入渠中だった4人も目を覚まし、これにより施設の者は全員治療が終わったこととなった。蘇生された3人は今のところ後遺症も見られず、リコに関しては若干体力が落ちていたものの、全員五体満足での復活である。
時間が深夜だったということもあり、この復活劇が終わったところで解散。入渠組は一旦医務室で眠ることとなる。念のため翌朝から飛鳥医師による診察を受け、完治したことを確認する予定だ。飛鳥医師も随分と消耗していたようで、今は泥のように眠っているらしい。艦娘や深海棲艦ならともかく、人間の身であそこまでのことをやってのけたのだ。今はゆっくり休んでもらいたい。
そして翌朝。ある意味施設の者全員が目を覚まし、怪我も治った状態となる。誰も欠けを出さずに翌日を迎えられたのは喜ばしい。襲撃をよく抑えられたものである。
「おねえちゃん、おきてる!」
「うむ、心配かけたのう」
ずっと呼びかけていても目を覚まさなかった姉が起きていることに気付き、大喜びで抱き付く初霜。初霜をあやしてくれていた如月曰く、もうこのまま目を覚まさないのでは無いかと怯えていたそうだ。
飛鳥医師がいなければ、それが現実のものとなっていたかと思うと恐ろしい。そうなっていたら、私もどうしていたかわからない。
「大怪我での、ずっと眠ってしまっておった」
「もう、すっごくしんぱいしたんだから!」
「すまぬすまぬ。でももう心配はいらぬぞ。お医者様のおかげでこの通りじゃ」
姉は外見に傷が残っていないため、本当に心配のいらない状態になっていた。入渠が終わってからもう一眠りしたおかげで体力も回復し、これで元に戻ったと言えるだろう。初霜も不安がらずに済む。
「やはり鳥海は傷が大きいな……。それにやたら目立ってしまう。すまない、こんな形になってしまって」
「構いません。これは皆さんを護った証。私には誇らしいものですよ」
昨日とは違って、いつもの制服姿の鳥海。摩耶と同じく露出度が高く、腕も腹も晒しているために、火傷を治療したことによる傷痕や肌の変色がモロに出ている。少し三日月が親近感を覚えていたのは見逃さなかった。
摩耶も一応インナーを着るかと聞いていたが、鳥海は敢えてそれを拒んだ。この傷を晒して生きていきたいと話したそうだ。先程も本人が言っていた通り、この傷が他者を護ったことの証。心の支えになるようなものなのだから、隠したくないというのが本心か。
「これからも蝦尾さんを護らせていただきます。次は後れを取らないように精進しますね」
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
護る者護られる者としての信頼が厚い。蝦尾女史は蝦尾女史で必ずその肌を治しますと約束していた。
「診察の結果、後遺症も残っていなかった。安心したよ」
「ああ、私もだ。これでまたヤツと戦える」
リコは既にやる気満々。昨晩も言っていたが、伊勢に対する恨みが激しい。自らの手で決着をつけたくて仕方ないようである。だが、長く施設で生活していたおかげか、殺すとまでは言わなくなっている。そこはありがたいことだ。
「わらわも伊勢に斬られたからの。いい思いはしておらん」
「私は日向さんに。堪ったものではないですね」
やはり襲撃に来たのは伊勢と日向に間違いは無いようだ。朝霜の腕も日向に斬られたとのこと。
私と三日月、後は下呂大将御一行は、襲撃の相手を知らないため、このタイミングで聞いておくのが良さそうである。
「伊勢と日向はわかったが、他にはいたのか?」
「うむ……それがじゃな……」
「完成品が増えていました。駆逐艦1人です」
そのたった1人がWG42による施設への攻撃を放ち続けていたらしい。結果的に、その駆逐艦が施設破壊の直接の原因。
だが、施設に接近までしてきたのは伊勢と日向だけのようだ。施設から出て迎撃しようとしたものは、伊勢と日向の砲撃に施設まで押し込まれ、その駆逐艦による対地攻撃により怪我を負わされたものが多かったようである。だから火傷が多かったのか。
「その駆逐艦というのは?」
「……曙の姉でな。綾波という」
恐ろしいことに、綾波の存在はつい最近まであちら側にいた五航戦や如月も知らなかったらしい。ここ最近で急激に成長させられ、完成品にまで仕立て上げられたのではないかと言っているそうだ。
