継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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三位一体

伊勢との戦いが続く空母隊。鎮守府を傷付けられたことで堪忍袋の緒が切れた鳳翔が猛攻を仕掛けるが、伊勢は未だ無傷。

搦手を使われ接近を許してしまったところ、鳳翔を救ったのはリコだった。

 

「アンタ、この前殺したリコリス棲姫!」

「深淵から舞い戻ったぞ。お前を捻り潰すためにな」

 

これよりリコも参戦。伊勢を叩き潰すために鳳翔とのタッグを組む。一航戦と五航戦の助力もあるのだ。そう簡単に屈することはない。

 

だが、伊勢はその状況を見て嬉しそうに目を細めていた。

 

「堪らないね、このヒリヒリする空気。本気(マジ)でやらないと持っていかれる緊張感。それに、アンタともう一度やり合いたかった! 私をワクワクさせてくれたのはアンタだけだよリコリス棲姫!」

「それは光栄だな。あの時は後れを取ったが、次はああは行かない。お前が戦いを楽しむ戦闘狂(バーサーカー)であることは、前に理解している」

 

手首を掴まれている伊勢が、リコを突き放すようにローキックを放つ。それと同時にリコの脚も出ており、脚が見事に交差。生々しい音を立てて弾かれ合うが、リコはまだ手首を放さない。

だからか、もう片方の手で刀を掴み直し、リコを両断しようと振り下ろす。当然それを受けるわけにはいかないと、リコは手首を放してバックステップ。同時に鳳翔が胸を狙った一射。

 

「っとぉ! そこ心臓!」

 

当たり前のように振り下ろす角度を急に変えて矢を打ち払う。日向もそうだが、ただの腕力で刀の方向を強引に変えるのは異常。手首が壊れそうにすら見えた。

 

「そっちもダメだよ! 横槍禁止!」

 

さらに真後ろに主砲を放った。そちらにいたのは、今まさに背後から狙っていた加賀。本体を狙わないにしろ、矢そのもので艤装を貫こうとしていたが、その目論見も読まれている。

いや、これは読んでいるのではない。戦闘に狂っているからか直感がやたらと当たる。匂いを感じているとか、見た瞬間に反応するとかではない。()()()()()()()()()()というのが正しいか。

 

「勘がいいわね」

 

難なく避けるが、後ろも見ずに狙ってきたことを驚いた加賀。ノールックかつノーモーション、殆ど不意打ちに近い。

 

「私はリコリス棲姫とやりたいんだ。邪魔立ては許さないよ」

「知ったことではありませんね」

 

リコが間合いを取ったことで、鳳翔の連射がより速くなった。狙いもバラバラで避けづらいところばかりを狙う。故に、刀を振るって回避する以外に選択肢を与えない。

少しずつだが伊勢が退いていく。だが、反撃のタイミングをまたもや直感で嗅ぎ当てる。矢を番える瞬間、リコが息を軽く整えた瞬間でもあった。

 

「日向じゃないけどさ、もう一死合お願いしようか!」

 

真後ろに砲撃。そこには赤城がいたが、流石に難なく回避。だが狙いは赤城への砲撃ではない。周囲を攻撃しながらも、伊勢が見ているのはあくまでもリコだ。今の砲撃の瞬間に前へと跳び、その衝撃を使って急加速。そもそもが速いのにさらに速くリコへと突っ込む。

当然鳳翔が迎撃するが、それでは止まらないほど速く、さらには矢もしっかりと打ち払いながらリコの間近に。

 

「また殺してやるさ!」

 

そのまま突っ込むわけではなく、手前で着水。それと同時に巻き上がった大きな水飛沫で目眩しされるが、リコはそんなことでは怯まない。むしろ次の行動に対しての反応にかかっている。見えない向こう側から来るのは、斬撃か砲撃か。

あの時のリコは砲撃をまともに喰らったことにより腕を失っていた。おそらく似たようなことをされ、間近で放たれたせいで捥げてしまったのだと思う。今回もその選択を向けられた。

 

「二度も三度も喰らうか!」

 

行動をしっかり確認していたリコは、水飛沫の中に自らの艦載機を突入させた。艤装がここまで来ているのだから、当然発艦はさせられる。刀を振るうタイミングも、主砲を放つタイミングも与えず、射撃も爆撃もせずに顔面にぶち当てる。

だが、当たったような音はせず、それすらも斬られていた。充分ブレーキを踏ませることには成功したとはいえ、あまりにも隙が無さ過ぎる。

 

「いいねぇそういうのはさぁ!」

 

若干熱量が上がったのを感じ取ったか、リコがその場から退避。それを見て鳳翔も逆方向に移動し、五航戦にも合図を送る。

瞬間、水飛沫の向こう側から主砲が放たれていた。退避のタイミングが遅れていたら、直撃とは言わずとも腕1本を持っていかれた可能性があった。リコとしては苦い思い出に繋がる。

 

「っぶないなぁ!」

「だから横槍入れるなって言ってんでしょ!」

 

