私、若葉が大淀を刺し殺したことにより覚醒した大淀。せっかく破壊した艦隊司令部も元に戻っており、さらには効かなかったはずの私や三日月にも効くようになってしまっていた。
だが、そこまで出来ても所属が違うという根本的な理由でまるゆを支配することが出来ず、また、覚醒したばかりであったからか単一の対象しか支配出来なかったこともあり、何とかこちらが攻勢に出ることが出来た。
そして、まるゆの大活躍により、2度目の艦隊司令部破壊に成功。これにより、これ以降艦娘が支配されることは無くなった。
「ッグ、アアアッ……」
初めて、これだけ戦ってきて初めて、大淀が悔しそうに呻く。そもそも今までの戦い方からして間違っているのだ。他者を踏み躙り、自分の手を汚さず、それに頼りっきりになっていたから、それを覆された瞬間に瓦解する。
尤も、そのおかげで私達は勝利を掴むことが出来そうだ。慢心に慢心を重ねた結果、支配が一切効かない存在まるゆにより何もかもがひっくり返った。
「ああっ、運貨筒が!」
最後の一撃を決めたことで、まるゆの運貨筒は壊れてしまった。大淀は未だ健在とはいえ、憎っくき艦隊司令部を破壊するに至った一撃なのだから、これは仕方あるまい。そもそもそうやって使うものではないのだから、こうなってもおかしくない。
この戦いのMVPは誰もがまるゆと答えるだろう。最高の働きを見せてくれた。
ここからはもう私達だけで行ける。艦隊司令部さえ失われれば、いくら戦闘すらも一流だったとしても勝ち目が無いわけでは無くなる。
「まるゆ、後は大丈夫だ。本当に助かった」
「あ、後はお願いします! まるゆはまた潜ります!」
ここからは私達の仕事だ。まるゆが与えてくれたチャンスをここで活かさなくては。
「コンナトコロデ……ワタシハシズミハシマセン……!」
火花散る艤装なのに、まだピンピンしている。私が蹴り飛ばした顔面も、腕で拭ってまだ戦おうとしている。いい度胸だ。ここから逃がすつもりもない。
「若葉、脚は」
「まだ大丈夫だが、あれはもう出来ない」
三日月に心配されるが、まだ大丈夫だ。ガタは来ているが戦える。ただし、1度の戦闘で繰り出せる知覚出来ない移動は、先程の顔面蹴りで出し尽くした。今やれるのは通常の戦闘だけ。
それでも、もう大淀に届くはずだ。艦隊司令部が失われても、普通とは言い難い尋常ならざる力を持つ大淀だが、未知の力では無い。それに、私には仲間達がいる。義理の姉達と三日月がいてくれれば百人力だ。
「ありがたいことに他の連中は引き剥がしてもらえているからな。あちらも心配だが、大淀と決着を付けるのが先だ」
大淀が連れてきた他の連中はまだいるが、今でもしっかり引き剥がしてくれている。だから私達は戦えるのだ。
その1つ、綾波と戦う曙達。施設にいる特型駆逐艦3人が足止め中。勿論、倒すつもりで戦っている。倒すと言っても救出だ。
綾波は私の対策のために急遽作り出された完成品。駆逐艦でやれることはおろか、近接格闘にまで精通
「あまりここで止められたくないんですよねぇ〜。曙ちゃん、早いところ死んでもらっていいですかぁ〜?」
「何ふざけたこと抜かしてんのよクソ姉。むしろアンタが諦めなさいよ」
「相変わらずお口が悪いですねぇ〜」
間延びした話し方に似合わない超高速戦闘。近付けばナイフによる斬撃、間合いを開けば砲撃と魚雷。さらにはWG42による対地攻撃まで織り交ぜ、鎮守府を狙いながらの戦い。この対地攻撃のせいで、鎮守府から増援が出づらくなってしまっていた。
目の前に曙がおり、雷と暁が援護をしているにもかかわらず、それだけのことを同時にしているのだから恐ろしい。特に魚雷は主砲よりも拙い一撃必殺の火力だ。
「お姉ちゃん、魚雷壊せる!?」
「やってる! 雷は回避しながら撃って撃って!」
援護2人も大慌てではあるものの、しっかりと出来ている。特に暁は、前回の襲撃しか戦闘経験がない、ほとんど新兵みたいなものだ。今までリコにさんざん鍛えられたことで戦場に対応できるものの、てんやわんやなのは間違いない。
その暁が合間合間に放たれる魚雷を主砲で処理していき、雷は曙が戦いやすいように牽制をしていた。
「綾波1人に3人がかりですかぁ〜?」
