針盤などでどうにか把握するのが関の山である。

それをスタートとゴールと時間を見ただけで把握してしまった。相変わらずおかしな記憶力である。施設の近海とは訳が違う、今までに来たことのない地域の海流だ。それすらも、既に頭に入っているとは、理解の範疇を超えている。

 

「それだけじゃ、如月達が疑われるのは難しいのではなくて?」

「そうですね。一番近場を通ったから犯人と言われても困るでしょう」

「睦月達はそんなことした覚えないぞよ。内通者? ってことは、睦月達が誰かにここのこと教えたってことでしょ? 記憶に無いにゃし」

「いつも通りボーキ取りに行って運んだだけだよなぁー」

 

嘘はついていない。下呂大将に問い詰められても、記憶にないことを言われ続けて冤罪をかけられているかのような気分の様子。

()()()()()()がかかっているのだから、こういう反応でもおかしくない。本当に暁の時のことを再現しているようだった。

 

「暗示をかけられている証拠というのをこの場で提示出来ないのが残念です。形のないものを証拠にすることは不可能ですから」

「んじゃあ疑われ損じゃんさー」

「ですが、君達が暗示をかけられていない証拠も無いんです。これは少しズルイ言い方ですね」

 

確かにそれはズルイ。お互いいくらでも言える。

 

「なので、私の憶測ではありますが、君達の暗示が次の段階に行くであろうトリガーを試してみようかと思います。これで何も無ければ、君達は無実です。申し訳ないですが、君達には茶番に思えるこれにもう少し付き合ってもらえますか」

「ま、まぁ、睦月達の無実が証明されるなら、ねぇ?」

「……うん」

 

つまり、下呂大将はそのトリガーに見当がついており、この場で4人を敵対させようとしているわけだ。第一水雷戦隊が臨戦態勢に入ったのも無理はない。かなり恐ろしいことを考えている。早い段階から入ったのは、下呂大将でも想定していないトリガーがあった時のことを考えてのこと。

 

「前提ですが、私は君達が援軍として今度の襲撃に加わることは無いと思っています。それはあってますよね?」

「そうなのね。睦月達は遠征で資源立て直しっていう大事なお仕事があるにゃし」

「生命線と言っても過言ではない重要な任務です。戦闘する艦隊よりも立ち位置としては上だと思います」

 

直接襲撃に関与しない者達ということ。そこに暗示をかけているのは、自分が接触した記憶を封じ込めるためというのが一番大きいとは思う。

だが、大淀がそれで終わるわけがない。ついでに何らかの不利益をこちらに引き起こそうとするだろう。性格的に。

 

「そんな遠征艦隊にやらせることは、おそらく襲撃の援軍としてある程度の主力が出て行った後、()()()()()()()()()()()()。援軍に使うメンバーや、その時に鎮守府に誰が残るかというのは、当然ここにいる全員に伝えていますよね?」

「そうですね。援軍として向かってもらって、私はこの鎮守府に残る……と……」

 

有明提督も気付いたらしい。暗示による、接触した記憶を消す以外の指示が、()()()()()()()であることに。

基本が愉快犯、無差別に破滅を振りまく大淀なのだから、何故有明提督が狙われたのかと言われたら、()()()()()()()という理不尽極まりない理由になるのだと思う。

 

「この子達に……私を殺させる……!?」

「ええ。そのまま鎮守府制圧までやらせるでしょうね。では、そのトリガーは何か。援軍が出撃することを見届けるときに、君が必ず言うであろう言葉。遠征艦隊には言わないが、出撃する艦隊に言う言葉というものがあるでしょう」

「……()()()()()()()()()()

 

有明提督がその言葉を口にした瞬間、第三十駆逐隊からする匂いが、スイッチを切り替えるように変化した。

 

疑われていることに対しての疑問、不服や少しの怒り、あとは状況を鑑みて納得していたような匂いが消え、4人同時に有明提督への殺意が湧き上がった。主人からの指示に従い、敵となった人間を殺すために動く哀れな人形へと変化してしまった。

本来ならそこからタイミングを見計らって殺すようにインプットされていたのだと思う。この暗示は敵視するものの変更である。思考する力は失われておらず、ただただ悪意に呑み込まれているのみ。戦略を練る力は持っている。今なら、その時を待つ前に目の前の提督を殺すことを最優先にするだろう。

 

「切り替わった!」

 

それに気付けたのは匂いで判断できる私だけ。ならば私が声を上げなければならない。それがあちら側の殺意のトリガーになったとしても、あちらに隙を見せるわけにはいかない。

 

幸いこの瞬間から動けるのは私の他にもいる。リミッターを外していたおかげで私はすぐに足が動き、同時に私と同等、むしろまだ上かもしれない速度が出る神風が行動に移していた。三日月も考えた瞬間から既に主砲が動いていた。

神風は一番近かった望月を、私は弥生を、三日月は如月を妨害する。主砲を持ち上げる前に攻撃の手段を破壊した。だが、その速さで動けたのは3人だけ。睦月だけがノーマーク。

 

「残念です。半信半疑でしたから。本当に仲間に殺意を向けられるだなんて」

 

その最後の1人を止めてくれたのは、他ならぬ秘書艦、鹿島。三日月と同じように、装備していた主砲で睦月の主砲を破壊していた。命中精度も凄まじい。リミッターを外して三日月が得ている力と殆ど同じものを繰り出したということは、鹿島もまた血の滲む努力をした結果、今の地位にいるのだと実感する。

 

「……こいつら、リミッターを外されている!」

「どうにか気絶させてください。入渠さえすれば、ある程度どうにか出来ます」

 

冷静な下呂大将の指示に従い、命を散らす前にどうにか気を失わせて終わらせてやらなければいけない。

 

三日月はやはり嫌そうな顔をしていた。姉妹がこうなる姿は辛いだろう。すぐに終わらせて、慰めてやらなければ。

 




シグとぽいは分裂しているだけで能力は全く同じ。そのため、三日月だって暗示に対して何かよくわからない感覚を得るようにはなっています。
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