継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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怒りに燃えて

神風型が日向に苦戦する中、一航戦と五航戦は伊勢に猛攻を仕掛けていた。鳳翔も加わった5人が、たった1人に対して集中的に空爆を仕掛けているという異常事態ではあるが、それだけしなくては押し留めることすらできないというほどに強力な力を持つのが伊勢である。

 

「ちょっとちょっと! 大将の援護しなくちゃいけないんだからさぁ! アンタ達相手にしてる余裕無いんだって!」

「知ったことで無いでしょう。私達が同じこと言っても待ってくれるのかしら?」

「ああ、言わないね。知ったこっちゃなく斬るか」

 

一番容赦が無かったのは赤城。誰よりも怒りと憎しみが原動力である赤城は、手加減しなくてはいけない相手であるにもかかわらず、そんなことお構い無しに空爆を続ける。息を吐く間も無く、息を吐く間も与えず、ありとあらゆる方向、タイミングを使ってその場から動けないようにしてくれている。

あの伊勢が大淀の援護に入られたら流石に困る。駆逐艦のものとはいえ、主砲による砲撃を斬り払ってしまうような規格外は、この場に1人いるだけでも辛い。

 

「んー、まぁしょうがないか。なら、アンタ達全員やっちゃってから援軍に行こう。こんなに頑張ってくれてるわけだし」

 

伊勢は日向と違い、艦載機の量がさらに多い。5人がかりの空爆を自らの艦載機と水上機で抑え込みながら回避行動まで含めて無傷を維持している。頑丈な身体は証明済み、剣術も砲撃を斬り払うことが出来ることも確認済み、非の打ち所が無い強さは、まさに最強の取り巻き。

艦載機の量まで考えると、日向より伊勢の方が強いのではと思える。剣術の腕は日向の方が上かもしれないが、団体戦に対応していることを考えると、伊勢の方がより厄介。

 

「ひー、ふー、みー……今のところ全員空母かぁ。なら近付けばおしまいなわけね」

「近付かせるわけ」

 

赤城がいい終わる前に、空母達が集まるど真ん中に主砲を放った。当たり前だが当たれば死を免れることが出来ないほどの凶悪な威力。回避以外の選択肢が無いため、即座に回避。ど真ん中だったために散開。都合よく一航戦と五航戦で分離。鳳翔は五航戦側へ。

 

「じゃあ、面倒くさそうなアンタからね」

 

撃った直後から動いていたが、伊勢の狙いは赤城だった。最初から容赦無く撃ち続けていたことが気に入らなかったのか、砲撃が爆発した瞬間には赤城に大きく接近。

伊勢は低速戦艦だが、そんなことを感じさせないくらい速い。日向があまり動かないで戦うので、余計にそう見える。

 

「ただの空母棲姫でしょ? 大きな的まで用意してくれてるんだからさ」

 

近付きながら主砲を連射。1発でも威力と範囲がとんでもないのに、連射まで備えているとなると、厄介を通り越して面倒くさい。

大きな的かもしれないが、赤城はそれくらいなら軽々と避ける。その大きさに反した高速戦闘を可能にしているのも、正規の工廠でチューンナップされた結果だ。いくら深海の艤装と言えど、摩耶やセスの手にかかればこれだ。

 

「当たるわけないでしょう。大振りの低速戦艦の攻撃なんて」

「お、言ったなー。とはいえ、あっちもやらないといけないからね。ほい」

 

赤城に向かいながら五航戦の方にも砲撃をバラつかせる。器用というよりは直感で一番いいところに撃てているというイメージ。本格的に面倒くさい。

 

「回避回避!」

「艦載機も惜しまないで! そうでないと押し負ける!」

 

五航戦の叫び声。2人とも出せる限りの艦載機を常に出し続けていた。翔鶴は指をクルクル回すだけで艦載機が山程出せるのでまだマシだが、瑞鶴と鳳翔はその都度弓を射る必要があるため、どうしても消耗が激しくなる。

伊勢に追われている赤城も同様、指をクルクル回して艦載機を発艦しているが、加賀は瑞鶴と同じように弓を射続けているため消耗が激しい。

制空権自体は、伊勢が一部を鎮守府側に送っているおかげで赤城と翔鶴深海棲艦組の艦載機の数で拮抗以上が可能。そこに鳳翔の追加で余裕で優勢に持っていけているため、加賀と瑞鶴は矢をそのままに伊勢を射殺す方向で攻撃を開始。

 

「直接はまた面倒な」

「貴女に余裕が無くなればいいの。空爆の中避けてくれればいいわ」

 

制空権は優勢、空爆もある中での矢の応酬。あちらが砲撃でこちらに攻撃してくるのだから、それくらいしてもバチは当たらない。それすらも刀で打ち払いながら突撃してくるのだから堪ったものではない。

 

そうこうしているうちに、伊勢は赤城に大分近付いていた。空爆をするには難しい位置であり、空母ではなかなかに厳しい距離。

 