「似合わない挑発やめなさいよ。んなこと言われたって、私達は加減しないわ。むしろ増やす」
綾波の主砲を回避しながら、曙は突撃。槍という武器の都合上、離れ過ぎても近付き過ぎてもリーチに入らないため、つかず離れずを維持しつつ最善のタイミングを見計らって攻撃する。
この戦術が、スタミナトップの曙に合っていた。ジリジリと見計らい、渾身の一撃を叩き込む。五三駆の頭脳戦担当のため、キレながらも集中して行動。さらには無闇矢鱈ですら息一つ乱さない。
「なんでそんなに使いづらい武器使うんですぅ〜?」
「最初からこれを使ってきたからよ。それに、使いづらくないから」
離れて槍のリーチから離れたかと思えば、振り抜けた瞬間を狙って即座に突っ込み曙の懐に入り、ナイフを斬り上げる。綾波としてはそれが曙への最善手であると考えての行動。だが、それは
槍を強引に振り下ろし腕ごと叩き落とす。しかし、綾波は私と違ってそこから主砲も使ってくるだろう。懐に入ったのなら、ゼロ距離での砲撃だって考える。これは演習でも出来ていない行動だ。
そして、それを阻害するのが援護の2人の仕事である。
「そういうのは良くないと思うわ」
綾波が撃つ前に雷のヘッドショット。例え水鉄砲とはいえ、その出力は死なない程度の最高値。当たれば気を失いそうになるほど痛いし、当たりどころが悪ければ脳震盪を起こしかねない衝撃に襲われることになる。
この情報は前以て知っていたか、その砲撃をバックステップで回避しながらも曙に対して砲撃を仕掛けていた。体勢が狂ったおかげで曙は致命傷を受けることは無かったが、脇腹を掠めてしまっていた。
「つっ……出力も駆逐艦のそれじゃないわね。違法改造か」
制服が破れ血が滲んでいるが、気にした素振りは見せない。傷は小さい。まだやれる。
無理なバックステップのため、曙は隙を見逃さない。間合いもそこまで離れておらず、むしろ槍には都合のいい距離。
「っだぁ……!」
せめてナイフを弾き飛ばそうと槍を薙ぎ払った。距離的に刃が手に直撃するようなところ。
しかし、綾波はとんでもない手段に出る。
「近付かないでくださいねぇ〜」
自らを巻き込むほどの距離で魚雷を放った。曙に直撃したら、その爆発で綾波もタダでは済まない位置。なのに、なんの躊躇もなく放つ。
綾波は完成させられた結果、思考回路がおかしくされているのだろう。自分の命の価値が異常に軽い。曙なら避けるだろうと判断しての攻撃であろうが、万が一のことを考えたら到底そんな選択は出来ない。
「この……!?」
近過ぎて暁もその魚雷を処理することが出来ず、曙はジャンプして避けざるを得なかった。横への回避は主砲とナイフで牽制されていたため、その判断を
空中に上がったということは、完全な無防備ということになる。穏やかな笑顔は崩さないまま、綾波は曙に向けて主砲を構えていた。すぐに雷が妨害に入ろうとするが、よりによって曙が避けたことにより魚雷は雷の方へと向かってしまっている。
「バイバイですよ、曙ちゃん」
「んな簡単にやられるかっての。本当にヤバいのは私じゃないわよ」
綾波が主砲のトリガーを引こうとした瞬間、真横から強烈な衝撃を受けて吹っ飛ばされる。おかげで放たれた砲撃は曙を掠めることすらなかった。
曙も雷も魚雷を避ける挙動中、ならば1人しかいるまい。そんなことをするとは思っていなかった者がするから、ほとんど真正面から行っても不意打ちになる。
「さすが暁。師匠がアレだとそうもなるのね」
「だってリコさん、役に立つからって滅茶苦茶教えてきたし、覚えておけばレディにもっと近付けるって言うんだもん!」
それは、暁による荒々しい蹴り。リコ直伝のケンカキックであった。
練度1で施設に住まうこととなった暁は、その練度を上げるためにリコから教えを受けている。最初は艦載機からの空爆や射撃による回避訓練から始まり、低空飛行した艦載機を撃ち墜とす射撃訓練を経て、最終的にはリコの持てる技全てを叩き込まれていた。
結果、暁はリコの後継者と呼べるほどになっている。確かにリコは淑女然としているが、それは見た目だけ。中身は熱い心を持つケンカ慣れした姐御だ。暁はそこまで継承しかけていた。