どうやればそんなことが出来るのだろうか。そういうところまで違法改造なのだろうか。練度を無理矢理上げるような。
「たった3人にあそこまでやられるとはな。腹立たしい」
リコも少しイラついているようだ。施設には夜とはいえほぼ全員揃っており、夜間警備だってしていた。それなのにアレだ。3人であの規模の破壊活動が出来るとなると、敵の戦力は相当なものであるとわかる。
実際戦い、確かに伊勢と日向だけは今までのとは別格だった。何もかもが格上。それだけでこちらの士気を下げてくるほどの力だ。そこに新たな完成品、綾波が追加されてしまったことで、さらに酷いことになっている。
「早く終わらせないと、敵は増える一方だ。最終的には押し潰されてしまう」
「でも、あの艦隊司令部の解決方法が……」
「八方塞がりだよ。先生に案を出してもらうしかないな……」
正直、頭を抱えるしか無かった。誰もが突然支配され、私達の敵になってしまう最悪な戦場。僅か数分しか支配されないにしても、突然敵対されれば戦況は壊れるし、数秒だったとしても自害させることは出来てしまう。
その支配の力は私にはもう効かない。だが、私だけが効かなくたって意味がない。ありとあらゆる艦娘や深海棲艦に敵対されれば、私はどうにも出来ない。それが元々味方だったとしたら尚更だ。
飛鳥医師の言う通り、八方塞がりだった。大淀に勝てるビジョンが見えない。
朝食後、下呂大将が施設にいるということで、来栖提督にも現状を説明。有明提督のところのこともしっかり伝えておく。場所を変えただけでやることは施設の時と同じで、鳳翔と神風が同伴。
その間は時間が空いたため、艤装の修復の手伝いになるだろう。施設の者の艤装は殆どが大破。航行出来ても武装が失われていたり、その逆だったりと散々である。
工廠に来てみると、そこは随分と賑やかだった。艤装の修理が既に始められており、明石を中心に施設の工廠組がせかせかと働いていた。
「やりがいがありますねぇ! こんな艤装初めてですしね!」
リコの艤装を修理しながらキラキラしている明石。その姿に苦笑している摩耶。セスとシロクロも修理に勤しんでいた。さらには工廠常駐の妖精が総出で手伝ってくれている。
大物であるリコの意思を持つ艤装は、当然リコ自身も参加して修理されていた。ここで組み込まれるのは当然艦娘の艤装のパーツ。今までも継ぎ接ぎではあったが、ここでより継ぎ接ぎ感が増すことになった。
「マヤもそうだが、アカシも凄まじい腕だ」
「アタシはやるしかないから覚えただけだが、明石は本業だからな」
「いの一番に私の艤装に手をつけてくれたのは感謝する」
話している間にも、明石がニコニコしながら次々とパーツを組み込んでいき、艤装を修復していった。まるで蘇生処置中の飛鳥医師の如く、恐ろしいほどの手捌き。目にも留まらぬ早技で、さらには妖精の力も加わることで、見る見る内に元に戻っていく。
いや、それだけではない。改造が施され、追加の機能まで付けられていく。あまりおかしなことをするとリコが確実に文句を言うが、案の定表情がおかしくなっていく。
「おい、何をやっている」
「海上航行のシステムをアップデートしてるんですよ。前まではかなり強引な接続だったみたいですからね。本来のシステムを阻害せず、航行速度を上げることに成功したでしょう」
以前までは海上に立つことは出来たが航行自体は低速艦よりも遅かった。故に、海に出るのなら大発動艇を使って運搬してもらうのが常。だが、明石の改造により、その速度を低速艦並にまで引き上げたという。
なんでも、艦娘の中にも玉座のような艤装に座って航行するような艦娘がいるらしく、そのシステムを使ってみたとのこと。サイズはまるで違うし、そもそも陸上施設型なのだから、仕様があまりにも違う。最初の内に摩耶とセスが弄り倒していたからどうにかなったと言える。
「はい、これで完了です。妖精さんの力も借りれば、やっぱりすぐですね」
本当にすぐだった。見た目は以前よりもまたパーツが混ざり合っているように見えるが、ほぼ完璧に直されている。生体パーツのような腕や歯も、少し機械的な修復がされている。こればっかりは仕方ないか。