瑞鶴が矢を放ったが、加賀の時と同じように主砲を放つことで牽制。放たれた矢は砲撃により消炭になり、そのまま瑞鶴の方へと飛んでいく。紙一重で回避したものの、かなり近い位置にいたせいで衝撃は受けることとなり顔を顰める。

 

「瑞鶴!」

「くっそ……耳やられた……!」

 

衝撃により鼓膜がやられたらしいが、決して弓は離さない。牽制になるようにタイミングを計り続ける。

 

「矢ばっかりでそろそろ飽きてきたよ。その点、リコリス棲姫はいいね。一撃必殺狙いでしょ。でも、近付けるかな?」

「私は武器を持っていないからな。出来ることが限られている」

「剣道三倍段って言葉もあるくらいだからねぇ。悪いけど、こちらの優位は揺るがないわけだ」

 

片や主砲に刀と武器盛りだくさん、片や武器は己の拳のみ。リコの方が圧倒的に不利であることは、火を見るより明らかである。

だが、リコは一切臆していない。素手でも倒すという意気込みに溢れ、さらには周りの援護が強力であることも理解している。多数で1人を叩くことになることにも躊躇いが無い。

 

「私が3倍強ければいいということか」

「まぁそんな感じかな」

「わかった。かかってこい」

 

割と初めて見る、リコの()()。いつもはフリースタイル、構えなんて無い()()()の戦い方をするのがリコの基本だ。艤装に座って艦載機を無尽蔵に発艦し続けるか、ただ直立状態から敵の動きを見て、その動きを読む。

喧嘩慣れしているからこそ育まれたフリースタイルを今はやめ、討ち滅ぼすことに全力を出す為に拳を突き出すように構える。殆どボクサーのようなスタイルに。

 

「瑞鶴さん、弓を交換してもらえますか」

「えっ、こ、これ使うんですか!?」

「はい、この方があちらには有効そうなので」

 

鳳翔は鳳翔で瑞鶴と弓の交換。接近戦が出来るように細工された、刃を2つ繋ぎ合わせた弓を使うことで、鳳翔も近接戦闘に打って出る。

そもそも薙刀を使って訓練をしてくれたくらいなのだ。弓道以外にも精通しているのは理解出来る。だが、今の反応を見る限り、瑞鶴や加賀の持つ遠近両用の弓は使うこと自体が初めてのはず。軽く振って感触を確かめてから、リコの隣を陣取った。

 

「おっと、矢での横槍はやめて、それで来るわけ?」

「ええ、貴女がどうしても矢が嫌なようなので、私はこれで懲らしめようかと思います。先程撃った主砲、また工廠に当たりましたから」

 

2対1。日向に対して7人がかりだった上に、神風型を5人つけても手が足りない程だというのに、こちらはリコと鳳翔の2人。子供が群がるような戦いでは無いことはわかっているが、実力差的に無理があるようにも見えた。

慢心しているわけでは無いことくらい理解している。未だに伊勢から発艦し続けている艦載機は赤城と翔鶴が抑え込んでいる程だし、加賀と瑞鶴の援護があったとしても、簡単に回避してさらには攻撃に転じてくる。瑞鶴に至っては耳をやられたせいで少し辛そうだ。

 

「当たり前ですが、我々は空母隊。全員で一丸となり戦うものです。横槍ではなく戦術。貴女がわざわざ鎮守府を狙うような小賢しい砲撃をすることと同じです」

「それ言われちゃうと言い返せないなぁ」

「ですので、これ以降文句は言わないでいただきたい。我々がその主砲を止めろと言ってもやめないでしょう」

「そりゃそうだ。私の仕事はここを全部破壊することと大将の護衛だからね」

 

鳳翔の表情はより冷酷に、話し方にも感情が乗っていない。鳳翔は怒れば怒るほどに無表情になるタイプのようで、それがまた一層怖かった。

 

「では、仕切り直しです」

 

鳳翔の一射から戦闘再開。その矢は軽々と避けられてしまうが、次の瞬間、鳳翔が伊勢の懐へと潜り込んでいた。

射った時点で動き出していたが、低速の軽空母とは思えない身のこなし。訓練の時から瞬発力などが常人のそれでは無いことはわかっていたが、キレたことでそれはさらに洗練されていた。

 

「おおっ!?」

「別に命を獲ってもいいのですが、悲しむ人も多いでしょう。ですから、私からは半殺しで済ませます」

 

初めて使う武器であるにもかかわらず、まるで自分の手足のように使いこなし、刃の弓で斬り付ける。狙いは脇腹。伊勢と比べればどうしても小柄な鳳翔なので、狙いやすい場所を斬りに行く。利き手の逆側を咄嗟に狙っていく辺りは流石としか言いようが無い。

 

「出来るようになってからそういうの言ってくれるかな!」

「するんだよ、今ここで」

 