「避けたら鎮守府に当たるよ」

「随分と(こす)い手を使いますね。そうやって我々の居場所も破壊していましたっけ」

「一番有効だからねぇ。やり易い方法を使ってるだけだよ」

 

随分と小賢しい手段を使ってくる。命と居場所を天秤にかけさせての砲撃。実力を持っていながら、相手の実力を全て発揮させないようにする搦手。決して褒められるものではない。

日向が正々堂々と真正面からぶつかっているのとは正反対。使えるものは全て使い、勝ちをもぎ取るというやり方。だから姉は初霜を庇うようなことがあったのか。リコも施設を守るために奮闘して散ったのだから、似たようなことをされたに違いない。

 

「避けたきゃ避けて」

 

容赦なく砲撃を続ける。赤城は当然避けることを選択するのだが、その射線上には伊勢の宣言通り鎮守府の工廠があった。こればっかりはどうにもならず、砲撃を撃ち墜とすなんて該当が出来るのは摩耶くらいなので、被害を容認せざるを得ない。

大きな爆発音と共に、工廠の一部が破壊されていた。あちらの艦娘が大わらわで対応に追われる。未だ続く艦載機やら対地攻撃やらもあるため、鎮守府側も大忙しである。二四駆が高角砲で艦載機を必死に墜としているのが見えるほど。

 

「まぁこれで向こうにいる提督とかが居なくなってくれれば、こちらの予定はいくつかは達成だからね。流れ弾もこっちの目的の内なんだよ」

 

まるで悪気の無い言い方。確かにあちらの目的の中には鎮守府を破壊して、そこにいる人間全員を殺害することがある。あの攻撃が綺麗に入っていれば、誰かが死んでいる可能性もあるだろう。

このやり方の気分の悪いところは、避けたせいで死んだと精神的なダメージも与えられるところだ。本当に性格が悪い。洗脳のせいでこうなってしまっている可能性は高い、むしろ確実なのだろうが、この言いようには誰しもが苛立ちを覚えた。

 

その中でも1人の怒りにより、空気にピシリとヒビが入ったような感覚を全員が感じた。

 

「……人様の鎮守府を破壊するとは、いい度胸ですね」

 

温厚であり、あまり怒るということをしない鳳翔が、その空気を捨て去り伊勢を見据えている。プツンと張り詰めた糸が切れたような音すら聞こえたように思えた。

赤城や翔鶴に説教した時ですらこんな空気を出す事はなかった。来栖提督が怪我をした時も、それを行なった者がその場にいなかったのでここまででは無かった。

 

()()()()()()、一先ずはいいですね?」

「ほ、鳳翔さん? そんな物騒な発言は……」

 

その空気を最も近くで感じ取った瑞鶴は、正直少し怯えていた。翔鶴も無言。艦載機を発艦し続けなければ、優勢は維持出来ない。如何に鳳翔が何かしでかそうとしていても、それに構っている余裕もない。

 

「貴女達は喧しい空を抑え込んでくれればいいです。私が彼女をやりましょう」

 

ピリピリした空気を醸し出しつつ、ギラギラと輝く瞳で弓を一射。鳳翔自身は艦載機の発艦を放棄し、ターゲットを伊勢一本に絞った攻撃的なスタイルになったことで、今までに見たことのない速度の矢が放たれた。

あまりにも容赦なく、命を獲らんとする一撃が、伊勢の肩に向かって飛ぶ。それはまるで、龍が飛ぶかのような荒々しさ。

 

「うあっと!? 3人目!?」

「別に私1人でもいいです」

 

あまりの速さに驚いた伊勢はその矢を即座に打ち払うが、続け様にもう一射。

 

「ちょっ!?」

「回避したければどうぞ。そんなところには射っていませんが」

 

鳳翔の狙う位置は即座に回避がしづらいところばかり。どうしても刀を使って打ち払わなければいけない場所しか狙わない。攻撃した瞬間の腕や肩、前に踏み込んだ瞬間の腿や膝、他の矢を避けるために身を翻した瞬間の胴。

そしてそれは毎度、確実に()()()()を狙い続けている。殺さないが、痛みは強く、甚振るように。鳳翔がそれをやっているとは到底思えない。

 

「戦いなのですから、殺し殺されるのは仕方ないことです。そういうものですから。ですが、今この場にいないものを引き摺り出すのは許されないことですよ」

 

話しながらも止め処ない射撃。対する伊勢は、矢を打ち払う動きが徐々に速くなっていき、鳳翔の矢も含めて自分に飛んでくるものは全て打ち落としていた。

 

「目の前のものを御するために、他者を質に取るなど言語道断」

「でもそれが戦争ってもんでしょ。巻き込まれるのは仕方ないわけだし」

「狙っているのなら貴女の悪意でしょう」

 

矢の方向が変わった。突如一本の矢が伊勢の額に向かう。今まで殺さずを徹底していたのに、豹変したかのように急所。死に至らしめる一撃を当たり前のように打ち払う伊勢だが、()()鳳翔から直接向けられた殺意に驚きを隠せないでいる。