リコが合図すると、見慣れた巨腕がズルリと動き出した。修復されたことで意思も戻ってきている。その様子を見たからか、同じような存在のエコがその腕を舐めていた。
「確かに速いな」
「なので、今後は海上にも行きやすくなりましたからね」
「助かる。これで奴とも戦いやすくなるだろう」
リコの艤装が少しゆっくりだがサムズアップ。艤装の方も完全に復活したことを自ら見せてくれた。
「妖精さん達、ホントすごいよ。艤装をどんどん直してくれてさ」
「……改良もしてくれるの……みんなの意見を取り入れて……」
シロクロも妖精の手腕に驚いている。施設で数時間かかるような修理も数分で終わらせてしまうらしく、それを聞いたら私も驚きを隠せなかった。
言われてみれば、何人も住めるほど大きな施設を、たった数人で数日間で修復してしまうのだ。艤装くらいなら即座に終わらせてしまうのも無理も無かった。私達とは根本的に違うのだからそういうものと考えるしかないとは思うが、それでもこの速さは恐ろしい。
「これでみんながもっと強くなるよ。でも……」
支配を思い出して顔が曇るクロ。
どれだけ強くなっても、大淀に支配されてしまっては意味がない。むしろ、強ければ強いほど取り返しが付かなくなる。クロもそれを理解している。
今回の大淀は正直最悪だ。弱ければ何も出来ずにやられ、強ければそれを利用される。今までにない類の精神攻撃。堪ったものではない。
「今、大将がその対策を考えてくれている。心配するな」
「そうですよ。きっとなんとか出来ます。私だってあんな思いはもう沢山です」
私と三日月には励ますことしか出来ない。あれに関しては個人の力量も若干あるだろうが、そんなこと関係なしに上から押し潰してくるようなものだ。心を強く持つことでどうこうなる問題なのだろうか。
あの時は不意打ち気味にやられたため、我慢する間も無く衝撃に敗北したのかもしれない。私は運が良かったのかも。今回は知っているが故に多少は耐えられるか。
「今度は私が大淀を始末してやるさ。倒せなくても、艦隊司令部だけはぶち壊してやる」
「何処にあるのかわかる……?」
「艤装の何処かだろうさ。なら、艤装を速攻で壊す。みんなのためにもどうにかする」
正直、それしかないのだと思う。大淀の持つ艦隊司令部を破壊し、全員の支配を解いてから総攻撃。
だが、それが何処にあるかはわからない。もしかしたら、艤装とかそういう問題でもないのかもしれない。艦娘には特殊な力を内蔵している者もあるらしいし、大淀がその類の場合は殺す以外の選択肢しかない。
「強くならねぇとどうにもならない部分はあるな」
「ですね。だから、私も今回はいっぱい手伝いますよ。継ぎ接ぎ艤装をより強くしていきましょう!」
摩耶と明石もやる気満々だ。みんなの艤装をより強化し、支配から解き放たれた後に戦えるようにしてくれる。もし支配が効かなくなったとしても、強くなければ大淀はおろか、残っている完成品に手も足も出なくなる。
だからこそ、今は鍛錬と艤装の強化。何もかもを強くしていかなくてはいけない。勿論、心もだ。
「あ、そうそう、三日月の艤装も強化出来ますよ。なんと大発動艇が使えるようになりました!」
「あ、そうなんですね。霰さんや如月姉さんと同じことが出来るのはありがたいです。いざという時は大発動艇を直接ぶつけます」
物騒な物言いだが、それくらい三日月も大淀に対して憎しみを持っている。その強化がされたことは素直に喜ばしい。
「さぁ、大忙しですよ! 楽しい楽しい!」
「好きだねぇ」
この忙しい状況も楽しめる明石は、それはそれで凄いのだと思う。根っからの仕事人間なのか。
「私達も頑張る。みんなで強くなって、大淀を倒そう!」
「ああ、みんなの力でな」
ここから工廠組の力を合わせて全員の底上げをしていく。訓練をして、艤装も強くして、より戦えるようにするのだ。幸いその材料は全てこの鎮守府にある。
もう負けない。あんな思いはしたくない。
三日月のアップデートは驚いたものです。ここの三日月もそれを踏襲。物資を運ぶことも出来ますけど、考えが物騒な三日月はダイレクトアタックに使うことでしょう。