さらに逆側、リコが接近。当然刀に近付くわけだから、危険度はリコの方が高い。しかし、鳳翔が先に攻撃をしているため、どちらを対応すべきかを迷わせる。

殺傷力があるのは刃である鳳翔。そちらを優先したか、身を翻し刀によって刃を弾き飛ばす。鳳翔の方が当然膂力は少ない。さらに伊勢は本気で打ち払っている。それだけで簡単に体勢を崩してしまい、隙を曝け出してしまう。

だがそれは、伊勢の隙も作り出すということ。堂々と隙を曝しているものを追撃しない道理は無いからだ。

 

「苦手なことするくらいなら大人しくしてなよ! それはあまり面白くないよ?」

「お前が面白いか面白くないかなんぞ知らん!」

 

その隙をついて強烈なローキックで伊勢の膝を蹴り飛ばす。腹は大木の幹を蹴るかの如くビクともしなかったが、リコが狙ったのは関節。いくら頑丈でも、本来曲がる方向に押し込んでやるのだから少しだけ力が抜ける。

それでもほんの少し。やはり根が張っているような頑丈さ。足が浮くことすら無かった。伊勢も本気、全身が洗練されている。

 

「そういうところが好きだね! 重い蹴り、やり慣れてるねぇ!」

 

身を翻した遠心力も加え、砲身を振り回してリコに打ち付ける。それをリコがボクシングのようなスタイルで殴り飛ばした。並の砲身ならこの時点でひしゃげていただろうが、神風型の刀すら通さない硬すぎる艤装だ。動きは止まったものの傷一つ無し。代わりにリコの拳を傷付ける。

そのタイミングで今度は鳳翔が身体を回して刃を腹に突き立てにいく。本気で殺すつもりでの一撃。鋭く尖った刃の先端を伊勢の腹へ。

 

「危ないなぁ! それは流石に刺さるよ!?」

 

リコにやられたことをお返しするかの如く、鳳翔に対して強烈なローキック。あんなもの受けたらリコで無ければ膝からバキバキに折れてしまう。特に鳳翔は華奢だ。喰らうわけにはいかず、範囲外にステップ。

だが、即座に矢を放った。体勢は滅茶苦茶だが、確実に腹を射抜くような一射。力は今までより入っていないものの、矢なら確実に突き刺さる。

 

「矢は飽きたと言ったでしょうに!」

 

当然それは刀で打ち払う。だが、今回は違った。

 

「発艦!」

 

打ち払う直前に矢が艦載機へと変化。突如さらにスピードを上げて刀を振り切り、伊勢の腹に食い込むように直撃。今までの鳳翔ならこんなことはやっていなかっただろう。だが、キレていることで容赦なく手段を選ばずこの方法を取った。

艦載機そのものが直撃したら、流石の伊勢も痛みを感じる。相変わらずビクともしていないが。

 

「ったぁ! 矢が刺さるよりいいけどさぁ!」

「より痛くなるでしょうね」

 

タァンと、機銃の音。完全なゼロ距離からの射撃で、ついに伊勢の腹に傷を付ける。

寸前で気付かれたか、艦載機自体を横に払われてしまったため、致命傷には出来なかったが、その機銃は脇腹を掠めた。ようやく伊勢の血を見ることになる。

 

「うぇっ!?」

「惜しい」

 

次はリコ。渾身のケンカキックで動揺した伊勢を押し込むように蹴り、体勢を崩させる。倒れはしないものの、ほんの少しだけ足が浮いた。

だが、伊勢も即座に対応。リコのいる方に主砲を向ける。追撃は許さないと狙いもまともに定めずに砲撃。爆風だけで怯むほどの威力。

 

「まだまだぁ!」

「いや、もう無い」

 

ここで現れたのはあのリコの艤装だ。最後の改造により低速戦艦程の速度を得たことで、艤装そのものも大幅強化されており、その豪腕を振りかぶって戦場に割り込む。今まではずっと少し後ろで待機していたが、タイミングをずっと見計らっていた。

鳳翔とリコの連携で、どうにか体勢を崩すところまでは持っていた。そこに艤装による捕縛。頭くらいなら簡単に握り潰せるその腕を使って、伊勢の胴を掴み上げた。そしてもう片方の腕も伸ばす。

 

「っは、ははぁっ! 楽しいねぇ!」

 

体勢がまともでは無いのに、伸ばした腕を刀で斬り付けつつ、砲撃でグチャグチャにした。深海の艤装とはいえ生体パーツ。他の金属部分よりは多少は脆い。

 

「そうですか。でも、そろそろ終わりにしましょう」

 

そこへ、鳳翔の渾身の一射。リコの艤装に砲撃をするところまで見越し、その砲身の中へ向けて矢が飛び込んでいく。この咄嗟の状況で、最高の命中。そして、

 

「発艦」

 

艤装内部で艦載機に変化。主砲を木っ端微塵に爆発させた。

 

鳳翔、リコ、そしてリコの艤装という三位一体で、伊勢の艤装を破壊することに成功したのである。

 


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