 

「え、えぇ……殺す気満々じゃん。私、確か救出されるとかじゃなかったっけ?」

「どうせ当たらないのでしょう?」

「そうだけどさ!」

 

対する鳳翔は恐ろしく冷たい表情だった。見たことのない、他者を見下すような表情。

 

伊勢が完成させられ洗脳されていることは理解している。手加減もしていたし、殺す気は無かった。だが、今の鳳翔は()()()()()。洗脳されているからといっても、自分の居場所、心の拠り所を破壊しようとするものは許せない。それも、面白半分で片手間に破壊しようとしたようなものだ。そしてそのせいで来栖提督が危険に晒された。より許せない。

故に、鳳翔は冷酷に冷淡に矢を射続ける。殺意をぶつけても殺す気は無いのだろう。だが、半殺しまでは確実に行くつもりで射っている。

 

「まさか、自らを人質とでも考えているわけじゃありませんよね。助けられる側なのだから手加減してもらえるだなんて、()()()考えでこの場に立っていませんよね?」

「それ若葉にも言われたね。殺す気で来ているなら死ぬ覚悟くらいしろってさ」

「あら、よくわかっているじゃないですか。わかっていて死ぬ覚悟をしていないのですか? まさか、自分の立場をわかっていない?」

 

赤城に構っていられないと理解したようで、伊勢は殆ど鳳翔と一騎討ちのような状態にされていた。

空襲は未だ五分五分。赤城と翔鶴はこの状況でも伊勢への攻撃に参加出来ない。加賀と瑞鶴が合間合間に矢を放っているが、鳳翔の殺意が高すぎるからか、その矢は片手間に叩き落とされる。

 

「殺しはしませんよ。それが皆さんの望みですから。私の私怨だけで同業者の命を奪うなど出来ません。ですが、本気でやらねば貴女を押さえ付けられないのもまた事実」

「手を抜いてくれてもいいよ。やりやすいから」

「誰一人として死んではいけない戦場で手を抜けと? 御冗談を」

 

話しながらも手は止まらない。射っては次の矢を番え、また射る。その速さが半端では無かった。加賀や瑞鶴では到底追い付かないスピードでの速射に、伊勢は防戦一方にされているほどだ。

 

「むしろ、貴女は手を抜かない方がいいですよ。加減していたから負けたなど言い訳されたら困ります。貴女、まだ本気を出していないでしょう」

「いや、まぁね。本気はしんどいんだよ。でも、ちょっとそんなこと言ってられないか」

 

そこにいるものを散らすためではなく、だが殺意も乗っていない。鳳翔の少し手前を狙っての砲撃。回避はしたものの、そういうことは関係なく大きな水飛沫が舞い散った。

弓を扱うものの視界を塞ぐのは常套手段。そもそも狙いが定まらず、この中で放っても当たるものも当たらず、矢の威力自体が水飛沫に呑まれて下がる。この上ない対処法。

 

「じゃあ、まずはアンタを先にやらせてもらうよ。鬱陶しいし」

「出来るものならどうぞ」

 

さらに何度かの砲撃で、鳳翔が波に呑まれるほどの高波となる。これで足場すら不安定になれば、より一層矢の威力は下がるだろう。

だが当然、鳳翔はそれにも臆さない。放たれた矢は艦載機へと変化し、水飛沫をぶち抜いて飛び立つ。艦載機自体の練度も半端では無く、こういう状況すらも想定した戦術へと変化し、いち早く伊勢の居場所を突き止める。

 

「やはり」

 

即座にバックステップ。瞬間、鳳翔の立っていたところを刀が通過した。あの水飛沫に真っ直ぐ突っ込んで、鳳翔を一刀両断に来ている。食らえば本当に真っ二つになる程の威力。

むしろ、低速戦艦とは思えないほどの速さで接近したことが問題。目にも留まらぬとは言わないが、並ではないことは確か。

 

「おお、避けるんだ。よく見えてたね」

「練度が違います」

 

しかし、大きく接近されてしまったことにより大きく不利になったことは確か。矢が間に合わない。

 

「ほら、やっぱり空母ってのは近付けばいいんだ。もう射たせないよ」

「どうでしょう。ここには私しかいないわけではありませんから。そうでしょう、リコさん?」

「ああ」

 

伊勢の刀を()()()()受け止めたのはリコだ。この波と水飛沫の中、鳳翔を援護するために突っ込んできていた。

いつもならそんなに速く動けないが、明石の改造により低速戦艦並に動けるようになったことでそれを可能にしている。あの艤装も当然この場に来ており、その大きな腕で鳳翔を護っていた。

 

「アンタ、この前殺したリコリス棲姫!」

「深淵から舞い戻ったぞ。お前を捻り潰すためにな」

 

これよりリコも参戦。伊勢を叩き潰すために鳳翔とのタッグを組む。一航戦と五航戦の助力もあるのだ。そう簡単に屈することはない。

 

だが、伊勢はその状況を見て嬉しそうに目を細めていた。

 

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