「暁は、もっとお淑やかに戦いたいわ」
「戦いに淑やかなんて無いわよ。特に今は生きるか死ぬかなんだから。でも、助かったわ。仲間を助けるってすごくレディじゃない?」
「……確かに!」
それで納得してしまう辺り、まだまだ子供だと思うが、本人が喜んでいるのならそれでいい。曙も割と人の使い方が上手い方だ。
「痛た……蹴っ飛ばすなんて野蛮ですよぉ〜」
「でも仲間を守れたわ。インチキして粋がってるよりよっぽどレディだと暁は思うの!」
すかさず主砲に対して砲撃。近接攻撃は厄介だが、最低限主砲が無くなれば戦いやすくなる。それを理解してしっかり避けているのが綾波だが、一度崩れた体勢は整わない。それだけの猛攻を仕掛けている。
故に、対地攻撃が疎かになった。つまり、増援が見込めるということである。未だに空爆の一部は鎮守府の方に向かっているものの、多少は隙間が出来る。
「よう、人様の居場所勝手にぶっ壊して、タダで済むと思ってねぇよなぁ?」
その隙間を抜けてこの戦場に現れたのは、持ち前のスピードで綾波の真後ろを取っていた朝霜。手に持つ棍棒を思い切り振り抜き、
「わぁ、乱暴ですねぇ〜」
「こういうやり方しか知らねぇからな」
「もっとスマートにぃ〜」
壊れた
「軽やかにやりませんかぁ〜?」
「うっは、速ぇ! だけどな、うちのボノはそこまで計算してるぜ?」
やられたらやり返すであろうことを計算に入れた状態で、すでに
朝霜が軽く首を傾けるだけで、その槍は朝霜の頬を掠めて綾波の額に伸び、見事に直撃。流石にこの一撃は効いたようで、綾波が大きくのけ反った。
「ひゅー! スタイリッシュだねぇ!」
合わせて、朝霜も即座に振り返り棍棒でナイフを持つ腕を殴打。確実に骨を折る一撃に、ついにはナイフを落とす。これで近接攻撃も封じた。
「いい加減気絶して!」
さらには雷のヘッドショット。今回は他の攻撃と同時に放ったため避けられることは無かった。顎に直撃させたことにより脳を揺さぶり、且つ、喉元にも衝撃が入ったために一瞬呼吸を止める。意識を失わせる程の一撃だったが、綾波は未だ微笑んだまま、残された主砲を一番近くにいる朝霜に向けていた。
「それはダメ!」
すかさず暁が主砲にピンポイント砲撃。一歩間違えれば朝霜に当たりかねないが、そこはリコの弟子、少し乱暴に手を潰すような位置を撃ち抜くことで、朝霜の被害を最小限に抑えている。主砲が爆発したのだからそれなりのダメージは入ってしまうが、まだマシなレベル。
だが、ここで曙は何かに気付いていた。
「朝霜、我慢して!」
一番近かった曙が、朝霜の胸ぐらを掴んで綾波から引き剥がす。瞬間、綾波が
今この場で爆発させれば、朝霜と曙は確実に持っていけるだろう。纏めて爆発することで範囲も広くなり、よりその殺傷力は増す。どうやっても自分は死ぬが。
完成品は敗北を悟った瞬間に自害する。この性質は未だに残されたままのようで、ほぼ思考せずともこの行為に移れたようである。だから気を失っても自爆だけは瞬時に実行できた。
そこから最善の道を曙が瞬時に計算した。誰も死なない道。自分も、綾波もだ。そこで選び取った手段は、かなり強引なもの。
「間に合えぇ!」
ここで曙、朝霜を引き剥がす反動を利用して綾波に近付き、さらには反動を遠心力に変換して綾波の脇腹に槍を食い込ませ、無理矢理吹っ飛ばした。綾波の身体は見事に暁の方にまで飛んでいき、爆発の範囲外へ。
こうなると今度は曙が爆心地の中心にいることになる。そのままでは爆発に巻き込まれる。
「私1人なら行けるでしょ! ろー!」
「はいですってぇ!」
そこへさらなる援軍、呂500。海中から高速浮上で曙の下に駆けつけ、その勢いを殺さずに曙に抱き着いた。殆ど魚雷のような勢いだったため、曙は呂500諸共その場から吹っ飛ばされ、爆心地から離れることとなる。
瞬間、先程まで曙がいた場所が大爆発を起こした。そのままいたら大惨事だっただろう。
「アンタが見えたからどうにかなったわ」
「間に合ってよかったですって!」
殆ど真後ろ、さらには海中である呂500まで計算に入れた最後の策。これはもう策というよりは、信頼の賜物かもしれない。
これにより綾波撃破。大淀の取り巻きはこれで残り2人。